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<全曲レビュー>トラヴィス・スコットの最新作『UTOPIA』が米ビルボードに全19曲チャートイン



コラム

Text:Mackenzie Cummings-Grady / Billboard.com掲載

 ヒップホップ生誕50周年によって、クラシック・ラップの知識が再び多くの人の頭の中でリフレッシュされた一方で、トラヴィス・スコットの『UTOPIA』は、2020年代に最も期待されたリリースのひとつとして堂々たる地位を築いている。5年前に、『ASTROWORLD』のトリッピーでサイケデリックな風景はリスナーを新しい惑星へといざない、ジョン・メイヤーとテーム・インパラがナヴ、ビッグ・モー、そしてアンクル・ルークの「I Wanna Rock (Doo Doo Brown)」と共存できる幻覚の世界を作り出した。

 トラヴィスが2020年に『UTOPIA』を謎めかして発表した時、ロックダウン中に外出が制限される中で『ASTROWORLD』の異世界の次元をひたすら探検したダイハードなフォロワーの群れに導かれる形で彼の熱狂的なファンダムはすでに最高潮に達していた。だが、翌年11月に彼が主催した【アストロワールド・ミュージック・フェスティバル】で悲劇が起こったことで“ユートピア”は地上に崩れ落ち、終わりの見えない影響に彼が対処する間、その未来は不確かなままとなっていた。

 しかし、永遠に続くかのようなティーザー期間を経て、「K-POP」の洗練された夏らしいグルーヴに導かれて『UTOPIA』がついに2023年7月28日にリリースされた。バッド・バニーとザ・ウィークエンドがフィーチャーされたミックスは間違いなくポップ・ラジオを席巻するだろうが、『UTOPIA』の全体的な雰囲気を覆う暗雲を考えれば、このシングルは明らかに軽快だ。このアルバムが最も威力を発揮するのは最も陰鬱なときで、トラヴィスの緻密な背景描写は彼のキャリアの中でも印象的だが、いくつかの楽曲は他よりも感情的な力強さを放っている。以下、『UTOPIA』に収録されている全19曲についての米ビルボードの見解だ。

19. “FE!N” (feat. Playboi Carti & Sheck Wes)

 プレイボーイ・カーティのくぐもった口調のフローは、『UTOPIA』では少し場違いな感じがする上、「FE!N」の浅はかなドラッグの題材はトラヴィスのディストピア的なビジョンに関わるものではなく、(カーティの)『Whole Lotta Red』のB面のように感じられるというのが意外な事実だ。「FE!N」は、同じくらい熱狂的なカーティのファンベースのためだけに収録されたトラックのように思えてならない。


18. “TOPIA TWINS” (feat. Rob49 & 21 Savage)

 『UTOPIA』の11曲目に到達する頃には、トラヴィスはボン・イヴェールやサンファと並んで自分の死について考え(「MY EYES」)、ビヨンセと一緒にパラノイアについて話してきた(「DELRESTO (ECHOES)」)。そこから“ジェットスキーに乗った双子のビッチ”についてラップするのは唐突で見当外れな感じがする。「TOPIA TWINS」は夏の楽しみを提唱しているが、トラヴィスと21サヴェージは特に目新しいことは何も言っていない。ここでの救いはロブ49で、彼は純真に愛想よくアリーナに登場し、「トラヴィス、もし双子でシャム(二重体児)なのに、俺たち両方とやりたいって言ったらどうする?」などと、遊び心のあるラップを披露している。


17. “MELTDOWN” feat. Drake

 『UTOPIA』の11曲目に到達する頃には、トラヴィスはボン・イヴェールやサンファと並んで自分の死について考え(「MY EYES」)、ビヨンセと一緒にパラノイアについて話してきた(「DELRESTO (ECHOES)」)。そこから“ジェットスキーに乗った双子のビッチ”についてラップするのは唐突で見当外れな感じがする。「TOPIA TWINS」は夏の楽しみを提唱しているが、トラヴィスと21サヴェージは特に目新しいことは何も言っていない。ここでの救いはロブ49で、彼は純真に愛想よくアリーナに登場し、「トラヴィス、もし双子でシャム(二重体児)なのに、俺たち両方とやりたいって言ったらどうする?」などと、遊び心のあるラップを披露している。


16. “GOD’S COUNTRY”

 カニエ・ウェストの提供による、切々とした子供たちの声の幻惑的ループによって動かされている「GOD'S COUNTRY」は、トラヴィスの名曲になれるような不気味な素質をすべて備えているが、インパクトを残すには短すぎる。「GOD'S COUNTRY」という言葉には様々な意味が考えられるが、トラヴィスは代わりにパーティーをすることを選んでおり(“起きたら光が見える、ずっと酔ってるけど大丈夫”)、少し残念だ。


15. “I KNOW?”

