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<わたしたちと音楽 Vol.16>CHAI コンプレックスもネガティブも、自分たちの強みになる
米ビルボードが、2007年から主催する【ビルボード・ウィメン・イン・ミュージック(WIM)】。音楽業界に多大に貢献し、その活動を通じて女性たちをエンパワーメントしたアーティストを毎年<ウーマン・オブ・ザ・イヤー>として表彰してきた。Billboard JAPANでは、2022年より、独自の観点から“音楽業界における女性”をフィーチャーした企画を発足し、その一環として女性たちにフォーカスしたインタビュー連載『わたしたちと音楽』を展開している。
今回は4月27日に自主企画のフェス【NEO KAWAII FESTIVAL 2023】を控えたCHAIから、ボーカル・キーボードのマナとベースと作詞を担当するユウキが登場してくれた。“NEOかわいい”を始めとしたコンプレックスを肯定するメッセージと高い音楽性で、国内に留まらず世界へと活躍の場を広げている彼女たち。そのモチベーションについて聞くと、自分たちを生きづらさから救ってくれた音楽や、言葉をもっと広げていきたいというピュアでストレートな答えが返ってきた。
(Interview & Text:Rio Hirai[SOW SWEET PUBLISHING]/ Photo: Miu Kurashima)
音楽とメンバーと出会ったことで、それぞれが救われた

――お二人は、小さい時に憧れていたり「こんな風になりたい」と思っていた女性像はありますか。
マナ:小さい頃に好きだったのはピカチュウだけやった(笑)。身近にいる人以外はテレビに出ている人しか知らなかったけれど、「こんな風になりたい」と理想を描くことはなかったですね。少し大人になって、ミュージシャンになりたいと思うようになった頃に初めてできた“憧れの女性”は、CSSのラヴフォックス。自分をどんな風に表現したら一番自分らしく見えるか、ということを考えながら様々な音楽を聴いたりアーティストのパフォーマンスを見たりしていた時に、ラヴフォックスのボーカリストとしてのあり方やライブ・パフォーマンスが一番しっくりきた。「セクシーでいることには飽きた」というメッセージを始め女性ならではの不満を、ロックに乗せて発信していたインパクトは大きかったな。
――その当時、すでに何か窮屈さを感じていたんですね。
マナ:それはずっとありますね。「可愛い」という言葉にめちゃくちゃ悩まされてきたもんで。クラスで「可愛い」って言われている子は大体目が大きくて鼻筋が通っていて、自分とは正反対の顔。CHAIが使っている“NEOかわいい”というキーワードも、価値観が“可愛い” or “ブス”のどちらかしかなかったことへの抵抗なんだよね。「私だって、私の隣にいるあの子だって絶対良いところあるのに、それを褒める言葉がない」というのがずっと嫌だったから作った。男女関係なく「あなたには必ず生まれた瞬間から良いところがあるよ」というのがメッセージなんです。
ユウキ:私も、小さい頃は憧れるとか「こんな風になりたい」というのはよくわかっていなかったけれど、モーニング娘。の辻ちゃん(辻希美)と加護ちゃん(加護亜依)が好きだったな。大人になってからは特定の誰かが好きということはなくって、色々な人の良いところを盗んでいる感じ。周りにいる人の良いところに気がつくと「それ良いじゃん!」ってマネしてモノにしちゃう(笑)。しかも結構早いペースで、次々と人の良いところを見つけちゃうんだよね。
――そのみんなの良いところを次々見つける視点というのは、まさに“NEOかわいい”の考え方に繋がっていますね。今でこそ多様性が重要視されて価値観も少しずつ変化していますが、マナさんが言うようにひと時代前には“可愛い”のパターンは決まっていて、画一的な考えにみんなが縛られていたように思います。そんな中で、CHAIのメンバーが学生の頃から“NEOかわいい”的な価値観で繋がれたのはどうしてなのでしょう。
