早くからソウル、R&Bファンの間で並々ならぬ注目を集めていた。その理由は2つある。多くのソウル・ファンにとってバイ・オール・ミーンズというグループ、そしてメンバーであるジミー・ヴァーナーは決して忘れられない存在である。

80年代後半～90年代にかけて発表された3枚のアルバムが、都会的なソウル・サウンドとして高評価を受けたバイ・オール・ミーンズ。その活動と並行して、メンバーのジミー・ヴァーナーはテンプテーションズやマンハッタンズのジェラルド・アルストンらのプロデューサーとして手腕を発揮、クラシック・ソウルとアーバン・サウンドを融合させた音職人として一躍その名を馳せた。前置きが長くなったが、アーバン・ソウル界きっての音職人であるジミーと、同じくバイ・オール・ミーンズのメンバーとして感情豊かなヴォーカル・ワークで華を添えていたマイクリン・ロデリックこそ、エル・ヴァーナーの両親なのだ。

　そんなわけで、当然のように幼い頃からモータウン・サウンドからバート・バカラックに至るまで様々な音楽に囲まれて育ったという彼女。両親から「ここにどんな言葉を入れようか？」と意見を求められたり、“育った環境といえばスタジオ”というような音楽漬けの幼少期を過ごす。そして、9歳で教会の聖歌隊で歌い始めたころには、すっかり音楽の魅力に取り憑かれていたとのこと。その後、歌だけでなく、フルート、ピアノ、ギター、ドラムなどの楽器も手掛けるようになり、難関ニューヨーク大学のクライヴ・デイヴィスのプログラムを受講するなど、音楽の勉強を一途に続けてきた。そして、その実力にいち早く目をつけたのが、アリシア・キーズを発掘したことで有名なジェフ・ロビンソン率いるMBKエンタテインメントなのである。

　デビュー前からブラック・ミュージック最大の祭典【BET AWARDS 2010】でパフォーマンスを行うという異例の大役をこなし、そして2011年にJ・コールをゲストに迎えたシングル「Only Wanna Give It To You」でデビューを果たすと、日本の熱心なR&Bファンの間では“ポスト・アリシア”というキーワードのもと、その噂は瞬く間に広まっていった。

　“バイ・オール・ミーンズのDNA”“ポスト・アリシア”という2つの大きな肩書きを併せ持つ、まさに正真正銘のサラブレッドである彼女が満を持して放ったデビュー・アルバムが『パーフェクトリー・インパーフェクト』。

　収録曲にはクラシック・ソウルの香り立つナンバーから、ヒップホップ的アプローチのナンバーまで個性溢れる楽曲の数々が散りばめられ、シンガーソングライターとしての実力を感じさせる仕上がりとなっている。ビート重視のダンサブルなナンバーがある一方、友人とマイアミに行った時の思い出を歌った「Refill」、自身の失恋をもとに書いたという「So Fly」など、個人的な体験に基づいた歌詞を感情豊かに歌い上げるナンバーまで、そのコンセプトは幅広い。ちなみに、父のジミー・ヴァーナーもプロデューサーとして、母マイクリン・ロデリックも「Sound Proof Room」でバック・コーラスとして参加しているのもソウル・ファンにとっては嬉しいニュースだ。

　デビュー・アルバムにして、ジャンルや世代だけでなく、その肩書きさえも飛び超えてみせたエル・ヴァーナー。今後のさらなる飛躍からますます目が離せない。