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<インタビュー>ロックの魂を持った別の何かも作ってみたい――14周年を迎えるLiSA、大きな節目を前に加速するチャレンジ精神【MONTHLY FEATURE】
Interview & Text:Takuto Ueda
Photo:興梠真穂
Billboard JAPANが注目するアーティスト・作品をマンスリーでピックアップするシリーズ“MONTHLY FEATURE”。今月は、間もなくソロデビュー14周年イヤーを迎えるLiSAのインタビューをお届けする。
1月に先行配信した最新曲「ReawakeR (feat. Felix of Stray Kids)」は、同じく1月より放送スタートしたアニメ『俺だけレベルアップな件 Season 2 -Arise from the Shadow-』のオープニング・テーマ。原作は『ピッコマ』にて累計PV6.5億回超を記録したコミック作品で、2024年1月にスタートしたアニメSeason1は、複数国でのワールドプレミア開催、米NY・タイムズスクエアをはじめとする大々的な広告掲載など、異例の世界同時展開が行われた。
韓国のみならず世界的に人気を集めるStray Kidsのメンバー、フィリックスをゲストボーカルに迎え、『進撃の巨人』や『機動戦士ガンダムUC』などの音楽でも国内外に名を轟かす音楽プロデューサー、澤野弘之が作編曲を担当した「ReawakeR (feat. Felix of Stray Kids)」も、アニメ人気が加熱していくに伴い、グローバルな広がりを見せている。Billboard JAPANが発表する、世界でヒットしている日本の楽曲をランキング化した“Global Japan Songs Excl. Japan”では、3月27日公開分で4連覇を達成した。
そして3月5日、同曲を表題としたシングルがリリース。日本人女性プロデューサーとして初のグラミー賞ノミネート作品へ参加したTOMOKO IDA、そしてSOULHEADのメンバーで現在は作家として活動しているTSUGUMIの共作による「RED ZONE」、さらに2度目のタッグとなるキタニタツヤが提供した「うぃっちくらふと」を加えた、計3曲入りとなっている。いずれもLiSAとしての新境地を提示している本作について、話を聞いた。
覚悟の度合いという意味では、
私も音楽に同じようなものを求めているように感じます
――新曲「ReawakeR (feat. Felix of Stray Kids)」は、アニメ『俺だけレベルアップな件 Season 2 -Arise from the Shadow-』のオープニング・テーマ。最初にタイアップのお話を聞いたときはどんな心境でしたか?
LiSA:そのときはまだSeason 1が始まる前だったので、最初に漫画を読みました。そのあとにアニメの放送が始まって、とても簡単な言葉になってしまうけど、命が吹き込まれた感じがして。キャラクターたちの性格や強さ、色みたいなものが、アニメになったことでより深く描かれているなと感じたんです。
――原作を読んだとき、どんな部分を魅力に感じました?
LiSA:主人公の水篠旬くんは、ただ楽しくてハンターをやっているわけではなくて。もうちょっと切羽詰まっている感じというか、職業としての必要性に駆られてやっているわけじゃないですか。それでも最初は劣等生側で、いろんな大変なものを背負いつつ、再覚醒者になってまた違った運命を背負わされたりして。あまり日本では見ないような世界観がありますよね。
――LiSAさん自身が共感する部分もある?
LiSA:そうですね。傷を背負って強くなっていくというか、大変な背景があるからこそやらなければならない、みたいな。そういう覚悟の度合いという意味では、私も音楽に同じようなものを求めているように感じます。

――作編曲は澤野弘之さんが担当。そしてゲストボーカルとして、Stray Kidsのフィリックスさんが参加しています。Stray Kidsの日本1st EPには、LiSAさんがフィーチャリング参加した「Social Path (feat. LiSA)」が収録されていましたね。今回のコラボレーションの着想はどんなところから?
LiSA:おふたりとも、またどこかでご一緒したいという案はずっとポケットの中に持っていたんですけど、明確にタイミングがあったわけではなくて。澤野さんはアニメのSeason 1でもテーマソングと劇伴を担当されていたので、その澤野さんの世界観を壊すのではなく、引き継ぐ形でバトンを受け取りたい気持ちがあったんです。
――フィリックスさんについては?
