Billboard JAPAN


Special

<インタビュー>ZAIKOとデジタルイベントの道のり ~COO ローレン氏が語るZAIKOの立ち位置~



 コロナ禍で新たなサービスとして急速に定着しつつある電子チケット制の有料ライブ配信やオンラインイベント。そのマーケットを牽引する働きを果たしてきたのが「ZAIKO」だ。

 昨年に電子チケット販売プラットフォームとしてスタートしたZAIKOは、コロナウイルスの感染拡大によりライブやコンサートの中止や延期が相次ぐなか、いち早く3月13日にceroのオンラインライブ【Contemporary http Cruise】を開催。大手プレイガイドや動画配信プラットフォームなど各社が同様のサービスを打ち出した後も、海外からの購入にも対応した自由度の高いサービスで差別化を打ち出している。

 リアルなライブが少しずつ開催されつつある今も、コロナ禍以前の状況に戻るにはしばらく時間がかかることが見込まれる。会場チケットと配信チケットを同時に販売する「ハイブリッドイベント」が増えるなど、アーティストや主催者側も様々な創意工夫を打ち出している。

 ライブ配信の今はどんな状況にあるのか。ライブビジネスのデジタル化は今後どう進んでいくのか。ZAIKO取締役のローレン・ローズ・コーカー氏に取材を行った。

コンテンツではなく、チケットを売り出す

――コロナ禍で電子チケット制ライブ配信の市場は急激に拡大していますが、ZAIKOのサービスはどんな状況でしょうか。

ローレン・ローズ・コーカー:2020年3月からサービスを開始して半年経った9月末現在で、3,000本以上のライブ配信が行われました。配信チケットの販売枚数は100万枚を超え、チケットの売上だけでも20億円以上をアーティストやイベント事業者、会場に還元しました。以前に発表した7月末の数字は1,500本で50万枚、約12億円という数字だったので、そこからも大きく成長しています。

――3月以降、リアルなライブの開催ができなくなり、多くのアーティストがオンラインライブに可能性を見出してきました。この半年を振り返って、ローレンさんはどう感じていますか。

ローレン:イベント業界はすごくアナログな世界だったんですが、一気にデジタル化が進んだ気がします。特にこの半年はデジタルしかない世界になったので。弊社だけでなく、社会全体の変化もあって、一般的なお客さんの動きも変わってきた。デジタルイベントのチケットを購入するのが普通になってきたと思います。

――お客さんの意識が大きく変わった。

ローレン:最近は音楽だけでなく、落語のような伝統芸能のデジタルイベントも行っているんですが、そういったイベントの購入者データを見ると年齢層が上の方が多いんです。コロナの前はそのようなイベントの主催者に「電子チケットを取り扱いませんか」と言っても、「うちのファンは電子チケットの買い方が分からないから」と言われることが多かった。でも実際にやってみたら、デジタルに移行する人がとても多かった。コロナ禍になってイベントのデジタル化がすごく進んだ気がします。

――ZAIKOが電子チケット販売プラットフォームとしてスタートしたのはコロナ禍以前だったわけですが、当初はどのようなビジョンがあったんでしょうか。

ローレン:2019年1月にZAIKOはリアルイベントの電子チケットのスタートアップとしてスタートしました。最初から考えていたポイントはグローバルへの対応です。日本語だけでなく、英語、中国語、韓国語でも使えて、海外発行のクレジットカードやPaypalでも購入することができて、WeChatペイやAlipayでもOK。世界中の人たちがすぐに購入できる電子チケットのシステムを作っていました。あとはホワイトレーベル型のプラットフォームというのも大きなポイントです。

――ホワイトレーベルとはどういうものでしょうか?

ローレン:ホワイトレーベルというのは、誰でも自分のチケットプラットフォームを作ることができるというコンセプトです。大手プレイガイドを「Amazon」とするならば弊社は「Shopify」のようなものですね。それだけでなく、購入者データをアーティストや主催者に提供することで、アーティストや主催者がファンに直接チケットを販売できる。そういうダイレクト・トゥ・ファン(D2F)のモデルを考えていました。これまでのような紙ベースのチケットだと、このデータがブラックボックス化されていることが多かったんです。コンバージョン率やクリック数さえ知らされないことがほとんどでした。けれど、弊社はすべて電子チケットなので、ファンがどうやってイベントの情報を見つけたかをアーティストが知ることができるし、アーティストが直接ファンにチケットを売ることができる。時間がかかるかもしれないけれど、そのうちに電子チケットが当たり前になると信じて去年の1月に立ち上げて、毎月数十%の成長を体現してきました。けれど、今年の2月に入って、他の興行会社と同じように、一気にビジネスが消え、払い戻しで大変なことになりました。そこで、配信イベントの参加券をチケットとして売ればいいんじゃないかと思って、電子チケット制のライブ配信を始めました。

