Billboard JAPAN


Special

<インタビュー>Mummy-D×ELIONE、語り合うリスペクトとヒップホップ美学

top

Interview & Text:三宅正一
Photo:小田駿一

 2026年1月23日、Billboard Live YOKOHAMAにて、Mummy-DとELIONEによるツーマン公演が開催される。

 中学生の頃からRHYMESTERを聴いて育ったELIONEと、“リビングレジェンド”としての風格を漂わせながらも、常にフレッシュなヒップホップ表現を追求し続けるMummy-D。約5年前の下北沢での出会いから始まった二人の関係は、それぞれELIONEの作品でBACHLOGICプロデュースのもと制作された「別にいいんじゃん?(Remix)feat. Mummy-D & AKLO」、「国産 feat. CHICO CARLITO」でのコラボレーションを経て、さらに深まっている。

 ラッパーでありながらプロデューサー気質も持つ二人だからこそ通じ合う感性、ヒップホップという文化への深い愛情、そして音楽への飽くなき探究心。対談からは、世代を超えた敬意と友情、そして横浜という街で繰り広げられる新しいステージへの期待が浮かび上がってきた。そして、そんな二人のラッパーが、バンド編成という新たな試みで挑む特別な一夜について語ってもらった。

ラップがあるかどうかは関係ない

――まずお二人の出会いから聞かせてください。

Mummy-D:ワン(ELIONEの愛称)は一方的に俺のことを前から知ってくれていただろうから、出会いは俺のほうから話したほうがいいかな。共通の友人の元ヒップホップ雑誌編集者が、ワンを俺に紹介するという名目で食事会を開いてくれたんです。それが5、6年前くらいかな? 下北沢でご飯を食べて、その後、下北の有名なソウルバーに行って。

ELIONE:俺からしたら「Dさんに会えた!」という感じで、根掘り葉掘りいろんな話を聞かせてもらって。「あのときどうだったんですか?」とか、Dさんはビートも作るのでビートメイクについても訊いたり。俺がインタビュアーみたいでした(笑)。

――完全にヘッズになっていた。

ELIONE:そうですね。俺はRHYMESTERを聴いてヒップホップと出会った人生だったので。「Mummy-D、カッコいい!」と言ってきたヘッズだったし、すごく楽しく幸せな時間でした。

Mummy-D:俺はワンに訊かれたことを一生懸命答えていただけだと思うんだけど、「なんていいやつなんだ」みたいな、ぼんやりとした印象しか残ってない(笑)。でも、そのときに出会えてすごくよかったなと思って。




ELIONE:お店がソウルバーだったのもあって、いろんなヒップホップの元ネタとかも流れていて。Dさんがビートをどんな機材で作っているのかとか、本当にいろんな話を聞かせてもらって。『ウワサの真相』や『リスペクト改』のCDを中学生ぐらいのときに買って聴いていましたし、カラオケに行ってみんなで「B-BOYイズム」を歌ったりしていました。

Mummy-D:やめてくれー!(笑)。恥ずかしいというか、こそばゆいというか。ワンはRHYMESTERを完成されたものとして聴いていたと思うんだけど、こっちとしてはその時代はまだまだ全然、発展途上で。歳が離れているのにすごくリスペクトしてくれて、かつ、先輩だからといって距離感に線を引かないで付き合ってくれるから。すごくうれしいです。

ELIONE:それはDさんがそうさせてくれているんですよ。

――下北沢での出会いから、実際にコラボレーションに至るまでの経緯を教えてください。

ELIONE:僕がBACHLOGICさんと楽曲を作っているなかで、「別にいいんじゃん?」という曲のリミックスでDさんにオファーさせてもらいました。BLさんに「Dさんを誘いたいです」と言ったら、「Dさんが入ってくれたらいきなり最高級だね」と言われて。お食事もしていたし、いつか一緒に楽曲を作らせてほしいと伝えていたので、ここで連絡してみようとオファーさせてもらいました。




ELIONE - 別にいいんじゃん? (Remix) feat. Mummy-D & AKLO (Official Music Video)


Mummy-D:そんなの絶対やりたいじゃん。ワンのためだったら絶対やるよ。さらにビートがBACHLOGICだよ? 間違いないじゃん。断る理由はない。ワンっていろんな側面があって、ラッパーなんだけどプロデューサー気質がすごく高くて、その辺が俺とちょっと似ていて。ビートも作れるのに人に任せるとか、裏方に回って誰かをサポートしたり。そういうあり方が面白いなと思って。

――ワンさんのそういった多面的な動きはどのように形成されていったんですか?

