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モノンクル インタビュー~ハイブリッドなポップミュージックを創出し続けるソングライティング・デュオが語る、音楽的なモードと今後の展望



モノンクル インタビュー

 吉田沙良、角田隆太によるソングライティング・デュオ、モノンクルが2021年3月12日にビルボードライブ東京でワンマンライブを開催する。
2018年に発表したセルフ・プロデュースによるアルバム『RELOADING CITY』が高い評価を獲得したモノンクル。昨年10月には「Every One Minute」(「シチズン クロスシー」CMソング)を配信リリース、さらに12月にYouTubeで公開された「抱いてHOLD ON ME!」(モーニング娘。)のカバーバージョン(3月3日に配信リリース)が注目を集めるなど、活動のフィールドを確実に広げている。 ジャズ、R&B、エレクトロなどを自由に取り入れながら、ハイブリッドなポップミュージックを創出し続ける二人。現在のモノンクルの音楽的なモード、そして、ビルボードライブ東京公演への展望などについて聞いた。

最近は「何をやっても、自分たちらしさは勝手に出てくるんだな」と思ってるんですよ。(吉田沙良)

――まず、現在のモノンクルの音楽的なモードについて聞かせてください。初のセルフプロデュース・アルバム「RELODING CITY」(2018年)はさらにポップに開けた素晴らしい作品でしたが、その後のビジョンはどのようなものだったんでしょうか?

吉田沙良(以下:吉田):ビジョンを最初に決めるというより、ふだんから「今、何を考えているのか?」をよく話すようにしていて。お互いに興味を持っているものをすり合わせるなかで、自然と方向が決まっていく感じですね。

角田隆太(以下:角田):「RELOADING CITY」は、セルフプロデュースも含めて、何もないところから作り上げたアルバムで。その後、最近はレーベルや事務所のスタッフ、チーム全体で次の活動について話し合って、少しずつ収斂してきたところですね。個人的なところでは、完全に歌詞を先行させて曲を作るようになっていて。「RELOADING CITY」にも歌詞先行の曲がいくつかあるんですけど、いまはもっと言葉を伝えることに重きを置いています。


角田隆太

――つまり歌を伝えることに重点が移っている、と。ポップスとしての力を高めたいということですか?

吉田:そうですね。私は一聴したときの印象がすごく大事だと思っていて。制作のときも、途中の段階ではあまり聴かないようにしてるんです。ファースト・インプレッションで何を感じるかがいちばん大事というか。

角田:そうだね。

吉田:制作のスピードも変わってきましたね。以前は1曲入魂で、「1曲に向き合って、最初から最後まで作り切る」という感じだったんですが、今はワンコーラスだけだったり、サビまで作ったら、次の曲に取り掛かったり。いろいろ実験してます。


――昨年10月にリリースされた「Every One Minute」も歌詞が先だったんですか?

角田:はい。シチズンさんから「CMソングの候補を探しています」とお話をいただいて。テーマが決まっていたので、それに向けて描いて。けっこうタイトなスケジュールだったんですけどね(笑)。

吉田:急いで作って「よし、いいじゃん! 録ろう!」って(笑)。2番以降の歌詞は一緒に考えたり、練ったりしました。

角田:6割くらいは僕が作るんですけど、完成までは沙良のアイデアをいろいろ入ってるので。

――“常に新しい時が刻まれる”というテーマは、いまの状況にすごく合っていると思います。2020年は時が止まった感覚があったので……。

角田:そうなんですよね。“時間”“時計”をテーマに曲を作らせてもらったことで、あの時期に考えていたことや感じていたことも歌に込めることができたので。


――さらにモーニング娘。の「抱いてHOLD ON ME!」のカバーも話題になっています。このカバーのきっかけは?

