話題を呼んだ黒リボンのアートワーク

▲中川翔子　『続 混沌』

－－このたびのシングル『続 混沌』は、アーティスト写真が大きなトピックになってネットを騒がせました。

中川翔子：ありがたいことにオフィシャルサイトにも凄いアクセスがあったみたいでびっくりしました。昨年に10周年を迎えて、歌手としての活動をがんばろうと2013年の目標を定めたんですけど、シングルリリースが1年5か月も間が空いていたことですごくヤキモキしてたんです。
しかもシングルではロックが全然やれていなかったので、やるなら思い切ったことがしたいと。肌が見える衣装とか黒髪ロングでとか、やりたいことを全部詰め込んで、時間をかけて丁寧に作れたので、“産みたい子を産めた”みたいな感じです。

－－ということはアートワークには中川さんの要望も反映されている？

中川翔子：ガッツリ入ってます！ 黒リボンでミイラになるのは楽しかったですし、自分でやりたいことだったから恥ずかしさを感じずにやれました。“やりなさい”だったら無理だったと思います（笑）。
“生きた証”にこだわって仕事をしていきたいという想いがあるんですけど、例えばミイラとか化石とかゾンビって生きた証そのものですよね？ うらやましいって思うし、なりたいんです（笑）。
ただ、ミュージックビデオでは何にでもなれちゃうんですよね。以前も「木星と結婚したい」って言ってたら実現しましたし。今回のMVもセフィロス様みたいな黒い翼が生えてきたりと厨二感が満載で（笑）、とってもカオスですけど清々しいですね。

－－“一人ぼっちでいいのに”という歌詞はまさに中川さんですよね。

中川翔子：今までずーっとネガティブで、「女子って年々やれることが減っていくんじゃなかろうか」とか、「毎年死に近づいている」とか。一人っ子だから一人でいるのが好きなハズなのに、「あの人、一人だな」って思われるのは恥ずかしいとか、色々な悩みを抱えて悶々としていたんですけど、レベル（＝年齢）が上がってからは、ネガティブを食べて成長するモンスターになってきたというか（笑）。

ネットで“しょこたん”を検索すると“ぼっち”とか“短足”とか出てきますけど、「そうですけど何か？」っていう感じが出てきました（笑）。これはまさしく経験値だなって思っていて、ネガティブがあるから楽しい。大きな悩みに直面した時、最近は「ドラクエで言ったらメタルキングを倒したくらい経験値が得られる！ おいしい！」って捉えられるようになってきました。

ディズニーリゾートでのバースデーライブ

－－その変化はライブを観ていても感じますね。先日開催した東京（R）の舞浜アンフィシアターでのバースデーライブは、隅々まで豪華な見所ばかりで本当に楽しかったです。

中川翔子：一生の記念であり、「今までがあった意味が現れた瞬間だな」って思える大きな出来事でした。悩んだ日や落ち込んだ日を助けてくれた大好きな趣味とか色んなものが、理想の形になってステージで歌という形で再現されて。ダンスする歌も楽しいし、ロックも、『ラプンツェル』を歌いたいっていう夢も叶いました。

－－アコースティック形式でのアクトにも挑戦していましたよね。

中川翔子：あれもやってみたら凄く楽しくて。難易度が高いからシーンとなっちゃうかなって心配したんですけど、おかげさまでご好評いただいて。やっぱり特殊な会場だからフライングもやりたいし、『ラプンツェル』で再現した髪の毛は映画と同じで21メートルもあったりとか。
ライブはいつもそうなんですけど、今回は一生に一度、今しかできない、味わえない、見られない瞬間……。この光景を一生忘れないために、一秒ごとに目をかっぴらいて、全力で歌おうって100％思いながら歌わせていただくことができました。ディズニーさんの許可っぷりにもびっくりで、よくここまで許してくれたなって。

－－ただ、あれだけのステージを見せられてしまうと、次に対する期待は並々ならぬ大きさになってしまいますよね（笑）。

中川翔子：なりますよねぇ……（笑）。ただ、1日5本立ての仕事の後にリハが入ってきたりするから、にんにく注射も打ったし、ゥワーッ！ってなっちゃって……。体力つけないといけないなって、秋のツアーに向けて運動を習いに行きたいです。

－－厳しいスケジュールでもだいじょうぶ？

中川翔子：コンサートが終わったら習い事とかやるぞ！ って思ってたんですけど、意外に忙しくて……。今習いたいのは、語学と陶芸と、プールと截拳道（ジークンドー）です！（笑）

