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【ラグビーワールドカップ】の影響が出た楽曲とは?~Billboard Japan Hot 100から分析する~



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ラグビーワールドカップによって、ラグビー関連曲に影響が出たのか分析

 2019年9月~11月に【ラグビーワールドカップ2019日本大会】が開催され、大きな盛り上がりを見せたのは記憶に新しい。南アフリカが見事優勝を果たし、日本も史上初のベスト8に進出。10月20日にNHK総合で放送された『ラグビーワールドカップ2019・日本×南アフリカ』は関東地区での番組平均世帯視聴率が41.6%と、昨年の『第69回NHK紅白歌合戦』以上の数字を残した。11月2日に放送された『ラグビーワールドカップ2019日本大会・決勝イングランド×南アフリカ』も20.5%という数字を残した点から見ても、日本戦のみならずラグビー全体が盛り上がっていたことがうかがえる。

 本コラムでは、そのような大きな盛り上がりを見せたラグビーワールドカップによって、ラグビーに関連する楽曲のチャートがどのように推移していったのかを見ていきたい。今回は、総合チャートの各指標のポイントの変遷と、ラグビーワールドカップ日本戦の番組平均視聴率の変遷を照らし合わせ、視聴率と似たような動きをしていた楽曲とその指標をピックアップした。ちなみに、ビルボードジャパンの総合チャートはCDセールス、ダウンロード、ストリーミング、ラジオ、ルックアップ(PC等によるCD読取数)、ツイート、動画再生、カラオケの8指標を複合して形成されている。

 なお、本コラムで使用する番組平均視聴率は、株式会社ビデオリサーチに許諾を得たうえで、共同研究としてすべて関東地区の世帯視聴率を用いるものとする。また、以下ではポイントの変遷を表した面グラフがいくつか出てくるが、ポイントの実数は伏せていることをご了承いただきたい。

CMでの露出でダウンロード指標が急伸

 まず見ていきたいのは、B'z「兵、走る」だ。本楽曲は「リポビタンDラグビー日本代表応援ソング」(※大正製薬は「ラグビーワールドカップ2019日本大会」のオフィシャルスポンサー)としてCMに起用されていた。開催期間中にテレビでよく流れていたのを覚えている方も多いだろう。そんな本楽曲において、対象期間中に最も視聴率と似た動きを見せたのはダウンロード指標だった。

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グラフ1:B'z「兵、走る」のポイント変遷

 グラフ1において紫の面グラフがダウンロードのポイント変遷、折れ線グラフが視聴率の変遷を表している。また、グラフの左に記載されている数字は視聴率(%)を表したものだ。

 本楽曲の配信自体は6月19日にスタート。その後コンスタントにポイントを挙げていたが、10月13日のスコットランド戦が集計期間内だったチャート以降、ダウンロードのポイントは急伸。10月20日が対象期間だったチャートでは最大のポイントを挙げており、12月30日付チャートまで更新された記事執筆時点でも最大である。配信済みの楽曲が、5週の間でポイントを8倍に伸ばしている点から見ても、いかに影響力の大きいCMだったのかが分かる。

 興味深いのは、日本戦がNHK総合で放送された週でもポイントが上がっていることだ。CMに起用されている楽曲である以上、NHKの放送では流れないのだが、世間全体の雰囲気がラグビーで盛り上がっていったことにより、民放の放送や動画サイトでのCMが象徴的に響いた結果だろう。特に10月13日のスコットランド戦は、プール戦(グループ・リーグ)突破がかかっていた試合であり、その注目度の結果が視聴率にもダウンロード指標にも表れたと考えられる。


▲B’z「兵、走る」

テレビタイアップ曲の変遷は?

 続いてピックアップしたいのは、Little Glee Monster「ECHO」だ。本楽曲はNHKラグビーテーマソングを務めており、9月10日から先行配信がスタート。NHK総合で放送された日本戦は9月28日のアイルランド戦と、10月20日の南アフリカ戦である。そして、対象期間中に最も視聴率と相関が見られる動きをした指標は、B'z同様ダウンロードだった。

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グラフ2:Little Glee Monster「ECHO」のポイント変遷

 グラフ2を見てみると、一見視聴率の変遷とダウンロードのポイント変遷が似ていないように見えるが、NHK総合で放送された週では、前週よりも高いポイントを上げている。よって、テーマソングとして放送された効果があったと言えるだろう。