LiSA:Season 1では澤野さんとTOMORROW X TOGETHERさんがご一緒されていたし(SawanoHiroyuki[nZk]:TOMORROW X TOGETHER「LEveL」)、韓国原作のアニメですし、以前は私がStray Kidsさんにお呼ばれした経緯もあったので、私からお誘いするタイミングがあるとしたら今回かもしれないなって。私の高音とフィリックスさんの低音もいい塩梅になって、すごくコントラストを持った楽曲になったなと感じています。
――LiSAさんから見て、澤野さんはどんな音楽プロデューサーだと思いますか?
LiSA:「narrative」(SawanoHiroyuki[nZk]:LiSA)で初めてご一緒したときは、生楽器のヘヴィなサウンドを使ってダークなロックをやられている印象でした。でも、それから7年経って、最近はダンス・ミュージックとか、デジタルなサウンドも違和感なく使われていて、澤野さんも進化されているんだなと感じます。でも同時に、作品にしっかり寄り添っているというか、むしろ澤野さんが作品を形作っているというか。
――しっかりシグネチャーとなるサウンドを持ったクリエーターさんですよね。「ReawakeR (feat. Felix of Stray Kids)」も重厚なベースとダンサブルなビートが交錯するナンバーで、LiSAさんの楽曲としても新機軸を打ち出す仕上がりになっています。
LiSA:澤野さんの根底にロックがあるということがすごく大切で。ただデジタルの要素を取り入れるのではなく、きちんとロックの魂を持った人が作るダンス・ミュージック。そういうところに連れて行ってくれるのが澤野さんなんじゃないかと思ったんです。
――どのようなやり取りを交わしながらブラッシュアップしていったのでしょうか?
LiSA:何度かお話しさせていただきつつ、でも、わりと最初から今のサウンドは出来上がっていました。そのうえで、私が実際にステージに立って、フロアがどんなふうになっていてほしいか、みたいなイメージを追加でお伝えした記憶があります。

――ロックはLiSAさんにとって大事なルーツのひとつだと思いますが、そこに新たなエッセンスを加えようという今作の音楽モードは、どんな考えから生まれたものなのでしょう?
LiSA:もちろん時代性とかトレンドもあると思うんですけど、自分自身のことで言えば、私はロックが好きで、そういうサウンドが好きで、この13年間それをやり抜いてきたという自信もあって。ある意味、“最高のロック”はすでに持っているから、それ以上のロックをさらに発明するというより、ロックの魂を持った別の何かも作ってみたい。そういうチャレンジ精神が芽生えてきたから、というのが大きいかもしれないですね。
――LiSAとしてのロックをやり切った、みたいな手応えがどこかであったりしたのでしょうか?
LiSA:うーん……、たとえば前作の「QUEEN」もロックなんですけど、そこに少しデジタルな要素が入っていて。そういうデジロックみたいなサウンドって、思い返せば「Rising Hope」等でも昔からやってきたことなので、その割合がどちらに寄っているか、みたいなニュアンスだと思いますね。
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フィリックスから得た発見と、“安心感”
――今回のコラボレーションで得た刺激や学びを挙げるとしたら?
LiSA:改めて「男性の声と混ざるのってアリなんだな」と思いました。しかも、フィリックスさんは歌い上げる系ではなくラップで、自分名義の楽曲でそういう組み合わせは初めてだったので。それでもちゃんとロックも感じられるし、アニメ作品に寄り添うことができるんだという新しい発見がありました。
――フィリックスさんの歌声を想像しながらレコーディングされたと思うのですが、普段と違ったアプローチ、気をつけたことなどはありましたか?
LiSA:何かに気をつけたというより、私は普段ソロシンガーなので、横並びで一緒に戦ってくれるボーカルがいるという安心感がありました。
――韓国で撮影されたミュージック・ビデオも公開中です。
LiSA:とにかくフィリックスさんが美しいです。天使でした。カメラが回っていないときは可愛らしい少年で、すごく気さくだし、周りに対する気遣いもしてくれるし、私のことも「LiSA先輩」ってすごく慕ってくれていて。でも、低音ボイスなこともあって、歌い始めると印象がまったく違う。そのギャップが彼の魅力だなと思います。
ReawakeR (feat. Felix of Stray Kids) / LiSA
――チャート・アクションも好調です。Billboard JAPANの“Global Japan Songs Excl. Japan”では、3月27日付で4週連続の首位を獲得。海外からの反響も届いていますか?
