Billboard JAPAN


Special

<インタビュー>結成5周年を迎えたAmPm、これまでの旅路とバーチャル領域の可能性を語る



 今年3月16日に結成5周年を迎えたAmPmが、彼らにとって“初”となるアルバムのリリースをはじめ、2022年に行う新プロジェクトとともに今後の活動方針を発表した。

 AmPmは、2017年にリリースした「Best Part of Us」がデビュー曲にもかかわらず、いきなり音楽配信サービスでバイラルヒットしたことで一躍世界的な注目を集めることになった日本人覆面ユニット。「Best Part of Us」以降もダンスミュージックを軸に様々なゲストボーカリストを招きコンスタントにリリースを重ねてきたほか、リミックスや楽曲提供など他のアーティストとのコラボレーションも多い。また国内に限らず海外の大型フェスにも出演などリアルの現場でも世界的な活躍を続けてきた。

 しかし、そんな彼らもこの2年間はコロナ禍により活動を制限するのを余儀なくされたことは事実だ。だが、昨年からはそんな逆境を跳ね返すべく、新たに世界の都市名を冠したスタンダードなダンストラックをリリースするという世界を旅してきたAmPmらしいプロジェクトも開始。コロナ禍中に限らず、その収束後にも照準を定めた活動にも取り組んでいる。

 そんな中、この度2022年に彼らが行う新プロジェクトが発表されたわけだが、今回はデビューから5周年という彼らの「旅路」について、振り返ってもらいつつ、今後の活動に関する展望についても話を伺った。

Interview:Jun Fukunaga/Photo:Masanori Naruse

“マーケットを正しく理解して、きちんとプロダクトを作っていく”ような話は
何も今に始まったことではない

――ミュージシャン以外にも会社経営を始め、各種SNS運用はもちろんnote、ポッドキャストなども頻繁に更新されています。このように多岐に渡る活動を行う原動力やモチベーションはどこから生まれているのでしょうか?

AmPm右:僕たちはデビュー曲がヒットしたことでいきなりいろいろな人に自分たちの音楽を聴いてもらえる機会を得ることができました。もちろんそれ自体は嬉しいことなのですが、その一方ではいわゆる下積み期間が全くなかったんです。
そう考えるとSNSやポッドキャストといったデジタルツールを使っての情報配信は、ある種の下積みだと言えます。その意味でそういったことは自分たちの存在を世間に認知してもらうためにやっていることなので、何か特別なモチベーションや原動力の源になるようなものがあるというわけではないんです。どちらかと言えば、自分たちの活動において必要なことのひとつとしてやっていることですね。


▲AmPmのポッドキャスト番組「AmPm Talking "THE RADIO"」

――ポッドキャストではこの5年間を振り返る内容の配信も行われていましたが、AmPmにとって一言でいうとこの5年間はどういった時期だったのでしょうか? また、この間に達成できなかったことの中でではどういったことが最も記憶に残っていますか?

AmPm右:一言で言うとこの5年間は「予想外」という感じでした。

AmPm左:その意味でこの5年間で僕たちとしても何か見えてきたことがあるというか、これからの課題も見つかりました。だから、ここからまた初心に帰るじゃないですけど、その必要性にも気がついたので「原点回帰について再考する時期」と言えるかもしれません。

AmPm右:特にコロナ禍のこの2年間は活動が制限されてしまったこともあって、ライブだったり、海外ツアーはほとんどできていません。2017年にデビューして以降は勢いに任せてやってきましたが、これからはそういったところも含めて、改めて初心に帰って活動していきたいと思っています。

――達成できたことの中ではどんなことが最も記憶に残っていますか?

