Billboard JAPAN


Special

<わたしたちと音楽 Vol. 52>ケロポンズ みんな悩みを抱えてる、子育てと仕事の悩みを歌とサポートで解決

インタビューバナー

 米ビルボードが、2007年から主催する【ビルボード・ウィメン・イン・ミュージック(WIM)】。音楽業界に多大に貢献し、その活動を通じて女性たちをエンパワーメントしたアーティストを毎年<ウーマン・オブ・ザ・イヤー>として表彰してきた。Billboard JAPANでは、2022年より、独自の観点から“音楽業界における女性”をフィーチャーした企画を発足し、その一環として女性たちにフォーカスしたインタビュー連載『わたしたちと音楽』を展開している。

 今回のゲストは、「エビカニクス」で知られ子育て世代と子供たちから圧倒的な支持を集める増田裕子(ケロ)と平田明子(ポン)の2人組・ケロポンズ。一度聞いたら忘れられないキャッチーなメロディーと歌詞は、これまでに多くの親子に楽しい時間を提供してきた。ユニバーサルミュージックが講談社とともに始めた音楽プロジェクト「KIDS MUSIC PARK」(https://www.billboard-japan.com/d_news/detail/144197/2)の第1弾アーティストにも選出。日本中の親子と接する彼女たちが考える、女性がより働きやすくなるための環境作りとは。(Interview:Rio Hirai[SOW SWEET PUBLISHING] l Photo:Shinpei Suzuki)

育児のあるあるを解決する、
KIDS MUSIC PARKから生まれた新曲


――ユニバーサルミュージックが講談社のWebメディア『with class mama』とコラボレーションした音楽プロジェクト「KIDS MUSIC PARK」の第1弾アーティストに選ばれたお二人は、全国のパパやママのリアルな声を元に、新曲「チューざぶろー」を制作したそうですね。このプロジェクトの依頼を受けたとき、どのように感じましたか?

平田明子(以下、ポン):とても嬉しかったです。私たちがこれまでに続けてきた親子コンサートとも通じる部分があって本当にワクワクしましたし、プロジェクトを立ち上げたユニバーサルミュージックの社員も子育てをしているお母さんで、それも良いなと思いましたね。「KIDS MUSIC PARK」はママインフルエンサーの皆さんと直接お話ししながら、リアルな声を聞いて一緒に楽曲を作るというのが新しい試みでした。


――実際に、ケロポンズさんの音楽に助けられたママたちも多いと思います。そうした方々からのフィードバックやコメントで、新たな発見や新鮮だったことはありましたか?

増田裕子(以下、ケロ):はい、たくさんありましたね。今回は、ポンちゃんが最初に歌詞を書き、それに曲をつける形で進めました。ママたちに歌詞を聞いてもらい、「お子さんはどう反応しますか?」と意見を聞くと、「うちの子はお尻を振ると笑うんですよ!」という声があがり、「うちの子も!」と共感の輪が広がりました。そこで、「じゃあ、お尻を振る動きを取り入れよう」といった流れで制作が進んでいきました。育児に悩んでいるママの中には、「照れてしまってハグやキスがなかなかできない」という声もあったので、振り付けにハグや投げキッスを取り入れたりして。歌の中でやると、みんな自然とできちゃうんですよね。笑いながらやっているうちに、だんだん慣れていくのが面白いです。


――肌と肌が触れ合うコミュニケーションは、心を和ませたり、仲良くなるために大切なのでしょうか?

ケロ:そう思います。体温を感じるのはとても大事なことですね。触れ合うことで、安心感が生まれるのではないでしょうか。


ポン:今のママインフルエンサーの方々は、発信力があり、さまざまな情報をシェアする力を持っています。一方で、子育てに悩んでいるママたちは、そうした発信を見て「これ、あるある!」と共感し、勇気づけられることも多いのではないでしょうか。そうした新しい形のコミュニティを持つママたちと関わることができて、とても面白かったです。


――12月に配信リリースされてから、ライブでも披露されているとのことですが、反応はいかがですか?

