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<コラム>ヨルシカが紡ぐストーリーラインとドラマを想起させる言葉が話題の新曲「アルジャーノン」



コラム

Text:小町碧音
Photo:(C)TBS

 現在、第4話まで放送中の女優・広瀬すずが主演を務め、King & Prince・永瀬廉が共演するTBS系火曜ドラマ『夕暮れに、手をつなぐ』。毎週火曜の夜10時から展開されている純度の高い青春ラブストーリーだ。広瀬すず演じる浅葱空豆(以下:空豆)は、九州の片田舎で育ったエネルギッシュで自らの感情に対して素直に生きてきた少女だ。そんな空豆とは異なり、基本的に他人のことは信じていない東京在住の音楽家(コンポーザー)・海野音(以下:音)を演じるのは、永瀬廉。幼馴染みの婚約者に会いに行くために上京した空豆と音は、横断歩道ですれ違いざまに肩がぶつかり、お互いの耳からAirPods Proが落ち、そこで出会う。その後、婚約者に「好きな人ができた」と突然の別れ話を切り出され、大都会のど真ん中でひとりになった空豆を救ったのが、音。偶然が重なり、ひとつ屋根の下で共同生活を送るようになった二人は、たくさん喧嘩もするなかで気付かない間に恋に落ち、お互いを深く知っていく。

 『夕暮れに、手をつなぐ』は、主題歌「アルジャーノン」を担当しているコンポーザー・n-buna(ナブナ)とボーカル・suis(スイ)から成るバンド・ヨルシカのバックグラウンドを彷彿とさせる現代の音楽シーンと強くリンクしている側面があり、同時に音楽ファンからの評価も高いのが特徴のひとつ。小説にインスピレーションを受けて楽曲を制作したり、ミュージック・ビデオとセットで楽曲を公開したりするアーティストの作品はシナジー効果が発揮されることでますます注目を集めやすくなっているが、同ドラマは、まさに主題歌を担当するヨルシカとの結びつきが非常に強いことで、より充実度の高い作品に昇華されている。

 たとえば、空豆と音が初めて出会ったとき、各々のAirPods Proで聴いていたのがヨルシカの「春泥棒」だったり、空豆のスマホの着信音がヨルシカの「ただ君に晴れ」だったり。さらには、音がボカロPとして活動していたn-bunaと同様にボカロで音楽を作っていたり、売れている人気ユニット、ZUBIDAVA(ズビダバ)の男性が、現在の音楽シーンで話題のyamaのように仮面を付けて登場したり――いくつものギミックがあり、思わず鑑賞中にヨルシカやヨルシカの作品を思い浮かべてしまう。ドラマ本編にヨルシカの楽曲から現代の音楽シーンまでが反映されているのは、同ドラマの脚本を務めた北川悦吏子が、ヨルシカのファンであることが影響している。



 一方で、主題歌「アルジャーノン」もドラマのストーリーを丁寧になぞっている。<貴方はどうして僕に心をくれたんでしょう>から始まる歌詞からは、最初はひとりだった音の平々凡々な暮らしに空豆が潜り込むことで、訪れた音の心境の変化が再現されている。


 なかでも、ゆっくりと時間をかけながら二人の恋に気付いていく同ドラマ特有の味わい深さが、昼夜の狭間を彷徨うかのようなローテンポで陽だまりに似たメロディのなかで表現されているのはポイントだ。<貴方>だった主語が、2番のサビから<僕ら>へと置き換わり、二人で生きていくことの意味合いが強くなるフレーズで散りばめられているのは、二人で居ることで得られる強さ。二人の物語は大きく膨らんだあと、やがて<僕らはゆっくりと忘れていく とても小さく 少しずつ崩れる塔を眺めるように>と夕日のように沈んでいく。ラスサビで歌詞は空豆を横目にしながら暮らす音の心境に戻るが、1番、2番のサビにはなかった空豆を想う<確かに迷いながら>の底光りのするフレーズがあることで、音の心の成長を見て取ることができるのも奥が深い。

 二人の成長過程が絶妙なバランスで投影された楽曲構成をはじめ、随所に<貴方はどうして僕に目を描いたんだ>、<ゆっくりと変わっていく>などのドラマを想起させる言葉がストレートに綴られているのが印象的である。ここまでドラマの世界観に寄り添った楽曲は珍しい。強いて言うなら、主題歌を聞いてからでも、ドラマの全容を想像することを可能としたのが、ヨルシカの「アルジャーノン」だ。登場人物から背景までをも聞く人の脳裏に鮮明に映し出してきたこれまでのヨルシカの楽曲の魅力の深奥に達した上に、suisの透明感のある優しい歌声をピアノやギターの音色の煌めくアコースティックなバラードに乗せて、より一層聴かせてくれる1曲になっている。

 第4話でようやく空豆と音の恋の芽が顔を出すことになったストーリーが「アルジャーノン」の歌詞のようなクライマックスを迎えるのは、もう少し先のこと。次回予告とヨルシカの同曲をもとに、どんなストーリーが展開されていくのかを想像しながら、次の回を期待するのもドラマの新しい楽しみ方のひとつになるかもしれない。

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