角田:90年代のヒット曲を紹介するテレビ番組を観ていて、「抱いてHOLD ON ME!」がすごくいいなと思って。普遍性と当時の時代感がミックスされていると思ったし、この曲を2020年の感覚でカバーしてみたいなと。

吉田:「もう一度スキって聞かせてほしい」というサビのメロディ、めちゃくちゃすごいくないですか?(笑) 私は“世代”だったので、当時から耳にしていた曲なんですけど、改めて衝撃を受けて。これを自分たちらしく落とし込めたらいいな、と。

――アレンジの軸は、ベースラインと歌。角田さんはMVでもしっかりベースを弾いていて、いまさらですが「モノンクルは“ベーシストとシンガーのデュオ”なんだな」と実感しました。

角田:確かにそうかも(笑)。メインの楽器はベースなんですけど、ふだんは弾いていない時間のほうが圧倒的に長いし、自分では「トラックメイクしている人」というイメージなんですけどね。ただ、「抱いてHOLD ON ME!」をアレンジするときは、まずはベースだけでやってみようと思って。

吉田:角田さんはギタリストでもあるし、鍵盤も弾けるんですけど、コード楽器だけではなく、「ベースから作る曲があれば、二人のデュオ感がもっと出るかもね」という話もしましたね。


▲抱いてHOLD ON ME! / モーニング娘。カバー - モノンクル

――アルバム「RELOADING CITY」に収録された「アポロ」(ポルノグラフィティ)のカバーも素晴らしくて。モノンクルのカバー、選曲もアレンジもすごく独創的ですよね。

吉田:ありがとうございます。ここ最近、名曲を再解釈することに興味があって。YouTubeチャンネルも立ち上げたので、いろいろやってみたいなと思ってます。

角田:いまは自分たちでアレンジからミックスまでやれるし、サイドプロジェクトとして(カバーを)続けていきたいですね。じつは一つネタを仕込んでるので(笑)、楽しみにしていてください。

――ここ数年の活動を見てると、ジャンルの枠をどんどん逸脱している印象もあって。もともとはジャズが軸だったと思うのですが、いまはこだわっていない?

角田:さらに気にしなくなってますね。以前はジャズの引力にひかれまくっていたからこそ“ジャズじゃない”と言いたいという気持ちもあったんですけど(笑)、「REALOADING CITY」あたりからは「好きなように呼んでもらっていい」と思うようになって。

吉田:自分たちの特徴としても、何でもできちゃうというと語弊があるけど、いろんなジャンルの音楽が好きだし、「何でもやってみたい、いろいろやりたい」という時期がずっとあって。最近は「何をやっても、自分たちらしさは勝手に出てくるんだな」と思ってるんですよ。特に角田さんの歌詞と、私のコーラスワークは唯一無二だと勝手に思っていて。それは作品のなかに自然と滲み出てくるから、特に意識しなくてもいいのかなと。そう思うようになって、気がラクになりました。

――音楽性の広がりとともに、リスナーの幅も広がっているのでは?

角田:今までとは違うリスナーにも伝わっているという手応えはありますね。ただ、去年はほとんどライブができなかったので、生の反応は確かめられてなくて。

――去年は制作の日々だった?

角田:それしかしてないですね(笑)。

吉田:ライブでもやってなくて、リリースもしてない未発表の曲がこれだけあるのも初めてですね。じつはヤバい曲が控えてます(笑)。


吉田沙良

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去年はこもりっきりで制作していて、ライブに対する考え方が変わってきたんです。(角田隆太)

モノンクル

――では、2021年3月12日にビルボードライブ東京でワンマンライブについて聞かせてください。有観客のライブ、久しぶりですよね。

吉田:1年以上ですね。生で音楽を届ける場はすごく貴重なものになってるし、ライブができること自体に価値があると思っていて。今回は初心に戻って、ライブを1から作り上げたいし、余計なものは要らないのかなと。シンプルに「生の音楽を聴く」という芸術を体験してもらいたいですね。新曲もやりたいし、盛りだくさんでやりたいですね!

