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<インタビュー>ポーター・ロビンソン 苦悩を乗り越え完成させた『ナーチャー』を語る



Porter Robinsonインタビュー

 ポーター・ロビンソンが約7年ぶりのアルバム『ナーチャー』をリリースした。J-POPやアニメといった日本文化に対するリスペクトや愛、そしてそれから受けた影響を積極的に音楽に取り込み、日本人クリエイターともコラボレーションするポーターが作詞・作曲・歌唱・楽器演奏を担当した渾身のニュー・アルバムには、『おおかみこどもの雨と雪』のサウンドトラックを手掛け、自身にとって“音楽界におけるヒーロー”と呼ぶ高木正勝の存在を感じられる曲「ウィンド・テンポ」を収録と、ポーターとジャパニーズ・カルチャーの関係は切っても切り離せない。さらに国内盤ボーナス・トラックには、大ファンと公言する水曜日のカンパネラとコラボした「フルムーン・ララバイ」が収録され、本人の強い希望により、ブックレットのデザインや日本語の曲タイトル、メッセージ訳、歌詞対訳の全てをポーターが監修するという、かなりの力の入れ具合で、彼の変わらない日本愛を感じることができる。

 2014年のデビュー・アルバム『ワールズ』のヒットを皮切りに、世界各国を飛び回り、度々の来日公演も大成功におさめるなど、若くして名声と人気を得たポーターだったが、この数年間は苦悩と向き合う非常に辛い時期だったようだ。一瞬にして“次世代を担う天才DJ”と評され、期待に応えようと自分に厳しくなってしまったことで、負のループに陥り、遂には大好きだった音楽さえもやめようと思ってしまうほど思い詰めてしまったと明かしている。しかし、恋人や家族の存在、友達と好きなゲームをするといった“自分の”生活を送ることで、そこから抜け出すきっかけを見つけ、本作を完成することができたという。3月末にZoomインタビューに答えてくれたポーターから、完成までの道のりやSNSの付き合い方、高木正勝と過ごした1日など、大いに話を聞くことができた。何事も自分のペースで、頑張りすぎないことが大切だと改めて感じられる、重要なメッセージを含んだ約1万字に及ぶ大ボリュームのインタビューをお届けしよう。

――まずデビュー作『ワールズ』から7年ぶりのアルバム『ナーチャー』が完成した感想を教えてください。よりパーソナルで内省的な作品に仕上がっていますね。

ポーター・ロビンソン:完成できてとても嬉しい。クリエイティブ面において、かなり激しいスランプに陥った後だったから、完成できたことは自分にとって純粋に祝うべきことなんだ。制作には何年も費やした。僕にとっての最大の喜びだったのは、アルバムが完成したと思った時が、パンデミックの影響が出始めていた頃だったこと。もちろんパンデミックは喜ばしいことではないけれど……過去のプロジェクトにも言えることなんだけれど、完成したと思うと、そのプロジェクトのためにさらなるアイディアが次々と浮かんでくるんだ。今回の場合は、パンデミックの影響で1年近く時間があった。だから、その時間を有効に使って、アルバムの修正に集中することができた。この期間にお気に入りの曲をいくつか書くことができたのは、素晴らしいフィーリングだったね。


――スランプに陥ったとのことですが、どのように乗り越えていき、自分にとって大切なことを見出したのですか?

ポーター:本当に困難な問題というのは、大半の場合、解決策も難しいものだと思うんだ。自分の場合は、様々な要因があった。肝心なことの一つは、より健康的で、バランスのとれた生活を送り、仕事に執着しないことだった。音楽制作がうまくいかず、自分が納得できる作品を作れなくなった途端に、自分に厳しくしてしまった。これは自分の失敗だ、もっと頑張らなきゃ、努力が足りてないんじゃないか、って。これは、実際に自分が必要としていた正反対のことだった。働き詰めになっていて、新しいインスピレーションが生まれるようなことを全くしていなかった。人に会ったり、映画を見たり、アルバムを聴いたり、新しいゲームに挑戦したり、単純に新しい人生経験を積んだり、これらはすべてインスピレーションが生まれる肥やし、原材料になるものだ。それを自分に与えず、プレッシャーや期待ばかりかけて、仕事量も増やしていた。けれど、やらなければならなかったことの一つは、もう少しリアルな人生を体験することだったんだ。

