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<コラム>2026年には来日も決定、希望の光が目の前に広がっていくアレックス・G最新作『ヘッドライツ』



コラム

Text: 松永尚久

 モーガン・ウォーレンやシャブージー、またビヨンセの最新アルバムなど、現代のヒットチャートを見渡すと多数のアコースティックをベースにした音楽が上位を席巻している機会を多く目にする。その多くは“カントリー”というカテゴリーで語られ、果てしなく広大なアメリカの大地を力強く踏み締めているような、生命力にあふれたオーセンティックなものが多いという印象だ。「インディーロックの神童」(ローリング・ストーン)や「最もエキサイティングで革新的なソングライター」(GQ)などと評されるシンガーソングライター、アレックス・Gの音楽はアコースティックを基調としながらも、それらとは一線を画す繊細さやオルタナティブ感というか。ベッドルームなど日常的な空間にて人生について思案しているようなモダンな雰囲気が伝わる。生活感を漂わせながら、そこに甘美な彩りを与えてくれる唯一無二のサウンドを描く。先日リリースされたばかりのアルバム『ヘッドライツ』では、彼のその比類なき音楽センスをじっくり堪能できる仕上がりになった。


 1993年に米ペンシルベニアにて生まれたAlexander Giannascoli(アレクサンダー・ジャンナスコリ)による音楽プロジェクト。10代のころから音楽活動をスタートさせ、2010年にDIY(Bandcamp)でアルバムを発表、2014年にレーベルを通じてリリースした『DSU』が音楽メディア/批評家から高い評価を集め、インディーフォークシーンの注目株となる。その翌年にはフランク・オーシャンのアルバムの数曲にギタリスト/アレンジャーとして、2017年にはギターでツアーに参加し実力を磨き、2019年にリリースしたアルバム『ハウス・オブ・シュガー』はピッチフォークをはじめ主要な音楽メディアの年間ベストアルバムの上位にランクイン。着実に人気を高める。


 その後、映画のサウンドトラックを制作するなど、活動の幅が広がっていき、2024年にはRCAレーベルと契約。フー・ファイターズのツアーでサポートアクトとして登場し、ホールジーのアルバム『ザ・グレート・インパーソネーター』にも参加し、さらに人気を拡大。サブスクリプション・サービスでは月間800万人以上のリスナーを持つように。

 そしてキャリア15年にして完成したのが、本作『ヘッドライツ』である。アレックスに加え、『ハウス・オブ・シュガー』などにも参加しているアンノウン・モータル・オーケストラのベーシストであるジェイコブ・ポートレートがプロデュース、自身のパートナーであるモリー・ジャーマーがバイオリンなどを担当し制作されたという作品。気心の知れたミュージシャンたちと楽器を通じて会話しているようなリラックスした雰囲気のなかに、ピリッとしたスパイスが散りばめられたような世界が広がる内容になっている。

 そのスパイスは、特に歌詞から伝わってくる。冒頭の「ジューン・ギター」では、あいにくな天候の瞬間のメランコリックな雰囲気が伝わるギターにのせ「若者に恋愛は向かない、失敗から学ぶものだ」と綴る。「リアル・シング」では「メジャーレーベルと契約してなんとか春までの生活を凌ぎたい」と苦境を訴え、「ビーム・ミー・アップ」やタイトル曲「ヘッドライツ」では「愛する家族、パートナーや子どもを養うためにここで金を稼ぐしかない」という決意を吐露するなど、切実さをにじみ出した。


 しかし、彼のサウンドや包み込むような声を通して聴くと、そのリアルな言葉(叫び)が心地よいというか。誰しもに訪れるであろう不本意な出来事をカラッと笑い飛ばせそうな気分になれる。海外のインタビュー記事などに目を通すと「楽曲に導かれて生まれたフィクションだ」と語っていたが、決して華やかだけではないショウビズ界(人生)の一面を、惜しげもなく披露する表現スタイルは、言葉がわからなくとも共感を抱けるはずだ。

 また、本作におけるサウンドは、特長であるシンプルかつ甘美なアコースティック・サウンドをじっくり堪能できる内容になっているのはもちろん、ストリングスやホーンなどを加え、よりドラマティック/ダイナミックなものに。新レーベルとの契約で、華麗に進化している印象だ。ふかふかとしたソファーでじっくり堪能したくなる音(アレンジ)のいっぽうで、メロディに関しては普遍的な印象。先行トラックにもなっている、子どもが誕生して変化した人生観を綴った「アフターライフ」を筆頭に、オアシスに代表される90年代のブリットロックや、最近のオリヴィア・ディーンのような洗練さに通じる旋律が響き、思わず口ずさんでしまいたくなるはず。親しみやすさと斬新さを絶妙にブレンドした作品と言えるだろう。


 ピッチフォークでは「過去10年で最も影響力を持つインディーロック・アルバム」と絶賛され、米ビルボードのトップ・ロック&オルタナティヴ・アルバム・チャートではベスト50入りを果たすなど、好調な評価・セールスを記録している本作。2026年2月には3年ぶりとなる単独公演も決定し、今後日本でも多くの共感と称賛を得られるのではないかと思う。カントリーやフォーク音楽というと、どちらかといえばクラシカルなアメリカ(もしくは西洋)の生活文化から影響を受けた音楽というイメージが強く、そのカルチャーや思考が根付いていない日本などでは敬遠されがちなジャンルではあるが、アレックス・Gの流麗なメロディやリアルすぎて胸を締めつける言葉の数々は、人生の辛酸を舐めている世代はもちろん、これからの未来に思いを寄せる人々にも、何かしらの気づきや癒しを与えるものになるはず。明確に希望を与えるメッセージはないかもしれないが、現在の状況をちょっとでも楽しい方向に導く“ヘッドライト”のような役割の音楽になるのではないだろうか。

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