ポン:すごく楽しいですね。「みんなハグしてくれるかな?」と思っていたら、思った以上に楽しんでくれて。子ども同士はもちろん、親子や保育士さんの研修会で大人同士でもやったりするんです。特にハグのところでは、みんな「キャー!」って盛り上がるんですよ。



▲「チューざぶろー」MV



土日も出張続き
育児は周りのサポートありき


――ポンさんご自身は二人のお子さんがいらっしゃいますが、子育てとお仕事の両立はどのようにしてきたのでしょうか。

ポン:うちは双子だったんですが、産後4か月で仕事を再開しました。最初は「誰にも頼らずに自分たちでやる!」って意気込んでいたんですけど、実際には思いもよらないことが次々と起こって……。


――どんなことがあったんですか?

ポン:まず、妊娠してすぐに体調を崩してしまって、ほぼ1年間寝たきりになったんです。本当は出産ギリギリまで働くつもりだったのに、突然仕事ができなくなってしまって。でも、私たちの仕事って1年前からスケジュールが決まっているんですよ。コンサートの予定がびっしり入っていたのに動けなくなってしまい、たくさんの人に助けてもらうことになりました。


――それは相当なプレッシャーですね。

ポン:そうなんです。周りには「誰にも迷惑をかけない」って言っていたのに、結局、会社にも迷惑をかけるし、子どもをちゃんと育てられるのかも不安で……。嬉しいはずの出産だったのに、悩みのほうが大きくなってしまって、ベッドの上で泣いてばかりでしたね。


――そんな状況から、どうやって気持ちを上向かせていったんですか?

ポン:とにかく「もう休めない」と思い、出産4か月目から仕事を再開したんです。その後長野に移住したんですが、双子の育児は大変でした。母や元夫、近所の友達、頼める人すべてに頼っても、難しい部分があって。最終的に、各自治体が仕切っているファミリーサポートセンターを利用しました。この制度は、地域の登録者が子どもを預かってくれる仕組みなんです。でも私の仕事は泊まりが多くて、土日はほぼ出張だったのですが、この制度は泊まりには対応していなくて……。困り果てていたら、ある支援員の方が「制度上できないけど、困るよね」と言ってくれて、数人に声をかけてくださって、泊まり対応をしてくれるようになりました。こうして“泊まりのファミリーサポート”が始まったんです。


――制度を超えて支援が広がることもあるのですね。

ポン:本当にありがたかったです。そのおかげで仕事を続けられましたし、今でもその方たちとは家族のような関係です。


コンサートを続けていて感じる
変わりゆく社会とジェンダーギャップ


――2004年に活動をスタートされて、現在もお母さんやお父さんたちとお話しする機会が多いと思いますが、社会の変化や時代の流れを感じることはありますか?

ポン:そうですね。同じように歌っている若い女性アーティストの中には、育児と両立しながら活動している人も増えました。例えば「出産のために一旦お休みするけど、産後は戻るね」と自然に言えて、みんなもそれを受け入れている。この空気感は、昔とはやっぱり違いますね。


ケロ:かつて、ポンちゃんが妊娠したときには、まだSNSが普及していなくて、情報を得るためのツールは掲示板サイトが主流でした。その掲示板に「妊娠をなぜコントロールしなかったのか?」というような書き込みがあったんです。それを見たマネージャーが怒って、発信元を調べたら、書き込んでいたのは全員女性だったんです。たぶん、それは嫉妬や社会の厳しさを反映していたのかもしれません。「妊娠中に働くのは大変なんだぞ」と、自分も苦労してきたからこそ厳しくなってしまうのかなと。でも、すごく悲しくて、おめでたいことがこんなにもネガティブに受け取られることに、強い憤りを感じました。


――今でもまだその名残はあるかもしれませんが、ずいぶん変わってきたようにも思います。

ポン:本当にそうですね。でも、今は育休を取ることが当たり前になってきたし、コロナ禍で「無理せず休んでください」という風潮が広がったのも大きな変化です。昔は、2人組で活動していると、どちらかが休むと仕事が回らなくなる不安がありました。でも、今は後輩も増え、社会全体の考え方も柔軟になってきていいことだなあって思います。


――妊娠・出産に限らず、女性であることでキャリアに影響を感じたことはありますか?

