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<インタビュー>アソビシステムが発掘した新人=yonkeyとは? AAAMYYYやAce Hashimotoとコラボし、バンドKlang Rulerも率いる気鋭のプロデューサーを紐解く



インタビュー

 1997年生まれの現在22歳、中田ヤスタカ/きゃりーぱみゅぱみゅらを擁するアソビシステムによるオーディションで発掘された音楽プロデューサー、yonkey。2015年に結成されるもいまだ謎多きバンド、Klang Rularの主幸者でもある彼が、2019年7月にリリースした1stシングル「ダウナーラブ (feat. AAAMYYY)」以来、ソロ名義では約半年ぶりとなる2ndシングル「Haunter (feat. Ace Hashimoto)」を発表した。

 チャンス・ザ・ラッパー、シザ、サンダーキャットといった名だたるアーティストたちとコラボし、タイラー・ザ・クリエイター率いるヒップホップ・コレクティブ“Odd Future”のメンバーとしても知られる米シカゴ出身アーティスト、Ace Hashimotoをシンガーに招いた今作は、2月19日からLINE MUSICで先行配信、そして2月26日からは各サービスでの配信がスタート。Billboard JAPANでは今回、yonkey本人にインタビューを行い、海を越えたコラボレーションで作り上げた最新作の話をもちろん、トラックメーキングとバンドを両立させる理由、両者の活動の相関性、今後の活動に向けた展望など、大いに語ってもらった。

 また、本インタビュー記事のサブ・コンテクストとして、yonkey自身がキュレートしたプレイリストも公開。テーマに“チルのその先へ”を掲げ、新進気鋭の音楽プロデューサーとして高い音楽感度を持つ彼が選んだ、今後の音楽シーンを占う楽曲の数々を楽しんでもらいたい。

自分にはないものに気づける

――まず今回のコラボレーションの経緯を教えてください。

yonkey:Ace Hashimotoのことは以前から気になっていて、僕の友人にMoe Shopっていうフランスのトラックメーカーがいるんですけど、二人がコラボしていたこともあって、紹介してもらったんです。まずマネージャーを介してオファーしたあと、僕が作ったデモを聴いてもらったんですけど、そしたら「ぜひやりたい」と言ってくれて。

――デモを作った段階でシンガーのイメージも浮かんでいたのでしょうか?

yonkey:むしろ事前に“Ace Hashimotoに歌ってもらいたい曲”を3曲ぐらい用意していたんです。で、僕から「どれがいい?」って彼に送って、選んでくれたのが今回リリースした曲ですね。前作の「ダウナーラブ (feat. AAAMYYY)」も同じで、AAAMYYYさんが歌うことを想定したトラックを何パターンか作っていたので、どっちも人が先でトラックが後なんです。そうやってフィーチャーするアーティストに合う曲を作るのが好きなんですよね。もちろんストックは普段から溜めてるんですけど、やっぱり歌う人のフィーリングをイメージして作ったほうがハマりやすいので。

――3曲用意していたとのことですが、作風はどれぐらい違いましたか?

yonkey:それぞれがアップ・テンポ、ミドル・テンポ、スロー・テンポだったし、リズムもがっつり変えてました。この「Haunter」は3曲の中で一番落ち着いた感じのトラックですね。



――二人でどんなやり取りをしながら制作を進めていったのですか? Aceさんは海外在住ですよね。

yonkey:僕も英語が達者なわけではないので、スタッフに翻訳を助けてもらいながら、文章でやり取りしたり、お互いにデモを送り合って、それに対してもう一方が別のアプローチを提案してみたり。ただ、特にヴォーカルの面では彼が率先して方向性を決めてくれたので、僕もそれをリスペクトして、彼の提案を基準にトラックを組み立てていきました。

――であれば、yonkeyさんにとっても発見の多い作業になったのでは?

yonkey:そうですね。メロディやフロウは僕では絶対に作れない感じですごく新鮮でしたし、その新鮮さが他のアーティストと共作することの一番のメリットかなと思います。自分にはないものに気づけるというか。あと、Aceさんはリリックもある程度乗せた状態でデモを送ってくれるんですよ。それもすごいなと。きっとメロディとリリックが同時に出ているんでしょうね。

――豊富な経験があるからこそでしょうね。彼はこれまで素晴らしいアーティストたちとコラボしてきましたし。

yonkey:めちゃめちゃ勉強になりました。送られてきたヴォーカル・データが完全ドライな状態(エフェクトが施されていない状態)だったんですけど、それをトラックに乗せた時点で「あ、いいな」と思って(笑)。トラックメーカーとしては、録った音を後から修正するのって当然と言えば当然なんですけど、そもそもの元が良いっていうのはけっこう衝撃的でした。素材をこねくり回すんじゃなく、素材そのものを良くしようっていう考え方には刺激を受けましたね。

