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ジョナス・ブルー 『ブルー』特集~親交のあるDJ TJOが待望のデビュー・アルバムを徹底解説

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 ジョナス・ブルーがデビュー・アルバム『ブルー』を2018年11月9日に発売した。今回はジョナス・ブルー本人とも面識が深く、今年の【ULTRA JAPAN 2018】でも共演を果たした日本を代表するDJであり、block fmでラジオ・パーソナリティーとしても活躍するTJOにジョナス・ブルー、そしてアルバム『ブルー』について解説してもらった。

 DJをやっていると海外のダンスミュージック・シーンと日本のクラブの現場のスピード感の違いを感じる事が多々ある。もちろん日本に限った話だけではないだろうが言語、カルチャーの違い、お国柄や嗜好によってリリースされたばかりの新曲が日本の現場で受けるようになるにはそれなりの時間がかかる印象がある。インターネットで壁は無くなったはずなのに、サブスクリプション音楽サービスの台頭もめざましい昨今なのに、特にここ1,2年はそのタイムラグが広がったような気がする。しかし彼の曲は不思議とその時差を感じさせないのだ。実際に海外と日本での人気のタイムラグがないダンス・ミュージックのアーティストは珍しいのではないか。しかしその人懐っこいメロディを一度聴けば、この国でも受け入れられる理由もすぐに理解できるだろう。

 ジョナス・ブルーは、本名をガイ・ジェイムズ・ロビン(Guy James Robin)と言い1989年イギリスに生まれ、ロンドンを拠点にDJ/プロデューサーとして活躍している。7歳からフルートを学び、その後もサックスやピアノで音楽理論などを身に付けたガイ少年は、音楽好きの両親からの影響でディスコやソウルを聴き漁る。11歳の時にイビザを舞台にしたテレビ番組で好きなディスコをネタにしたハウス・ミュージック(Junior Jackの「My Feeling」)に出会い、ダンスミュージックにのめり込みDJを目指すようになる。そして12歳の時にシリアル・フレークのオマケに付いていた音楽ソフトで楽曲制作に目覚める。(なんという刺激的な環境!)それ以降、自分で制作したブートレッグのアナログをロンドンのレコードショップに売り込むようになり、10代のうちからUKのハウスレーベルから作品をリリースするチャンスを得る。また自主で<Memory Recordings>なるレーベルを20歳で立ち上げるなどアグレッシヴな動きを見せる中で、奇遇にもハウスミュージックにハマった最初のレーベルであるUKの名門<Defected>と出会い、彼の作品はさらに世界に知られるようになる。

 20代前半にして着実にキャリアを積んでいったガイだが、彼の名声を一気に押し上げたのは2015年にリリースしたトレイシー・チャップマンの名曲「ファスト・カー」のカヴァー。これは彼の母親のお気に入りの一つで子供の時から慣れ親しんできた曲を、自分のDJセットでプレイするためにリメイクしようと思ったのがキッカケだった。自身が手掛けてきた楽曲に比べ、いくぶんかポップな仕上がりになったので、単発名義のつもりでその時期よく聴いていたカイゴやアヴィーチーなどのスカンジナヴィア(スウェーデン、ノルウェー、デンマークなど北欧地域)のハウスミュージックのアーティストっぽい名前からと思いついたヨナス(Jonas)をイギリス発音のジョナスに変え、そして好きな色だった青(Blue)からジョナス・ブルーを生み出した。しかし当時流行していた新ジャンルであるトロピカル・ハウス風アレンジが施されたこのカヴァーは、蓋を開けてみるとトレイシー・チャップマンのオリジナルの実績(1988年最高位5位)を上回るUKチャート最高位2位を記録し、同チャート11週連続TOP10入りを果たす。さらにドイツ、スウェーデン、オーストラリア、ニュージランドでのオフィシャル・チャートで1位、 シングル・セールスも、イギリス、イタリアではプラチナ、ニュージランドではダブル・プラチナ、オーストラリアではトリプル・プラチナを達成する等、世界的な大ヒットを記録。ガイ改めジョナスは強烈なデビュー以降も「パーフェクト・ストレンジャーズ」「バイ・ユア・サイド」「ママ」「ライズ」など立て続けに世界的大ヒットを生み出し注目を浴びることとなる。