 自分にとって役立ったのは、素晴らしいガールフレンドのリカと恋に落ち、彼女についてもっと知ることだった。彼女の存在は、僕を救ってくれた。生まれつきシニカルで悲観的なんだけれど、彼女は根っから楽観的で、心優しく、希望に溢れている。彼女は様々な問題を解決する手助けをしてくれた。そして場合によっては、諦める前にもう少しだけ希望を持ち続けることが突破口になる可能性もあると教えてくれた。

 もう一つ触れておくべきだと思うのは、このアルバムでは自分で歌い、自分ですべての詞を書くと早い段階で決めたことだった。当たり前なことに思えるかもしれないけれど、歌詞やコーラスを書くのが上達するまで少し時間が必要だった。10年間音楽を作ってきたけれど、これまではドロップを中心としたソングライティングを行っていた。ヴァースやプリコーラスがあって、そこからドロップへ持っていくような感じで。でも、このアルバムではきちんとしたコーラスを書くことを学ばなければならなかった。自分が納得できるまでに何年もかかった。なので、様々な要素があったと言えるね。バランスのとれた生活と真の幸福を見つけなければならなかった。そしてより自分の腕を磨く努力をして、自分がやりたかったことで上達することが必要だったんだ。


ーーアルバムからの1stシングル「ゲット・ユア・ウィッシュ」も突破口の一つだったのではないかと思うのですが、この曲を書いたことで再び自信を持って前進することができたという実感はありますか?

ポーター:ある意味、真の創造的自由から生まれた曲だと言える。少しばかりボサノヴァ風の音楽を作ろうと思っていて、そうすることで自分のキャリアを気にせずに、実験したり、楽しんだりという場所に戻ることできた。曲のイントロを書いた時、まるで遊びのように楽しんでいたんだけど、同時にとても広大で、広がりのあるフィーリングをコーラス部分に持たせたかった。誰かが鏡に向かって叫んでいる、または反射した自分自身の姿に向かって叫んでいるようなイメージだ。

 当時は、スランプにおいて最悪な地点の付近、または最悪な地点から抜け出そうとしていた時期だった。何もかも疑っていて、有名人であることに苦悩し、プライベートが全くなくなってしまったことを不満に感じていた。そういう人生を歩めるのは素晴らしいけれど、多くのプレッシャー、批判、期待が伴う。すでにDJとして世界中をツアーしたから、自分が人生から何を得ることを期待しているのかを自問した。音楽のリリースを続けることで、何が起きることを期待しているのか、そうすることでやっと自分を修復できるのか、それとも自分を幸福にしてくれるのか。それまでは多くの痛み、不安、困難を生んだだけだったから。

 自分にとっての音楽面のヒーロー、大好きなバンドや史上最高のアルバムについて考えると……例えばダフト・パンク。彼らは僕の人生に数え切れないほどの喜びをもたらしたし、存在しているだけで、世界が少し明るくなったと僕は信じている。誰にでも、そういうアーティストがいるよね。だから、この曲では自分にはこだわらなかった。自分の人生が良くなるかじゃなくて、自分の音楽を通じて人々を手助けできる方法は何かを問う必要があったんだ。

――先ほど、今作では自分で歌うことが重要だったと話していましたが、その理由は? 例えば「ブラッサム」や「ミラー」など、デュエットのような構成の楽曲でも、自分の声にエフェクトをかけて両方のパートを担当しています。

ポーター:特に「ブラッサム」は、僕が歌う必要があった。ラブ・ソングで、最愛の人に向けて歌っているから、他の人には歌って欲しくなかった。自分の感情だから。『ナーチャー』では、できる限り心のもろさを見せ、自分の感情をオープンに表現したかった。過去のアルバムでは、美しい別世界という設定にした。夢の中にある、手の届かない場所を。『ワールズ』をリリースしたあと、本当にひどい状況にあったから、現実の世界も同じように美しいものだと自分に理解させなければならなかった。それを音楽で体現する最適な方法が、自分を前面に押し出し、可能な限りオープンで、誠実で、もろくあることだと思った。

 自分で歌っているのは、自分のことを素晴らしいシンガーだとか、『アメリカン・アイドル』で優勝できるほどの美声の持ち主だと思っているからじゃなくて、心のもろさに関して行動で模範を示したかったからなんだ。もし他の人が歌うために書いていたとしたら、完成したものと全く違う曲になっていただろう。おそらく遠い夢の国についての曲になっていたと思う。自分で歌うと決心したことによって、自分がポジティブだと思う方向へ音楽の制作方法が変化していったんだ。

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僕らのマインドは何百万人もの他人の意見や
心の奥にある考えを必ずしも
受け入れられるわけではない