▲Little Glee Monster「ECHO」

 では、日本テレビ系ラグビー2019イメージソングであった嵐「BRAVE」はどうだったのだろうか。本楽曲は9月11日にリリースされたが、日本戦が行われていた期間内ではダウンロードやストリーミングを解禁していなかったので、今までの2曲のようなダウンロード指標の変遷はない。では、ダウンロードに代わって視聴率の変遷と似ている変遷を遂げた指標は何かというと、ルックアップだ。

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グラフ3:嵐「BRAVE」のポイント変遷

 グラフ3のオレンジの面グラフはルックアップのポイント変遷を表しているのだが、ルックアップのポイントは視聴率と真逆の変遷をしている。しかし、ポイントの落ち方を見ていくと、徐々に小さくなっているのが分かるだろう。もう少しわかりやすくするため、今度は全体のポイントにおけるルックアップの占有率の変遷を見てみよう。

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グラフ4:嵐「BRAVE」の占有率変遷

 グラフ4の右に記載されている数字はルックアップの占有率(%)を表している。その変遷を見ていくと、右肩上がりに伸びていったのが分かるだろう。10月20日にNHK総合で放送された南アフリカ戦では若干占有率を落としたものの、それでも60%以上という高い数字を出している。

 ルックアップがPC等によるCD読取数を表していることを考えると、ルックアップが高い占有率を出していることから、購入したCDのみならず、多くの人がレンタルや友達同士の貸し借りで手に入れたCDをPCに取り込んでいることが分かる。そして、CDをPCに取り込むことは、ユーザーが熱心にその音楽を聴こうとしている表れである。実はチャート的にも、ルックアップで高いポイントをコンスタントに上げている楽曲はダウンロードやストリーミングでも高いポイントを獲得している傾向がある。なので、もし日本戦が開催されている間、「BRAVE」がダウンロードやストリーミング出来る環境だったならば、Little Glee Monster「ECHO」のような変遷を起こしていた可能性もあっただろう。



ラグビー定番曲のチャートアクションは?

 今まで見てきた3曲は、どれも2019年にリリースされた楽曲だったが、過去の曲だとどうだろうか。ここで取り上げたいのは、麻倉未稀「ヒーロー HOLDING OUT FOR A HERO」だ。本楽曲は、1984年10月~1985年4月まで放送され、山下真司が主演を務めたテレビドラマ『スクール☆ウォーズ 〜泣き虫先生の7年戦争〜』の主題歌である。元日本代表の名フランカーで、高校体育教師として赴任した山下演じる熱血教師が、高校ラグビー界において全く無名の弱体チームをわずか数年で全国優勝へ導いた軌跡を描いたこのドラマ。たとえドラマを見ていない人にとっても、バラエティ番組でラグビーの話題が上がるとこの楽曲がよく流れており、聴き馴染みのある方も多いだろう。

 本楽曲のように、「ラグビーと言えばこの曲!」と受け入れられている楽曲は、ラグビーワールドカップによってどのようなチャートアクションを起こしたのだろうか。チャートを見ていくと、最も視聴率の変遷と似た変遷を遂げた指標は、やはりダウンロードであった。

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グラフ5:麻倉未稀「ヒーロー HOLDING OUT FOR A HERO」 のポイント変遷

 9月28日までは0ポイントだったものの、その後は視聴率同様、右肩上がりにポイントを増加。日本戦のみならず、ラグビーが盛り上がるたびにバラエティ番組等の様々な場面で流される本楽曲を耳にすること(視聴率と似た変遷ではなかったが、ラジオ指標でも比較的コンスタントにポイントを上げていた)によって、ダウンロードにまでその効果が波及していったことが見て取れる。



 以上より、ラグビーワールドカップによって、ラグビー関連の楽曲は主にダウンロードの指標で影響が出ていた。実は以前、当サイトで公開した2本のコラム「音楽番組の影響力とは?~Billboard Japan Hot 100から分析してみる~」「音楽番組の影響力とは?vol.2 ~Billboard Japan Hot 100から分析してみる~」からも、分析方法の違いはあるものの、音楽番組で披露・紹介されることによってダウンロード指標に影響が出た楽曲が多かったことが分かる。テレビによって楽曲が全国的に流れると比較的ダウンロード指標に影響することが、今回のコラムでも明らかになった。

 しかし、これはあくまでも2019年の話である。今後、音楽を取り巻く環境が変わるにつれて、テレビで楽曲が流れてもダウンロードに影響が出にくくなるかもしれないし、さらに影響が出てくるかもしれない。ビルボードジャパンでは、引き続きジャパンチャートデータとテレビ番組の関連について考察を進め、当サイトで公表していきたい。

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