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<インタビュー>ジョージ・クリントン&パーラメント/ファンカデリック来日記念──堂本剛(.ENDRECHERI.)が語るファンクの神髄

Interview & Text 池城美菜子 / Minako Ikeshiro
Photo:(.ENDRECHERI.)Miwa Tomita、(George Clinton & PARLIAMENT FUNKADELIC)cherry chill will.
Household Name(ハウスホールド・ネーム)──誰もが知っている名前、有名人の意味だ。「堂本剛」はこれに当たるだろう。音楽好きなら、ファンクに傾倒した「.ENDRECHERI.(エンドリケリ―)」名義での作品も知っているかもしれない。ミュージシャンとしての想い、ファンクと出会って「楽になった」理由。ジョージ・クリントンとの交流で得たものを語ってもらった。
※この記事は、2025年8月発行のフリーペーパー『bbl MAGAZINE vol.210 9月号』内の特別版です。マガジン版はHH cross LIBRARYからご覧ください。
“自分を生きる”ことに気づかせてくれたファンクとの出会い
――ファンクとの出会いはスライ&ザ・ファミリー・ストーンとのことですが、今年の2月にスライ・ストーンが亡くなったのは大きなニュースでした。インスタでも追悼していらっしゃいましたが、改めてどんな思いだったか教えてください。
堂本剛(以下、堂本):悲しいですよね……プリンスが亡くなったときも悲しくて、何本か持っているカセットテープを引っ張り出し、部屋の雰囲気をプリンスっぽくして彼の音楽を聴いていました。スライも同じで、部屋の雰囲気をスライっぽくして1日中聴くこともあります。プリンス、スライ、ジョージ・クリントンは順番にそういうふうに聴くアーティストですね。
――あえてラジカセで聴くのは、どのようなこだわりがあるのでしょう?
堂本:10年くらい前に、たまたま僕と同じくらいの、1970年代製のラジカセを見つけて愛おしく思えて購入したのがきっかけですね。それで自分の好きなアーティストのカセットを買い求めて。あれって、低音や高音の鳴り方を調整できるじゃないですか? ラジカセは箱自体が鳴るので低音がむちゃくちゃ気持ちいい。置いているテーブルや床も一緒に揺れて、そのときの部屋の湿気と温度感が音と混ざっていく感じがいいなぁ、と。

――なるほど、通ですね。ドキュメンタリー・フィルムの『サマー・オブ・ソウル(あるいは、革命がテレビ放映されなかった時)』(2021)はご覧になりましたか?
堂本:観ましたよ。
――あの時期のスライの見たことのない映像が見られるとは思ってなかったので、私もすごく嬉しかったんです。
堂本:そうですね。(同年に行われた)ウッドストックの映像はよく観ていましたが。ファンクと出会って、生きるっていうと=自分を生きるってことだとキャッチアップしたというか。スライもそうだし、プリンスも、ジョージ・クリントンもそうですけど、自分を生きているアウトプットの方法にハッとされられました。強烈にメッセージもらっちゃったというか。
――つながってしまったんですね。
堂本:こんなふうに自分もアウトプットしていこうと、背中を押されました。それまで求められていることに丁寧に応えていく、という期間が長かったので。もちろん、自分の仕事として一生懸命やっていたんですけれど、くり返しているうちにイメージができてしまって。

――堂本剛といえばこう、みたいな。
堂本:それはありがたいことだけれど、本来の自分の現在地から想像してもらっている自分までちょっと距離が出ちゃったなって。自分自身の核の部分、人間性が置いてけぼりにされた気になって。その空間に漂う、いろんな気持ちを整理しづらくなっちゃった時期があったんですね。でも、ファンクを聴いて、スライのパフォーマンスを観て、彼のエネルギーを体感したときに霧が晴れたような気分になりました。僕にたいしてイメージを持ってくれている人たちを置いていかないように、逆にきちんと(イメージに)寄り添いつつ、でも自分を生きていこうって、楽にしてもらったんですね。だから、スライは太陽の似合うファンク・ミュージックだと認識していて。いろいろ複雑に考えてちょっと疲れていた自分をかなり楽にしてくれた、という感じです。ファンク・ミュージックって基本、ワンコードで進んでいく音楽で、それも人生一度きりと重なっていくのが気持ちよかった。コロコロ変わっていくアカデミックな音楽よりも、変わらないままうねってグルーヴしていく、そして戻っていくのが人生みたいだな、と思って、この世界はなんなんだろうって、没頭したきっかけをくれたのがスライですね。
――.ENDRECHERI.では、ほとんど英語の歌詞の曲もあります。歌うのはかなり難しいと思いますが、どうやって実現させたのでしょう?
堂本:いや、まだ英語で歌う仕組みがわかっていなくて。いろんな方法やアドバイスをもらっているんです。楽器を覚えるのと一緒で、みんなとジャム・セッションするようにしないと身につかない気がしています。ネイティブ・スピーカーの先生が発音をしながら教えてくれて、歌えるようになるというか。踊りももともと踊れなかったのがそうやって覚えたのと一緒かな、と。今後も英語では歌っていきたいので、練習すればできるかなと思っています。これまでファンクやR&B、ソウルにたくさん触れてきたので、そう思えるのかもしれません。
――ラップ調の歌も上手ですが、ヒップホップも聴かれるんですか?
堂本:ヒップホップは「絶対この人」みたいな聴き方はしていないけれど、好きですね。もともと、踊りの練習をするときにヒップホップの曲に合わせることが多かったから、幼少期からなじみはあります。ディアンジェロとかも聴くし……世の中はヒップホップ、R&B、ロック、ファンクって分けるけれど、アーティストの人って意識して分けてやっているわけではなくて、自分の音楽をやっているわけですし。ライブに行くときも、そのアーティストを観に行くのであって、「ファンクのコンサートに行こう」とはならないですよね?
――それ、アーティストの方によく言われます。今、話に出たディアンジェロ本人にも「頼むからR&Bって括らないでくれ」と言われました。
堂本:……ですよね。僕もジャンル分けされがちなので、さびしいな、と思う瞬間もあります。自分自身、ジャンルレスと言われるアーティスト、ビートにその人の色気やカラー、ムードが乗っていく音楽を聴くのが好きですね。ディアンジェロも相当レイドバックしていて、ベースとかも浮遊していく特有のタイミング、この位置で最後まで行くって、どういう脳みそしているんだろう? って思いながら聴いています。
――リスナーにとってはジャンルやカテゴリーは自分が聴きたい音に早くたどり着ける道標、ドアのひとつみたいなものだと思うのですが、アーティストの方にするとそこに閉じ込められてしまう窮屈さがあるのかもしれません。
堂本:なるほどね。こうやってインタビューで言葉を使って伝えるよりも、ミュージシャンみたいに音楽を通じて命から湧き出るものを出すほうが得意な人たちからすると、アーティストが出発地点とする音楽が旅するあいだに、イメージや解釈がついてしまって、ちがうものになってしまうこともあるから、あまり分けないでほしいと思うのかも。