――2月から3月上旬の段階では中止になったライブを無観客でYouTube上にて無料配信するアーティストもいましたが、電子チケット制での有料ライブ配信に踏み切ったのはZAIKOが一番早かったと思います。なぜこれだけ早くコロナ禍の危機に対応できたんでしょうか。

ローレン:弊社はスタートアップなので資金力がそこまで多くなく、様子見をする余裕がなかったというのはあります。あと、弊社が他のチケット会社と違うのは、社内にエンジニアがいて、社内で開発できた。何ヶ月もかけて外注するのではなく、実験的に作ってブラッシュアップしていくことのできる組織になっているんです。弊社だけでなくクライアントさんも全員が大変な状況になっているなか、とにかくいろんなことをやろうと考えたうちの一つがこれでした。みなが「どうしよう」となったときに、それがソリューションに見えたんですね。

――最初に行われたのが3月13日に開催されたがceroのライブ【Contemporary http Cruise】でしたが、反響はどうでしたか?

ローレン:とても大きかったですね。他の会社も似たシステムを急いで導入しましたが、それもできあがるまで数ヶ月かかったので、3月から6月は弊社しかなかった。1日の問い合わせが20件以上あるような日が続いていました。それでもイベント業界はどうしてもアナログなところがあって、会場の回線が古いのをどうしようとか、カメラをどうしようとか、勉強する時間が沢山ありました。ただ、弊社がとてもラッキーだったのは、ceroさんのチームのプロダクションのクオリティがとても素晴らしかったことだと思います。

――僕も拝見しましたが、ceroのライブは演奏も演出も非常に素晴らしかったです。

ローレン:クリエイティブに関しても、いいカメラを使って、照明も美しかったし、もちろんバンド自体にも半端ない才能があった。素晴らしいものが出来上がって、それがスタンダードになった。だから、自分も作ってみて、お金をとって配信してみようという動きが生まれた。そこから沢山のお問い合わせをいただきました。

――2月末から3月当初はYouTubeでの無観客ライブの無料配信も多かったですし、投げ銭やクラウドファンディングの動きもありました。電子チケット制という打ち出しによってユーザーのあいだに「配信ライブはお金を払って観るものだ」という新しい常識が急速に広まったことは振り返るととても大きいと思います。

ローレン:そうですね。今もLINE LIVEのような無料プラス投げ銭のプラットフォームもあるんですけれど、チケット制のZAIKOのほうが売上は断然大きいです。何故かというと、デジタルコンテンツにお金を払ってもらうのではなくて、チケットの形で売り出したことが正解だったと思います。ファンはチケットを買うことに慣れています。でも、オンラインで動画を買うことには慣れていない。ペイパービューのモデルだとそこまでヒットしなかったんじゃないかと思います。

――同じことであっても、呼び名が違ったり、行動を促す設計が違ったりすることによって、大きな違いが生まれた。

ローレン:そうですね。技術や機能だけでなく、ファンにとって慣れ親しんでいる行動だったかどうかが大きかったと思います。チケットを買うということは、みんなが慣れ親しんでいる遊び方や楽しみ方の一つですからね。

NEXT PAGE
  1. < Prev
  2. ZAIKOはBandcampに近い?
  3. Next >

ZAIKOはBandcampに近い?

――先程ホワイトレーベルというコンセプトで語っていただきましたが、ZAIKOはライブ配信でもアーティストや主催者が独自のページデザインでチケットを売ることができます。そういうアイディアを持っていた理由は?

ローレン:ZAIKOの前身となったサービスとして、iFLYERというクラブ・イベント情報を掲載するサイトがあるのですが、ZAIKOの技術はiFLYERをベースにしていました。音楽情報サイトがチケットの要素を持つようになり、クラブ・イベントの前売り券や当日券を買えるように構築したシステムがベースになっているんです。その時からの考え方として、アーティストやイベント主催者が誰でも自分でチケットを販売できるようにしたいと考えていました。デザインやブランディングだけでなく、データをアーティストや主催者にバックしているというのも大きいです。マーケティングのメールもZAIKOが送るようなことはありません。あくまでアーティストや主催者自身が好きなタイミング、好きな内容で送ることができます。アーティストが自分のレーベルを作ってディストリビューションを選んで音源を配信するように、自分のプレイガイドを作ってそこで自分のライブやイベントのチケットを売ることができるようなイメージです。

――立ち上げの段階から、ZAIKOはアーティストが自分でチケットを売り、自ら次のライブを告知できるフォーマットだったわけですね。結果としてこうしたモデルがコロナ禍のライブ配信にフィットしたという面はありますか?

