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プラシーボ、美しく破壊的な世界を構築した新作『NEVER LET ME GO』インタビュー



プラシーボ、美しく破壊的な世界を構築した新作『NEVER LET ME GO』インタビュー

魂を揺さぶるような激しさと、イノセンスが融合したサウンド、そしてフロントマンであるブライアン・モルコの生み出す耽美な世界(ヴィジュアル)で1990年代より活躍。これまでに世界で1300万枚以上のセールスを記録しているバンド、プラシーボ。2017年にデビュー20周年ツアーを終了してから主だった活動をみせていなかった彼らが、約9年ぶり通算8作目となるオリジナル・アルバム『NEVER LET ME GO』を発表した。バンドも社会情勢も混沌とした時期を乗り越えて完成させた楽曲群は、彼らの美しく破壊的な世界を構築しているとともに、リスナーが自由に解釈できる余韻もある仕上がりに。ステファン・オルスダルが、空白の時間そして完成したアルバムに込めた思いを語る。

本当に作りたかったレコードを作るのに時間を要した

━━2017年の20周年アニバーサリー・ツアー以来となるバンド活動になりますね。

あのツアーは俺にとって永遠に続くかのように思えたんだ。その結果、個人的にプラシーボという名前と存在に幻滅し始めてしまい、ここで何をしたいのかわからなくなっていた気がする。自分たちが延々と商業的な旅を続けているように感じていて、魂が破壊され、バンドがその負の影響の矢面に立たされているとね。だから、もう一度バンド活動のすべてをやり直そうと考えるのにかなりの努力と時間が必要になったんだ。

プラシーボ、美しく破壊的な世界を構築した新作『NEVER LET ME GO』インタビュー

━━バンドを辞めようと思った?

頭の中でバンドをないものにしてしまった感覚だったね。自分が生き残るために他の道はないと思っていたし、ここまで極端な気持ちになったのは初めてだった。でも、少しだけ前進しようという気持ちがコップの中に1%くらい残っていて、それを頼りにまた歩き始めることができたんだと思う。

━━そして約9年ぶりとなるアルバム『NEVER LET ME GO』が完成しました。

前作からかなりの年月が経ったのは、自分たちが本当に作りたかったレコードを作るのに時間を要したということだと思う。今はツアーで披露できるような美しい曲があるし、良い状態にあると感じられるようになったんだ。

━━アルバムはどういうきっかけで生まれたのでしょう?

人生の半分以上をプラシーボで過ごしてきたことで、自分のDNAに深く刻み込まれ、それが俺を突き動かしているような気がする。だから、アルバムを作るという話がきたとき、過去のツアーはいろんな意味で辛かったけど、ブライアンやバンドへの愛、ファンへの愛、そして僕らが成し遂げたことへの愛があるから断れなかった。制作中はブライアンの熱意に圧倒されることもあったけど、彼なしでは何もできなかったし、彼がいたからこそ、俺はここにいるんだと思うよ。

プラシーボ、美しく破壊的な世界を構築した新作『NEVER LET ME GO』インタビュー
Photo credit:Mads Perch

━━アルバム制作期間にはパンデミックの影響もあったと思いますが。

アルバムの制作面においては、このパンデミックがプラスになったと思う。イライラしたこともあったけど、俺とブライアンは、自分たちがやったことを消化し、個々にアイデアを練ってそれを持ち帰り、歌詞や音楽的に進化させる時間を与えてくれたからね。

━━これまでとの作品の違いは?

技術的な観点から言うと、これまでのどのレコードよりも音の隙間を許せたと思う。以前は『ここを埋めなきゃ、ここを埋めなきゃ。ドラムビートはどこ?ベースはどこだ?』みたいに考えていたけど、音楽には沈黙も必要なことを思い出したんだ。静寂は期待を持たせるためにあるものだとね。これまでかなり音を詰め込んだレコードを作っていたから、そうするのには少し勇気が必要だった。でも今回、それをすることでミュージシャンとして進化したし、これからはもっとニュアンスを出したいと思っているんだ。

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  1. 「The Prodigal」はザ・ビートルズの話をしながら完成させた
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■Placebo - Never Let Me Go | New Album Out Now

「The Prodigal」はザ・ビートルズの話をしながら完成させた

━━先行リリースされた「Beautiful James」について教えてください。

この曲はブライアンが持ってきたピアノのメロディから生まれた。初めはとてもスローなムードだったけど、シンセサイザーを駆使したことでポップ・トラックになったと思う。

■Placebo - Beautiful James

━━アルバムの中でキー・ポイントになる楽曲は?

