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<インタビュー>大原櫻子が歌う12通りの“心の奥底にある本音” 『Traveling』で見せる“らしさ”とは
Text & Interview: 本間夕子
Photos: 辰巳隆二
昨年、デビュー10周年という記念すべき節目を迎え、新たなステージへの扉を開いた大原櫻子。6月11日にリリースされる約2年半ぶりのオリジナル・アルバム『Traveling』にはさらなる旅路へと踏み出した彼女の軽やかで揚々とした心意気が存分に詰め込まれている。
絢香、水野良樹(いきものがかり)、アンジェラ・アキがそれぞれに手がけて話題を呼んだ配信シングル3曲に加えて、さかいゆう、高橋啓太(オトナモード)、フジタカコ、矢野まきといった錚々たる顔ぶれのシンガーソングライター、ミュージシャンたちによる個性豊かな楽曲ばかりが揃った今作は、大原櫻子に備わったシンガーとしての未曾有のポテンシャルを存分に味わうことのできる極上の一枚。俳優としてもますます活躍の場を広げ、いっそう幅も深みも増した表現力にも刮目だ。大充実の今作に彼女が込めた思いをじっくりと聞いた。
──オリジナル・フル・アルバムとしては2年半ぶりのリリースになるんですね。
大原櫻子:もうそんなに経っちゃうんだって、私自身もびっくりしました。ベストアルバムやEPを挟んでいるので、そんなに間が空いた感覚がないんですよね。
──昨年はデビュー10周年を迎えられ、アニバーサリーイヤーを精力的に駆け抜けていらっしゃいましたが、今作は次のステージに向かって踏み出した一歩ということになるのでしょうか。
大原:そうですね。10周年という節目を終えての11年目、ここから新たに切り開いていく、新たにスタートしていくイメージです。これまであまり歌ったことのない雰囲気の楽曲に挑戦した1枚なので、ずっと応援してくださっている方にも「お! 新しい大原櫻子を感じるな」って思ってもらえるんじゃないかな。

──今作に取り組むにあたって、イメージしていたことやテーマなどあればぜひ伺いたいです。
大原:またさらに成長した表現力を打ち出せるようなアルバムにしたいなって思っていました。10代から俳優活動と並行して音楽活動を始めて、徐々に自分でディレクションできるようになったり、例えば歌詞やメロディはこういうふうにしたい、こんなアレンジにしてみたいというようなプロデュース的な部分も責任を持ってやれるようになってきたりしましたし、女優としても活動させていただいているぶん、そこで得たものも発揮できたらいいなって。
──配信シングルとしてリリースされた「Collection」(作詞作曲:絢香)、「櫻」(作詞作曲:水野良樹)、「手紙」(作詞作曲:アンジェラ・アキ)をはじめ、名だたる作家陣が集結した、とても豪華な作品になりました。
大原:アーティストとしてご活躍されている方々がこんなにも大勢参加してくださってすごく光栄ですし、本当にありがたいです。水野さんはこれまでにも楽曲を提供していただいて、ずっとお世話になっている大好きなアーティストですし、絢香さんは、もう、私が10代の頃からずっと憧れてきた方で。アンジェラ・アキさんが作ってくださった「名前」は、去年出演したミュージカル『この世界の片隅に』の音楽をアンジーさんが手がけられたご縁で、「ぜひ何か一緒に楽曲を作りたいね」というところからスタートしたんですよ。
──舞台で育まれたご縁だったんですね。
大原:アンジーさんがミュージカルの現場に来てくださったときに、芝居についてはもちろん、楽曲に関しても直接お話をさせていただきましたし、曲の方向性が決まってからもアンジーさんがアメリカのご自宅にいらっしゃるときはボイスメッセージでやり取りして。その頃から、女性が持つ力強さを意識しようと話していましたね。