AmPm右:海外でライブができたり、いろいろなアーティストとコラボして一緒に曲を作ったり、楽曲提供させてもらったりとか、この5年間で達成できたこと自体はすごくたくさんあります。とはいえ、活動開始当初からそういった目標を掲げていたわけではなく、振り返ってみると結果的にそういうことができたというような感覚ですね。

AmPm左:“アーティストであり、ディレクターでもある”という世界観を作った上で、そこにミュージシャンを集めてフックアップしていく。それがAmPmの最初のテーマでした。この5年間で規模はまだ小さいけれども、AmPmを中心にビジネスを回すことができたというか、AmPmに関わったアーティストに対して、多少なりとも経済的な意味での還元を継続し続けることができたのは、この5年間で達成できて良かったことのひとつですね。

――昨年からは世界の都市名を冠したスタンダードなダンストラックをリリースするプロジェクトを始められました。ダンスミュージックとはAmPmにとってどのような存在なのでしょうか? またダンスミュージックの中にどんな可能性を感じておられますか?

AmPm右:今はコロナ禍でみなさんクラブには行きづらいと思うんですけど、やっぱり僕らにとってはクラブは故郷なんです。例えば、クラブでの出会いみたいなものって日常生活ではなかなかないというか、昔はクリエイティブな人が何か求めて、クラブに遊びに行っていたし、あの感じの出会い方がやっぱり好きなんですよ。それと海外に僕らが進出していく中でも、そういった場所で生まれたダンスミュージックだからこそ繋がれたりするみたいなことがありましたしね。
だから、僕的にダンスミュージックには言語だったり、人種だったり、そういったさまざまな垣根を取り払う力があると思うんです。そういう自分たちの体感みたいなものがプロジェクトの背景にはあって、これからコロナ禍が明けた時にすぐに人々と繋がれるようにしたいという想いから、ダンスミュージックに立ち返ってみることにしました。

AmPm左:世界のどこに行っても、ダンスミュージックを通じてそこにいる人たちと繋がることができますし、その部分はこの音楽が持つ可能性だと思いますね。その意味でダンスミュージックは、僕らにとって人と繋がるための共通言語だと言えます。

――以前のようにレーベルに所属していなくてもインディペンデントアーティストが自活できる方法が増えています。その中で自己発信、コミュニティビルディングの重要度も増していますが、こういった面での取り組みではこれまではどんなことを心がけてこられたのでしょうか?

AmPm左:このことに関しては、僕らとしても未だに課題であり、本当に毎日試行錯誤しながら、今に至っていていると言う感じです。だからこそ、自分たちの考えをいかに相手にわかりやすく伝えていくかを常に意識しているわけですが、それが正しく伝わっているかどうかについては、まだまだ悩むところがあります。
そのこともあって今回のインタビューのような第三者を通じて、自分たちから発信できない部分を伝えてもらうことはとても大事だと思っています。ただ、この辺りはコロナ禍で少し滞ってしまった部分でもあるので、この5周年を機によりアクティブにやっていきたいと思ってます。

――アーティストの経済面での「エコシステム」について、言及する人が最近は増えてきたように思いますが、AmPmさんはそういったエコシステムをどのように捉えていますか?

AmPm左:確かにそういった発言をする人が増えた印象はあります。ただ、その一方で自分たちとしては、本当にそんなエコシステムが存在しているのか疑問に思っているところも少なからずあります。
でも、ひとつ言えることがあるとすれば、人に共感してもらえるものを発信して、その対価を頂くということは、別に音楽に限った話ではないと思います。少し前から音楽ディストリビューションサービスを使えば、誰でも音楽を配信できるようになりました。今はそれがYouTubeやTikTokにも広がっているわけですが、それで誰もがマネタイズできると言ってしまうのは少し乱暴な気もします。
もちろん、そういうサービスを使えば、誰でも自分のコンテンツを発表できます。でも、それで誰もが実際にマネタイズできるかというとそうではなく、できる人はごく一部に限られています。だからこそ、今後はそこに皆さんが求めるものを正しく作り上げていく必要があると思います。また、そのためにはやっぱり日々ファンときちんと向き合いながら、コミュニケーションを重ねていく必要があると思っています。
“マーケットを正しく理解して、きちんとプロダクトを作っていく”ような話は何も今に始まったことではないし、音楽を聴くフォーマットがCDからサブスクに変わったとしてもその部分は同じだと考えています。

――では、やはりきちんとファンと向き合って、その対価としてお金をもらうという考え方が基本的には必要だということでしょうか?

