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河野圭佑 アルバム『赤い糸』インタビュー



河野圭佑 アルバム『赤い糸』インタビュー

“アコースティック・シーン”なんてぶっ壊れてしまえ!

そう語るシンガー 河野圭佑とは一体何者なのか。転勤族の両親のもとで影響を受けたオフコースやマーヴィン・ゲイ、鹿児島からの上京を決意した理由、日の目を見ずに腐りかけた青春時代、昨年クラウドファウンディングに乗り出した覚悟、アルバム『赤い糸』という新しい反抗の形。

まだ知らない方も多いと思いますが、ぜひ一度、ほんの少しでもいいからその音に触れて欲しいと思えるミュージシャンがまたひとり、大きな勝負に出た。

最初は気に入ってもらえたんですけど、やっぱり全然通用しなかった

▲YouTube「河野圭佑 / 赤い糸」
▲YouTube「河野圭佑 / 赤い糸」

--河野さんは元々、ブラックミュージックに傾倒されていたそうですね。

河野圭佑:子どものころは親の影響からオフコースを良く聴いていて、あの方たちがカバーしていたマーヴィン・ゲイの『WHAT'S GOING ON』を知って、そこからブラック・ミュージックを掘り下げていって。ピアノの在り方、面白さもそこから知りました。

--楽器の演奏の始まりはピアノから?

河野圭佑:親が転勤族だったんですけど、小さいころに友だちがやっていたのを見て、影響されたみたいで。そして鹿児島に移り住んで、ライブバーで働かせてもらっている時にピアノがあって、そこから本格的にって感じですね。最初は自分が好きなようにやっていただけだったんですけど、一生懸命やっている人たちに感化されて、音楽ってもっと面白いものかもしれない、自分のコンプレックスを置いておけるものかもしれないって。そういうのが面白くて、どんどんハマっていった感じですね。

--ご自身で歌おうと決意したのは?

河野圭佑:18歳の頃にしこたまというデュオを組んでいたんですけど、元々はお互いにひとりで路上ライブをやっていたんですよ。ある日、たまたま同じ路上でやっていた時に話をして、“一緒にやろうぜ”となる中で、デュオならゆずかなって。それが始まりでした。

やっぱり最初は楽しい時間を共有していきたいっていうだけだったんですけど、さっき言ったみたいに感化されて、テレビ朝日系で放送されていた『ストリートファイターズ』に応募したり、【TEENS' MUSIC FESTIVAL】に参加したりで、そこから上京した感じですね。

--それはいつ頃?

河野圭佑:24歳になる年でしたね。大学に通いながら音楽をやっていて、みんなプロになりたいってがんばっていたんですけど、当時自分の周囲で音楽をやっている人たちがあんまり好きになれなかったんですよ。仲は良いんですけど、お客さんは変わらないし、いつも何かを待っている。その感じが嫌でフラフラしてたら、お世話になっている人たちから「東京に行きなさい。色んな人に出会って、人として成長しなさい」って言われて。上京することに抵抗も無かったし、自信もあったんですよね。調子にノッてたんです、きっと。

東京に出てきて、最初は気に入ってもらえたんですけど、やっぱり全然通用しなかった。もっと凄い人がたくさんいて、その中にもの凄い人間味を持った人たちがいる。まったく歯が立たないんですよ。“この若造”で終わらされる。人の背中にくっついてるだけで、何も成長しない日々が3?4年続きましたね。あの時はかなりキツかったです。

音楽業界への反骨心が酒のツマミな日々

河野圭佑 アルバム『赤い糸』インタビュー

--東京は、そういう夢を持った人たちが毎日のように現れては消えていきます。

河野圭佑:夢破れても諦めてない人もめちゃくちゃいっぱいいて、自分もそこに紛れていたし、気持ちを知ってくれる人が多くて居心地は良かったですけど、そういう人たちってやっぱり何処か諦めてるんですよね、「もう大きいステージではできない」って。

それが歯がゆいんですけど、抜け出すための手段がわからない。目標だけ大きくて、何から手を付ければわからないから、CDが売れない時代だとか色んなものを理由にして、毎晩のように楽しく飲んで……。支えてくれていた人たちからもめちゃくちゃ怒られて、「お前なんか音楽やめちまえ!」とも言われたけど、どこかで他人の話を訊けない人間だったと思います。自分のフィールドが一番大事、みたいな。

