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<インタビュー>MALIYA、SIRUPが語る――R&Bシーンとカルチャーの在り方(後編)

Interview & Text: 渡辺志保
Photo: SHUN ITABA
本格デビューから10周年を迎え、10月には自身初となるビルボードライブでの単独公演を目前に控えているMALIYAと、来年、SIRUP名義での活動10周年を控えるSIRUP。ともに日本のR&Bシーンが大きく変化する時代を歩み、互いの音楽にリスペクトを寄せてきた2人は、2021年にMALIYAのアルバム『faveur』に収録された「Everybody Needs Love」で初共演を果たした。 前編のインタビューでは、これまでの歩みや日本のR&Bシーンの変遷について語ってもらったが、後編ではカルチャーを育む場所のあり方、そして、これからの活動を見据えた暮らしと音楽のあり方まで、多角的に語ってもらった。
トライ&エラーで辿り着いたアーティストとしてのビジョン
――MALIYAさんもSIRUPさんも、商業的な成功だけを追いかけないというか、インディペンデントな精神を貫きながら10年以上も活動を続けていらっしゃるように見えます。その姿勢は、後進のアーティストにとっても大切なものになるのではと思うのですが、ご自身のキャリアの築き方についても伺いたいです。
SIRUP:確かに、そこは意識してますね。
――MALIYAさんは、デビューした時に“10年後の自分のキャリアやビジョン”みたいなものはある程度思い描いていましたか?
MALIYA:10年前は「とにかくかっこいい音楽を作りたい」という感じでしたし、そのころは全てにおいて手探りだったと思います。「絶対にここに行きたい」みたいなビジョンが強くあったわけではない。それと、昔メジャーレーベルのA&Rの方とお話しする機会があったんですけど、その時に「将来的にどの会場でライブをやりたい?」って聞かれたんです。たとえば「武道館でやりたい」みたいな回答があると思うんですけど、私の場合は本当にそれがなくて。ビルボードライブのようなしっとりした空間でライブができたら良いな、という目標はその時々であるんですけど、「大きいところでライブしたい」っていう思いがそこまで強くなかった。だから「分かりづらい」と言われたこともあって。

――そうだったんですね。
MALIYA:一瞬、それってダメなことなのかなと思ったこともあったんですけど、もがきながらやってきて、結局それが音楽として昇華されているし、その過程でいろんなものを削ぎ落としてきた感じもあって。「自分が求めているのはここなんだ」とか、「自分にとっての優先順位はここなんだ」みたいなことが、10年かけてわかってきた感じがありますね。「『売れる』って一言で言うけど、それって何なんだろう。その勝ち方や売れ方はどうでもいいのか? 音楽の内容はどうでもいいから、とにかく知名度を上げたいのか? でも、そうじゃないな」って。そこら辺の自分の価値観も、やっぱり10年かけて向き合って、辿り着いたかなという感じはあります。最初から明確に見えていたわけではないですね。むしろ、今もどんどん変わっているのかもしれない。それに30代を超えてからは、もう少し広い視野で考えるようになりました。自分1人というより、それこそカルチャーのことだったり、後輩や次の世代の人たちのことだったり、チームとしてどうしていこうかとか。そういうところに意識が向くようになって、少し変わってきた気がしています。
――ご自分に合ったリリースの仕方やチームの組み方などは、肌身で学んでいった感じですか?
MALIYA:そうですね。誰かに教わったというのはなくて。それこそ、大人の人に「こうやれ」って言われてもやらないタイプだって自分でもわかっていたので。だから多分、自分で失敗しながら「あ、自分にはこっちは違うんだ」と思ったり。本当に手探りで、トライ&エラーを繰り返しながらやってきた感じです。
――そんな中、アーティストとしてのモチベーションはどんな風に保っていますか?
MALIYA:マジで超むずかしいと思う(笑)。 SIRUPさんは、モチベーションを保つ方法ってどうしてます?
SIRUP:それでいうと自分も一緒で、SIRUP自体「これがあかんかったら音楽やめてもいいかな」って思いながら始まったプロジェクトなんで。「これで飯が食えなきゃ終わりかな」みたいな感じで。だから、あんまりビジョンは描いていなかったんですよね。飯食えて好きな音楽があって、しかも仲間も一緒に、って一番幸せじゃないですか。それくらいでしたね。だから、キャリアの波がバーって来た時に「来年、武道館やりましょう」って言われた時に、「やりません、ダサいから。みんな同じことしてるから違う流れにしましょう」って言ったらコロナ期に入ってしまって。結局、やりたくてもできなくて、時期をずらして開催したんです。