ローレン:そうですね。ライブ配信は少ないスタッフの人数でできるんです。リアルなライブツアーをやるためには、アーティストと事務所がいて、イベンターやコンサートプロモーターがいて、会場があって、チケット会社があって、間に入っている人たちが沢山いる。でも、ライブ配信はアーティストとカメラとスタジオだけでできる。もちろん大きな会場を借りて、沢山の人数で制作することもできますけれど、ファンのすぐ近くで直接コミュニケーションをとりながらやることもできる。ダイレクト・トゥ・ファンの意味合いが強くなると思います。

――メディアが大きく取り上げるのはサザンオールスターズやOfficial髭男dismのように10万人以上が参加する大きな規模のライブ配信ですが、3,000本のうちこうしたものは数少ないわけで、それぞれにやり方があるということですね。小さな規模のライブ配信の特徴はありますか。

ローレン:嬉しいことに、アーティストや会場のリピーターがとても多いんです。インディーズ系のアーティストさんも、会場さんも、毎月のようにZAIKOでライブを開催している方がいます。そうなると、シリーズ化していくんですね。今月はアコースティック・セット、来月は誰かとコラボ、その次はファンからのリクエストというように、コンセプトを決めて違うライブをやっていく。スタジアムクラスの有名な人は一度きりが多いですが、シリーズ化していくことで意味のある数字になっている例も多いです。

――アーティスト側も創意工夫してライブ配信の新たな見せ方を生み出しているわけですね。

ローレン:そうですね。撮り方も変わってきています。単純に客席からステージを撮るのが一番つまらない。ミュージックビデオのように、横から、後ろからと、いろんな角度で撮影するものが増えています。あとはインタビューの要素が加わっているものもありますね。ライブのテーマとか、どういうことをやっているかとか、舞台裏をちゃんと語っている。ツイッターのコメントを読んだり、トークをしたりして、ファンとコミュニケーションをとっているアーティストも多いです。そうなってくると、単に「ライブ配信」という言葉よりも、継続できるものとして「デジタルイベント」や「オンラインイベント」という言葉が合うものになってきている。いろんな人がどんどん上手くなっていて、面白いことが沢山起きている気がします。

――そうした中でアーティストや主催側とコミュニケーションをとってアイディアを出し合うようなこともありますか?

ローレン:ありますね。弊社はシステムにフォーカスしていますけれど、フィードバックもします。ただ、一番大きいのはファンの声ですね。たとえば、清春さんは「もっとこういう撮り方をしてほしい」というファンのコメントを聞いて、セットや照明も作り込んで、9月29日と30日に5回目の配信イベントを行いましたが、とてもクオリティが高いものになっていました。

――6月以降には他の大手プレイガイドや動画配信サービスもオンラインイベントのプラットフォームを立ち上げました。ZAIKOとしてはどう差別化を図っていこうと考えていますか。

ローレン:もともとの強みとして、多言語に対応していて、海外から購入できるということがあります。また、ホワイトレーベル型なので、好きなタイミングでイベントを作ってチケットの販売を開始できる。そういうことが強みですね。イベントやチケットを設定する自由度も高いですし、ユーザーデータを活用してアーティストがファンとコミュニケーションをとることができる。チケットの販売による収益だけじゃなく、それ以外のところでの価値をどう感じてもらえるかというところに力を入れていきたいですね。

――チケットの自由度が高いというと、具体的には?

