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<コラム>待望の来日実現 レイチェル・ゼグラーの歌声に世界が震える 実写版『白雪姫』劇中音楽に注目
Text: 服部のり子
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『白雪姫』の実写版映画が3月20日に公開される。『白雪姫』は、ディズニー初の長編アニメーション映画として1937年に公開されて以来、90年近くも愛され続けている不朽の名作だ。
そんな名作の実写化で、まず気になるのは誰が白雪姫を演じるかだろう。選ばれたのは現在23歳のレイチェル・ゼグラーだ。米ニュージャージー州で生まれ、母方がコロンビア出身という彼女は、スティーブン・スピルバーグ監督が60年ぶりにリメイクした映画『ウエスト・サイド・ストーリー』のマリア役で映画デビューした。一途な恋を貫き、名曲「トゥナイト」などをピュアヴォイスで歌うレイチェルは、“スター誕生”という言葉がピッタリだった。まさに3万人以上の応募者から抜擢された逸材だと思わせた。そして、新人のレイチェルは、この作品で【ゴールデングローブ賞】の〈ミュージカル・コメディ部門主演女優賞〉を獲得した。今回、『白雪姫』のプロモーションで初来日中の彼女がどのようなパフォーマンスを披露するのか注目が集まっている。
その後も映画出演が続くが、なかでも印象的だったのは、さまざまな場面で歌を披露した『ハンガー・ゲーム0』だ。人気シリーズ『ハンガー・ゲーム』の前日譚となる作品なのだが、ゲームプレイヤーに選ばれたレイチェルが権力に屈することを拒むように、「私から奪えるものに価値はない」と歌う「Nothing You Can Take From Me」は、聴く人の心を鼓舞させる尊いものだった。
また、先日までニューヨークのブロードウェイで上演されていたミュージカル『Romeo + Juliet(原題)』で、ジュリエットを演じた。この古典の名作では、テイラー・スウィフトのプロデューサーとしても知られるジャック・アントノフが書き下ろした新曲「Man Of The House」を歌った。ポップシンガーとしての可能性も十分に感じさせる1曲になっている。
映画『白雪姫』にも新曲がある。そのひとつが先行公開中の映画のトレーラーで聴ける「夢に見る ~Waiting On A Wish~」だ。レイチェルが白雪姫の心情を情感たっぷりに歌うこのリード曲は、売れっ子のパセク&ポールが書き下ろしている。
パセク&ポールは、『ラ・ラ・ランド』や『グレイテスト・ショーマン』といったミュージカル映画の音楽で知られるコンビだ。ミシガン大学で演劇を専攻していた2人は、共に1985年生まれで、自らの経験もあってか、“夢を追う”というテーマをひとつ得意としている。その一例がLAの高速道路で撮影された映画『ラ・ラ・ランド』のオープニングで歌われた「アナザー・デイ・オブ・サン」。何歳になっても情熱の灯を消してはいけない――そういう内なる叫びを焚きつけるような歌詞に刺激された人も多かったかと思う。
そんなコンビは、『白雪姫』以前にも古典の名作に新曲を書き足したことがある。2019年に実写化された映画『アラジン』だ。アラン・メンケンと共作した「スピーチレス~心の声」という歌で、「女は王にはなれない」、「女に意見はいらない」と言われた王女ジャスミンは、〈声をあげよう/怖くて震えても〉と自身の誓いを歌う。映画前半で、とても鮮烈なインパクトをもたらした歌だった。
『アラジン』の原作は、9世紀から10世紀にかけての物語を編纂した『千夜一夜物語』。その時代の社会として女性の自由な活動や意見が認められていなかった。だから、1992年のアニメーション映画に、この歌は登場しない。パセク&ポールは、そんな時代を舞台にしたファンタジー映画の雰囲気を壊すことなく、現代の観客に訴えかける歌をストーリーに挟み込ませることに長けている。だからこそ、19世紀初頭のグリム童話を原作とする『白雪姫』で白羽の矢が立てられたのだろう。
映画『白雪姫』の全容は、まだ明らかにされていない。もちろん女王が魔法の鏡に向かって、「世界で一番美しいのは誰?」と問う言葉も、彼女を恐れて森に逃げた白雪姫が7人のこびとと出会い、「口笛ふいて働こう」を一緒に歌ったり、毒リンゴが登場したりもする。新たなミュージカル版として実写化された『白雪姫』では、白雪姫が自身の境遇をなんとか変えたいと心から願っており、それを象徴する楽曲が「夢に見る ~Waiting On A Wish~」だ。まだ光は届いていないけれど、誇れる自分を夢見て、奇跡が起きることを待っているという白雪姫の心情が描かれている。
その歌を凛とした声に、運命を切り拓いていけそうな意思の強さが宿っているレイチェルが歌うのだ。心を奮い立たせるような表情と共に、世界中に夢と勇気を届けるに違いない。“Hope”でも、“Want”でも、“Dream”でもなく、“Wish”という言葉で胸に抱く願いを歌う。100年の歴史を誇るディズニーからのメッセージを受け取る思いがする。