ELIONE:最初は地元の静岡で仲間とクルーを組んで始めたんですね。自分はラッパーだったけど、そこにはダンサーやDJ、イベントをやる人もいて。みんなと話しているなかで、いろんなことを考えるようになっていきましたね。その後、僕は上京してラッパーとして活動するんですけど、そもそものビートメイクのスタートはオリジナルのトラックが欲しかったという理由で。頼みたいと思う人ともなかなか知り合えないし、知り合ってもお金を払えるような規模じゃなかったので、自分で作るしかないというのがスタートでした。だから、最初はビートも自分のために作っていただけで、誰かをプロデュースしたり誰かにビートを渡すなんて考えは全然なくて。そこから本当に近い友達に頼まれて、ビート提供するようになっていったんです。友達にビートを渡すことが多かったので、その友達がどんなやつかって俺は分かるじゃないですか。曲を作りながら「いや、お前はこういうやつだから、もっとこういうことを歌ってくれたほうが俺的にはうれしいな」みたいな気持ちが芽生えていって。今も基本的にはそういうスタンスですね。自分の近い世界、自分の周りの好きな人や周りのことであればなんでも、どんな形であれサポートしたり、一緒に制作したり。逆に俺も助けてもらったり。それはすごく自然な形で。それが俺にとってのヒップホップ・カルチャーから得たもののアウトプットなのかなと思います。

――あらためてになりますが、Dさんが自分でビートを作るようになった背景は?

Mummy-D:自分でビートを作ってラップするのはZeebraとかKREVAとかいたけど、そこからPUNPEEくんが出てくるまでそんなに多くはなかったかな。でも当時、USでは自分でビートを作って自分でラップする人は意外といて。Qティップとかラージ・プロフェッサーとかね。自分としては意外と普通の感覚だったような気がする。昔はサウンド・プロダクションも単純だったから、ラップを書くついでにビートを作って、「一晩で何曲もできた!」という感じで。めちゃめちゃプロダクション荒いんだけど(笑)、そんな時代だったから。もうやれることは何でもやりたいって感じでしたね。楽しかった。

ELIONE:僕はラッパーであるときは、ラッパーという役に専念したいなと思ったのが一番大きいですね。近年は楽曲制作を全面的に任せられるBLさんとの制作体制になったので。自分が見ている自分と人が見ている自分ってやっぱり絶妙な誤差があるじゃないですか。そういうことを相談したり、そういう角度で制作を一緒にできるのは望んでいたことで。僕としてはずっとやりたかったことでした。なので、今は自分ではビートを作らずにBLさんのトラックでラップを乗せさせてもらっています。

――いつかまたビートメーカーとしての自分と向き合う時間が来るかもしれない。

ELIONE:人に聴かせたり、世の中に出すかは分からないけど、今でもたまに気分を上げるためにビートを作ったりもするし、けっこう面白いですよ。ビートを作るときとラップするときは全然違う感覚だから。当時、両方やっていたときは、ラップを書いて飽きたらビートを作って、ビートを作るのに飽きたらラップを書いてってやっていて。ずっと無限に制作できるんですよ。たぶんラップだけやっていたら「ラップ飽きた、ちょっと遊びに行こう」ってなると思うんですけど。さっきDさんから出たZeebraさんもそうですけど、僕はDEV LARGEさんの影響も大きくて。

Mummy-D:そうだね、コンちゃん(DEV LARGE)もいたね。

ELIONE:USだとカニエ・ウェストとかキッド・カディとかトラヴィス・スコットとか、ビートも作ってラップもするアーティストに影響を受けてきました。

Mummy-D:今だったらタイラー・ザ・クリエイターとかね。やっぱりみんなすっげー音楽好きなんだよね。例えば、コンちゃんの音じゃないとBUDDHA BRANDにはならないんだよね。

ELIONE:ならないですね、本当に。




Mummy-D:BUDDHA BRANDが人からビートをもらってきても、やっぱりあの混沌とした世界にはならないから。それはコンちゃんの音楽に対する情熱によるもので。それを今、トラヴィス・スコットとかタイラー・ザ・クリエイターにも同じものを感じるよ。「うわ、こいつら音楽好きだなー!」って。ああいう感じに俺、すごく救われるんだよね。今はあまりにUSのヒップホップが成り上がる手段になりすぎていて、音楽への愛情よりヒップホップ・ゲームに対する情熱のほうが強く感じることがあって。どこか刹那的というかね。とにかく今、ヒットをいっぱい出して金儲けて、ずらかろうぜみたいな。「ヒップホップってそういうんじゃなかったよな」っていうのがあって。USのラッパーたちでも音楽へのLOVEがしっかり見える人たちがちゃんと今でもいるのは、自分の中で救いになってる。