――では、yonkeyさん自身がこの曲でこだわったポイントは?

yonkey:イントロの部分はローファイなサウンドメークを意識したんですけど、ただのローファイ・ヒップホップにはしたくなかったので、フックのところではしっかり盛り上がりを作ったり、逆に音の隙間を用意したりして、リスナーをハッとさせるポイントを所々に交えてます。最近の僕のテーマとして“チルしすぎない”っていうのがあるので、彼の歌がちゃんと映えつつ、トラックだけでも魅せられるような、そのバランスを意識したうえで作れたかなと。

――何か具体的なインスピレーション源があったのなら教えてください。

yonkey:ローファイ・ヒップホップって、もともとレトロなアニメーションと組み合わせた映像ストリーミングから出てきたジャンルなので、作曲に関しては80~90年代のアニメを見てインスピレーションをもらいました。



yonkey - Haunter (feat. Ace Hashimoto) [Official Lyric Video]


シーン全体を盛り上げるプラットフォームに


――yonkeyさんはソロ名義のトラックメーカーとして活動する一方、自身が主幸するバンド、Klang Rulerとしての活動も精力的に展開していますよね。これらの二つの活動は明確に分けて考えているのでしょうか?

yonkey:いや、あまり分けている意識はないんですよ。ただ、バンドでやるからには、バンドであることの必然性もちゃんと見出したくて。それこそフィーチャリング精神と似ていて、自分のトラックメークだけでも完結させられるからこそ、バンドでは自分だけじゃ作れないようなものを作りたい。だから、制作もメンバーと一緒にやってますね。

――そもそもKlang Rulerとは、どんな経緯があって結成されたバンドなのでしょう?

yonkey:もともと高校生の時に幼馴染を集めて結成したバンドなんですよ。それこそドラムは家が隣だったので、ただ近いところに住んでいたから誘ったっていう(笑)。あとは専門学校で出会った女の子のヴォーカリストとか。そんな感じで徐々にメンバーが増えていった感じです。原点は隣の家(笑)。

――バンド全体の指揮はyonkeyさんが取っていると思うのですが、先ほども仰ったように制作は一緒に行っているんですよね? メンバー同士でどんな化学反応が起きていますか?

yonkey:Klang Rulerって「このバンドが好きで、こういうバンドをやりたいから」みたいな理由で結成したバンドじゃないし、メンバーそれぞれ好きな音楽もバラバラなんですけど、制作の時はまず、バンドとしての明確なヴィジョンを描くんです。そのうえで各メンバーのルーツとか自分なりの音楽アプローチを混ぜていく。なので、重要なのは最初にコンセプトをしっかり決めて、みんなで共有すること。そうすれば「このやり方が使えるんじゃないか」とか「この要素を合わせたら面白くなるんじゃないか」って、それぞれの引き出しを随所で生かすことができるんですよね。

――Klang Rulerとしての活動はどれぐらいの頻度で行っているのでしょう?

yonkey:ライブは月2~3本やっていて、それとは別に“Midnight Session”っていうカバー企画みたいなこともやってます。この企画ではバンド外から同世代のフィーチャリング・アーティストを招いたりもしているんですけど、それは自分たちのためというより、企画自体がシーン全体を盛り上げるプラットフォームになればいいなと思っていて。



くるり / 琥珀色の街、上海蟹の朝 (Klang Ruler & kojikoji)

――yonkeyさんから見て、同世代の音楽シーンはどのように映っているのでしょう?

yonkey:僕の周りにもカッコいいアーティストはたくさんいるんですけど、まだそれぞれが孤立しているような感じがしていて。もっとみんなで一緒に盛り上げていけたらいいのになって思います。カルチャーって特定のアーティストだけじゃ成り立たないと思うし、横の繋がりをしっかり作って、全体的にイケてる空気を作っていきたいですね。今年の目標としては、可能な限り色んなアーティストと一緒に音楽をして、少しでもシーン全体を盛り上げていけたらなって思います。

――トラックメーカーとバンド、二つの活動に相互的なフィードバックもあったり?

yonkey:正直、始めたばかりの時は全く別物として捉えていたんですけど、最近は二つの活動の窓口がリンクして、お互いに刺激し合っている感じはありますね。バンドで学んだことや経験したことはトラックメーキングに生かせるし、もちろんその逆もまた然り。例えば、僕自身はけっこう打ち込み志向なんですけど、バンド活動の経験から生楽器っぽい音もトラックメークの時に入れてみたり、逆にバンドでも少しエレクトロの要素を取り入れてみたり。