SIRUP:今、自分がキャリアを拡げようとしているのは、“更新”っていうか。自分自身、上下関係っていう感覚がそんなになくて。MALIYAに対しても、先輩とかじゃなく、俺の好きなアーティストとしてしか絡んでいない。基本的に、みんなに対してそう。だから、そういう良いアーティストたちはモチベーションなんて続かなくていいと思うし、休んでいたら勝手にまた(音楽を)やりたくなると思う。休めない今の社会の構造が間違ってるから。今、目標にしているのは、そういうシーンのために自分の影響力もでかくしたい、みたいなことで、それがモチベーションなのかもしれない。自分の「LOOP」って曲もめっちゃ聴かれてるけど、あれはもともとボツ曲やったし。なんか、ずっとあんまり考えてないですね。「10年後にこれをする」っていうより「こうなればいいのにな」って思いの中で活動していたら自分の影響力もデカくなって、フェスとかイベントとかできたらいいじゃん、みたいなところがモチベーションになってるかも。
アーティストとしての視点と作曲家としての視点
――SIRUPさんが活動を続けるにおいて、チーム作りはどうやっているのか、と前から伺ってみたかったんです。
SIRUP:何やろ……自分も最近、移籍したところなんですけど、前と変わっていないのは、「俺がしんどくないように」とかじゃなくて、人間として同じ構造だからチームみんなが出来るだけしんどくならない、みたいなところを結構大事にしているかも。それでいて必要な労力は惜しまないみたいな理想。クリエイティブの面では、当たり前だけど自分が“ゼロイチ”でモノを作るし、人よりも色んなモノをやりたくなっちゃうから、結構ずっとモノを生み出しちゃう系なんですけど。そんな中で、自分のやりたいことをちゃんと伝えること。それをやるためにどういう風にしていくか、みんながしんどくならない方法を探したい、ていうことはずっと思っているかな。簡単じゃないから大変なんですけど。でも、上手いこと実現してくれる人に出会っているなっていうことは、今めっちゃ思います。

――そうなのですね。自分のクリエイティビティを優先することと、リスナーに好かれる曲を作ることとは別なのかなあ、と思うこともあるんですが、MALIYAさんはそうした点においてはどうですか。
MALIYA:まさにそんな感じばっかりですね。さっきのSIRUPさんの話じゃないですけど、自分で「いいな」って思う曲は全然伸びなくて、ボツにしようと思っていた曲が反応いい、ということもよくある。それはそれで、ちょっとゲームみたいな感じで楽しんでますね。それに、その辺のバランスは取っていきたい。なんていうか、アルバムの中にも「私しか聴かないだろう」っていう曲が一曲ぐらいは入っていてもいいと思うし。逆に私は、超ロウな感じの曲が好きなんですけど、それだけだとライブしづらいな、とかそういうことも考える。全部をお客さん目線にもしないし、自分軸にもしない。もうちょっと私に影響力があれば、かっこいい人をフックアップしたり、もっといろんな景色をみんなで観れるかもしれないっていうところもモチベーションの一つにはなってきているし。そう考えた時に、「私だけがいいと思っていればいい」っていうのは、自分の目標とはずれてきちゃうのかなって。その辺りは意識しているし、楽しんでいるところでもあります。
SIRUP:僕もほぼ同じで、自分的にはやっぱりスローな感じが好きだけど、チームが「いい」って言ってくれることも重要。書きたくて書いたものに関しては、それはもう仕方ないから。「2度とこんな気持ちになりたくない」みたいな嫌なことを書くと、それはやっぱり魂が入っていく。だから、チームの反応もファンの反応もいい、みたいになるんですよね。その曲によって色んなパワーや構造があるけど、最近自分はセッションして1日でバーって曲を作ることもめっちゃ増えた。だから、このカルチャーの中で楽しく遊んで、その中で自分自身のリアルを落とし込んでいく。それでいい曲を作って、出してる、みたいな感じなんです。最終的には、作った曲をどうプロモーションするかを考える方に意味があると思う。この2、3年は結構そっちにシフトしてるっすね。
MALIYA:そうなんですか!

