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エリック・ロバーソン来日記念特集 ~R&B界のレジェンドが放つ新たな魅力について、柳樂光隆氏が解説~



Eric Roberson

 “川崎らしさ”にこだわったジャズ・フェスティバルとして2015年にスタートした【かわさきジャズ】。今年も11月10日から開催される同フェスの一環として、11月18日、Nao Yoshiokaがエリック・ロバーソンをゲストに迎えたスペシャルライブが神奈川・ミューザ川崎シンフォニーホールで開催される。NY仕込みのR&Bシンガーとしてワールドワイドに活躍を続けるNao Yoshiokaと、90年代以降のR&Bシーンを中心に注目とリスペクトを集め続けるエリック・ロバーソンの共演は、まさに待望のライブ・ショウとなる。
 特に、エリック・ロバーソンは今回が10年ぶりの来日公演。2010年からは2年連続でグラミー賞にノミネートされるなど、近年ますます評価の高まる彼だけに、その来日の実現自体も大きなニュースだ。さらに、ここ数年彼の活動からは、これまでのイメージに留まらないフレッシュな魅力が感じられる、と語るのは音楽評論家の柳樂光隆氏。活動歴20年以上のR&B界のレジェンドが放つ新たな魅力について、柳樂氏に解説して貰った。

>>>Nao Yoshioka インタビュー ~エリック・ロバーソンとの初共演ライブに向けて

バンドの流動的な演奏にも対応することができるライブ・ミュージシャン

 エリック・ロバーソンといえば、フィラデルフィアのシーンで、ミュージック・ソウルチャイルド『Aijuswanaseing』(2000年)、ジル・スコット『Experience: Jill Scott 826+』(2001年)、ヴィヴィアン・グリーン『A Love Story』(2002年)といった、2000年ごろのいわゆる “ネオ・フィリー”的なムーブメントにおける重要盤に楽曲を提供していたR&B系の作曲家という印象が大きいかもしれない。他にもDJジャジー・ジェフ『The Magnificent』(2002年)、ドウェレ『Subject』(2003年)、ラリー・ゴールド『Don Cello And Friends』(2003年)などの作品でも彼の楽曲を聴くことができる。その後はシンガーソングライターとしても良作をいくつもリリースしており、インディーR&B的な場所でも人気を博してる、というあたりが、エリック・ロバーソンというアーティストのイメージだろう。


Jill Scott feat. Eric Roberson「One Time」

 ただ、近年は彼の音楽をまた別の文脈で聴けそうな状況が生まれている。そんなことを僕が思うようになったきっかけはロバート・グラスパー・エクスペリメントの『Black Radio 2』(2013年)のボーナストラックとして収録されている「Big Girl Body」を聴いてからだ。これまでに彼が歌ってきたのは、バンドをバックにした場合でも、あくまでもR&B領域の演奏の中でのことだった。だが、グラスパーをはじめとして、KCベンジャミン、デリック・ホッジ、マーク・コレンバーグによる、かなり音の動きもあるバンドの中で、彼の歌声は想像以上に輝いていた。


Robert Glasper Experiment「Big Girl Body feat. Eric Roberson」

 もともと作曲家としてもメロウな楽曲を書き、自身の歌に関してもメロウな表現が得意だったエリック・ロバーソン。ここではその良さは活かしつつも、かなりアップテンポにグルーヴしながらドラムのリズムパターンが刻々と変わっていくような楽曲にも完璧に適応していたのが、とても印象に残っている。エリック・ロバーソンというシンガーが、優れたR&Bシンガーであるというだけでなく、バンドの流動的な演奏にもフレキシブルに対応することができるライブ・ミュージシャンでもあることが見えてきた、というのがとても大きいことだった。

 そう気付いてからは、彼が入っている楽曲にハズレがないことに気付く。フィリーを代表するトロンボーン奏者ジェフ・ブラッドショウが豪華ゲストを迎えて行ったライブを収めた『Home: One Special Night At The Kimmel Center』(2015年)を聴けば、力業ではなく、ゆったりと雰囲気を作りながら盛り上げていくそのセンスが彼の持ち味であることがよく分かる。ちなみに、ここでのピアノはロバート・グラスパーだ。


Jeff Bradshaw「All Time Love feat. Robert Glasper, Eric Roberson & Tweet」

新たなピーク

 近年では何といってもラッパー/シンガーのフォンテの周りでの活動も素晴らしい。フォンテは、ロバート・グラスパーが手掛けたマイルス・デイヴィスの再解釈盤『エヴリシングス・ビューティフル』(2016年)に収録された「Violet」でも起用されたり、新鋭のトラックメイカー、ケイトラナダの『99.9%』(2016年)にも参加していたことでも話題になったラッパーで、フォーリン・エクスチェンジというプロジェクトで活動している。


Miles Davis, Robert Glasper「Violets feat. Phonte」

 その周辺は、フォーリン・エクスチェンジや、フォンテの諸作に参加しているマルチ奏者ZO!のソロ作なども含めて、生演奏を効果的に使ったフィジカルなバンド感のあるサウンドと、洗練されたブラックミュージックのフィーリングが特徴だ。エリックは近年、この周辺でも起用されることが多く、そこで必要とされているのが、彼の抜群の安定感やその歌声だ。特にフォンテとの連名で2016年にリリースした『Tigallerro‎』が素晴らしく、キングのパリス・ストローザーや、ブッチャー・ブラウンのDJハリソン、ダニエル・クロフォードが手掛けた楽曲をバックにした二人の歌は素晴らしく、近年の好調ぶりを示していると思う。ちなみにエリック・ロバーソンは2014年の『The Box』でもブレイク前のキングを早くも起用していたりして、いま、アンテナも冴えていることをうかがわせる。


Zo!「We Are On The Move」


Phonte & Eric Roberson「Something」


Eric Roberson「Just Imagine feat. KING」

 00年代からR&Bを聴き続けてきたリスナーから見ても、彼が今、新たなピークを迎えつつあること、そして、その実力がこれまでとは違う形で脚光を浴びていることは分かるだろう。そのシンガーとしての魅力が輝きを増している今、彼をライブで見られるというのは非常に楽しみで仕方がない。「すごさ」ではなく、「うまさ」や「色気」を聴けるのが楽しみなのだ。

Text:柳樂光隆

エリック・ロバーソン「…レフト」

…レフト

2007/06/02 RELEASE
PCD-23943 ¥ 2,530(税込)

詳細・購入はこちら

Disc01
  1. 01.ミュージック
  2. 02.イヴニング
  3. 03.ビーン・イン・ラヴ
  4. 04.ペン・ジャスト・クライズ・アウェイ
  5. 05.アイラヴユートゥーマッチ
  6. 06.オンリー・フォー・ユー
  7. 07.プリティ・ガール
  8. 08.トゥ・スーン
  9. 09.イフ・アイ・ハド・ア・チャンス
  10. 10.オープン・ユア・アイズ
  11. 11.ライト・オア・ロング
  12. 12.ザ・ベイビー・ソング
  13. 13.クドゥント・ヒア・ハー
  14. 14.マン・フー・ハド・イット・オール
  15. 15.ドント・チェンジ(ライヴ)(Bonus Track for Japan)

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