そこから色んなご縁でつばさレコーズにお世話になることになって、シングルCDを2枚出させていただいたんですけど、その時に教えてもらったことが大きいですね。音楽はひとりで作るものではないと気づかせてくれた。2年間しか居られなかったし、スタッフや社長ともけっこうぶつかって、当時はまだまだわかってなかったんですけど、辞めてから勉強になっていたと気づいて。

--河野さんは、ネットでのインタビューがほとんど無いんですよね。過去にやっていたバンドのインタビューはありましたが、ソロではゼロに等しい。インディーズバンドでも何がしかある時代に、むしろ珍しいくらいネットで見つけるのが難しいアーティストです。

河野圭佑:遠ざけていたわけではないんですけど、縁が無かったんです。接点はあったのかもしれないんですけど、気づいてなかった。わかってなかったですね。人と話すのは好きですし、人を知りたいし知ってもらいたいっていうのがまずあるんですけど、変な話、大人と絡むとか全然やってこなくて、いっぱい飲んでやっと心が開いたりとか(笑)。お酒でごまかす癖もあったりで、こうして向き合って話す機会が無かったというのは、恥ずかしがっていた部分があるのかもしれないです。

--目標を共有できる、気の合う音楽仲間や世界に対するプライドがあるからこそ、音楽業界への反骨心もありましたか?

河野圭佑:それは絶対あって、それが酒のツマミなんですよ(笑)。みんなわかってはいるんですよ、そういう自分たちがダメなんだって。でも、次の日になるといつも通りの自分がいて、それでも良いと言ってくれるお客さんに甘えて、ひとつのシーンがあると勘違いする。その繰り返しでしたね。

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“アコースティック・シーン”なんてぶっ壊れてしまえ!

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--昨年、クラウドファウンディングを実施しましたが、それまでの河野さんの在り方からすればまず選ばなかった行動と言えますよね。

河野圭佑:2013年に計3回ワンマンをやらせてもらったんですけど、当時は気持ちがぐしゃぐしゃになっていた時期なんですよ。東京にいる理由をずっと探しているけど、音楽はどこでもできるし、当時好きだった女性も鹿児島にいる。東京で音楽をやっていることに何の説得力もなかったんです。ファンの方もいたんですけど、それは色んなアーティストを好きな人たちの集まりだと思っていて、僕らアーティストはそういう人たちを共有しているっていう感覚だったんです。

アコースティック・シーンなんていう言葉もありますけど、そんなものぶっ壊れてしまえ!と今でも思っていますし、みんなでのし上がっていくなんて言葉は綺麗ですけど、みんながいないと何もできない人たちがいっぱいいるだけなんですよね。それが凄く嫌で、duoで1年に3回ワンマンをやる!って思いっ切り踏み込んだんです。

そこで色んな支えがあると感じられたし、俺のファンと言ってくれる人がこんだけいるのかって、3本目にしてやっと感じられた。ただ同時に、「これをずっとやっていくことに何の意味がある」とも思って。それで次の1年は模索を続けていた中で、ある日、インタビューをオファーしてくださったのがmuevo(ミュエボ)だったんです。 当時はちょうどスタッフとの会話でクラウドファウンディングも話題に上がっていたんですけど、聞けばmuevoでもやっていると。こういうご縁は今の自分には必要なのかもしれないと、踏み込んだのがクラウドファウンディングですね。

ただ、僕のクラウドファウンディングはCDを作るに留まらないんです。河野圭佑を広げなければ始まらない。そのためのCDであってミュージックビデオであって、今回の宣伝も含まれています。

--河野圭佑というミュージシャンの実力が申し分ないところは、ご自身も自信としてあると思います。それを全国流通に乗せて勝負していく。それが今作ですよね。

河野圭佑:そうですね。

--今作『赤い糸』には、過去に発表してきた代表曲も収録されています。

河野圭佑:今までやれなかったというか、勝負に出てはいるんですけど、色んな人が期待していくれていることに対して、もう逃げない。言い訳はもういらない。「お前は売れて欲しい」って言ってもらえるなら、がんばる!(笑)

