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<インタビュー>Kitri、人々の心にフォーカスした映画『凪の島』での劇伴と主題歌制作を振り返る



Kitri、人々の心にフォーカスした映画『凪の島』での劇伴と主題歌制作を振り返る

新津ちせ演じる山口県の小さな離島に住む主人公・凪と、周囲の人々のひと夏の物語を描いた映画『凪の島』(2022年8月公開)。同作の劇伴と主題歌「透明な」を担当したのはKitriだ。時にスクリーンに映し出される様々なキャラクターのバックボーンや成長に“音楽家として”無色のまま寄り添い、時に“Kitriとして”美しいハーモニーで花を添える。プリズムを透過した光のように眩く楽曲は、心の壁に反射し、仄暗い隙間をそっと撫でる。無記名性と記名性、作品性と商業性の挟間を自由に行き交う2人は、どのように映画と、そして音楽と向き合ったのか。

“透明感”を大切にして作って行こう

--劇伴と主題歌のオファーがあったのはいつ頃ですか?

Mona:お話をいただいたのは去年の春か夏です。実は私たちの母が山口県出身で、子供の頃はよく帰省していたので、山口県を舞台にした映画に携われたのはすごく嬉しいなと思ってました。

--オファー当時、製作陣からは何か提案や要望はありましたか?

Mona:監督やプロデューサーの方と何度か打ち合わせする機会があったんですけど、監督が「Kitriさんの声や曲、ピアノに透明感を感じる」「それが自然にこの映画と合うんじゃないかなと思ってます」と言ってくださって。「こういう曲を作ってほしい」という特別な指示はなかったんですけど、その時“透明感”を大切にして作って行こうと決めました。

--お2人は音楽のアカデミックな知識や技術がしっかりあるのと同時に、コンセプチュアルな方向に振り切るとパフォーマーとしての豊かさが輝く音楽家だと思うのですが、「自由にやってください」と選択肢の幅が広がることで逆に戸惑ったりはしませんでしたか?

Hina:そうですね…ただ、映画を拝見して「監督の言っている“透明感”はこれか!」と伝わってきました。Kitriの音楽は色んな側面があると思うんですけど、その中で監督が想像してくださっている“透明感のある部分”を引き出さないといけないなと。

<インタビュー>Kitri、人々の心にフォーカスした映画『凪の島』での劇伴と主題歌制作を振り返る

▲シングル『透明な』

Mona:デビューする前は、Kitriの音楽活動が始まってしまったけれど私たちはどんな音楽を作ったらいいのかが全くわからなくて。どんな方向性に行ったらいいのか全然見えなかった時があったんですけど、結局作ったものを自分たちで客観的に見てみると色んな面があるんですよね。“透明感”って言ってくださることだったり、一方で毒々しさだったり。色々持ってしまっているからあえて一つに今決めなくてもいいのかなっていうところから、色んな幅が広がったような気もしています。

--主題歌も監督たちの“透明感”というコンセプトありきで制作されたんですか?

Mona:主題歌に関しては、監督はあまりおっしゃってなかったんですけど、実は「透明な」が生まれる前に既に12曲くらい書いていました。なかなか全員が「これだ!」っていうものが作れないままレコーディングの日にちだけ決まってしまって…。そこで、あえて今回は楽器の編成から決めてみようかなと。サントラに参加していただいた吉良都さん(Vc&Cl)と羊毛さん(Gt&Mand / 羊毛とおはな)に主題歌にも参加していただきたいなと考えた時に、「あの優しい音色を取り入れて、海の壮大さだったり、凪さんのピュアさだったりを表現する曲にしたい」と自然と生まれてきたんです。


▲Kitri -キトリ-「透明な」(合唱ver. 凪の島合唱団)
“Toumeina” Music Video [official] with subtitles (字幕)


--ありとあらゆるイメージを喚起させつつも、特定の何かに限定することはない「透明な」というタイトルにしたのにはどんな経緯があったんですか?

Hina:映画を観た時に人の優しさだったり温かさだったりを感じ取り、そういった目には見えない“透明な”ものを曲で表せたらいいなって思い、このタイトルになりました。

Mona:実際は何曲もボツにはなってるんですけど、「これだ!」って曲に出会えていない気がしていたのは恐らく全員一致していて。12曲作らないと「透明な」という曲に出会えなかったと思うので、結果的に良かったです。

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映像が曲を引き出してくれる

--劇中で特にここを聴いてほしいとか、お気に入りのシーンなどはありますか?

Mona:今回は監督からのアドバイスもあり、「ストリングスで分厚くアレンジをするぐらいだったらお2人の特徴の声を活かしてたくさん入れてほしい」と言っていただいて。2人のボーカリーズというか声の重なりが特徴的になっている曲が多いんですけど、特に水中でのシーンは3曲使用していて。そこのリンクも感じていただけたら嬉しいです。映像を見ながら曲を作るっていう作業自体が私たちにとって初めてだったので、普段と全然違うというか、映像が曲を引き出してくれる感じがすごくあって。いつもは“産みの苦しみ”みたいなものがすごく大きいんですけど、映像を見て浮かんだものを自分で音楽にするっていうことに凄くやりがいがあって楽しかったです。

Hina:劇伴を作るっていうのが初めてのことで、すごく勉強になりました。Monaも何回も映像を巻き戻して、「これがいいかな」「あれがいいかな」って私に相談してくれて。すごく丁寧に一つ一つ作っていった曲たちができあがり、大事な作品ができて良かったなって思います。


▲映画『凪の島』予告

--ゼロから作る場合と、今回のように他の方の作品ありきでリクエストに添って作る場合とで“産みの苦しみ”の違いはありますか?

Mona:コンセプトをいただいた時は「果たしてこれが正解なんだろうか」という不安に苛まれますが、自分たち発信で作っている時は自分たちの中に正解がある感じがして、「これでいい」と思ったらそれが答えになるんです。作品がすでにあるものだと作品が一番大切で、自分たちが主語に出てきてはいけないぐらいに思っているので、その作品を一番より良くするものを作れてるかっていうところに結構苦しんでるかな…。

--足し算ばかりではないですもんね、引き算の能力を要求されるというか…。

Mona:いかにセリフの邪魔をしないか、いかに台詞に意味を持たせるかというのを、シーンによって自分たちがちゃんと見極めないと映像を生かしたり殺したりしてしまうという感覚でやっていたので、すごく神経を使いました。この作品に出会って引き出してもらったものがたくさんあると思うので、すごくいい経験ができたなと感じています。

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▲映画『凪の島』オリジナルサウンドトラック

--Kitriというアーティスト性は損なわないまま、あらゆる要望に柔軟にしなやかに応えられるのは、お2人の最大の強みだと思います。

Mona:曲げないところは多分どこかでありつつも、やっぱり色んな人の考えとかを聞いてみると、本当に新しい自分たちの音楽に出会えたりすることもあるなって最近思っているので、いろんな挑戦をしたいなと思っています。

--お2人にとって“ここは絶対譲れない、曲げられない”ことは何ですか?

Mona:“絶対今までになかった世界観の曲を作るぞ”という思いで作っているところは曲げたくないなと思います。

Hina:2人で“こういう曲を作りたい”っていう世界観を共有して、そこに向かって色んな新しいものを取り入れるっていう姿勢を大事にしたいなと、いつも思っています。

--最後にファンの方へのメッセージをお願いします。

Mona:この映画だけでなく「透明な」という曲も、あえて本人には伝えない、自分の中の手紙のような気持ちを静かに描いたものになっているので、ぜひ色んな方に届いたらいいなと思っています。

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Interviewer:町田ノイズ

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