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<ライブレポート>斉藤由貴、初のフルオーケストラツアー終演 武部聡志プロデュースによるバースデーステージで開かれた"新たな扉"

Text:田中久勝
Photo:岩田えり
斉藤由貴による初のフルオーケストラツアー【billboard classics「斉藤由貴 Premium Orchestra Concert」~produced by 武部聡志】の千秋楽が、10月2日に神奈川・ミューザ川崎シンフォニーホールで行われた。歌と演奏、そして鳴りやまない拍手が最高の音響のホールに響き渡った。
バースデーアニバーサリーを彩った
武部聡志プロデュースによるオーケストラツアー
本ツアーは、音楽家の武部聡志がプロデュースするオーケストラコンサートシリーズの第4弾で、斉藤の歌手デビュー40周年を経て迎えた60歳のバースデーアニバーサリーを彩るスペシャルなコンサートとして開催。9月17日に兵庫県立芸術文化センター KOBELCO大ホールで開幕し、続く25日には斉藤が昨年の40周年記念コンサートを締めくくった思い出の場所、東京・昭和女子大学 人見記念講堂で行われ、そして千秋楽は斉藤の地元である神奈川で特別な一夜を迎えた。
デビュー曲「卒業」(1985年)以来、彼女の音楽的歩みを誰よりも近くで見守り、支え続けてきた武部が音楽監修とピアノを弾き、そして指揮と編曲を担うのは、気鋭の若手アレンジャーで、NHK総合『うたコン』の指揮者としてもおなじみの岩城直也、演奏は岩城率いる若手中心のNaoya Iwaki Pops Orchestra(NIPO)と、世代を超えた表現者のセッションから生まれた斉藤の新たな音楽の世界に、満員の観客は酔った。
大きな拍手に迎えられNIPOのメンバー、コンサートマスターの大槻桃斗、そして岩城が登場し、まずは「Overture」(序曲)から。斉藤の名曲「MAY」「白い炎」「悲しみよこんにちは」「卒業」が岩城の美しいオーケストラアレンジによって生まれ変わる。NIPOの豊かで繊細な音が客席の隅々にまで響き渡り、そして改めて斉藤の楽曲のメロディの“強さ”が鮮やかに浮かび上がってくる。このパフォーマンスでオーディエンスはこの一夜がどんな素晴らしいものになるか確信したはずだ。白と黒のシックなドレスに身を包んだ斉藤と、武部がステージに登場すると割れんばかりの拍手が贈られ、いよいよセッションがスタート。1曲目は「砂の城」だ。軽快なリズムと爽快な世界観、斉藤の儚くも芯のあるボーカルが交差する。
武部が出演者を紹介し、斉藤は「今回は3公演ですが、感無量です。この会場の素晴らしさ、美しさに圧倒され、感動しています」と語り、360度客席に囲まれたこのヴィンヤード型のホールの響きの素晴らしさ、ステージに注がれる観客一人ひとりの“想い”と温かな視線に、早くも胸がいっぱいになっている様子だった。
時を重ねてさらなる輝きを放つ名曲たち
玉置浩二作曲のスリリングで焦燥感を感じる「白い炎」(1985年)は、弦とピアノのタイトなイントロから始まり、性急なリズムが刻まれ、めくるめく照明と相まってオリジナルとは別の表情を見せる。しかし斉藤の歌が、この圧倒的な求心力を放つキラーチューンの“佇まい”を際立たせる。弦、金管、木管が美しく重なり、カホンのリズムと融合し「街角のスナップ」が奏でられる。そこになんと指揮の岩城が、木製の鍵盤ハーモニカで演奏に加わる。素朴な音色が“街角”の生活感を浮かび上がらせ、斉藤の素朴で語りかけるような柔らかな歌が、日常の一瞬に宿る淡い未練や懐かしさを捉えたスナップ写真を浮かび上がらせる。
「由貴ちゃんいい感じじゃないですか」と武部が斉藤に語り掛けると、「ドキドキです」と斉藤が応えて2人の会話に会場の空気が穏やかになる。そして多くのアーティストにカバーされてきた「AXIA~かなしいことり~」を披露。ハープの優美な音と武部のピアノが響き渡り、その美しさに客席が息を呑む音が聴こえてくるようだ。そしてそこに斉藤の儚げな歌声が溶け合い、後半は弦も重なり、揺れる少女の心を"優しい鳥"に擬えて描いた、美しい銀色夏生ワールドが広がっていく。
そしていよいよ斉藤の初期の代表作、松本隆と筒美京平のゴールデンコンビによる“漢字2文字”シリーズが投下される。「初戀」はピアノとNIPOが描く甘酸っぱい世界と華やかさをブレンドさせた音像と、斉藤の柔らかな高音と独特の揺らぎのある歌声が、ひとつになるのではなく有機的に絡み合い、松本の抒情的な言葉の繊細な描写を色濃く映し出す。ハープのアルペジオに呼応するように管楽器が重なりダイナミックなサウンドが展開され「情熱」を披露。哀愁を帯びた美しいメロディはどこまでもドラマティックで、歌詞の主人公に憑依したように歌う斉藤の表現に全員が前のめりになって聴き入っている。