――Dさんのソロ曲「O.G.」にある〈ラップじゃないんだ ヒップホップだ〉というラインが意味するところですよね。

Mummy-D:そう。ヒップホップって文化だし、インストでもヒップホップは表現できると思うから。この前、STUTSがKアリーナ横浜でやったライブを観に行ったんだけど、MPC6台を横並びして6人のMPCプレイヤーとセッションしていて。それもみんな生叩きでね。そのときにツーっと涙が出てきちゃって。「あ、これじゃん、ヒップホップって」と思った。ラップがあるかどうかは関係なくて、逆にラップしているのに全然ヒップホップじゃないと感じるときもある。ラップ巧いし、楽曲のクオリティも高い。でも、ヒップホップを感じるかと言ったら、感じない曲もあるから。ヒップホップってもっとグルーヴだったり、価値観だったり、そういう抽象的なもので。文化と言えば簡単なんだけど、そういうものなんだよね。

ELIONE:それがあれば何を作っても大丈夫というか。でも、それがなければDさんの言ったとおり、ラップをしても「ん?」と思うことが、もしかしたらあるかも。これは本当に目に見えないものなので伝えるのが難しいですけど、でも、必ずあるものだと僕も思いますね。

NEXT PAGE
  1. <Prev
  2. Next>

大人のヒップホップ



――「国産 feat. CHICO CARLITO」が収録されているワンさんのニューアルバム『Just Live For Today』を聴いても思うことですが、ワンさんのスタイルは、フックのキャッチーさやネームドロップの大胆さ、フロウと歌の旋律のナチュラルな融合が特徴的だと思います。

Mummy-D:さっき楽屋で「メロってそんなポンポン浮かぶもんじゃないでしょ?」って訊いたら「メロはすぐ浮かぶんですよ」と言っていて。「何それ。キーボードで一晩中ビートを聴きながらコードを押さえたりしてるの?」と訊いたら、頭に出てきちゃうんだってさ。




ELIONE - 国産 feat. CHICO CARLITO, Mummy-D (Official Music Video)


ELIONE:ビートを作りながらなんとなくリードシンセを弾いてサビを作っていたこともあります。でも、指も速く弾けるわけではないから、そこから4小節、8小節をループして鼻歌を歌ったり。3分くらい最初から最後まで宇宙語みたいな言葉にならないような言葉で歌って、「あ、ここサビになったらいいな」ってところを抜粋して、自分でエディットしたりしていました。メロディを意識するとやっぱりメロディで耳を作ることになってしまうので、逆に言うと歌詞で刺したければ、メロディをなくしたり。

Mummy-D:なるほどね。そこはリスナーに届けるためのフィーリングだよね。

ELIONE:そうですね。ビートを組む段階でサビを考えていましたね。最初にビートがマックスの状態にはまるサビを作って、そこからヴァースを作っていくというやり方が自分の中で大きかったです。

――メロディのルーツは?

ELIONE:トラックを作っていたので、いっぱい音楽は聴いていると思うんですよね。それは古い、新しい、ヒップホップ、ヒップホップじゃない問わず、ソウルでもジャズでもファンクでもプログレでも何でも。どんなジャンルでも「こいつのアルバムは全部好き」みたいなアーティストがやっぱり何人かいて。例えばジャズのレス・マッキャン、ニーナシモン、ソウルのカーティス・メイフィールドだったり。そういうアーティストの作品はめちゃくちゃ聴きます。幼少期から日本語のヒップホップも聴いていたし、サザンオールスターズも、玉置浩二さんも大好きだし、本当に何でも。もしかしたらいろんな音楽が合わさって自分のメロディのルーツになっているかもしれないです。




――Dさんも音楽をジャンルで分けて聴いていない印象があります。

Mummy-D:そうだね。でも、CDまでの時代だったら、「もうこれ以上は聴けない」という言い訳ができたじゃん。今はそれができないからね(笑)。どんな音楽からでも影響を受けられるし、インスパイアされることがあるんだけど、そうするとどこから手をつけていいか分からなくなっちゃって。全てがあると何にもないのと同じみたいな感じになっちゃうんだよね。だから、今はキュレーションしてくれる人が一番大事というかね。昔はレコード屋さんの店員さんがそういう役割を担ってくれていたよね。なるべく全ての音楽から影響を受けようとしているし、例えばJ-POPや日本のロックの中にもたくさんいい曲があるに決まっているんだけど、とてもじゃないけど全部は聴けない。でも、耳に入ったものは、どんなジャンルでも「何これ、カッコいい!」と思ったら即Shazamして、っていうところは変わっていないんだけどね。手つかずのカッコいい曲がいっぱいあるんだろうなと思いながら生きています。

――今、Dさんが信頼できるキュレーターはいるんですか?