角田:去年はこもりっきりで制作していて、制作と生活が一体化した感じがあって。それも今までの音楽人生になかったことなんですが、そのことによってライブに対する考え方が変わってきたんです。以前は「ライブは一晩限りの、日常から切り離された時間」という感覚と同時に、ライブが音楽制作の流れの一部みたいな捉え方になっていて。会場に来てくださる方にも、制作に参加してもらっているようなイメージというか。

吉田:不思議なライブだ(笑)。

角田:(笑)ライブ自体、いままでとは違う仕組みでやろうと思っています。去年の7月にやった配信ライブもそうだったんですけど、ドラムがいなくて、打ち込みをメインにして、そこに生演奏を混ぜて構成しようと。そのやり方も制作の延長だし、僕たち的に新しい表現だと思うんですよね。


角田隆太

――制作中も打ち込みと生楽器を使ってるわけですからね。

角田:そうですね。「Every One Minute」も「抱いてHOLD ON ME!」も打ち込みメインで作っていたので、それをシームレスにライブでもそのまま活かそうと。

吉田:それも自然なんですよね、私たちにとっては。リズムを打ち込むのも操作するのも人間なので。

角田:コンピューターと人間を共存させると、人間の部分がさらに強く伝わってくると思うし、そこも楽しんでほしいですね。もちろん生のバンドアンサンブルメインのライブも続けていきたいし、今回のライブのやり方はモノンクルに付帯する表現の一つだと思ってもらえたらなと。

――吉田さんもオーディエンスの目の前で歌うことで、確かめられること、気付くこともたくさんありそうですね。

吉田:すごくあると思います。去年の配信ライブのときは無観客だったんですけど、「お客さんのパワーって、本当に大きかったんだな」と気付いて。“失って初めて気づく大切なもの”というか、普段のライブと全然違っていたんです。ライブはみんなで作っていくものだなとマジで思ったし、それを久々に味わえるのが本当に楽しみで。私自身も人間のエネルギーを感じたいですね。


吉田沙良

――楽しみにしてます! 最後に、お二人がいま気になってる音楽を教えてもらえますか?

吉田:去年からずっと聴いてるんですけど、エリザベス・コットン(アメリカのシンガーソングライター/1987年没)というシンガーがすごく好きで。

角田:フォークシンガーですね。

吉田:歌が最高なんです。おばあちゃんが隣で歌ってくれているような雰囲気があって、それがストレートに響いて。今は上手さ、キレイさ、完璧さがありふれているけど、だからこそ、シンプルな素朴な歌に胸をつかれるし、惹かれているんだと思います。


――「自分もそういうシンガーでありたい」という気持ちも?

吉田:うん、ありますね。家で歌ってるときは、音程とか無視して好きなように歌ってたりするので(笑)。

角田:今回カバーしたモー娘。さんの時代の曲を聴いていると、今ほどピッチを直すことに拘っていないから、少しズレてるところもあるんだけど、今の耳で聴くとそこがグッと来るポイントになってたりするもんね。僕は最近カニエ・ウェストがやっているサンデー・サービス・クワイアをよく聴いてます。今の話にも通じるんですけど、ゴスペル音楽って、生の歌をその場の空気感含めて一緒に録音するから、音の密度が濃くて、物凄くパワーをもらえるし、満たされるんです。

吉田:映像を観ると、すごい密だしね。100人くらいの人がギュッと集まって声を出す姿を見るだけで泣けてきますね。


▲Lord You're Holy Ballin' (Live From Paris, France) - Kanye West Sunday Service

ものんくる「RELOADING CITY」

RELOADING CITY

2018/09/05 RELEASE
VRCL-4044 ¥ 2,547(税込)

詳細・購入はこちら

Disc01
  1. 01.RELOADING CITY
  2. 02.夕立
  3. 03.アポロ
  4. 04.魔法がとけたなら
  5. 05.HOT CV
  6. 06.RELOADING CITY (tofubeats remix)
  7. 07.何度でも繰り返し夢見る

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