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新プロジェクトxpxpがスタート、Ryo Ito&ヒロイズム インタビュー



 音楽クリエイターからなるプロジェクトxpxpが、日本を代表するヒットプロデューサー、ヒロイズムとの コラボで新曲「DUMP YOUR BOYFRIEND feat. PAU (Prod. by her0ism)」をリリースする。
 数々のヒットを手掛けた音楽プロデューサーのRyo Itoが中心となって2020年に始動したxpxp。6月にリリースされた第一弾シングル「ARI feat. Yui Mugino」が早耳のリスナーの間で徐々に注目を集めつつあるなか、LAを拠点にグローバルなポップ・ミュージックの第一線で活躍するヒロイズム | her0ismのプロデュースによる新曲はさらなる反響を呼びそうだ。
 フィーチャリングとして参加したシンガーはLAで音楽活動を行うラテン系の女性シンガーソングライター、PAU。研ぎ澄まされたビートとフックの強いメロディを持つ先鋭的なポップ・ソングに仕上がっている。
 プロジェクトの成り立ちについて、“Girl Crush”(女性が女性に憧れることを意味する言葉)をテーマに掲げた曲作りについて、そしてコロナ禍に大きな影響を受けた2020年の音楽シーンのトレンドについて、二人に話を聞いた。

クリエイターが主役となるプロジェクトxpxpとは

――xpxpというプロジェクトの立ち上げの由来はどういうところにあるんでしょうか?

Ryo Ito:去年頃から、僕のような音楽業界のクリエイティブど真ん中にいる人間がこうやって自らの音楽を発信していくことも必要だと思うようになりました。アーティストに対して楽曲提供や音源制作もしつつ、やっぱり自分でやりたいこともあるし、発表もしやすくなっている状況だと思って。それでも、クリエイターが自分で発表する機会はまだ少ないから、どんどんやっていったほうがいいし、自分がまずそういう存在になれたらいいと考えたのが、そもそもの始まりですね。

――クリエイターが主役であるということが、コンセプトである。

Ryo Ito:そうですね。主役という言い方よりも、クリエイターが主導して作っていくというほうが近いかもしれない。アーティストの声やビジュアルといったアイデンティティだけが前に立つのではなく、作品としてクリエイターから直にリスナーに伝わっていくという。

――こういった発信がしやすくなっている時代の変化が大きいと仰っていましたが、それは具体的に言うと?

Ryo Ito:やっぱりストリーミング時代というのは大きいですね。昔からクリエイターがバンドを組んで自分の好きだった音楽をやるようなことはあったけれど、そういうノスタルジックことじゃなくて、もっと未来に進んでいるイメージです。自分たちが今作っている、一番好きな新しい音楽を新しい形で発信していくという。




――メンバーとしては、今のところRyo Itoさんを中心に流動的な形なんでしょうか。

Ryo Ito:そうですね。僕が始めたことなんですけれど、リーダーというよりも、とりあえずは真ん中に立ってエンジンになっているという感じです。最初は今まで一緒に音楽制作してきた同じような音楽性をもった仲間と始めて、ここからいろんなクリエイターたちと繋がってレベルアップしていければいいなと思っていますね。

――ヒロイズムさんがxpxpの話を聞いたのはいつ頃でしたか。

ヒロイズム:そんなに前じゃなかったと思います。今はLAでもプロデューサー発信のプロジェクトが盛り上がっていたんで、まさにベストタイミングだと思いましたね。実際、向こうでもアーティストやトップライナーと話していると「ヒロがアーティストとしてやらないの?」みたいな話はすごくあって。そうしたらフィーチャリングやらせてよと言ってくれるアーティストもいて、面白いなと思っていたんです。今は自分が格好いいと思っているものを形にして、それをすぐに出したいという思いが強いですね。特に今はコロナのことがあって、世界的にリリースのタイミングがずれ込んでいるんで、みんなフラストレーションが溜まっていて我慢の限界になっているというのもあるので。