――逆にそれぞれのクリエイティビティに違いがあるとしたら?

yonkey:yonkey名義でアーティストをフィーチャーする時は、相手のことをすごくリサーチしたうえでテーマやコンセプトを決めて、そこから作品を広げていくんですけど、バンドでは僕自身が歌う場合も多いので、あくまで自分自身の中から出てくるワードやメロディを尊重します。僕自身の音楽性としてはそこが境目になってるかもしれないですね。


ジャック・アントノフの在り方に憧れ

――普段はどんな方法で音楽情報をキャッチしていますか?

yonkey:Instagramをよく見るんですけど、アーティストとか音楽メディアではなく、一般の方の中にもすごく耳が早い音楽リスナーっているじゃないですか。そういう方のアカウントをフォローして、レコメンドしている音楽をディグったりします。個人的にお気に入りの人が何人かいて、常にストーリーをチェックしてますね(笑)。音楽を作る人間とはまた違う、独自の面白い感性があると思うんですよ。



――最近お気に入りのアーティストは?

yonkey:zack villereっていう人がいるんですけど、トラックの要所要所に面白い音があってカッコいいんですよ。あとはSTEVE LACYとか。日本だとDos monosさん、小袋成彬さんだったりは、世界のサウンドと共振しているというか、海外の人にも誇りを持って「この音楽イケてるよ」って紹介したいアーティストですよね。それと同時に、ちゃんと日本語の響きも大事にされている。

――yonkeyさん自身、作詞作曲の際にはどんなものからインスピレーションを受けることが多いですか?

yonkey:意外と音楽じゃないものから影響されることが多くて。本とか映画とか。最近はNetflixが多いですね。1日1本映画を観るのがルーティンになってます。楽曲の全体的なテーマを決めるのが一番難しくて、そういうところで俳優さんのセリフとか映像の風景からインスパイアされることが多いです。

――最近、映画から受けたインスピレーションが実際に音楽として形になったことは?

yonkey:『her/世界でひとつの彼女』っていう、AIが普及した時代を舞台にした映画があって。主人公がAIに恋をしてしまうんです。初めは「こんなのありえない」って思ったんですけど、最近の技術の進歩のことを考えると、あながちありえないこともないかなって。それってすごく切ないじゃないですか。実体のないものに恋してしまうっていう。その悲しいけど人間的な部分からインスピレーションを受けて、そんな感じの曲を書いたりしました(笑)。まだ世の中には出してないですけど。

――yonkeyさんが理想だと考えるアーティスト像はどういったものなのでしょうか?

yonkey:ジャック・アントノフ(テイラー・スウィフト、ロード、ラナ・デル・レイらを手掛ける米プロデューサー)って、ファン.のギタリストでもあり、ソロ・プロジェクトとしてブリーチャーズもやっていたり、今の僕のようにプロジェクトをいくつか持っていて、なおかつ、他のアーティストのプロデュースもできるし、ヒット・ソングも書ける。そういう在り方には憧れるし、自分の活動スタイルにも影響を与えていると思います。それに、彼がそのスタイルで成功しているからこそ、自分も勇気を持って挑戦できるんですよね。

――では、コラボしてみたいアーティストさんは?

yonkey:藤井風さん、Daichi Yamamotoさんとか。個性的であればあるほど、僕も得られる刺激が大きいし、すごい曲が書けるかなって。

――最後に、yonkeyさんがアーティストとして叶えたい夢を教えてください。

yonkey:同世代のシーンを引っ張っていけるような存在力のあるアーティストになりたいなと思ってます。とりあえず、一段落ついたところでまとまった作品を出したいなと。色んなアーティストを招いたフィーチャリングEPみたいな作品にしたいですね。



Interview by Takuto Ueda
Photo by Yuma Totsuka


インタビュー記念プレイリスト『チルのその先へ』公開!

yonkey:最近スロー・テンポで落ち着いたチル系の楽曲がメイン・ストリームでも聴かれることが多くなったからこそ、今回はその“チルの先には何があるのか”をテーマにジャンル問わず選曲しました。



Typical Story - Hobo Johnson


yonkey:友人のプレイリストをディグってる時にたまたま見つけた曲です。唸るギターをバックにとにかく言葉を詰め込むポエトリー・ラップに痺れました。たとえ言語が分からなくても彼の熱さは伝わると思う。


in 20XX - Dos Monos


yonkey:この曲はYouTubeのおすすめから辿って見つけました。それまでDos Monosの存在自体を知らなかったのでただただ衝撃でした。トラックのブラスもなんとなくゴジラとかそういった昭和の劇伴を想起させるような質感で、世界基準のトラックでありながら日本的要素も垣間見れて良いです。