 「I KNOW?」は、「DELRESTO (ECHOES)」でのビヨンセのエモーショナルなカタルシスに続いて歓迎すべき気分転換を提供し、『UTOPIA』の後半への結合組織として機能している。ほとんど間奏曲のような役割を果たしている「I KNOW?」は、まるで古参のファンに対し、しばらくの間、彼と一緒にリラックスしてみようという誘いに感じられる。自分たちがよく知るようになり、愛するようになった洗練されたオートチューンの歌声がまだ健在であることを思い出させるかのように。


14. “THANK GOD” (feat. KayCyy & Teezo Touchdown)

 幻惑的なオープニング曲「HYAENA」に続く「THANK GOD」では、トラヴィスが自身の安全地帯を完全にナビゲートしているのがわかる。KayCyyのタイトなトラップ・ビートのおかげで、トラヴィスは2018年の「BUTTERFLY EFFECT」のリズミカルなドライブを高めているようで、自身の欠点を受け入れ、『ASTROWORLD』からの数年間の個人的な成長を祝うために「THANK GOD」のざらついたベースを使っている。“The way we evolved and knocked down walls, this s–t’s outrageous”と、トラヴィスは物憂げにラップする。以前からのものへの感謝に溢れる一方で、彼は「THANK GOD」を使って前に進む必要性を認めている。


13. “TIL FURTHER NOTICE” (feat. James Blake, 21 Savage)

 誤解のないように言うと、「TIL FURTHER NOTICE」は素晴らしい楽曲だ。メトロ・ブーミンとジェイムス・ブレイクの万華鏡のようなプロダクションは、トラヴィスと21サヴェージのための輝かしいレイアウトとして機能している。二人は銀河のようなビートを使って複雑な恋愛事情に思いを巡らすが、感情の高ぶりがたくさん詰まったアルバムのエンディング・トラックとしての役割を果たしきれていない。とはいえ、トラヴィスがコールドプレイを聴いていることを知れたのは意義深く感じる。


12. “SIRENS”

 トラヴィスがニュー・イングランドの「Explorer Suite」をサンプリングした後に性的衝動を“ジャグリング”することについて力強くラップするのは、博識な彼をこれほど魅力的な才能にしたカオスの一種だ。「SIRENS」のイレギュラーなドライブは聴く者を混乱させるが、それに耐えることができればリスナーは呆然とし、満足するだろう。そしてマイクを握るトラヴィスのエネルギーによって、高まった感情を発散させたくなるのは言うまでもない。


11. “K-POP” (with The Weeknd & Bad Bunny)

 『UTOPIA』で最も軽快な楽曲である「K-POP」は、インターミッションのように感じられる、バッド・バニーとザ・ウィークエンドがそれぞれの才能を際立たせる場を提供する楽しい遊びのような曲だ。ザ・ウィークエンドの最後のヴァースは特に遊び心に溢れており、現在の黙示録的な出来事の後を描く世界観から『Starboy』や『Kiss Land』時代のエイベルのような、ドラッグを使った楽しいおふざけへと転換しており、懐かしさを呼び起こす。


10. “CIRCUS MAXIMUS” (feat. Swae Lee & The Weeknd)

 『UTOPIA』と対になっている映画の名を冠したトラックである「CIRCUS MAXIMUS」の喧騒は、リスナーを『UTOPIA』の終盤まで惹きつけておくという役割を果たしている。トラヴィスのラップは信じられないほど上手いが、ザ・ウィークエンドの高揚感溢れるフックがこの楽曲を成層圏へと押し上げている。


9. “PARASAIL” (feat. Dave Chappelle & Yung Lean)

 サウンド的に「PARASAIL」は『UTOPIA』から大きく逸脱している。濁ったギターのループとデイヴ・シャペルの説得力のあるスピーチに後押しされ、ヤング・リーンとトラヴィスは最高のオートチューン・コンビとなった。二人は自己嫌悪と、赦しを求めること生じる葛藤について嘆いている。ヤング・リーンとトラヴィスが人間であることの厳しい現実について熟考するこの楽曲はアルバムを雲の上から地上に引き戻し、『UTOPIA』における格好の気分転換となっている。


8. “LOOOVE” (feat. Kid Cudi)

 キッド・カディとトラヴィスのザ・スコッツとして知られるジョイント・ベンチャーは、1曲のセルフ・タイトル曲以上の実を結ぶことはなかったが、「LOOOVE」は説得力のある(そしてある意味、悲痛な)、あり得たかもしれないものを見せてくれる。両ラッパーはファレルの息の詰まるようなビートの上を浮遊し、完璧に上下しながら紡がれるバウンシーで楽しいトラックに仕上がっている。


7. “LOST FOREVER” (feat. Westside Gunn & James Blake)

 『UTOPIA』から最も期待されていた楽曲のひとつで、トラヴィスは1976年に発表されたチェック・センリックの「Don't Be So Nice」を気怠くリメイクしており、ウェストサイド・ガンに驚くほど完璧なプラットフォームを提供している。ウェストサイド・ガンが名声の恩恵に焦点を当てた長くて印象的なヴァースを披露し、ジェイムス・ブレイクの不気味なボーカルも加わった「LOST FOREVER」は、うまくいくはずがない、しかしうまくいっているミスマッチな曲のように感じられる。