冒頭の「Forever Chemicals」だね。今回のアルバム制作に際し最初に取り組んだ曲で、タブレット端末に入れてあった奇妙なドラムループから始まるんだけど、かなり悩みながら完成させたんだ。アルバムの冒頭を飾るにふさわしいエモーションが入った曲になったと思うよ。

■Placebo - Forever Chemicals

━━「The Prodigal」はストリングスを加えた壮大な楽曲ですね。

ストリングスは5枚目のアルバム以降、俺達の作品には欠かせない楽器になっている。プロデュースをしてくれたアダム・ノーブル(ポール・マッカートニーやリアム・ギャラガーなどを手掛ける)と、ザ・ビートルズの話をしながら完成させたんだ。この曲の世界観について俺は語れないけど、ストリングスが美しさを演出してくれているのは間違いないね。

■Placebo - The Prodigal

━━「Surrounded By Spies」では、とてもミステリアスな雰囲気を醸し出していますね。

この曲にはスパイ映画のサントラのようなミステリアスな雰囲気があるね。ドラムンベースのような高速ビートも織り交ぜながら、緊張感と混沌がミックスしたサウンドを構築できた気がする。でも最後に響くピアノの音色が楽曲を美しいものに着地させてくれているんだ。

■Placebo - Surrounded By Spies (Official Visualiser)
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■Placebo - Never Let Me Go | New Album Out Now

アートワークは“人類がこの惑星に散らかしたものの記憶”

━━アルバム・ジャケットに込めた思いは?

異世界を感じさせるものになっているかもね。実際のところは、ある種の寂寥感というか、ポスト・アポカリプス的というか、生命に起こったこととか……そう、まさに人生に何が起こったのか、そしてただ海を眺めることができつつ、また夢を見る場所でもある。でも良く見ると、小さな石ころは人工ガラスのかけらで、何度も流れ着いたため丸みを帯び、なめらかになっている。要するに、人類がこの惑星に散らかしたものの記憶みたいなものを表現したのさ。このイメージはとても美しく喚起的で、アルバムを包み込むのに十分なものだと思うよ。

プラシーボ、美しく破壊的な世界を構築した新作『NEVER LET ME GO』インタビュー
アルバム『NEVER LET ME GO』

━━今回のアルバム制作で誇りに思っていることは?

今回は少しだけ口を多く開けてみた。つまり、俺はこのアルバムでこれまでより多く歌っていて自信もある。ブライアンも『デペッシュ・モードのデイヴ・ガーンに対するマーティン・ゴアのようだ』と褒めてくれたよ。俺はそこまでとは思ってないけど、このアルバムでは歌うことを本当に楽しんだんだ。

━━このアルバムを携えてのツアーの準備はできていますか?

自信というのは、バンドとして、また自分の作った音に対して正しいと感じているからこそ生まれるものさ。このアルバムが出来なかったら次のツアーに出ることはできなかったんじゃないかな。ライヴをすることは19歳の時にブライアンと出会って以降、人生に欠かせないものになっている。俺はこのバンドをあまりにも愛しているし、アルバムを出すだけでツアーをしないのは間違いだろう。次のツアーではアルバムの魅力を多角的に楽しんで貰えるものになると思うよ。

プラシーボ、美しく破壊的な世界を構築した新作『NEVER LET ME GO』インタビュー

━━ここまでバンドのキャリアを続けられた秘訣は何ですか?

誠実さではないかな。自分の信じるものを守るため立ち上がったことで命を狙われたこともあったけど、これまでリリースした作品すべてにおいて、自分たちの真実を綴ってきた。その誠実さが俺達を支えているように感じるね。

━━ファンに対する思いに変化はありますか?

バンドのコアなファン達から受ける愛情は、今の俺にとって大切なものだ。俺達の普段の生活は質素なもので、とてもすべてを晒すようなものではないけれど、可能な限り最高のイメージ、写真、アートワークをみんなに届けたいと思っているんだ。

■Placebo - Never Let Me Go | New Album Out Now

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