“命の音”が導いた、堂本剛のファンク探求とセッションの旅
――堂本さん自身は、どのように音楽の知識を深めていったのでしょうか?
堂本:初めて行ったジョージ・クリントンのコンサートが楽しかったから ブーツィー(・コリンズ)が来日したら行く、バーニー(・ウォーレル)も行くとかそんな風になって。屋敷豪太さんと交流があるので、バーニーに会わせていただいたこともありました。

――屋敷豪太さんはシンプリー・レッドやソウル・Ⅱ・ソウルでも叩いていたレジェンド・ドラマーですね。堂本さん、交友関係が広いですね。
堂本:豪太さんも「この音楽や、この人も好きかもよ」っていろいろ教えてくれて、ずっと仲良くしています。最初にスライを教えてくれたのは(土屋)公平さん。そこからジョージ・クリントンに向かって僕が一人旅に出かけて行った、という流れですね。あと、アンプ・フィドラーも会いました。彼もPファンクを支えている人なので、「めちゃくちゃ好きです」と伝えたら日本に来た時に一緒にやろうって言われてスタジオに入りました。
――彼はソウル、ファンク関連で著名なキーボード奏者ですね。一緒にレコーディングをしたんですか?
堂本:スタジオに入って、セッションみたいな感じでした。その時はフェルト帽子にサインもしてもらいました。神様につないでもらった非日常的な感じ……こんな楽しい時間が、人生の中にまだあるんだって思いました。ファンクは20代の後半から聴いてはいたんですけれど、30代でより探求していけばいくほど深すぎて。音色ひとつ、ギターのセッティングもそうだし。「めっちゃ楽しいね」「めっちゃかっこいいやろ、」「めっちゃすごくない?」って一人で言ってるだけ、みたいな環境のときもありました。
――同じ音楽を好きな人が周りに少ないとさびしいですよね。その感覚はよくわかります。それを経てさまざまな人とつながって、かつファンクの神様みたいな人との共演まで行き着いたのはすばらしいですね。
堂本:80歳過ぎのおじいちゃんが、ステージ立っていてほんとうにすごい。命の音って、そこら辺のこともあるのかな、って思っています。そのうえであまり深く、難しく考えるなって「なんでもよくない?」と言われているような気がして。たまたま出会った仲間と一緒に音楽やっているだけだよって、アプローチがすごく自由に感じました。

僕自身、以前は自分の立場があると、この人とはハートでつながったのに、ご一緒できないんだなぁって残念に思う時もあって。だから、俺と音楽やろうぜ、ってすぐにセッションが始まる雰囲気に憧れがあったかもしれない。ジョージ・クリントンがいろんな人と一緒にセッションをしている感じがめちゃくちゃ好きなんです。みんなが彼を好きだから、彼の匂い、命の匂いをプンプンさせながらやっているのがいいなぁって最終的に教えてもらいました。
堂本剛氏が本腰のミュージシャンであるのはわかっていたが(作品を聴けば、5秒でわかる)、ザ・ストリート・スライダーズの土屋公平、1980年代に海外進出をした屋敷豪太、はたまたソウル好きにおなじみのアンプ・フィドラーまでつながっているのは驚いた。そして昨今、悪者になりがちな「ジャンル分け」の話は興味深かった。ライターとしては「ないと不便」だし、そもそも堂本氏のプロジェクトも「ファンクだ」と知ったからすぐにクリックしたのが筆者の真実であり、悩ましい。聴き手も「なんでもよくない?」の精神で、ジョージ・クリントン&パーラメント/ファンカデリックの来日公演と、.ENDRECHERI.の新作を楽しみにしていよう。

公演情報

【George Clinton & PARLIAMENT FUNKADELIC】
2025年9月4日(木)-6日(土)
東京・ビルボードライブ東京
9/4(木)、9/5(金)
1st stage open 16:30 start 17:30
2nd stage open 19:30 start 20:30
9/6(土)
1st stage open 15:00 start 16:00
2nd stage open 18:00 start 19:00
公演詳細>>
2025年9月8日(月)-9日(火)
大阪・ビルボードライブ大阪
1st stage open 16:30 start 17:30
2nd stage open 19:30 start 20:30
公演詳細>>
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堂本剛 ライブ情報
【堂本剛 平安神宮 奉納演奏2025】
2025年9月19日(金)、20日(土)、21日(日)京都・平安神宮
詳細はこちら
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