AmPm右:そうですね。さっきの話にも出たようにただ単に誰でも音楽を配信できるようになり、それで誰もが音楽でお金を稼げるみたいなことをエコシステムと捉えてしまうのは、非常に危険だと思います。自分としてはもう少し冷静になって、ファンに喜んでもらうために曲自体のクオリティを上げるとかできることをもっと突き詰めていくことの方が大事だと思います。

AmPm左:コロナ禍以前であれば、まだ競合も少なく、多少なりともサブスクで稼げるようなことはあったと思います。ただ、今は競合が増えすぎているし、その当時と同じやり方では通じなくなってきています。それと最近はTikTokのバイラルヒットで世に出てくるアーティストも少なくはないと思いますが、その一方でバズったこと以外にちゃんと音楽的な評価も得ている人は意外と少ないように思いますね。

AmPm右:それとデジタル音楽のフィールドで言えば、これからはもっとアーティストも著作権管理の意識を高めていかないと自分たちのコンテンツをうまく使いきれないと思います。例えば、マネタイズする以上は税金の問題を避けては通れません。しかし、今の日本にはそういったキャッシュフローに関して、アーティストが学ぶ機会や場も海外に比べるとまだまだ少ないし、そういう機会や場自体が増えていかないとアーティストも継続的な活動は難しいと思います。だから、今後はそういう環境が広がっていくことにも期待しています。

NEXT PAGE
  1. < Prev
  2. NFT、メタバースetc. AmPmが考えるテクノロジー領域との向き合い方
  3. Next >

NFT、メタバースetc. AmPmが考えるテクノロジー領域との向き合い方

――Doulさんのような新人アーティストを早い段階でフィーチャーしていたり、noteでもいつも新しいアーティストを探していると公言されていますが、どんな基準でいつもゲストシンガーを選定されているのでしょうか?

AmPm左:ゲストシンガーを選ぶ時はトラックありきで選ぶ時もあれば、ボーカリスト先行で選ぶ時もあります。でも、「この人は有名だからお願いしよう」ではなく、基本的に「この人と一緒に音楽を作ったら面白くなるだろうな」みたいなことをその人の声や雰囲気からイメージした上で誰にお願いするかを決めています。

AmPm右:シンガーを探す時は、Spotifyで表示される関連アーティストだったり、新人アーティストをピックアップしたプレイリストなどもチェックしています。

▲AmPm「On The Black and White feat. Doul」

――AmPmはデビュー曲「Best Part of Us」のバイラルヒットで一気に認知され、その後国内外の大型フェスにも出演されるなど、オンラインからリアルへの進出も果たした成功例だと思います。その一方で最近はオンラインだけでも活動が完結するアーティストも見られるようになりました。そのような状況を踏まえて、AmPmにとってオンラインとリアルとはそれぞれどのような立ち位置の存在なのでしょうか?

AmPm右:コロナ禍でリアルライブができなくなったことでオンラインライブが普及したと思います。ただ、DJという側面もある僕らにとっては、オンラインライブは権利上の関係で他のアーティストの曲をかけられないという問題もあり、自分たちの活動を制限する大きな要因となっていました。そのことからオンラインというフィールドはアーティストに可能性を与える一方でアーティスト性によってはとても制限が多いことに改めて気づかされました。そういうことがあって自分たちがDJで使える曲が必要になったことも先ほど話に出たダンスミュージックシリーズを始めるきっかけのひとつになりましたね。
一方でリアルライブの場合は、権利処理みたいなところも含めて安心してパフォーマンスできることが非常に多いので、その点ではやっぱりリアルがいいなと思うこともあります。それと大きな音で音楽を物理的にいろいろな人と共有できることはやはり何物にも代えがたい部分だと思いますし、今はその感じをすごく求めているところがありますね。
とはいえ、今はオンラインライブの環境も色々と整備が進んできていますし、リアルイベントに来ることができない人がそこで体験できるという点においては非常に可能性も感じています。そもそも権利処理の問題は自分たちの問題でもあるので、それさえ整えばオンラインとリアルの両方で活動していきたいと思っています。