6. “HYAENA”

 「HYAENA」は、トラヴィスほどアルバムのオープニングを飾れるラッパーはいないということを再確認させてくれる。キャリア最高のバー(歌詞)をいくつか披露している彼だが、ジェントル・ジャイアントの「Proclamation」をサンプリングしてアルバムの冒頭を飾るという選択は、トラヴィスのレコードの中で最も注目を集めるものだ。1980年に正式に解散したジェントル・ジャイアントだが、長らく時代の先端を行くグループとして評価されており、カルト的な人気を誇る彼らの洗練された音楽構造はしばしば称賛されていた。このように、「HYAENA」はすでにユニークなフレックスであり、ファンはしばしばトラヴィスを同じように称賛している。トラヴィスは、ファンカデリックの「Maggot Brain」をエンディングでサンプリングしたり、チェルシー・ハンドラーと自慢げに比較したりと、愉快で困惑させるような他の要素を放り込むことでさらなるカオスを生み出している。


5. “MY EYES” (feat. Sampha)

 『UTOPIA』の中でも最もディープで、エモーショナルな楽曲のひとつで、ボン・イヴェールのにじみ出るようなシンセと埋もれたボーカルが、名声と富を得ながらも子供時代への憧れが人一倍強いノスタルジックなトラヴィスの感情的なひらめきを表現している。サンファも素晴らしいが、この曲を支えているのはトラヴィスのラッパーとしての優美さだ。ビートがアップビートに切り替わっても、すべての言葉が思慮深く、忠実に選ばれているように感じられる。この曲はトラヴィスが人として言いたいことを言う余裕を提供し、彼は【アストロワールド】の悲劇に言及する唯一の直接的な台詞を提供している。

 「子供を救えたなら、スコッティはステージから飛び降りて何でもしていただろうってことを彼らがわかってくれたら。自分が創り出したものが最大級の重荷になってしまった。バランスを取って、インスピレーションを保たなければ」と彼はラップしている。


4. “DELRESTO (ECHOES)” (feat. Beyoncé)

 「DELRESTO」の素晴らしさについて、本当に何が言えるだろう? ボン・イヴェールのバッキング・ボーカル、アレン・リッター、ジェイムス・ブレイク、マイク・ディーン、ヒット・ボーイ、そしてビヨンセ自身のプロデュースで埋め尽くされた曲であることは確かだ。「DELRESTO (ECHOES)」は泥沼にはまり込んでしまう可能性もあったが、ビヨンセの『RENAISSANCE』時代のグルーヴのおかげで飛翔したこの曲は、『UTOPIA』のディストピア的ビジョンによく合っている。トラヴィスはビヨンセに主導権を渡すことに満足しているようで、彼自身のぼんやりとしたオートチューン的思索を披露しており、彼女が楽しい時間を持続させている。


3. “SKITZO” (feat. Young Thug)

 ヤング・サグとトラヴィスは常に信じられないほど脅威的なデュオであり、サウンド的にはまるでジキルとハイドのようだ。とはいえ、「SKITZO」はこのプロジェクトで最高レベルのプロダクションを提供している……が、唯一の問題はヤング・サグがあまり出てこないことだ。この曲の後半で、彼らがさらにフレックスを交換するのを聴けたなら非常に有意義なことだっただろう。それでもなお、トラヴィスはリリックを見事な長さにまで高め、最後までやり遂げている。


2. “MODERN JAM” (feat. Teezo Touchdown)

 カニエ・ウェストの『Yeezus』に収録されている「I Am a God」の10年前のバージョンをアレンジしたトラックを使っている「MODERN JAM」は、『UTOPIA』の最もエキサイティングな瞬間のひとつを用意している。ダフト・パンクのギ=マニュエル・ド・オメン=クリストとマイク・ディーンによる執拗で薄気味悪いビートのおかげで、まるでモリー(MDMAの別名)による後味悪いサイケデリック体験のようなサウンドになっており、トラヴィスが混雑したダンスフロアで“ルーフ・シェイカー(会場が揺れるほど盛り上げる人)”、“アナイアレイター(全滅させる人)”を称する牧師役を務めているのがわかる。その結果、トラヴィスは大いに楽しんでいるように聴こえ、ティーゾ・タッチダウンも自身のキャリアで最高レベルのヴァースを提供しカオスを盛り上げている。


1. “TELEKINESIS” (feat. Future & SZA)

 「TELEKINESIS」では、カニエによるビートがトラヴィスを安全地帯から完全に押し出しただけでなく、フューチャーのヴァースこそがこの曲の主役であり、彼の過去数枚のアルバムに収録されたどの曲よりも間違いなく優れている。彼は(元婚約者の)シアラとの関係を狭量になることなく振り返り、目を輝かせることなく自身のパラノイアについて語り、ここ数年で最も率直なキング・プルート像を描き出している。シザの同じくエモーショナルなクロージング・ヴァースも加わったことで、リスナーが「TELEKINESIS」を聴き終える頃には涙を流しているだろう。


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