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ジュリアン・ベイカー来日記念特集 ~人々の心をとらえて離さない時代の才女の魅力を岡村詩野が解説

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 2015年のデビュー作『Sprained Ankle』から、繊細な感情を叙情的に綴る歌詞、美しく華麗なメロディ、柔らかさと力強さが共存する歌声で世界的な注目を集めるシンガーソングライター、ジュリアン・ベイカー。フィービー・ブリジャーズ、ルーシー・ダカスという才気あふれる若手2人と結成したユニット、ボーイジーニアスとして、2018年のアメリカの中間選挙の時期にリリースしたEP『Boygeniue』も大きな話題となり、今まさに勢いに乗る彼女の来日公演を目前に控え、音楽評論家の岡村詩野氏にその魅力を考察してもらった。

マイノリティの目線を肩肘張らずに告白する様子は、世代を超えて多くの人の心を打った

CD
▲EP『ボーイジーニアス』

 ボーイジーニアスというユニットが、ちょうどで行なわれた中間選挙の喧騒の中、そっと6曲入りEPをリリースしたのはご存知だろうか。このユニットのメンバーは、“ボーイ”と名乗りつつも3人の女性、フィービー・ブリジャーズ、ルーシー・ダカス、そしてジュリアン・ベイカー。いずれも現在のアメリカで活動するフィメール・アーティストである。

 この3人だけではない。シャロン・ヴァン・エッテン、エンジェル・オルセン、モリー・バーチら多くの20~30代の女性シンガー・ソングライターたちが今のアメリカで静かな存在感を放つ。彼女たちの音楽スタイルはいたってシンプルだ。決して奇を衒わず、多くのリスナーが共有できうる歌を届けるだけ。R&Bやソウルのようにフィジカルでグルーヴたっぷりのスタイルとは一味違い、テイラー・スウィフトのようなショウアップされたパフォーマンスで魅了するわけでもなく……かといって、牧歌的な歌ごころのようなものだけを頼りにした、ノーメイク調の素朴さともまた違う。むしろ、気品やたおやかさや、整然とした知性、素直な感情吐露が魅力。それぞれにソロでも活躍する3名の才女が集まったボーイジーニアスというユニットは、そういう意味では、“#metoo”現象などで揺れる昨今のアメリカ社会に、フィーリングと理性で対峙する新たな女性像の象徴とも言える。


▲boygenius: NPR Music Tiny Desk Concert

CD
▲『Sprained Ankle』

 中でも、ジュリアン・ベイカーは頭一つ抜けた存在だ。テネシー州メンフィス出身のジュリアンは現在まだ23歳という若さ。2015年に発表されたファースト・アルバム『Sprained Ankle』を経て、2017年に老舗米インディー・レーベルのマタドールからリリースされた『Turn Out The Lights』は、敬虔なクリスチャンでありつつも抑圧された思いを表出するためのその苦悩を歌にこめた力作だった。薬物依存、自殺未遂、瀕死体験などの体験を生々しく落とし込んだ歌詞も大きな注目を集め、また、同性愛者としてのマイノリティの目線を肩肘張らずに告白する様子は、世代を超えて多くの人の心を打ったと言っていいだろう。


▲Julien Baker 「Sprained Ankle」

自分自身の中に潜む“天使と悪魔”を世に問うているようにさえ感じさせる

CD
▲『Turn Out The Lights』

 そんな壮絶とも言えるいくつもの実体験を言葉にするジュリアン・ベイカーの歌は、しかしながら、決して攻撃的でも挑発的でもなければ、叫びや訴えかけに寄りかかった、痛々しいものでもない。根っこにある目線は厳しく凛々しいが、時に愛らしく、時に人懐こく、そのメロディやヴォーカルを実にしなやかにリスナーへと届けてくれる。そこには一切の媚はないし、甘えもないし、半端な共感や呼びかけもない。ただ、ただ、自分自身の中に潜む“天使と悪魔”を世に問うているようにさえ感じさせるものだ。

 確かにそれは彼女自身の体験を基盤に描かれた世界だろう。だが、彼女の口から産まれ出てきた瞬間、その歌は個人のパーソナルな呟きなどではなく、ともすれば彼女の作品に触れた貴方や私、もしかするとまだこれから出会うだろうあの人たちの本音そのものとなっていく。だから、赤裸々であっても全く窮屈ではないし、それどころか聴いているだけで静かに満たされていくかのように全身に染み渡っていく。それこそは歌の力がそもそも持ちうる洗練の証だ。実際、ギターやピアノと歌というシンプルな骨格をもとにしたそのサウンドはとてもソフィスティケイトされている。ジャズやソウルのスタンダードを聴いているような感覚に陥ることさえあるほどに。


▲Julien Baker 「Turn Out The Lights」

 2018年1月に実現した初来日公演には、そんな彼女の気品さえ感じさせる慎ましやかな歌世界に魅せられたファンが大勢詰めかけた。このたび実現するビルボードでの再来日公演は、もちろんそれ以来となるものだが、満員のライヴ・ハウスとはまた違い、ゆっくりと椅子に座って彼女の横顔に触れることができる貴重な機会となりそうだ。

 ところで、冒頭で紹介した、ジュリアン・ベイカーもメンバーのボーイジーニアスの最新EPのジャケット写真は、かつてやはりそれぞれ独立したシンガー・ソングライターたちが組んだクロスビー・スティルス&ナッシュのファースト・アルバム『Crosby, Stills & Nash』(1969年)のオマージュ。実際、ジュリアンのような現在のアメリカに活躍する新世代の女性シンガー・ソングライターたちは、クロスビー・スティルス&ナッシュらあの時代の多くのシンガー・ソングライターが当時、長引くベトナム戦争で疲弊した大衆の心にそっと寄り添ったように、トランプ政権下の過剰なナショナリズムや格差社会に振り回される人々へ豊かなハーモニーで歌いかけていく。声と言葉の持つエネルギーを、今ひとたび信じるか否か。それは貴方の自身への問いかけにかかっている。


▲Julien Baker @ Brooklyn Steel | Pitchfork Live

 

 

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