――LAでもそういう状況なんですね。

ヒロイズム:アリアナ・グランデの『positions』にも知り合いが結構参加しているんですけれど、たとえばジャスティン・ビーバーやアリアナ・グランデのクラスでもリリースが早くなっている。それも、状況がよくなることを想定していたけれど、もう変わらないから出してしまおうということになっていて。そういう中で、アーティストと同じようにプロデューサーも発信していく流れがある。そういうタイミングでRyo Itoさんから話をいただいたんで、 “Girl Crush”というテーマがありつつ、自分の中で格好いいと思うものに落とし込んでいった感じです。すごく楽しくやれましたね。

――Ryo Itoさんもヒロイズムさんも作曲家としてのキャリアは長いですが、自らのプロジェクトとなると意識が変わることはありますか。

ヒロイズム:そうですね。自分でも沸々と中に溜まっていたものを発信できたし、ミックスにしてもかなり細かいところ、最後のディティールまで自分で追い込んで作った。そういう意味でもかなり思い入れのある作品になりました。

Ryo Ito:やっぱり自分の作品だということになると責任感は変わってきますからね。そこから生まれる熱量が作品に込められるというのは凄く大きいです。

――“Girl Crush”というテーマはどういう出発点から生まれたんでしょうか。

Ryo Ito:個人的に、女性シンガーの歌を普段から聴いていて好きだというのもあったんですけれど。やっぱり単なるラブソングなだけじゃなく、ひとつアイデンティティを持たせたいというのがあって。イマドキなコンセプトで恋愛を表現できる一つのスパイスとして“Girl Crush”っていうテーマを思いついた感じですね。

ヒロイズム:ただ、向こうの文化で言うところの“Girl Crush”って、日本人が考えるのとはちょっと温度差があって。最終的にはうまく着地はしたんですけど、時間はかかりましたね。“Girl Crush”の先にある究極の形は、憧れ以上に女性が女性のことを好きな気持ちというもので。歌詞の内容にしても、強いコンセプトの曲を作ろうとすると、中途半端なワードでは弱いんです。今回はPAUというメキシコ人のシンガーと一緒にやっていているんですけれど、PAUもかなり乗ってきて、歌詞の内容もかなり踏み入っている。ただ、本人の中でも葛藤があって、恋愛対象が男性である自分がこういう曲を歌っていていいんだろうかって思ったらしくて。でも、すごく強い曲ができたし、簡単にできる曲じゃないから胸を張って堂々と出したい、と。僕も「あの子みたいになりたい」っていうだけのテーマだと弱いと思ったんで、かなり深い話をしました。Ryo Itoさんに電話もしたし、曲を作っている時間よりも話し合いの時間のほうが長かったです。

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新曲「DUMP YOUR BOYFRIEND feat. PAU (Prod. by her0ism)」はどのように生まれたのか

――「DUMP YOUR BOYFRIEND」、つまり「彼氏なんか捨てちゃえ」という意味の曲名は、とても強いフックになっていますよね。それはシンガーのPAUさんとの話し合いも踏まえて、女性の生き方やエンパワーメントのようなテーマまで踏み込んでいった結果としてそうなったということでしょうか?

ヒロイズム:まさにそうですね。やっぱり、自然とそうなっちゃうんですよ。しょうもない男といるんだったら私のほうがいいでしょ?という。単なる友人を超えた関係というふうにもとれるんですけれど、「DUMP YOUR BOYFRIEND」っていうフレーズがなによりもパンチラインなので、幅広く解釈はしてもらえるかなと思います。

――楽曲制作もPAUさんとの共同作業だったんですよね。それはどんな感じだったんでしょうか。

ヒロイズム:これまでにも一緒に楽曲を作ることは何作かあって。それこそ以前にお話させていただいたシャハーディ・ライト・ジョセフの「Wallpaper」も一緒にやっているので、自然な流れでした。自分がアーティストとしてやるにしても、自然体でいつも通りにトップライン、歌詞、話しあいながら作り上げていきました。そうしたらアイディアが沢山出てきた。トラックに関してもPAU自身が歌いたいメロディとコードがぶつかる部分があったんです。そこからPAUのアイディアでトラックをミュートしてみたら思っていた以上に格好良かった。それが最終形にも活きていますね。普段の制作以上にPAUも全体像に意見を言ってくれたし、いつも以上に積極的なケミストリーを生みながら作れたと思います。

――Ryo Itoさんは、ヒロイズムさんからこの曲があがってきて、どんなふうに受け取りましたか?