──シングル曲以外でも、さかいゆうさん、オトナモードの高橋啓太さん、フジタカコさん、矢野まきさんら、音楽好きにはたまらない顔ぶれが揃っています。しかも曲を聴けば作者がすぐに浮かんでくるような個性的で記名性の高い楽曲ばかり。
大原:1曲1曲、色が全然違いますもんね。
──これだけ個性の異なる楽曲を歌いこなすのは相当に大変だったと想像しますが、シンガーとしてあえて高いハードルにチャレンジしたかったということでしょうか。
大原:それもあるかもしれません。でも一緒に音楽を作るうえで重要な、周りのスタッフさんの影響も大きいのかなと。ミュージカルが大好きで、私のフィーリングや表現の仕方に対して理解力の高い方がいるんですよ。「この方とご一緒してみるのはどう?」って提案していただいた作家さんも多いですし、例えばデモを聴かせていただいて楽曲のセレクトをするとき、私は「自分に合うのか、ちょっとわからないな」って私が伝えると、「いやいや、大丈夫。まかせてください」って自信たっぷりだったりして(笑)。そんなに私のことがわかるなら、波に乗ってみようか、みたいなことはよくありましたね。

──ちなみにどの曲ですか。
大原:わりと全般的にそんな感じでした(笑)。「Speechless Love」(作詞作曲:さかいゆう)は特にそうだったかもしれません。私にとって「Speechless Love」はこのアルバムのなかでいちばんの挑戦曲でした。この曲ってまさしく、さかいさん節じゃないですか。すごく素敵な曲なんですけど、私が歌ってハマるのかどうか、最初はわからなかったんです。そうしたらスタッフさんが「大丈夫、まかせろ」って。売り言葉に買い言葉じゃないけど、「『まかせろ』って言ったな?」みたいな(笑)。
──「じゃあ、やってやんよ」って(笑)?
大原:そんな言い方はしませんけどね(笑)。写真を見て「私は絶対これがいい!」って思っても、周りが全員「いや、こっちだよ」みたいなとき、ありません? そういうとき、最初は「え?」って思うけど、「いや、絶対こっちでしょ!」って主張するより「そうか、そういう見方もあるんだ」って納得しちゃうんです。第三者の目で見た良さも絶対ありますし、私もそういう価値観を持っているので、そっちもありだなと思えるというか。この曲に関しても「まかせろ」って言われて「おお! じゃあ、ぜひやらせてください」って。
──洗練されたムードがありつつ、どこか無邪気さも漂わせている絶妙な歌声が耳にとても心地よくて。しかもアルバムの幕開けを「ベイビートラベラー」(作詞作曲:伊藤立)でアッパーに飾った直後なので、余計にハッとするというか。
大原:そうなんですよね。聴いてくださる方はだいぶドキッとするんじゃないかなって思います。
──「Deep Blue」(作詞作曲:高橋啓太)も大人っぽさのある曲ですよね。
大原:個人的には特にイチオシ曲です。今までにありそうでなかったタイプの曲というか……いざレコーディングしてみたら、すごく私にフィットする感覚がありつつ、新しい風を吹かせてくれた楽曲です。あと、「伸ばしかけ」(作詞作曲:フジタカコ)や「風の冒険者」(作詞:矢野まき、作曲:矢野まき/Shusui/Ryo’LEFTY’Miyata/松岡モトキ)にもかなり新しさを感じています。「伸ばしかけ」はデモの段階で1番の歌詞ができていて、フジタカコさんが仮歌を歌ってくださっていたので、すごくイメージしやすくて。しかも歌詞がものすごくいい! 曲先で決めたものが多いなか、「伸ばしかけ」は「これは絶対に歌いたい!」と思って歌詞で決めた曲なんです。ただ、実際に歌おうとするとかなり難しかったんですけど。
──どういったところが?