LiSA:そうですね。まず『俺レベ』のアニメ自体、発表されたときから海外の反響が大きかったですよね。私自身も海を越えて何度もライブをしてきたし、澤野さんとStray Kidsさんも海外でたくさん活動されているので、世界に届けている感覚はすごくありました。
女性が持っている強さを表現することが
すごく楽しくなってきた
――カップリングについても聞かせてください。2曲目の「RED ZONE」ではTOMOKO IDAさん、TSUGUMIさんがクレジットされています。TOMOKO IDAさんはラテンポップ界のトップ・プロデューサー、タイニーのデビューアルバム『DATA』に参加し、【第66回グラミー賞】ラテン部門の<最優秀アーバン・ミュージック・アルバム賞>にノミネート。どんな経緯でコラボレーションに至ったのでしょうか?
LiSA:“女性の強さ”みたいことも私が開拓したかったことのひとつで。そういう部分で力を貸していただける方がいないか探していくなかで、TOMOKOさんとの出会いがありました。TSUGUMIさんもアーティストとしてSOULHEADで活動されてきた方なので、本当に先輩から熱を受け取って歌っているような感覚でしたね。
――かつてバンドを結成し、ライブハウスを中心に活動されていたLiSAさんにとって、当時は男社会のなかでどう馴染んでいくか、もしくは戦い抜いていくか、という時期だったのではないかと想像します。
LiSA:そうですね。子供の頃は女性らしさみたいなものが鬱陶しくて。どちらかと言えばアヴリル・ラヴィーンのような、カッコ良さやセクシーさを隠し持っている女性に魅力を感じていました。でも、自分が女性であることを受け入れたとき、決してそれを見せびらかすわけではないけど、女性が持っている強さを表現することがすごく楽しくなってきた。その気持ちは活動を続けていくなかで強まっていきましたね。そういうことをTOMOKOさんにもお話ししました。

――ガールクラッシュを連想させるアグレッシブなダンスビートが印象的なナンバーです。リファレンスとして具体的に挙がっていた楽曲やアーティストはありましたか?
LiSA:TOMOKOさんとの会話の中でいろんな楽曲のリファレンスはあったんですけど、結果的に、TOMOKOさんもTSUGUMIさんも私のNetflixドキュメンタリー(『LiSA Another Great Day』)を観てくれて。そこから私に赤を纏わせて、“危険な女”みたいな表現をしてくださったのが「RED ZONE」でした。
――トラックの第一印象は?
LiSA:めちゃくちゃかっこいいけど、初挑戦すぎて取り入れるのにすごく時間がかかりました。歌い方とかリズムの取り方とか。ずっと私がやってきたLiSAのロックって、どちらかと言えば自分がサウンドを“引っ張っていく”ものだったので、ビートに自分が“乗る”というのが難しかったんです。
――でも、リスナーとしては馴染みがない音楽というわけでもないですよね?
LiSA:そうですね。元をたどればSPEEDが好きだったし。ダンスをしていた頃の自分と、ロックで培った強さを持った自分がようやく出会った、みたいな感じです。私は、ロックって“魂”のことを言うと思っているんですけど、そういう魂を感じるデジタル・ミュージックやダンス・ミュージックを、ライブで生の人間が表現するとき、新しいものを聴いている感じがしてグッとくるんです。人間のグルーヴ感に連れていかれるドキドキ感というか。そういうものを、今の私のバンドだったらライブで表現できるんじゃないかって。以前、ケシャのライブを日本で見たんですけど「この距離で聴く生バンドのケシャ、やばいな」と思ったんですよね。
――この曲がLiSAさんのライブで、あの強力なメンバーのバンド演奏で披露されたらどんなふうになるのか、というワクワクがありますね。
LiSA:そうそう。ロサンゼルスでブリンク182のライブを見たんですけど、CDで聴いていた昔懐かしい曲も、ライブでは全然違って聴こえたんですよ。お客さん全員が合唱していてなんだか新しい曲を聴いている感覚になったし、それが生のすごさというか、人間のすごさというか。そういう衝撃と楽しさをこの曲でも味わってほしいです。
RED ZONE / LiSA
――冒頭の〈LiSA LiSA LiSA〉があまりにもインパクト大すぎて……。
LiSA:いつも新たな挑戦をするときって、自分を出すというより、自分が“染まりにいく”気分でやっていて。たとえばソロ活動を始めるときも、ボカロPの方々と一緒に作ったミニアルバム(『Letters to U』)でデビューしたんですけど、自分のコアを持ちつつ、そこに入ってみる感覚でやってみたら、それが新しい自分になっていた。思い返せばGirls Dead Monsterのときから経験してきたことで、今回もそれに近いかも。
――キャラになりきるじゃないですけど、自分の歌声を自分にはない世界観の中で響かせるというか。