▲ 「Fast Car ft. Dakota」MV


▲ 「Rise ft. Jack & Jack」MV


 その注目度はここ日本でもすさまじいものだった。初来日は2017年10月の渋谷キャメロットの12周年アニバーサリーでのクラブギグだったが、その日だけで2000人?!もの集客を集めたという。その後2018年4月に再来日し、ゴールデンウィークの新木場アゲハを人で埋め尽くした。またこの時、首都圏以外となる京都ワールドでのギグも行ったのだがジョナス本人が京都の歴史ある街並みと共にとても印象的なギグだったと後日インタビューで答えてくれていた。そして2018年9月、2度の単独来日公演を経てついに【ULTRA JAPAN 2018】のメインステージに出演を果たす。待ちわびたフェスでのプレイ、「バイ・ユア・サイド」のサビを使ったイントロが流れた瞬間会場は熱狂に包まれ、大合唱が起こった。その光景を自分はステージ袖で観ていたのだが何万単位の歓声と合唱が大きなエネルギーに変わる瞬間に鳥肌が立ったのを今でも鮮明に覚えている。


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ULTRA JAPAN... DID THAT JUST HAPPEN!!! Arigatou Gozaimasu 🇯🇵💙

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 着実に楽曲の魅力でファンを増やし続け、フェスでその人気ぶりを証明したばかりのジョナス。ここ日本の各種チャートも新曲を出すごとに席巻し、クラブで彼の曲をかけようものならそれが新曲であってもフロアから黄色い声が飛んでくる現象を目の当たりにするようになった。メロディアスな要素が好きだと言われる日本の土壌にもしっかりマッチした彼の人気は、3度の来日も重なり、海外と日本でのタイムラグを一切感じさせない。

 

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 そんな人気絶頂の中で届いた嬉しいニュースがファーストアルバム『ブルー』のリリースだ。昨年の初来日時にインタビューした際に「来年にはアルバムを出したい」と言っていたのでまさに有言実行を果たしてくれた。しかも大ヒットしたシングル曲だけで6曲もあるのに、その倍以上の新曲を含む全15曲(日本盤は日本限定のオリジナルソングを含む3曲が追加され、全18曲)という大きなボリュームで届けてくれた。サブスクリプション音楽サービスの台頭でアルバムという存在価値の在り方が変わろうとしているこのご時世でこのボリュームは改めて彼の非凡な才能と勢いを感じさせてくれる。




 アルバム全編を通して聴くとそこにはDJではなく、90'sのポップスやR&Bに傾倒し、ソングライターの殿堂として知られる世界的音楽プロデューサーのマックス・マーティンから大きな影響を受けたプロデューサーのジョナス・ブルーの顔が伺える。近年のダンスミュージックの画一的なポップ化とは一線を画す、ダンスミュージックの要素は持ちながらも繊細に練られたポップスとの絶妙な融合が印象的な楽曲群が並ぶ。アルバムを聴き終えた最初の正直な感想は「これどの曲もシングルカット出来るじゃん!」というぐらい、往年のトップヒッツを並べて聴いてるのかと錯覚してしまうくらいキラキラとまばゆい輝きを放つ魅力的なサウンドがバラエティ豊かに耳に入ってくる。それもそのはず、このアルバムはジョナスのファーストアルバムにして、彼が常々インタビューで語っている通り、楽曲を構成する中で最も大事な要素こそメロディで、ソングライティングでは時代を問わない伝統的なポップソングを生み出したいと意識している彼そのものを体現した作品になっているのだ。地に足の着いたポップスを制作し、そこにクラブでの鳴りに合わせた新しい要素や試みを加えていくことで彼なりのダンス+ポップスの新しい形を生み出そうとしている。

 アルバム全編共通するのは開始数秒でリスナーの心を確実に掴みにかかるメロディの力強さだ。何度か彼をインタビューしていつも語ってくれる「最初に掴みにかかる印象的なメロディを生み出すようにしている」という言葉通り、サブスクリプション音楽サービス主流の今に充分に機能するイントロないしAメロは1曲目の「ドリンク・トゥ・ユー」から顕著だ。チャーリーXCXからマシュメロ、ギャランティス、クリーン・バンディットといった名だたるアーティストのヒット曲を手がけるUKのソングライター・コレクティブ『ザ・シックス』のメンバーとコライトし、アヴィーチーの「テン・モア・デイズ」でヴォーカルを取ったザック・エイベルが歌ったこの曲もシングルカットされていたとしてもおかしくないクオリティに仕上がっている。1曲目をアルバム初登場となる楽曲で飾り、そのポテンシャルを証明してから2曲目以降は「ママ」「パーフェクト・ストレンジャーズ」と大ヒット曲を惜しげもなく叩き込む。