SIRUP:曲がたくさん聴かれる方法って、誰が分かんねんって思うじゃないですか。だから「こういうことをやってみよう」みたいな、「こういうのが好きで響く人はいるよね」と考えていって、それやったら俺は、今、リアルな生活の中で感じることだったら書けるな、みたいな。そうやって作って思ったより反応がなかったとしても、「いい曲になったらよくない?」っていう。ライブをするアーティストと作曲家としての視点って多分違うから、ずっとロウなライブもしたいし、ちょっと声も張り上げたいって思っていてもーー
MALIYA:私も、もともとはソウルとかを歌ってたから、やっぱり張り上げたい(笑)
SIRUP:自分たちの自己表現の中には、作曲だけじゃないものがあるから、そういう曲も作るよね。「高いキーを出したい!」みたいな。
MALIYA:私のスタイルはもともと、結構ハイトーンやロングトーンとかの曲とかもやってたから、そういうのもやりたい。でも、それが受け入れられるのか、という葛藤はあります。でも基本的には自分が今やりたいことをやっている、というところは間違いないですね。それがインディペンデントの良さでもあるし、自己プロデュースできる良さでもあるかなっていう。
暮らしの中にある音楽へ
――この先の10年、MALIYAさんのプランはすでにありますか?
MALIYA:それ、最近めっちゃ考えてて。 うーん、曲作りは続けるんだろうなと思うけど、どっちかというと、もうちょっと“暮らしからの音楽”をしたい。 今は、暮らしより“音楽”の軸がでかいんです。
SIRUP:クレオ・ソルみたいな?
MALIYA:そうそうそう!
――最近リリースされたアルバム『Gentlewoman』も、かなり家族や身の周りの変化などを題材にしていますよね。
MALIYA:そんな風に、自分の作品を出したい時に出すというか、それこそ、子供が産まれたりすることもあるじゃないですか。そういう私を見てみたい。どんなことを書くのかなって。でもそれってコントロールできるものでもない気がするから。大雑把にいうと、そんな感じですね。暮らしからの音楽。ちょっといいなって。
――SIRUPさんは、来年10周年を迎えるということで、今後の10年ってことだといかがでしょうか。
SIRUP:俺は結構、もともと変わっていないねんなっていう。Soulflexってクルーもあるんですけど、やっぱりああいうやつらと笑いながら音楽やってる、ほんまにステージ上がただ楽しいみたいな。それを観てもらえるのが夢っていうか。これで飯食えたらいいよね、と。別に何千万円の時計とかいらんし、みたいな。数字を言い出したら絶対にその上がいるから意味がない。そういう話はめちゃめちゃ言いたくなるけど。だから、俺もMALIYAが言ってることと近い。暮らしの中に音楽がある。PJ・モートンの『The Piano Album』が死ぬほど好きなんですけど、YouTubeで動画を見ると、コーラスとかもみんなが座っててピアノ囲んですげえ楽しそうに歌ってんすよ。ああいう感じで音楽をやっていくのが夢。そのために、ベースとなるカルチャーの場所みたいなものを作りたい、みたいな。それに従事する10年になるかな。大変ですけど。
――そして、MALIYAさんによるビルボードライブでの初のソロ公演も控えています。
MALIYA:めっちゃ嬉しいし、楽しみです。3rdアルバム『pluto』を出せて、10年間続けてこれたことに感謝していますし、今年はより一層、ファンの方に還元できるようなことをしたいと思っていて。最近はちょっと多めに Instagramのライブをやったりもしていて。今まで、リスナーの方とコミュニケーションを取ることを全然していなかったんですよね。ワンマンライブ自体、2021年以来ずっとやっていなかったし。それに。あの時はまだコロナ禍で人数も制限されていたから。なので、フルバンドでしかもゲストにも来てもらって、みたいなステージができるのはすごく嬉しい。今までのライブはガチガチに緊張して、完璧にやりたいみたいな気持ちが強かったんですけど、最近はちょっと肩の力を抜いてやれたらいいなと思っているんです。そういうのも、最近の心境の変化かもしれないですね。

MALIYA:それと、私は結構クラシカルなステージや音楽が好きなので、ビルボードライブはずっと憧れていたステージ。これまで客演として立たせてもらうことはありましたけど、いつかソロでやりたいなってずっと思っていたので。
――SIRUPさんも、11月にAAAMYYYさんを迎えたイベント『Grooving Night Premium』をビルボードライブ東京で開催されます。
SIRUP:このイベントは、前にビルボードライブ大阪ではやったことがあるんですけど、東京は初めてで。 自分にとってビルボードライブは、明らかに青春。自分の好きなアーティストもめちゃくちゃ観にいって、影響を受けまくった場所。だから、他のライブハウスとかとはもちろん違うし。ラグジュアリーだけどカジュアルさもあって、特別な場所っていうイメージ。そういうところで自分たちがライブできるのは、特別感がありますよね。
――これまでにビルボードライブで観た海外アーティストで、特に印象的だったステージはありますか?
SIRUP:パッと出てくるのは、ミュージック・ソウルチャイルド。あとはレディシー。それと、最近だとマック・エアーズ。彼が良すぎて、俺、冒頭の2曲で頭抱えてん。ワンフレーズの中に、好きって思う瞬間の数、回数が多いねん。まだちょっと忘れられないですね。他にもいっぱいあるけど、この3つはすごく覚えてます。
MALIYA:印象に残っているのは、クリス・デイヴ、マセーゴ、ジョイス・ライス。国内のアーティストだと福原美穂さんとか、それこそKANDYTOWNも。決め切れないですよね。でも、アーティストによって(会場の)カラーが変わるのも面白くて。お客さんを全員スタンディングさせる人もいれば、本当にしっとりやる人もいるし。そういうところも楽しいなっていう印象です。だからこそ、自分のライブがめっちゃ楽しみですね。

公演情報

【MALIYA 10th Anniversary & "pluto" tour final
feat. SIRUP, Ryohu】
2026年10月10日(土)
神奈川・ビルボードライブ横浜
1st stage open 15:00 start 16:00
2nd stage open 16:00 start 19:00
公演詳細>>

【Grooving Night Premium in Billboard Live TOKYO
SIRUP×AAAMYYY】
2026年11月15日(日)
東京・ビルボードライブ東京
1st stage open 15:00 start 16:00
2nd stage open 16:30 start 19:30
公演詳細>>
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