一歩勝負に出たいという時期に、今のスタッフの方々にも恵まれて、時間はかかりましたけど今こうして取材を受けているのもひとつの成果です。でも、まだスタート地点に立てていると思っていなくて、今年の12月2日に東京でワンマンがあるんですけど、そこがスタートだと思っています。

音楽として面白いものも必要だ

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--アルバム『赤い糸』には、6曲目の「やきそば」など過去にも音源化した曲が幾つか収録されていますが、かつてはコーラスワークで聴かせていたところから、ボーカル一本にアレンジを変更しています。

河野圭佑:今までと今回とで一番違うのは、声質で、そこは明らかにこだわった。コンセプトは作品ごとに違うんですけど、ボーカルに関しては生々しさ、いつも通りのライブ通りの響き、聴いてくれる人がドキッとするような響きをCDで表現することを大事にしました。地に足を着けて勝負していると見えてくれたら良いなって思いますね。

--8曲目の「かもめ」が顕著ですが、本作は“歌が良いから聴いてくれ”だけじゃない音楽の凄味、芸術性まで突き詰めている点が素晴らしいと思います。

河野圭佑:そうやって受け止めてもらえるのは本当に嬉しいことですが、あんまり意識したところではないんですよ。好きだからやってる、かっこいいからやってる。どれが音楽的なのかはわかっていないんですけど、その中で一貫しているのは、ドキドキする感情。これはスタッフから言ってもらえたことなんですけど、音楽として面白いものも必要だって。その観点から選んだのが今回のアルバムです。

--9曲目「街の灯」の終盤にかけてグイグイ増していく熱量なども、いわゆる感動のバラードを超えたエネルギーになっている。共感、共有生が求められる現代において、未曾有の迫力で聴き手を圧倒する。単なる“弾き語り系シンガー”の作品とは一線を画する作品です。

河野圭佑:今回は新しい人に向けての意識がどこかにありましたけど、今まで好きだと言ってくれていた河野圭佑も無ければ困る。その中で、弾き語りの中でも圧倒的だと感じてもらえたら良いなって、河野圭佑を好きでいてくれた人たちに、“やっぱりこうじゃなくちゃね”ってものになっていれば良いなって。

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竹原ピストルさんやMOROHAを真似た音楽は、俺じゃなくていい

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--全国流通だからこういう音楽で聴いてもらおう、ではなく、自分を一切曲げずに、むしろ高めながら流通を広げる。河野圭佑を認めてくださいと世間に訴えかけるような作品ですよね。

河野圭佑:あー、それはそうですね!思っていなかったことですけど、……認めてくださいか。良いですね、それ。そういう感覚だったのかもしれない。制作中は周囲の人たちが認めてくれているだろうなって思う瞬間があって、強気にはなれますよね。河野圭佑は独りで動いてるわけじゃないって。みんなが動いてくれてるって感じられるので、“認めてくれよぉ!”っていう気持ちだったのかもしれないですね。それ、面白いです、発見です!

--最近は竹原ピストルやMOROHAのように、よりパーソナルな生身の部分まで垣間見ることのできる音楽が求められているとも思えますし、近年改めて隆盛しているヒップホップも自分を言葉にしていく芸術です。しかし、河野さんはそういう表現をしませんよね。

河野圭佑:僕もそういう音楽は好きで、竹原ピストルさんやMOROHAのアフロくんとも話したりもするんですけど、河野圭佑はどういうシンガーなのかを考えると、俺は歌い切ってしまう。歌い切る、聴かせるシンガーが言葉をどんどん重ねていった時に、「うるせえ」って言われたことが何度かあったんです。
歌を聴かせたいのか、歌詞を飛ばしたいのか、メロディを聴いて欲しいのか。ひとつのディティールに対して単純な言葉、たとえば“愛してる”が苦しいのか素直なのか背景に何があるのか、あなたの声だけで伝わるように歌いなさいって。