「演奏していて、改めて名曲ばかりだなって感じた」と武部が語ると、斉藤は「本当に素晴らしい曲たちをいただいたという思いが年々強くなっています」と、年を重ねるごとに当時は捉えきれなかった名曲の全貌と向き合えている喜びを伝えた。そして「武部さんとこんなににこやかに話せる日が来るなんて」と語ると客席から笑いが起き、武部は「当時は若かったし、仕事の鬼でした(笑)。お互いいい仕事をしたいという気持ちが強かった」と当時の制作現場の様子を振り返っていた。
次に演奏する、ファンの間でも人気の高い「MAY」について武部が「当時ディレクターと僕が膨大な数のデモテープを聴くために合宿をして、この曲に出会った。どうしてもシングルにしたいと思った、斉藤由貴ワールドを代表する曲。僕たちにとって大切な1曲です」と当時のエピソードを紹介。コンマスの大槻のソロバイオリンの切ない音色から始まり、ハープ、ピアノが重なりシンプルなサウンドの中で斉藤が歌い始める。斉藤に降りそそぐ照明は、歌詞にある木漏れ日のようで、木漏れ日の中で美しく詩的で、でもダークな世界を湛えるこの曲を抱きしめるように歌う。この世界観とNIPOが作るあまりに美しい音に、斉藤も感極まっていたようで、感情が溢れる歌は大きな感動を生み、胸に迫ってきた。
表現者としての凄みをまとい、迫真の歌声で魅せる第2部

インターバルを挟んで第2部の幕開けは武部のピアノとNIPOだけで「千の風音」を演奏。2ndアルバム『ガラスの鼓動』のコンセプチュアルな世界の冒頭を飾る、優雅でクラシカルなインストゥルメンタル楽曲だ。瑞々しさを感じるメヌエットのような調べが豊かな音像となって伝わる。そしてパープルのドレスに着替えた斉藤が登場し、「体育館は踊る」を披露。軽快なモータウン調のビートと弾むようなピアノ、NIPOの演奏が分厚いスウィング感を作り出し、3人は歌詞の中の登場人物になぞらえ楽しそうにパフォーマンスした。
「第2部は由貴ちゃんの女優魂を存分に感じてもらえるセットリストを考えた」と、武部が語っていたように、演じるように歌う斉藤の“表現者”としての強いオーラを感じさせる楽曲と演奏が次々と披露される。「土曜日のタマネギ」では、斉藤の歌、武部と岩城のピアノの連弾、そしてオーケストラの演奏と、演奏者同士が呼吸を合わせる様子、音楽の楽しさがダイレクトに伝わってくる。ミュージカルのワンシーンを見ているようなステージだった。そして空気が一変したのは「Where~金色の夜~」だ。本人が歌詞を手掛けた楽曲で、<きりさかれて血を流す恋がただしたかった>という一節など、個性が強く表れている作品だ。斉藤の歌にピアノが寄り添うように響き、さらにオーケストラが生む深みと融合することで、楽曲の持つ演劇的で文学的なエネルギーが極限まで高まる。迫真の歌に感動が広がっていく。歌い終えた斉藤は思わず指揮台の岩城に向かって「天才!」と声をかけ、アレンジと演奏を絶賛していた。
岩城は「オリジナルのアレンジを手掛けているのが武部さんなので、ドキドキしながらアレンジしました」と今回名曲群をオーケストラアレンジする難しさを語っていたが、このアレンジとNIPOの演奏こそがこのシリーズ最大の楽しみであり、醍醐味になっている。初のオリコン1位獲得曲「青空のかけら」は大胆にサンバのアレンジが施され、ジャジーさも加わって心がスウィングし、体が自然に動く。「夢の中へ」は岩城の真骨頂でもあるドリーミーでキラキラきらめくようなアレンジに生まれ変わり、斉藤の歌も細かなニュアンスをアレンジした、このシリーズならではの表現になっていた。
人生は素晴らしいことで満ち溢れている
斉藤は「最初にこの企画をいただいた時、不安で仕方なかった。そんなに歌がうまくないし……」と企画が立ち上がった当時の素直な思いを吐露した。そして「でも武部さんから“僕からの還暦のプレゼントだよ、今の歌を届けて”と言っていただいて、なんて幸せなんだろうって思いました。人生は素晴らしいことで満ち溢れている」と、自身と客席に語りかけ、本編最後の「悲しみよ こんにちは」へ。武部のピアノがグリッサンドを鳴らし、オーケストラの壮大な音と斉藤の伸びやかな歌がどこまでも広がっていく。間奏では、幾重にも美しく重なったオーケストラの音を全身で感じ、歓びを表現する斉藤の姿が印象的だった。