Haunter (feat. Ace Hashimoto) - yonkey


yonkey:僕の曲です。Ace HashimotoっていうOdd Futureの元メンバーでもある、めっちゃかっこ いいアーティストをフィーチャリングしました! トラックはlo-fiっぽくしつつ、曲の展開を意識してサビでしっかり迫力のあるサウンドに仕上げました。Aceのスムースなヴォーカルにも注目して欲しいです。


No Hope Generation - Mura Masa


yonkey:Mura Masaは僕が最も尊敬してるアーティストの一人で、彼が今回リリースした新しいア ルバム『R.Y.C』から1曲選びました。これまでのMura Masaを象徴するようなハンドパンやドライなシンセ・リフは一切出てこず、UKパンク的な歪んだサウンドが特徴です。希望のない世代という意味を込めたタイトルも僕ら若者に刺さる何かがあります。


ダウナーラブ (feat. AAAMYYY) - yonkey


yonkey:TempalayのメンバーでもあるAAAMYYYさんに参加してもらった曲です。失恋をテーマにしてるんですけど、最後のフレーズで「アパートの隅で 塞ぎ込んでた 眩しい光が 窓越しに見えたんだ」と暗闇から抜け出す描写を入れてるところが気に入ってます。


Gaia - 小袋成彬, 5lack


yonkey:小袋成彬さんは前作の『分離派の夏』からずっと惹かれてましたが、今作も非常にコンテンポラリーな楽曲たち。この曲は構成も1曲を通して大きな波があるイメージで、後半にかけて感情がこみ上げてきます。


Godzilla (feat. Juice WRLD) - Eminem


yonkey:Eminemは中学生の頃に生徒手帳に歌詞を書き写していたほど大ファンです。今回は彼が新しくリリースしたゲリラ・アルバム『Music To Be Murdered By』から一番気に入ってる楽曲を選びました。彼の早口ラップをソフトで速度を変えて聴いてみると、単語の発音が潰れずはっきり聴こえるんです。


All My Friends - Madeon


yonkey:Porter Robinsonとの共作「Shelter」でも知られるMadeonの新しいアルバム『Good Faith』から選びました。EDMシーンを支えてきた彼だからこそできる完璧な音のバランスとダイナミクスは、爆音で聴けば聴くほど痺れます。


Let it Be feat. Kid Fresino - DaichiYamamoto


yonkey:渋谷のクラブでたまたま流れてるのを耳にして見つけました。ヒップホップではトラップ・ミュージックがトレンドの中、こういったビートにラップを乗せてるところが最高にかっこいいです。


Midnight Hour - Skrillex,BOYS NOISE & Ty Dolla $ign


yonkey:僕がトラック・メークを始めたきっかけでもあるSkrillexが参加してる曲です。序盤の雰囲気を良い意味で壊す展開がクセになって、何回も聴いてしまいます。


hello! - ROLE MODEL


yonkey:Spotifyのインディー・ポップのプレイリストをディグって出会った曲です。シンプルなピアノ・リフは聴いていて心地が良いので好きです。


Televison / so Far so Good - Rex Orange County


yonkey:こちらもインディー・ポップのプレイリストで出会った曲です。Tyler, The Creatorの客演をしたりなど、ジャンルを感じさせないアーティストです。アルバムも曲ごとにスタイルが違うんですけど、彼のメロディ・センスはどの曲にも通じるものがあって、すでに自分自身の色が確立されてるアーティストだなと思いました。


何なんw - 藤井風


yonkey:彼がYouTubeにあげていたカバーをずっと聴いていて、一体何者なんだろう?と思ってた ら、この曲がリリースされたのですぐ聴きました。同世代ということもあって、いつか同じ作品で交われたらなと思ってます。


Face the Night - Tennyson


yonkey:カナダの兄弟エレクトロニック・デュオです。この楽曲の僕個人のイメージは、大自然の中で行われている大規模なフェスティバル感です。深夜に作業に行き詰まった時などに聴いて自分を高めています。


Always Be My Baby - Brasstracks


yonkey:インスタのストーリーで誰かがあげていて、聴いてみたら一瞬で惹かれました。原曲はマライア・キャリー。改めてメロディとアレンジの重要さを確認できた気がします。


プレイリスト『チルのその先へ curated by yonkey』

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