▲ 「Perfect Strangers ft. JP Cooper」MV


▲ 「Mama ft. William Singe」MV


 両曲とも出音一発で「キター!」となるイントロが印象的だが、特に「ママ」はジョナスにとってもターニング・ポイントとなった曲だろう。それまでアップビートなトラックでヨーロッパ・ヒットを放っていた彼が、アーバンな響きのバースを生み出したということをキッカケに、さらにアメリカのマーケットも視野に入れ自分のサウンドは失わずにダウンテンポのビートに初挑戦した曲である。これが見事功を奏し、この曲はUSのビルボードチャートにもランクイン。さらにジョナスの人気を押し上げた。タイトルにもなっている「ママ」は母親へ向けた曲という事ではなく、周りにいる全ての親しい人への呼びかけとしての総称ということで楽曲だけでなく歌詞にも暖かみを持たせている。また「アイ・シー・ラヴ」はハリウッドのアニメ映画『モンスター・ホテル クルーズ船の恋は危険がいっぱい?!』のエンディングに起用され、ジョナスのUSを視野に入れたマーケティング戦略も含めたさらなる成功を物語っている。ちなみにこの楽曲はカニエ・ウェストの<G.O.O.D. Music>と契約し、カニエの諸作も手がけるMr.Hudsonも参加している。そしてこのファーストアルバムの先行シングルとして話題になっているのが世界的ボーイズグループのワン・ダイレクションのメンバー、リアム・ペインとアメリカドラマ『ナッシュビル』で女優としても人気の高いシンガー、レノン・ステラを迎えた「ポラロイド」だろう。男女の運命的な出会いをポラロイド写真を通して描き出した世界観は、ワン・ダイレクションの「ベスト・ソング・エバー」も手がけたジョナスと同郷のエド・ドルウェットとコライトして生み出したキャッチーなメロディとともに現在各国のチャートを席巻中だ。そしてここ日本で一気にジョナスの名を押し上げたと言っても過言ではない(もちろんそれまでの下地もあったが)「ライズ」だろう。仲間たちと謳歌するまさに青春ソングとも言えるこの楽曲は、日本の主要デジタルチャートで1位を獲得し2018年のサマーアンセムとなった。サウンド的にもジョナスが語っていたようにまず良質なポップスとして成り立っており、そこにトラップ的なビートや、現行のフューチャーハウスで主に使われるシンセがこのダウンテンポのポップスの中に見事に融合した実験的でユニークなトラックだ。



▲ 「I See Love Ft. Joe Jonas」Lyric Video


▲ 「Polaroid ft. Liam Payne, Lennon Stella」MV


 そしてここで日本盤だけに収録されたボーナストラックを紹介したい。ディズニーチャンネルで若年層を中心に絶大な人気を誇るサブリナ・カーペンターとの「エイリアン」もアルバムに普通に入れてもおかしくない、いやむしろ入れるべき極上のジョナス印のポップソングになっている。大ヒット「パーフェクト・ストレンジャーズ」のCMC$によるリミックスは日本限定で初解禁。そしてオリジナル・ソング「ハートビート」もまた日本限定としてジョナスから我々日本への贅沢すぎるプレゼントとなっている。

 皆が待ち望んだジョナス・ブルーの初めてのアルバムはその高過ぎる期待値をも十二分に超えてくる1枚に仕上がった。そしてこの作品でさらに彼のキャリアはまた一つ高みに登っていくのを確信した。アルバムをじっくりと聴き込みながら、今後もキラキラと「青く」まばゆい輝きを放つ魅力的なサウンドを聴かせてくれるのを彼の再来日と共に楽しみにしたい。



▲ 「Alien with Sabrina Carpenter」MV


 

 

 

ジョナス・ブルー「ブルー」

ブルー

2018/11/09 RELEASE
UICW-10017 ¥ 2,420(税込)

詳細・購入はこちら

Disc01
  1. 01.ドリンク・トゥ・ユー feat.ザック・エイベル
  2. 02.ママ feat.ウィリアム・シンジ
  3. 03.パーフェクト・ストレンジャーズ feat.JPクーパー
  4. 04.アイ・シー・ラヴ feat.ジョー・ジョナス
  5. 05.ポラロイド feat.リアム・ペイン&レノン・ステラ
  6. 06.デスパレート feat.ニーナ・ネスビット
  7. 07.バイ・ユア・サイド feat.レイ
  8. 08.ワイルド feat.チェルシー・グライムス、ティニ、ジャイ・コルテッツ
  9. 09.ホエアエヴァー・ユー・ゴー feat.ジェシー・レイエズ&フアン・マガン
  10. 10.パーパス feat.エラ・イストレフィ
  11. 11.ライズ feat.ジャック&ジャック
  12. 12.スーパーノヴァ feat.シャーロット・OC&ダーク・ハート
  13. 13.ウィ・クッド・ゴー・バック feat.モロッゴ
  14. 14.カム・スルー feat.カスケード&オリヴィア・ノエル
  15. 15.ファスト・カー feat.ダコタ
  16. 16.エイリアン (日本盤ボーナス・トラック)
  17. 17.パーフェクト・ストレンジャーズ feat.JPクーパー (CMC$・リミックス) (日本盤ボーナス・トラック)
  18. 18.ハートビート feat.ジーナ・クシカ&ダーク・ハート (日本盤ボーナス・トラック)

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