大原:歌詞に描かれている中途半端な状態……伸ばしかけの髪の毛も、恋愛を忘れたくて実際に忘れているようなんだけど忘れてない、みたいな主人公もすごく中途半端じゃないですか。そういう繊細で複雑な主人公の気持ちが、すんなりと歌わせてくれなかったというか。歌うたびに表情の違うテイクが録れてしまって、歌っていくうちに「何が正解なんだろう?」って思い始めちゃって。大変でしたけど、その甲斐はあったと思える曲になりました。
未来が楽しみで仕方がないワクワク感に溢れる1枚に
──「風の冒険者」は『ぶらり途中下車の旅』のテーマ曲として今まさにオンエアされていますね。
大原:はい! 小さい頃から観ていた番組なので、すごく嬉しいです。ただ、この曲は吹きすさぶ風のなかを突き進んでいくような、それぐらい気合のいる曲だから、「番組のほんわかしたムードに合うのかな?」と思ってた部分もあって。でも、この間、初めてエンディングに流れているのを聴いたら、めちゃくちゃぴったりでした。

──自分で道を切り開いて歩いてゆく、そんな力強さに励まされる1曲ですよね。アンセム感もありますし。
大原:前作アルバム『FANFARE』(2022年)に「Fanfare」という曲があるんですけど、そのときのテーマがジャンヌ・ダルクだったんです。でもこの曲は、自分だけが先頭に立って引っ張っていくのではなく、みんなと一緒に進んでいくイメージがあって。私のなかでもそういう意識が強くなっているのかなと思いました。歌詞に出てくる一人称も“僕ら”ですし、早くライブでファンのみなさんと一緒に手を挙げて歌いたいです。
──最後は歌声だけになってカットアウトという終わり方にも痺れました。
大原:ありがとうございます! ここはかなりこだわったんです。歌い方も、抑揚をつけたり、つけなかったり、いろいろ試して。アルバムには抑揚をつけたものが収録されているんですけど、最初シンプルに録ったあと、「すいません、抑揚ありも歌っていいですか?」って録っておいたんです。最終セレクトの段階でスタッフさんが抑揚ありのほうを選んでくれて。「わーい!」って思いましたね(笑)。
──そして「Sound of Music」(作詞作曲:高橋啓太)がNHK『みんなのうた』(6-7月放送)に決定というビッグなニュースも告知されました。大原さんの楽曲が『みんなのうた』に登場するのはこれが初だそうですが。
大原:そうなんです! 今までどれだけたくさん曲が流れてきたんだろうって思うぐらい、すごく歴史もあるし、子供たちをはじめたくさんの人に愛されてきた番組じゃないですか。そのなかの1曲になれるなんて本当に嬉しいです。
──爽やかな曲調と朗々とした大原さんの歌声がベストマッチな、1日の始まりに聴きたくなる曲です。
大原:落ち込んだときには元気が出るし、元気なときはさらに元気が出る曲だと思っています。〈君が笑えば つられて世界も微笑む〉っていうフレーズがあるんですけど、これって簡単なようで、つい忘れてしまいがちなことだと思うんです。日常を忙しなく過ごしていたらそんなことを考える余裕もなくなっちゃう。でも、この曲を聴くと「ああ、私は生かされてるんだな」って、周りの木やお花とか、みんなが味方になってくれているような安心感を得ることができると思うんですよね。朝はもちろん、どんなシチュエーションでも聴いてほしい曲です。

──歌っている大原さんご自身もとても伸びやかで気持ちよさそう。
大原:この曲は本当に気持ちよかったです。私、曲によってレコーディングブースの照明を変えていて、例えば「Deep Blue」だったら海の底を泳いでるような雰囲気を出したくてちょっと暗くしてみました。草原のなかで歌っているイメージがあったので、「Sound of Music」のときは明るさ全開にして歌ってましたね。この間、帯広に行ったんですけど、ほかに何もないような草原に鹿とかが歩いていて。ムービーを撮ってディレクターに送ったら「これ、ホント『Sound of Music』だね!」って(笑)。
──なんだかすごくいいエピソード(笑)。逆に「Hero」(作詞作曲:春日章宏)のハイテンションなアイドル感にもグッとくるんですよね。曲中に挟まれる“S・A・K・U・R・A・K・Oコール”のコーラスがまた楽しくて。
大原:実はこのコーラスを入れるか入れないか問題もあったんですけど(笑)、私はいいなと思ったので「入れましょうよ!」って。自分がファンだったらライブで楽しく発声できるよなって思ったんです。
──このコーラスも大原さんが?