――「ミラー」では自信喪失や自己批判について歌っています。自分の価値を他人の意見に委ねるべきではないと言いますが、アーティストの場合は、自分に対して必要以上に厳しくしてしまうというジレンマも抱えていると思います。

ポーター:その通り。僕が思うに「ミラー」は、多くの恥を経験していた時に生まれた曲だった。「最も意地悪な批評家だったら何と言うだろう?」――それしか考えられなかった。シャワーを浴びながら、一人で何十分間も架空の論争を繰り広げて、自分自身を弁護していた。自分の音楽のこの要素を批判されたら、どのように反論するだろうか、そうしたら相手はなんて答えるだろうか、それに対して自分は何と言うだろうか、って具合に。決して倒すことのできないモンスターを相手に戦っている間に、自分の人生から20分が失われていた。そのモンスターは僕自身の不安なんだ。

 だから「ミラー」では、恥じない自分を想像したかった。自分の中に住む批評家と常に対決していない人物を。とはいえ、今でも葛藤はあるし、いとも簡単にその自分の中の批評家に屈してしまうこともある。自分が上達したいことに関して、負のスパイラルではなく正のスパイラルとして考えればいいんだと思う。落ちてしまう瞬間や少し状況が悪くなることもあるけれど、上向きになり、上達することもある。大切なのは全体的な軌道が正しい方向を向いているかどうか、ということなんだ。

 自分にとっての理想像は、TwitterやYouTubeのコメントを見たりせず、自分が愛する人々の意見のみを尊重する人物だね。と言うのは、人間はそのために生まれてきたから。ぶっちゃけ、僕たちはもう消え去ってしまった世界のために進化してきた類人猿だ。数十万年の間、ホモ・サピエンスが暮らしてきた小さなコミュニティに僕たちはうまく順応してきた。僕らのマインドは、何百万人もの他人の意見や心の奥にある考えを必ずしも受け入れられるわけではない。


 これはちょっと変わった例えかもしれないけれど、もし君が何百万年前に生きていた人間で、小さな部族の一員だったとしよう。主に心配すべきなのは、隣人が君をどう思っているかということだ。よく思われていなかったら、追い出されて、死んでしまうからね。僕らは今も、他人の言葉を生き残ることと同じような重さで受け止めている。今後絶対に関わること、会うことがない人に、自分や自分が信じることを批判されると、僕たちはそれが攻撃で生存に直接関わることだとみなす。でもこれは事実ではない。とにかく自分に優しくすることが大切だ。僕らのマインドは、ソーシャル・メディアやインターネットなどがある世界に、必ずしもうまく順応できるわけではないから、批判を真に受けてしまう自分や他人にも思いやりを持つようにしている。社会性のある動物であるがゆえに、これまで他人にどう思われるかを気にしなければならなかった。でも何百万人もの人々が自分をどう思うかなんて気にしちゃダメなんだ。あまりにも手の負えないことだから。社会学と人類学を使って自分なりに説明してみたけど、これは僕がよく普段から考えていることの一つだね。

――ここ1年間、これまでのようにリアルな世界で人と繋がる機会が減ったのも拍車をかけているような気がします。

ポーター:普段の社会的な繋がりの多くを、セレブ、インフルエンサー、インスタグラム上の人々との傍社会的関係と置き換えることになったからね。こういった人々を友達だと感じてしまいがちだけど、実際はその人のことをほとんど知らない。僕にとってここ1年間、ものすごく役立ったのはDiscordを使い始めて、親友たちと毎晩ゲームをしたこと。実際に知っている30人ぐらいの友人たちとオンライン上で集まってビデオゲームをしたんだ。直接会えないけれど、少しは日常らしさが感じられたし、自分にとって価値があるものだった。気の知れた仲間しか参加しないから、批判されることもない。だから、テクノロジーが問題にも解決策にもなり得るというのは興味深い。SNSの世界が、自分にとってあまり良くないものだとわかっていたけれど、Discordのような小さなコミュニティや単純に友人に電話することは有益だった。じゃなかったら寂しさに押しつぶされていたかもしれない。

――ポーターは仕事柄、ある程度SNSを使わないといけないと思うので、付き合い方がより難しいですよね。

ポーター:こういった新しいテクノロジーの利点は、慣れてしまうと当たり前だと思いがちだ。もしSNSがなかったら、自分のキャリアもなかったわけだから。その反面、SNSを通じて出会って、長年の親友になった人も数多くいる。何事もそうだけど、ポジティブな面とネガティブな面がある。ただ、ここ1~2年はネガティブな面が顕著だ。これは多くの人々が感じていることだと思う。