ケロ:私はあまり“女性だから”と意識せずに活動してきたので、大きな壁を感じることは少なかったかもしれません。音楽大学も女性が多いですし、保育業界も女性が多いんですよね。


ポン:出産してすぐの時期に、同業の男性から「お母さんが出産すると、こういう仕事に支障が出て大変だね」と言われたことがあって。「俺は男だから関係ないけど」というような口ぶりだったので驚きました。「子育ては女性がするもの」という前提で話されると、モヤモヤしますね。その場では驚きすぎて言い返せなかったのですが、相方にはすぐに話しましたね。


――性別による役割分担の意識も、少しずつ変わってきていますよね。

ケロ:そう思います。コンサートでも、昔は「パパは子供を連れてきただけ」という雰囲気で居眠りしているような人もいたのが、今ではパパも一緒に楽しんでくれるようになりました。赤ちゃんを抱っこしていたり、子どもを連れてコンサートに来る姿も増えました。本当に時代は変わりましたね。


風通しの良い人間関係で、
働きやすい環境を作る


――エンタテインメント業界は、働き方がイレギュラーで土日がメインになることも多いですよね。女性がより働きやすくなるには、どのような変化が必要だと思いますか?

ポン:子育ての経験を通して思ったのは、国の制度が現実に追いついていないということ。役所の人たちは「子育てする女性は9~17時で働いている」と思っているけれど、実際にはエンタメ業界のように不規則な仕事もあるし、夜中の仕事や泊まりの仕事だってある。でも、そういう現実に寄り添う制度がまだまだ少ないなと感じました。


――確かに、多様な働き方に対応できる制度がもっと必要ですね。

ケロ:うちの会社は小さくて柔軟なので、働く人の事情に合わせて調整しやすいんです。例えば、卒業式の日は仕事を入れないとか。もっと社会全体が、働く人の事情に寄り添って柔軟に対応できるといいですね。


――この柔軟なチーム作りは、意識的にされたのですか?

ケロ:「楽しく働きたい」という気持ちは最初からありました。実際に運営していく中で、誰かがしんどそうにしていると、全体の雰囲気も悪くなると気づいたんです。だから、困っていることがあれば話し合って、解決策を探るようにしています。


ポン:エンタメ業界はスピード感が求められるので、一般的な大企業だと「締め切りがあるから無理」となることも多いでしょう。でも、小さな組織だからこそ、メンバーの意見を大切にしながら進んでいける。これは、どの業界でも大事なことだと思います。風通しを良くして、みんなが「最近働きやすくなったね」と思える環境を作っていけたら理想的ですね。


――若い頃って、「人に迷惑をかけないように頑張らなきゃ」と思ってしまいがちですよね。でも年齢を重ねて、いろいろな経験をすると、「助けを求めてもいいんだ」と思えるようになったりします。頑張りすぎてしまう人に向けて、どうしたら少し楽になれるのか、アドバイスをいただけますか?

ポン:心のうちを話せる人がいたら、それだけで違うと思います。友達でも、パートナーでも、SNSでつながっている人でもいい。とにかく1人で抱え込まないことが大切です。私も長野に住んでいた頃、離婚もし子育てと仕事の両立に行き詰まって、「東京に戻るべきか、それとも長野に残るべきか」とすごく悩んでいました。仕事を続けられるかも分からなくて、まさに八方塞がり。もうダメだと思って、昔お世話になった保育の恩師に電話したんです。「私、もうどうしていいかわからない。」って泣きながら。そしたら、その恩師に「あなた、子どもに相談したの?」って言われたんです。


――えっ、子どもに?

ポン:そう、当時、うちの子は小学校3年生だったんです。だから、「そんな小さい子に相談なんてできませんよ」って言ったんですけど、先生は「何言ってるの。家族でしょ? 子どもだっていいこと言うかもしれないよ」って。それで、家に帰って、夜ご飯のときに話してみたんです。「ママ、すごく悩んでるんだけど、東京に戻るか、このまま長野にいるか、仕事を辞めて別のことをするか……どう思う?」って。そしたら、子どもたちがしばらく考えて、「ここに慣れてきたから、このまま住んで、ママは仕事を続けたらいいと思う」って。2人とも同じ意見でした。


――すごい! しっかり考えてくれたんですね。

ポン:「本当にいいの?」って確認したんです。「東京だったらすぐ帰れるけど、長野だったら帰れない日もあるよ」って。そしたら、「大丈夫。私たち2人だから頑張れる」って言ってくれて。その言葉で「じゃあ、頑張るね!」って決意できたんです。


――お子さんの一言が、人生の大きな決断につながったんですね。

ポン:そうなんです。だから、相談することって本当に大事。自分の中で「誰にもわかってもらえない」「この人には分かってもらえない」って決めつけずに投げかけてみると、意外な答えが返ってきて、新しい道が開けることがあると思います。


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