歌詞が強い曲も何回か作ってきたんですけど、悔しいことに響かなかったんですよ。それよりも、もっとまっすぐな言葉、足りないくらいの言葉の方が届いたりする。歌詞だけ読んでも足りないけどあの人が歌うと120点になるっていうのが、河野圭佑の活かし方なのかなって。
俺はボビー・コールドウェルが大好きなのでこのジャケットなんですけど(笑)、難しいことは言わないけどメロディと構成と声でドラマチックにしていく。単純な言葉に奥行きを作っていく感じにできたら良いなって。

--ただ、泥臭い人間性を表現する方が、今のシーンには合っているとも言えますよね。

河野圭佑:でも、求められているものより、河野圭佑が書きたいのが「赤い糸」であり、本当のことってディティールが細かい方が意外に言ってないんですよね。ピストルさんやMOROHAを真似た音楽もかっこいいんですけど、それは俺じゃなくていい。そうやって色んな曲を作っていく中で、最も際立ったのが「赤い糸」だったんですよ。
単純なようで、言ったことがなかった。書いたことが無かった、思っていても口に出してこなかったことがこの曲には全部入っていて、たとえば“平気なふりして 笑ってるけど 何か言いかけてる”とか、どこか心に影がある部分までちゃんと歌えている。自分にとってのまっすぐはこれだなって。

岡崎体育さんとかも凄いと思いますし、ああいう頭を持っていて、ああいう見せ方ができる人がいる中で、河野圭佑はこういうスタンスなんだって今は思いますね。もちろんこれからも変わっていくと思いますが、今一番素直なのが「赤い糸」です。

10年以上このシーンでやってきた人間が打ち出す、新しい反抗

河野圭佑 アルバム『赤い糸』インタビュー

--河野さんの楽曲やライブからは、怒りの感情を覚えることがあります。たとえば本作のジャケットからも伝わってこない、グツグツと煮えたぎった部分。男らしさだけを全面に出しているミュージシャンへのアンチの気持ちというか。

河野圭佑:あー!嬉しいですね!俺的には反抗なんですよ。

--10年以上、このシーンでやってきた人間が打ち出す、新しい反抗の形。それがアルバム『赤い糸』であり、これからのライブだと思うんですよ。

河野圭佑:やっぱり笑うって良いものですよって。ステージでは難しい顔をしている人が多いですけど、楽屋ではみんな笑ってるじゃないですか(笑)。負けねえ負けねえも良いんだけど、何でも正解なようで何も正解が無い中で、笑うという点だけは一緒。みんな笑う人ですよって、それを持って帰ってもらえるようなライブにしたいと思っています。それが無ければ、次に繋がらない。
難しく考えることはみんな得意ですから、それはもうわかった。歌声でもMCでも俺の雰囲気でも何でもいいから、ライブに来て良かったなって、イェイってできたらいいなって思っています。

今回、発売元を LOVELY BABY Recordとしたんですけど、これは鶴のSoul Mate Recordから来ているんですよ。人がいるから音楽になって、音楽があるから人が集まって、その人と出会ってまた音楽が生まれる。そのループが愛おしくて、その一瞬がずっと続いていく=LOVELYだと思っていて、この感覚が広がっていけばいいと思ってます。

--今のお話を聞いていると、なぜ今回、鶴の自主レーベルから河野さんがリリースしたのかがわかる気がします。鶴も、割り切れないところを繊細かつ大胆に表現していますよね。

河野圭佑:鶴は俺が思ったことを1年前に具体的な言葉にしている。悔しいなって思いますね。俺は今になってやっとその感情に出会って、その言葉を見つけた時は嬉しくなるじゃないですか? でも、どこかで聞いたことがあるフレーズだと思ったら……、あ、これ鶴の歌詞だ!てめえ言っちゃってんじゃん!みたいな。先輩ですけど(笑)、すごい簡単に言われちゃってて悔しいですし、面白いですよね。

インタビュー写真

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河野圭佑「赤い糸」

赤い糸

2017/06/28 RELEASE
POCS-1594 ¥ 2,547(税込)

詳細・購入はこちら

Disc01
  1. 01.Because
  2. 02.ワッフルケーキ
  3. 03.赤い糸
  4. 04.いいのに
  5. 05.My home town
  6. 06.やきそば
  7. 07.ダーリン
  8. 08.かもめ
  9. 09.街の灯
  10. 10.人間なんて

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