大原:はい。「子供の声で」「次は野太い声の人」って一人で何役にもなって。今ちょうどリーディングドラマ『ふしぎ駄菓子屋 銭天堂』の公演中(4月19日〜6月1日)なんですけど、そこでは4役やっているんです。レコーディングのときに「4役やれるんだから、コーラスもやれるでしょ」ってマイク越しに言われて(笑)。結局、私自身、すごく楽しんで歌ってましたね。
──面白いなと思うのは、収録されている12曲分、それぞれの主人公がいて、キャラは一見、バラバラなのに、どれも“大原櫻子“を感じさせるものになっていることです。
大原:私が少しでも違うなと思ったら、正直にそうお伝えしているからだと思います。自分の価値観が音楽を通してお客様に伝わると思うので、違うと思ったり、このままでは歌えないと感じたりしたら、正直に作家さんにお伝えして、もう一度書いていただくこともあります。逆にその方から湧き出てくる言葉がほしいっていうお願いもしたり。本当に作家陣のみなさんには大変なご苦労をかけてしまいましたけど、それから出てくる楽曲たちは本当に素晴らしくて、どの曲も歌うのが楽しかったです。ただ、すごく短いスパンで録り切らなきゃいけなかったのは、大変でしたけど。
──どのくらいの期間だったんでしょう。
大原:1月に舞台『桜の園』が終わって、レコーディングが始まったのが2月からだったから……大体2か月です。「名前」「櫻」「Collection」の3曲を除いた9曲はその期間で歌いました。その間にもBillboard Liveでのライブ(【大原櫻子Premium Concert 2025「Not just I 2」】)の準備や次の舞台の稽古もあったので、今振り返るとすごいスケジュールでしたね(笑)。体調管理にはかなり気をつけていました。「今日の体調は大丈夫かな」って毎朝ドキドキしてましたね。

──それにしても大充実の作品です。12曲すべてシングルカットしてもいいくらい聴き応えもたっぷりで。こうして完成してみて、大原さんご自身はどんなアルバムになったと思いますか。
大原:『Traveling』というタイトルの通り、異国を巡っているような感覚があります。本当に旅をしているような軽やかな感じがあって、でも国によってはディープなところもある、みたいな。曲調も、歌詞の世界観も、作ってくださった方によってまったく違うので、正直、アルバムとしての統一感はあまりないかもしれませんが、だからこそ面白い作品になったなと思います。歌にするから話せることや、普段は言えない心の奥底にある本音みたいなものを書いてくださる方がとても多いなと私は感じていて。私だけじゃなく、みんなが本音ではそう思ってるよねってことをちゃんと言葉にしている曲が揃ったと思っています。
11年目という新たなステージの幕開けにぴったりな、未来が楽しみで仕方がないワクワク感に溢れる1枚になったとも思いますし、聴いてくださる皆さんにも、そう受け取ってもらえたら、これ以上幸せなことはないですね。最後は「風の冒険者」のカットアウトでかっこよく終わるアルバムですけど、終わったあとも進んでいく足音が聴こえるというか……それを意図して「風の冒険者」をラストに選んだんです。
──新たなステージに向けて今、どんな展望を抱いていらっしゃるのでしょう。
大原:毎回、壁を破っていくというか、過去を打ち破って突き進んでいく感じなので、そこは変わらないと思ってます。ただ、ファンのみんなには「10周年以上に11年目が楽しかった」って振り返ったときに思ってもらえるようにしたいので、そこはぜひ期待していてください!
リリース情報
『Traveling』
2025/6/11 RELEASE
<初回限定盤A(CD+フォトブック)>
VIZL-2442 6,600円(tax in)
<初回限定盤B(CD+BD)>
VIZL-2443 5,500円(tax in)
<通常盤(CDのみ)>
VICL-66068 3,600円(tax in)
ツアー情報
【大原櫻子全国ツアー2025「Trip To rakko Traveler」】
6月17日(火)愛知・名古屋・岡谷鋼機名古屋公会堂
6月20日(金)北海道・札幌・共済ホール
6月29日(日)大阪・東大阪市文化創造館 大ホール
7月4日(金)東京・オペラシティ コンサートホール
7月12日(土)沖縄・ガンガラーの谷
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