客席からの鳴りやまないアンコールの拍手に応え、再び3人が登場。アンコールの1曲目は武部が初めて斉藤の編曲を手掛けた「卒業」だ。武部のやわらかなピアノの音色に誘われて斉藤がサビのフレーズを歌い上げた後、あの懐かしいイントロがピアノとハープで奏でられた。切ないメロディをオーケストラの音がさらに切なくさせる。斉藤の情感豊かな歌で聴く今の「卒業」は、“型”は変わらないが、オリジナルとは違う空気、表情を見せ、客席一人ひとりの記憶と結びついて、忘れられない瞬間を作り出す。
斉藤は「今年は心が揺れる出来事が色々あった。そして還暦を迎え色々考えました。今日は共にこの時間を作ってくださってありがとうございました」と感謝の気持ちを伝えた。そんな心持ちの現在地のリアルな歌が、今日この日の歌だ。ラストに選んだのは「予感」。武部の想いがこもったピアノに導かれ、斉藤の繊細な表現力の歌が心に迫ってくる。彼女の独特の“揺れ”を感じる歌は、揺れる想いと儚さを心の深いところまで届けてくれる。アウトロまで美しいアレンジと演奏。感極まる斉藤。静かに、かつ圧倒的な余韻を残して締めくくる構成は、斉藤由貴と武部聡志の美学と絆を雄弁に物語っている。最後に武部からサプライズで斉藤に花束が渡され大きな拍手が客席から降り注ぐ。斉藤の笑顔がどこまでも美しかった。
公演前のインタビューで武部は「今回のステージで、斉藤由貴というアーティストの『新しい扉』が間違いなく開くはずです。40年を超えて、さらにこれから先へ進むための、全く新しい表現の扉が」と語っていたが、この日の斉藤の歌を聴いて、“その先”の歌、次のパフォーマンスが楽しみになった。
終演後に届いたコメント
◎斉藤由貴 コメント
還暦、という節目の時に、フルオーケストラと共に歌うという得難い機会をくださった武部さん、そして自在な発想と自由な情熱でオーケストラの編曲をしてくださった岩城さんに、心からの感謝と尊敬を。そしてその特別な時を共に過ごしてくださったお客様。本当にありがとうございました! 幸せな気持ちでいっぱいです。
◎武部聡志 コメント
何よりも嬉しかったのは由貴ちゃん、そしてお客様がとても喜んでくれた事です。我々が情熱を傾けて作った楽曲たちがいまだに輝きを失っていない事を再確認することができました。素晴らしい編曲と指揮を務めてくれた岩城直也くんに感謝しています。そして由貴ちゃん、改めて還暦おめでとう。これからも唄い続けていってください。
公演情報

【billboard classics「斉藤由貴 Premium Orchestra Concert」~produced by 武部聡志】
2026年9月17日(木)
兵庫・兵庫県立芸術文化センター KOBELCO大ホール
OPEN 17:45 / START 18:30
2026年9月25日(金)
東京・昭和女子大学 人見記念講堂
OPEN 17:30 / START 18:30
2026年10月2日(金)
神奈川・ミューザ川崎シンフォニーホール
OPEN 17:30 / START 18:30
出演:斉藤由貴
ピアノ・音楽監修:武部聡志
指揮・編曲:岩城直也
管弦楽:
【兵庫】NIPO×神戸市室内管弦楽団
【東京・神奈川】Naoya Iwaki Pops Orchestra(NIPO)
<セットリスト>
第1部
M1. Overture(MAY / 白い炎 / 悲しみよこんにちは / 卒業)
M2. 砂の城
M3. 白い炎
M4. 街角のスナップ
M5. AXIA~かなしいことり~
M6. 初戀
M7. 情熱
M8. MAY
第2部
M9. 千の風音
M10. 体育館は踊る
M11. 土曜日のタマネギ
M12. Where~金色の夜~
M13. 青空のかけら
M14. 夢の中へ
M15. 悲しみよ こんにちは
EC1. 卒業
EC2. 予感
公演公式サイト:https://billboard-cc.com/saitoyukiXtakebe
主催・企画制作:ビルボードジャパン(阪神コンテンツリンク)
制作協力:ハーフトーンミュージック
後援:米国ビルボード、ビクターエンタテインメント
番組情報
<WOWOW & Lemino 斉藤由貴 4か月連続特集>
WOWOW & Lemino『billboard classics「斉藤由貴 Premium Orchestra Concert」~produced by 武部聡志』
2027年1月放送・配信予定
WOWOW & Lemino『斉藤由貴 Billboard Live Tour“水響曲”』
2027年2月放送・配信予定
WOWOW & Lemino『斉藤由貴 40th Anniversary Tour“水辺の扉”~Single Best Collection~』
2027年2月放送・配信予定
WOWOW & Lemino『斉藤由貴 Studio Live 水響曲「春」』
2027年3月放送・配信予定
WOWOW & Lemino『斉藤由貴 Studio Live 水響曲「夏」』
2027年3月放送・配信予定
WOWOW & Lemino『斉藤由貴 Studio Live 水響曲「秋」』
2027年4月放送・配信予定
WOWOW & Lemino『斉藤由貴 Studio Live 水響曲「冬」』
2027年4月放送・配信予定
特設サイト:
WOWOW https://www.wowow.co.jp/music/saitoyuki/
Lemino https://lemino.docomo.ne.jp/ft/0000153/
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