マナ:CHAIを始めたのは高校を卒業してからで、ユウキ以外のメンバーは高校時代の軽音楽部で出会ったのね。その時点で「私たちが生きていく道は音楽だ」とは思っていたんだけど、“NEOかわいい”に繋がる考えが明確になってきたのはユウキと出会ってからかな。4人で普段から色々喋っていたから自然とそれぞれの悩みの話にもなって、例えば私だったら「目が一重なのがコンプレックス」と言ってみたり……そうやって話していると、体の悩みも心の悩みもそれぞれ違うことに気がつくんだよね。それでお互いに励まし合ったり褒め合ったりしているうちに、「これをもっと広めたい!」と思うようになった。私たちは4人で褒め合ったおかげで自信を持って音楽をやるという選択ができたから、みんなのことも褒めたいと思ったんだよね。
抱えていたコンプレックスが、音楽をやっていくうえでの自信に


――CHAIの4人のように、価値観が共有できている相手と自分のコンプレックスについて話したり褒め合ったりできるのはわかるのですが、それを世界に向けて発信するとなると、価値観が異なる人にも開示することになるじゃないですか。その一歩を踏み出すのには勇気が必要だったんじゃないですか。
マナ:むしろ、コンプレックスを発信することを「これしかない! 見つけた!」と思っていたから、それがあるのが自信だったかも。
ユウキ:そうだね、「芯があるアーティストってカッコいいよね」と話をしていたから「自分たちの芯ってこれじゃん」と見つけられて嬉しかった。だから不安はなかったんだよね。この芯があるからたくさん曲も作れるし、何もないよりもずっと楽。でも最近、「曲も演奏も良いんだから、メッセージなんていらないじゃん」って言われたことがあったの。その人は曲自体が良いと褒めてくれたつもりみたい(笑)。そういう意見が出てくるのは面白いなと思ったけれど、メッセージも大事にしているからCHAIなんだよね。
マナ:最初から今まで全くブレていない部分だよね。私たちは小さい頃から「どうやって生きていったらいいのかわからない」という不安や不満を抱えていたけれど、“NEOかわいい”という言葉を作ったことで、まず自分たちが救われた。それをみんなにも伝えたいと思って10年近くやってきたわけだけど、海外でもライブをやるようになって、“NEOかわいい”という言葉を通して伝えたかったことが、今ではもう世界共通の価値観になっているということも知れた。でも日本はまだ少し遅れているのかもしれないよね。だからこそ、もっと広まれって思う。
――国内外のファンには、皆さんのそんなメッセージがちゃんと伝わっている手応えがあるんですね。
マナ:みんなそれぞれ受け取り方は違うと思うけれど、生き方そのものに引っかかっている部分があると思うから、CHAIのアプローチに希望を見出してくれてるのかな。それはライブ中のみんなの顔を見ていて思うんだよね。私は女として生まれてきて、女としてステージに立っていて、女として生きていることをそのまま曲にしているけれど、性別も世代も人種も関係なく本当に色々な人たちから反応をもらえる。だからちゃんとやれば伝わるんだなって実感できてる。
世界を変えるために大切にしていること
――同世代の同性からしてもやっぱりCHAIの存在は身近に感じますが、それだけに留まらず幅広い人に届いているのはカッコいいですね。ユウキさんは歌詞を書くうえで大切にしていることはありますか。
ユウキ:メッセージがはっきりしているぶん、それを直球で伝えてしまうと綺麗事のように聞こえてしまったり、説明的になってしまうこともある。「個性は大事!」ってそのまま言葉にしても、どこかでよく聞いたような言葉でちょっとピンと来なかったりするよね。それに自分たちが言っていることだけが正義という風にもしたくない。だからこそリズムに乗せて楽しく、面白く、軽く伝えるのを意識しているかな。対象を性別や世代で括りたくないから、主語も“We”とか“I”を使って、「『私はこう』と自分で決めればいいよね」と提案しているつもり。
マナ:そうして出来た歌詞を音楽に乗せてライブで歌っているうちに、自分の中でも消化していって自分自身の自信にもなるんだよね。日によってニュアンスも変わって、「今日はこんな風に伝えよう」と言葉に込めた想いが変化するのも、歌詞の面白さだと思う。

――女としてステージに立っているけれど、性別を超えていくという感覚で歌詞を書いていたりパフォーマンスしているからこそ多くの人に伝わるのかもしれないですね。女性であることは、活動にどんな影響を与えていると思いますか。