Ryo Ito:聴いた瞬間にリスナー目線で好きになったし、制作中に2人と会話したことが凄く奥行きのある表現になっていて感動しました。あとは、2人の熱量がハンパなかったので、これは作戦通りだなあと(笑)。

ヒロイズム:(笑)。

Ryo Ito:この“Girl Crush”っていうテーマ自体、普通の恋愛とは違った、ただ好きっていうだけじゃない、複雑な感情がそこにはあるじゃないですか。そこをすごく上手に描いてくれたし、「DUMP YOUR BOYFRIEND」っていうパンチラインが効いている。まさに僕が個人的に好きなのがこういう部分だし、このフレーズで勝っているなって思いましたね。それに、TikTokで曲の一部が使われてストリーミングで聴かれるような今の時代にもマッチしている。この曲のこのフレーズを使いながら男性をビンタしている、またはジャケのビジュアルにも表現しましたが“give the finger”な女の子が映っている動画が思い浮かぶじゃないですか。あとは、個人的なことなんですけれど、最初に「こういう曲を作ろう」ってメモ書きを2人に送ったときに、パワーワードとして“Playlist”と“Netflix”を伝えてあったんですが、PAUがそれをちゃんとラップで韻踏みながら使ってくれたことが嬉しかったです。

――xpxpとしては「ARI」に続く第二弾シングルになります。楽曲のテイストには統一感も感じますがいかがでしょうか。

Ryo Ito:基本的には僕が好きな音楽性だし、ヒロイズムとも、特に何かに寄せてくれという話はしなかったけれど、自然とUSトップチャートみたいな一番ポップで一番作っていて楽しいところという共通項はあると思いますね。



▲xpxp - DUMP YOUR BOYFRIEND feat. PAU (Prod. by her0ism) -

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コロナによるトレンドの変化、そしてxpxpの未来とは

――USのトップチャートって、非常にトレンドの移り変わりの激しい場所ですよね。かつ、2020年のコロナ禍以降、チャートを見ても正直、どういうトレンドがあるのかよくわからないような感覚が正直あるんです。お二人はどう感じてらっしゃいますか。

ヒロイズム:まさに、今おっしゃった通りですね。僕も、とある番組で「今のトレンドは何ですか?」って言われた時に、もちろん肌で感じているし、ちゃんとSpotifyやいろんなものはチェックしているんですけど「なんだろうな?」って思ってしまって。で、その時に立てた仮説で正解だったなと思ったのが、こないだのジャスティン・ビーバーの「Lonely」ですね。あれは自分の半生をさらけ出している曲なんですよ。自分が歌いたいこと以外の何物でもない。これだけお金や名声を手に入れても、誰も僕の声には耳を傾けてくれないということを歌っている。ビリー・アイリッシュのお兄ちゃんのフィニアスが曲を作って、ベニー・ブランコがローズを弾いて、本当にシンプルにメッセージを届けるパーソナルな曲なんですよね。トレンドが何かというより、みんなコロナ禍で自分の内側と対峙するようになったと思うんです。自分と向き合う機会が増えて、よりパーソナルなメッセージを歌うようになった。USは日本のタイアップみたいなシステムもないので、タイアップ先に求められているものを作るみたいなことは稀で。そういう中で自分と向き合う曲が増えてきたんだと思います。

――Ryo Itoさんはどう見ていますか?