「涙の種、笑顔の花」にシンクロしていく人生

▲中川翔子が初主演＆初アクションに挑戦

－－そういえば先日まで、映画『縫製人間ヌイグルマーZ』の撮影もやっていましたよね？

中川翔子：映画の撮影もかなり怒濤で、最後の日、朝の7時くらいまで撮影して、そのまま風呂も入らずにテレビのロケで動物園へゾウに乗りに行くっていう（苦笑）。でも、『ヌイグルマー』は好きなものしかない映画だったんですよ！ 特撮とゾンビが一緒で、ピンクだしファッションもかわいいし、ぬいぐるみはふわふわのヒーローだし。しかもヌンチャクでぶっ飛ばした人たちは、私が中学の時にオタクになるきっかけだった『未来戦隊タイムレンジャー』ショーでタイムレッドをやっていた人だったりとか（笑）。

－－監督の井口昇さんとはかつて『脳子の恋』でタッグを組んでいましたよね。

中川翔子：脳子の時に監督の絵コンテを漫画にしていく作業をしていたから、映画の時も監督の言っているニュアンスがすぐに理解できましたね。あの時は本当に大変で泣きながら描いてましたけど（笑）、ここで役にたちましたね。

－－あの時まいた種が今になって花開いていると。

中川翔子：種をまいたつもりじゃなかったことが、今年になって花になって咲いている気がします。まだ半分残ってますけど、今後も楽しみなワクワクしかないですね。

－－そうした経験によって、例えば「涙の種、笑顔の花」の歌、言葉に新たな重みを加わっていく。歌と人生とがどんどんシンクロしていきますね。

中川翔子：それは凄くありますね。ステージに立っていると「歌詞に追いついてきたな」って感じる瞬間が多くて、「今必要な言葉がここに入ってたのか！」とか「そういうことだったのか！」とか、よく見つかりますね。

ネットで話題を呼ぶ、しょこたんのぼっちっぷり

－－そして、そのステージでも「続 混沌」は披露されました。

中川翔子：今回は“ちゃんとやりたいことを丁寧にやる”をできたというか。これまで怒濤の日々の中で「明日これ歌うんで！」みたいなことが正直あったんです。それだと馴染まないまま、「こうやって歌っていくといいのかな？」って考えながらのレコーディングになるので、ライブを重ねていって段々形が変わっていって完成していくというか。

－－つまりレコーディング時は探り探りになってしまっていた？

中川翔子：発売の1か月以上前にライブで披露できたり、満を持して出せる感というか「まだ出てないんだ!?」ってくらい余裕を持って作れたのは初めてだったので嬉しかったです。それにこの歌詞も、今だからこそ歌えると思うんですよ。昔だったら“一人ぼっちでいいのに”って言われても「でもさぁ……」って思っちゃってたかもしれない。でも今は「まさしくそう！」って。

－－中川さんのぼっちっぷりはネットで話題になってますよね。

中川翔子：私はむしろ、一人の時間がないと死んじゃうというか、何もしゃべらずに猫とすごす時間がないとダメなんですよね。あー、もうぼっち最高！って（笑）。

－－そんな中川さんを素材にして楽しんでいる人も多いです。

中川翔子：よく見つけるよなって！ 私としては笑ってるつもりだった瞬間なのに、なぜか一人だけうつむいている写真になってたりとか（笑）。でも、アワアワしながら生きてきたものを面白がってくれるのは凄く嬉しいですね。愛情を感じます！

－－また、「続 混沌」の作詞を担当した岩里祐穂さんは「ホリゾント」以来になります。

中川翔子：そうなんですよ！ 運命的だったのが初めてお会いした時、父が歌っていたころに一番歌詞を書いていたのが岩里さんだってご本人からお聞きして、出会うべくして出会えた気がして凄く不思議でした。
岩里さんは面白がってくれて前のめりな姿勢で、「こういう言い回しの方がいいんじゃない？」とか、歌い方のアドバイスをたくさんしてくださるんです。レコーディング現場にも来てくれて色々教えてくださいますし、締め切りよりもずっと早く作ってくれる！

－－それはありがたいですね（笑）。

中川翔子：歌詞の“所謂、獣な人間（あたし）たち”とかも、なかなか書けないなって思います。それに歌い方を定めるためのテストみたいな日まで設けてもらって、試行錯誤をする時間がゆっくりあったので、レコーディング自体は迷わずあっという間に終わりました。時間をかけて丁寧に煮込んで、そして圧力をかけて産みたい子を産んだと。

－－その話を聞くと、既存曲も歌い直した音源で聴いてみたくなりますね。

中川翔子：「空色デイズ」もCD音源とは全然変わってきちゃっていて、知らないうちに“築いていく”という歌詞を“築いてゆく”って歌ってたみたいで。5年くらい経ってからmeg rockちゃんに「変えてるよね？ 何で？」って言われました（笑）。それくらい脳内アドレナリンが出ている状態で臨みたかったので、ワクワクしながらやれたのは良かったですね。
あと、やっぱり今まではどこかで遠慮してたんだなって思いました。コンサートで高まってくると違うんですけど、どこかに“私なんかが歌っていいのかな？”って想いがあっちゃったのかなって。今はそこが吹っ切れて、“ここはわざとこうしちゃえ”って思えるようになりました。