ローレン:たとえばKan Sanoさんが10月4日に行った【PLAY WITH 2020】というイベントでは、会場チケットと配信チケットの両方を販売していて、入場券を買った人だけが購入可能なオリジナルキャップのグッズも販売しました。グッズと配信チケットのバンドルもあります。それらを全部同じページで販売して、主催者がそれぞれの枚数や料金を自由に設定できる。そういうハイブリッドイベントを作ることもできます。配信のみのプラットフォームだと入場券と一緒に販売できないですし、大手プレイガイドはシステムの自由度がないのでこうした形は難しい。そこはZAIKOが社内で開発していることの強みです。そういうことがわかっている人は、ZAIKOで実験的な、面白い形でイベントを開催しています。

――なるほど。チケットとグッズをバンドルで売ることができるというのは大きいですね。単にライブ配信をするだけでなく、リアルなライブやマーチャンダイズを組み合わせてどういうことができるかの実験場になっている。

ローレン:そうですね。アーティストが自分のプラットフォームを作ってそこでいろんなものを売ることができるという意味では、ZAIKOはBandcampに近いかもしれません。自分の場所を確保して、ダイレクト・トゥ・ファンで売る、そういったモデルも、もともとの考え方としてあります。

NEXT PAGE
  1. < Prev
  2. 欧米/アジア圏の、ライブへの金銭感覚
  3. Next >

欧米/アジア圏の、ライブへの金銭感覚

――ここ数年は欧米の方が音楽業界のデジタル化が進んできたわけですが、2020年にコロナ禍でライブができなくなったことは、世界各国が全て同時に起こった現象だと思います。それぞれの国で対応は違ったと思うんですが、日本と海外を比較してどんな違いがありますか?

ローレン:日本はチケット会社が大きなプレイヤーになりましたけれど、それはZAIKOがいち早く動いたのがきっかけかもしれないと思っています。もちろん海外でもそういう動きはあるんですね。たとえばLive NationがMaestroという会社と組んでライブストリーミングを始めています。ただ、欧米でよく言われているのは、最初に無料でYouTubeのライブを大々的にやってしまったことで後悔しているマネジメントが多いということです。InstagramやYouTubeのライブで10万人が無料で観るよりも、5,000円を払う2千人が来てほしい。そうしなかったのはミスだったという話題もあります。一方で、アジアにはもともと17 Liveのようなライブ配信アプリがあって、そこがもともとのライバーだけでなく音楽アーティストとパートナーシップを組む例も増えています。欧米にはないですが、アジアには投げ銭文化がある。そういう話題もありますね。そういう中で、日本は独自の動きをしていると思います。

――ZAIKOでは海外からもチケットを購入できるということですが、どんな状況でしょうか?

ローレン:チケット購入者の約3%が海外からの購入者です。テンセント・ミュージックのQQ音楽とも提携していますし、bilibiliとも提携しているので中国からも参加できます。

――チケット購入者の特徴はありますか?

ローレン:数%とはいえ、配信チケット販売枚数が合計で100万枚を超えているので、かなりの人数が来ています。海外のアイドルファン、日本のロックバンドの海外のファンも楽しんでいる。コロナが収束したあとも、海外のファン向けの配信ができると思います。先日マーケットリサーチ結果も公開しましたが、ジャンルによってファンが違うというデータが出てきています。V系のバンドはフランスやドイツなどヨーロッパの女性ファンが多い。アイドルはアメリカやカナダも多く、台湾や韓国のファンはJ-POPのアーティストも含めてどんなイベントでも多いです。

――ここ数ヶ月で、ZAIKOさんとして苦しんだことはありましたか?

ローレン:いろいろありましたね。この半年で、配信中にシステムトラブルがあってサーバーダウンしてしまうことが一度だけありました。実際はこうしたトラブルはほとんどないんですが、こうしたことがあると、どうしても一つのミスが大きく取り上げられてしまう。システムトラブルはどうしても起きてしまうことではあるんですけれど、トラブルが起こる前に準備したり、お客さんやアーティストとコミュニケーションをとって対応したり、業界のスタンダードを作っていく必要があると思います。

――トラブルの対応にあたって学んだ経験はありますか。

ローレン:トラブルへの対応はオプションが限られています。ほとんどの人が観られているのなら、そのままライブを行ってアーカイブを残す場合が多いです。必要なら返金します。もしくはイベントそのものを完全に延期にすることや、収録にして次の日に公開するようなこともあります。とにかく、アーティストや主催者とどれだけコミュニケーションをとってクリアしていくかが大事だと思います。

――少しずつリアルイベントも戻ってきていますが、この先もライブ配信やオンラインイベントは選択肢として残り続けるのではないかと思います。この先の展望についてはどんなことを考えていますか。

ローレン:今は詳しく言えないですが、将来を見据えていろいろと準備しています。興行ビジネスのデジタル化はこの後も進んでいくので、それに備えたいと思っています。

写真

関連キーワード

TAG