AmPm左:だから、オンラインライブの可能性自体は否定しません。ただ、AmPmとしてはこれまでに何度かオンラインライブをやってきた中で課題も見つかったというか、ただ単にリアルと同じようにDJをしているだけだとその可能性もあまり広がっていかないと思うようになりました。なので、今後はもっとゲーム的な要素を入れるなど「AmPmワールドにようこそ」みたいな形で、世界観作りを含めて、リアルではできないオンラインならではのものにしていく必要があると考えています。

――5周年を迎える今年はデビュー曲「Best Part of Us」のリアレンジバージョン「Best Part of Us Anniversary Mix」リリース、ワールドツアーも計画中とのことですが、何より、AmPm”初”アルバムリリースを控えています。ファンにはアルバムのどんなところに期待してほしいですか?

AmPm右:AmPm結成のきっかけになったのが旅であり、それを通じていろいろなクリエイターさんと知り合うことができました。ただ、この5年間を振り返ってみるとその部分があまり伝わっていなかったようにも思うので、アルバムはその部分を僕らのファンにより理解してもらえるようなものにしたいと思っています。
コロナ禍がいつまで続くかについては、まだわからないところがあると思いますが、どこかに行きたいという願望自体は皆さんお持ちのはずです。ただ、それにも関わらず色々な理由で旅に出られない。そういう現実もあったりすると思うので、このアルバムを聴いた時になんとなくどこかに行った気分になってもらえると嬉しいです。それとアルバムからは今後、いくつかの先行リリースも予定しているのでそちらも楽しみにしておいてください。

AmPm左:本当にこういう時代だからこそ、別の「Best Part of Us」が必要になるというか、そういった世界的にみんなが繋がることができるような曲をリリースしたいですね。そこでたくさんの人に聴いてもらえるという結果を出すことができれば、それがまた“みんなが繋がる”きっかけにもなると思うんで。当然、僕らとしてもそういう光景がまた見たいし、そのためにももう1回それをやらなければいけない。そんな想いで今、音源を制作しているので楽しみにしておいてください。

――昨年、日本の音楽アーティストとして初のNFT楽曲をリリースされたことも注目を集めましたが、今ではその言葉自体がバズワードになるなど当時よりもNFTに対する認知度は上がっています。その中で今年はNFT第二弾も実施されますが、AmPmとしてはNFTのどんなところに可能性を感じていますか?

AmPm右:NFTに関しては、すでに著作権の仕組みがあるミュージシャンよりもその他のこれまでそういった仕組みがなかったジャンルのクリエイターさんの方がより活動できるフィールドになっていくと思っています。
その中でミュージシャンも音楽のみでNFTをリリースするよりも、そこに映像やグラフィックがあった方が見栄えが華やかになると思います。今後はそういったコラボが増えていけば、より他のジャンルのクリエイターとも共存共栄しやすくなるだろうし、そういうところにNFTの可能性を感じています。

AmPm左:サブスク以降、日本では認められなくても例えば、ブラジルで認められるみたいなことも現実的に考えられるようになりました。それを踏まえて考えると世界を相手にオンライン上で取引が完結するNFTにはサブスク以外の収入源を持つという意味で可能性があると思っています。
とはいえ、音楽単体だけではやはりその可能性は小さいと思うので音楽にマッチしたストーリー性の高い動画と合わせてコンテンツ化する必要があると思いますね。そう考えると今後、アーティストがNFTを販売する場合は、規模自体は小さくてもいいのでそういったコンテンツを映像やグラフィックでストーリー化できるようなチーム作りも必要になってくるような気がしています。

――アーティストとしての今後の展望を教えてください。

AmPm右:もちろんリアルの現場もしっかりとやっていきますが、さっきのリアルとオンラインの話と関連するところでいえば、メタバース、仮想空間コンテンツにも積極的に挑戦していきたいですね。

AmPm左:AmPmは仮面を付けた匿名性が高いキャラクターなので究極的に言えば、リアルでも東京と大阪の2都市で同時刻にライブをすることだってできるんです。そういう部分を最大限活かすことができるのがメタバースだと思うので今後はそういったところにも力を入れていくつもりです。

関連キーワード

TAG