－－歌手として、より自立できている所がある？

中川翔子：もうLV28ですが（笑）、ちゃんと責任を持って臨みたいなって。ベスト盤が出せたりアーティストブックを発売できたりと本当にありがたいんですけど、まだやれてないことだらけじゃないか、とも思うので、本当に色んなタイプの曲を自分らしく歌える歌手になりたいです！

シングル『続 混沌』は総じてTHE 厨二

▲中川翔子『「中川翔子×春名風花×吉田豪」スペシャル対談』

－－また、今回のシングルには「空色デイズ」も手がけたmeg rockさんが作詞の「紅恋毒蝕」が収録されていますが、“ラズベリーイクリプス”と読ませるタイトルも含め、かなり厨二感が満載な1曲ですね。

中川翔子：何て読むか分からない漢字の組み合わせで実はかわいい読み仮名がついている所とかはTHE 厨二ですし、「続 混沌」のMVで黒い羽根が生えてくる所もまさにですよね！ せっかくならハッキリわかりやすく、遠慮しないで振り切った方が楽しいと思って。
「紅恋毒蝕」の作詞 meg rockちゃん、作曲 黒須克彦さんという組み合わせは以前から何度もお願いしていたので安心していたんですけど、「思い切った曲を歌いたい」ってお願いしたら、想像を超えたメタルの域の楽曲を黒須さんが作ってくださって。ライブで盛り上がりそうですよね！

歌詞はmegちゃんなりの暴れ方というか、“薫衣草”でラズベリーとか、“朔月”でみかづきとか、そういう言葉の選び方が楽しいですよね。それに「続 混沌」よりも先にこの曲を録ったんですけど、丁寧に歌うんじゃなくて、目をつぶってライブだと思って歌ってみたんです。“叶えるものなんだ”って所も“キャなえるものなんだ！”って歌ったりして（笑）。でも、この曲が先だったから「続 混沌」もスムースにいけたんだと思います。

－－全体的に吹っ切れた中川翔子を収められたと。

中川翔子：もっとカオスを経験して、いっぱいいっぱい強くなりたいですし、宝となる歌をもっともっと欲しいです。酸いも甘いも、傷も受けて、そして愛を知って、子ども3人くらい産んで出会いも別れも経験し、LV58くらいからシャンソンを歌い始めたいですね！（笑）

－－ただ、現在の中川さんは今挙げた要素のほとんどを持っていないという（笑）。

中川翔子：そうなんです、カラッポなんです（笑）。そろそろがんばらなきゃ……って毎年言ってる気がします。

しょこたんから、ぼっちに向けてのメッセージ

－－では、今ぼっちで悩んでいる読者にアドバイスを贈るとしたら？

中川翔子：あの、一人ぼっちにも色々あると思うんですけど、いつからか私は「いいじゃん別に。よくね？」って思えるようになった所があります。むしろ一人が心地いいというか快感というか、一人の時間こそ周りを全部宇宙だと思って、色んな情報や経験を得られる栄養吸収の時間だと思うので。

それにその時ぼっちでも、ワーッとシンクロする誰かと出会ったりしたら、それだけで一気に広がる。全員と知り合いになる必要なんてまったくないと思うし、「この人好き！ 尊敬できる！」って方と巡り会っていく時が絶対くる！ その時は見えなくても、2年後に急にそうなってることもあるから、ぼっちっていうのはむしろ自分の好きなことに集中できる時間だと思えるんじゃないかなって思います。

－－そう思えるようになったのは、戦ってきたからこそという所もあるのでは？

中川翔子：合わせるのが苦手だったっていうこともありますね、自己中ってことなんですけど（笑）。

－－では、そんなぼっちな人たちに向けてシングル『続 混沌』の聴き所を最後にお願いします！

中川翔子：80年代っぽさとかも入っていて、イントロが凄くキャッチーで、歌ってみるとさらにスカッとするし、歌詞が攻撃的で気持ちいいので、アーッて暴れたい気分や落ち込んだ時にこそ、ぜひ聴いて歌ってみて欲しいですね。 “かっこ悪くていいのに 一人ぼっちでいいのに”っていう所とか、“所謂、獣な人間（あたし）たち”とか。獣みたいに何も気にしないで、「目の前のものに喰らい付けばいいんだよ！」みたいなメッセージが込められているので、ぜひ聴いて欲しいと思います！

－－カラオケでこの2曲を歌うと、だいぶ発散できそうですね。

中川翔子：私は「紅恋毒蝕」をカラオケで歌えないと思います、早すぎてついていけない（笑）。