Mummy-D:そういう意味では、例えばワンもキュレーターだよ。俺の次のソロ作品のイメージに向けて「今、若い子たちの中でこういうのが流行っていて、こういうトレンドがあるから、これたぶんはまると思うんですよ」とか教えてくれて。もちろん、それはまだ形になっていないから分からないんだけど、同じ曲を聴いても、ワンとか若い世代の人たちはそういう捉え方で聴いているんだなって発見がある。

――昨年3月にリリースされたDさん初のソロアルバム『Bars of My Life』は、Dさんのヒップホップ観のど真ん中を示しながら、これまでのライフストーリーを総括すると同時に、次に向かうための動力になった作品だと思いますが、リリースから1年半が経った今、どのように自分の中に存在していますか?

Mummy-D:あのアルバムにはちょっと込めすぎてしまったみたいな反省にも似た気持ちがあるんだけど、1枚目ってそういうものなのかなってちょっと諦めてもいるというか。いい意味でも悪い意味でも重たい作品になったかなとは思う。でも、なんでもそうみたいよ。アートでも最初にその人が描くものって、その人が一番やりたいものが如実に出るらしくて。制作に6年もかけて、ベテランラッパーが50代で出したアルバムとしては、そこそこのものが作れたかなって今は思ってるよ。ただ、次は全然違うと思いますけどね。もうちょっと肩の力を抜いて音楽したいなとは思います。




Mummy-D - Bars of My Life (Official Music Video)


ELIONE:毎年ソロアルバムを出してもらいましょう(笑)。もちろん僕もDさんのソロアルバムを聴いていますし、カセットも持っていますし、ライブも行かせてもらって。あらためて声や見た目も含めて、Dさんのいろんな部分が好きなんだなと思ったうえで、やっぱりメッセージが結局一番好きなんだなと再確認しました。アルバムができたあとに食事させてもらったときに、Dさんが「俺は今、この年齢になって1stアルバムを作った。ワン、お前もまだいくらでも挑戦できるからな」ってフワッと、たぶん何も考えずに言ってくれたと思うんですけど、その言葉にも俺は勇気をもらいましたね。

Mummy-D:全然覚えてない(笑)。でも、ワンが相談しに来てもそうやって言うと思うし、いろんなキャリアの積み方があって、いろんな成長のスピードがあるから。

――最後にBillboard Live YOKOHAMA公演について。どういう編成で、どんなパフォーマンスをイメージしているか、それぞれ語っていただけたら。

ELIONE:自分のライブとしては初めて全編生バンドで演奏します。もちろん同期を鳴らす部分も出てくると思うんですけど、そういうスタイルのライブは初めてなので。僕の楽曲は、オーセンティックなものもあれば、トラップビートのものもあったり、自分のボーカルにオートチューンを使って歌うこともあるし、使わない曲もあるんだけど、そういうものを全部融合させた自分にとってすごく新しいライブを表現できたらいいなと。今のELIONEのキャリアの中で特別なライブになるし、何よりDさんと一緒にご一緒させてもらうのですごく気合いが入りますね。幸せな公演が決まったなと思っているので、ぜひ観に来てください。

Mummy-D:まず、ワンとバンド編成で対バンができるのがめちゃめちゃうれしくて。編成はまだ固まっていなくて。さっきも二人で楽屋でどうしようかと考えていたくらいなんだけど、俺はいつも“半ぶん生”でやっているから、そんな半生と生を混ぜるみたいなスタイルになっていくと思うけど。俺は一応、RHYMESTERではBillboard Liveをはじめ毎年ジャズクラブで、バンド編成のライブをするのが恒例になっているところがあって。それってキャリアを積んできたラッパーのあり方としては正解というか、すごく“あり”なやり方だと思っていて。お客さんも俺らとともに歳を取っていくし、大人のヒップホップという部分にシフトしていくこともすごく大事で。俺が持っているノウハウを伝授してワンを巻き込んでいきたいなと思ってる。

ELIONE:やった。

Mummy-D:ワンと一緒に特別な夜にしたいなと思っています。

NEXT PAGE
  1. <Prev
  2. Next>

関連商品

ACCESS RANKING

アクセスランキング

  1. 1

    【ビルボード 2025年 年間Top Lyricists】大森元貴が史上初となる3年連続1位 前年に続き5指標を制する(コメントあり)

  2. 2

    【ビルボード 2025年 年間Artist 100】Mrs. GREEN APPLEが史上初の2連覇を達成(コメントあり)

  3. 3

    【ビルボード 2025年 年間Top Albums Sales】Snow Manがミリオンを2作叩き出し、1位&2位を独占(コメントあり)

  4. 4

    【ビルボード 2025年 年間Top Singles Sales】初週120万枚突破の快挙、INI『THE WINTER MAGIC』が自身初の年間首位(コメントあり)

  5. 5

    <年間チャート首位記念インタビュー>Mrs. GREEN APPLEと振り返る、感謝と愛に溢れた濃厚な2025年 「ライラック」から始まった“思い出の宝庫”

HOT IMAGES

注目の画像