マナ:良い影響しかないかな。周囲から“ガールズ・バンド”って括られるのは嫌だったから、“女バンド”って言うように自分たちで決めたりもしたけれど、それも括られたことでそれを否定する機会を得たから良かったかなって。
ユウキ:フェスの出演者で女は私たちだけということも多々あって、バランスがおかしいなとは思っていたし、社会を見ても同じような状態だけど、だからこそ変えていける可能性があるって思う。コンプレックスの見方を変えてみるのと同じで、チャンスだと捉えてきたかもしれない。
マナ:ただ女性のカッコよさを抑圧するような、手懐けやすい状態でいてほしいというムードは感じるよね。だから、「みんなもっと言いたいこと言っていいよ!」というのは言い続けていきたい。
ユウキ:私は音楽だけじゃなくて絵を書くことでも表現していて、周りにもそうやってアイデンティティや考えを表現している人がたくさんいるんだけれど、もっとそうやって意思を表明することが身近になると良いな。
興味を持って1ミリ動くだけで自分の世界は広がっていく
――お二人自身が音楽や絵などの表現活動に救われてきたように、自分の意思を表明する方法を見つけられると前に進める気がするのですが、その方法が見つからなくてモヤモヤしている人に声をかけるとしたら何を伝えますか。
マナ:無理して見つけんでいいんじゃん。「まだ見つかっていない」というのをポジティブに捉えちゃってほしい。ないということは、なんでもできるってことだから。
ユウキ:私は何かに興味を持つことも才能だと思っているんだよね。「才能がないからやらない」ってよく聞くけれど、興味を持っている時点で才能だって。興味があることにちょっとだけでも動いてみたら、自分の世界が変わるかもしれない。始める時はあまり大袈裟に捉えないで、1ミリくらいでいいから行動してみると良いかも。
――お二人と話していると、全てのことをポジティブに翻訳してもらえる感じがします。ずっとそうやって物事を捉えてきたのですか。
マナ:いや、全然いまだにネガティブな部分もある。でもその揺らぎがあるからこそ、リアリティのある音楽ができると思うから、それはずっと持ち続けたい。悩むことも誇りに感じながらミュージシャンをやっていきたいなって思ってる。
ユウキ:私も今は結構ポジティブ人間だけど、それでも24時間ずっとそうかと言ったら全然そんなことないよ。でも、ネガティブな瞬間がないことを“ポジティブじゃない”とは言わないと思うんだよね。ネガティブな考えが生まれるからこそ、それを自分の中で揉んで、消化して、ポジティブに変換することができるんだしね。そう思えるようになったのは、CHAIがあるおかげかもしれない。私はたまたま「これで生きるんだ」というものを見つけられたから、そのためだったら頑張ってもいいかって感じ。
マナ:そうだね。CHAIのライブを見に来たら「こんな女もいるんだ」って思うはずだから、まずは1回見に来てほしいよね。私たち、200%の気持ちでライブやってるから。
プロフィール
マナ(Vo・Key)、カナ(Vo・Gt)、ユウキ(Ba・Cho)、ユナ(Dr・Cho)によるバンド。2015 年、1st EP『ほったらかシリーズ』を発表。収録曲「ぎゃらんぶー」がSpotifyのUK チャートTOP50 にランクインした。2020年10月、アメリカの名門レーベル<SUB POP>との契約を発表。2022年2~3月に北米ヘッドライン・ツアー、9~11月には同年2度目の北米ツアーに加え、初めて中南米で公演を行った。2023年1月、日本限定EP『ジャジャーン』をリリースし、同年1~3月、国内ツアー【ジャジャーンTOUR】を開催。4月27日にはPhum ViphuritとSTUTSを迎え、Zepp Shinjukuで【NEO KAWAII FESTIVAL 2023】を開催する。
公演情報
【CHAI presents 「NEO KAWAII FESTIVAL 2023」】
2023年4月27日(木) 東京・Zepp Shinjuku
出演アーティスト:Phum Viphurit(タイ)、STUTS(日本)
チケット:6,900円(税込)
チケット一般発売:発売中
TOTAL INFORMATION:VINTAGE ROCK std.
TEL.03-3770-6900 [平日12:00-17:00]
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