LiSA:でも、もうボーカルという役割ではあるし、何をしても自分の声だから、どういう歌をうたってもLiSAになってしまうので、そこは信じようと思いました。自分が持っているこの声を信じて、裸で飛び込んでみよう、みたいな感覚でしたね。

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キタニタツヤとの2度目のタッグ
――そして、3曲目「うぃっちくらふと」はキタニタツヤさんの楽曲提供。2024年8月にリリースしたシングル『ブラックボックス』のカップリング曲「洗脳」以来、2度目のタッグとなります。
LiSA:この曲も「洗脳」と同じタイミングでご相談していました。キタニさんがすごく振り幅のあるクリエーターさんなので、ロックな曲もデジタルな曲も一緒にやりたくて。「どちらも一緒にやれたら絶対に面白いので!」と2曲作ってもらいました。キタニさんらしい世界観。どちらかと言えば彼ってヴィラン側じゃないですか。
――ダークでシリアスな世界観ですね。
LiSA:私もどちらかと言えばヴィラン側なんですよ。だから、絶対に面白いものが作れるんじゃないかって。結果、完全にヴィランじゃないですか、これ。
うぃっちくらふと / LiSA
――“うぃっち”ですからね。具体的にはどんな楽曲イメージを伝えていたんですか?
LiSA:キタニさんの「化け猫」という曲が好きで、ああいう世界観の曲と「デマゴーグ」のストレートなロックの感じ、その二通りでご一緒したいと提案させていただきました。その「化け猫」側の曲が「うぃっちくらふと」ですね。
――それでキタニさんから出てきたテーマが“無邪気残酷魔法少女になったLiSA”。これを聞いたときはどう思いました?
LiSA:性格悪いなと思いましたね(笑)。
――あははは。
LiSA:「魔女っ子LiSAを見てみたい」と言っていて、独特な視点を持っているなと思いました。
――タイトルの「うぃっちくらふと」がひらがな表記になっているのも。
LiSA:ハートが付いていないだけよかったなと思います(笑)。

――制作はどんなやり取りをしながら進めていきましたか?
LiSA:「うぃっちくらふと」はそこまで(詳しく)やり取りしていなくて。最初からこの形で届きました。なんなら「洗脳」より先でしたね。だから、たぶんキタニさんが私に着せたい服はこっちだったんだと思います。
――先ほどのお話を踏まえて言うならば、この「うぃっちくらふと」もある種の女性的なしたたかさ、世界観の深さが出ているなと感じます。歌詞の印象は?
LiSA:言葉遣いが面白いですよね。〈かわいそうね、かわいい/そうね、痛いね!〉とか、“愛”を繰り返すところとか、口がすごく気持ちいい言葉になっているけど、きちんとそこに面白い意味も入れてくれている。
――歌い心地とギミックが両立している。
LiSA:この曲は実際にキタニさんがボーカル・ディレクションしてくれて。すごく楽しそうにやっていました。この曲を歌う私を楽しんでいました、絶対。自分でも実践してくれたりしながら。
――LiSAさん自身はどんなアプローチをしようと思いましたか?
LiSA:でも、私の中にない感情でもないから、それをキタニさんという人のせいにして、思いっきり心置きなく出せたというか。
――3曲ともすごくチャレンジですし、また新しいLiSAさんに出会えるシングルだと思いました。そして5月、日本武道館にてソロデビュー14周年イヤーを記念した公演【LiSA LiVE is Smile Always~RiP SERViCE~】が控えています。
LiSA:武道館は毎年、周年のライブをやらせていただいていることもあって、私の中では整える場所というか、正式なスタートラインという感覚があります。何か結果を見せるというより、そこから始まっていく場所。
――2025年の年間テーマは“PATCHWORK”を掲げていますよね。
LiSA:14周年イヤーということは来年で15周年イヤーなんですけど、大きな節目を前にして、これまで出会えなかった人と出会ったり、新しいことにも挑戦して、それを縫い合わせながら15周年に向かいたい、という気持ちで今年は活動をしていくつもりです。

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ReawakeR (feat. Felix of Stray Kids)
2025/03/05 RELEASE
VVCL-2662 ¥ 1,430(税込)
Disc01
- 01.ReawakeR (feat. Felix of Stray Kids)
- 02.RED ZONE
- 03.うぃっちくらふと
- 04.ReawakeR (feat. Felix of Stray Kids) -Instrumental-
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