Ryo Ito:ただでさえ流行りの移りかわりが早くなっている昨今、コロナで時代の流れが変わった、みんなの気持ちが変わった。リリースが止まったっていうのもあり、それ以前に用意していたものが古いものになった気がします。だからこそ、このタイミングでみんなが、自分自身と向き合い、より自分のやりたいことを自分でやるようになってきていると思います。言ってみれば、“やりたいと思ったことをすぐにやる”がトレンドを生むのではないでしょうか?今まさに自分がやっていることもそうだと思うし。やっぱり、曲を作ってアーティストに提供するとなると、リリースするまで1年以上かかるみたいなことが普通にあるんです。でも、今回の曲は2ヶ月前に作ったものをすぐに出したもので。みんな、そのスピード感でやるようになってきている。それが今の流れを作っている気がします。リスナーにとっても、パッケージを買わなくなったりコンサートに行けなくなったりする中で、ただ聴きたい音楽を聴くという風潮が高まっている。自分でプレイリストを作って公開するという意味では、リスナーもある意味主役になるわけで。そうやってリスナーたちが自然と耳にしてシェアしたい音楽がトレンドになっていくんだろうなと思います。

――そのあたりも踏まえて、xpxpのこの先の展開としてはどんなことを考えていますか?

Ryo Ito:すでに何人かのクリエイター・シンガーにも声をかけているし、次々に新曲も発表していきたいし、リミックスもどんどんやってもらおうと思っていますね。アーティスト活動というよりも、クリエイターのコミュニティみたいな感じで広がっていくのが面白いと思っています。ただ、具体的にこの先どうしていくかを決め込んでいるというよりは、正直、流れに身を任せようというところはあって。目標としてはグローバルなところでみんなに聴いてもらえるような音楽にしたい、というのはありますね。僕らが作りたい音楽を純粋に作っていて、それがアーティストのマーケティングとは違うところでリスナーに気に入ってもらえて、好きな人たちがプレイリストに入れて聞いてくれるようなイメージ。そういう、今までとはちょっと違う形の作り手と聴き手との関係になっていけばいいなという気がしますね。

――今年はBillboardもグローバルチャートを発表するようになり、USのトップチャートとは違った全世界の音楽シーンの動きも見えてくるようになったと思います。そういった点においてはどうでしょうか? この先の変化の兆しのようなものは感じていますか。

ヒロイズム:LAにいると、いろんなコミュニティ、いろんな人から、次のトレンド、ビートの兆しが出てくるんですよ。今で言うならラテンはやり尽くされているようなところもあって、アフロビートがもう一度ふつふつと湧いてきているようなところがありますね。ナイジェリアあたりの大陸っぽい感じというか。そういうビート感は自分も意識しはじめています。やっぱりLAからトレンドが生まれるというところはあるので、大きな流れでシンプルに言えば、まだアメリカにない何かをアメリカ人が気に入れば、それが大きな流れになると思います。もちろんK-POPもそうだし。耳も肥えているけれどウェルカムな国なんですよね。それがJ-POPになったら嬉しいですけど。

――Ryo Itoさんとしてはどうでしょうか?

Ryo Ito:この前調べたら、サービスによって偏りはあるもののストリーミングでアリアナ・グランデを一番聴いている国って、インドネシアなんです。で、今年の6月に「ARI」をリリースさせていただいて、Spotifyのデータでリスナー数をみると1位は日本だけど2位はインドネシアになっていて。アメリカやカナダや台湾で聴いてくれている人もいるんですけれど、最近になってインドネシアが急に伸びているんです。たぶん、入るプレイリストによって変わるんでしょうね。そういう観点で言うと、聴かれ方も変わってきているし、アメリカ一極化ではなくなってきている気もします。K-POPもそうだと思うけれど、世界中で評価されたものが、結果アメリカのトップチャートに入ってくる。もちろんアメリカは魅力的だし、ハードルも高いし、憧れもあるけど、もっと広い視野でみんなに聴いてもらうことを考えなきゃいけないなって最近思いますね。日本にいるとマーケット的にどうしても視野が狭くなるし、グローバル=アメリカという考え方になりがち。それよりも、いろんな国の人たちがプレイリストに入れてくれて、いろんな国の人たちが聴いてくれることによって、結果としてグローバルなマーケットで評価される。そういう感じになってきていると思いますね。小さな国の小さな町の女の子が、クラスメイトの作ったプレイリストでxpxpと出逢ってTik Tokで「DUMP YOUR BOYFRIEND」を使ってくれたら・・・そんなこと考えただけでワクワクするじゃないですか(笑)。 

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