 インスタグラムなどの影響で、ボディ・イメージの問題を抱えるティーンエイジャーが増えてきている。「自分の内面を他人の外面と比較するのを止める」という言葉が、この状況を一番うまく表現していると思う。例えばセルフィーを撮影したとする。インスタグラムのフィードをスクロールしていると、他人の最高な一枚を見かけたりする。ただ、それはその週に撮影された無数の写真の中の最高の一枚で、加工もされていて、完璧なフィルターが使われている。でもそれを見てしまうと、自分の加工されていないセルフィーなんて比較にならないと思い込んでしまう。これはライフスタイルなど人々が自慢したいようなもの全てに当てはまる。アプリ上で見えているのは最高のヴァケーション写真かもしれないけど、実はその数時間前には何時間も飛行機に乗らなくてはいけなくて空港で不機嫌だったかもしれない。そういった部分は全く見えてこない。自分を人と比較することは幸福や健康にものすごく有害なことで、その解決策は僕にもわからない。ただ言えるのは、ここ数年間でとても深刻な問題になっているということだね。

――アルバムの話に戻りますが、ケロケロボニトとコラボした「ミュージシャン」では、創作プロセスの浮き沈みを歌詞と音楽を通じて巧みに表現しています。ポーター自身が創作する際の理想的なマインドセットは?

ポーター:自分でもそれがわかったらって思うよ(笑)。スランプの抜け出し方と一緒で、ものすごくクリエイティブなモードに入る方法を知っていれば、ずっとその場所にいると思う。アートを作るということの大部分は、目新しさを追い求めることだと思うんだ。目新しさと親しみやすさのバランスを見つけること。そこから素晴らしいアートは生まれる。真の意味で回帰できないのは、これが理由。6年、10年前に作っていた音楽を作り続けて欲しいと望む人々も中にはいる。たとえ僕がそうしたとしても、その人は当時と同じようには感じない。なぜなら、そのサウンドを作った時、僕は特定の心境で、その人も聞いた時に人生において特定の時期を過ごしていたわけで、それは再現することができない。だから自分にとってすごく重要なのは目新しさだ。

 自分なりに導き出した方法は、仕事ではなく遊びに近い感覚で取り組むこと。自分の隣にいる人や兄弟に見せたり、自分を笑わせようとしたりする感覚で。あとは、特定のパターンに陥らないようにすること。これまで試したことがないことをやるんだ。例えば「ミュージシャン」は、他のアルバム収録曲では行わなかったことがきっかけで形になった。他の収録曲は、ほぼピアノをベースに書かれたけれど、この曲ではサンプルをチョップアップした。ヒップホップのアーティストやダフト・パンクが、ソウルや昔のファンクやディスコをサンプルでチョップアップしていたように、僕はケロケロボニトと一緒に作った未完成の曲をチョップアップした。彼らと2019年に作り始めたデモなんだけど、それをチョップアップして、メインのインストゥルメンタル部分に使っている。

 この時、クリエイティブ面でハイな状況になれたのは、新しいことを試して、実験したからだと思う。まるで未知の領域に踏み込んでいく感じで。普段だったらやらないようなことをすると、なんとなく気持ちが和らぐ。自分が熟知していること……僕にとってはピアノを使って気に入ったコード進行を作ることは、すごく得意だ。すると、予想通りになってしまう。それに癖などもあるから、計算されたものになってしまうんだ。でも、自分が得意じゃないことだったら、自分に期待することもないから、次のピースを一つ一つ見つけていく感じで、じっくり探求できる。これはクリエイティビティにとってかなり価値がある。もし想像力が湧かないと悩んでいるのであれば、全く手順を知らないことに挑戦して、それで遊んでみること。自分にとってはすごく役立ったし、とても楽しい経験だったね。


――兄弟が話題に上がりましたが、「マザー」では母親を取り上げています。ポーターにとっての母親の存在、今作を制作する上で彼女との関係性に変化はありましたか?

ポーター:アルバム・タイトルになっているナーチャー(nurture:育てる、養育する)という言葉は、一般的に母性と深く関連づけられているもので、多くの人々にとって養育行動を行う人物は母親だと思う。古い考え方から抜け出せないという点で、自分をクリエイティブ面で引き止めていたことの一つは、幼少期を手放したくなかったことかもしれない。家族と歩んできた人生を手放したくなかった。家族関係は、僕が幸運だったエリアの一つで、家族のどのメンバーもお互いの関係が妙に完璧なんだ。完璧という言葉を軽んじて使うわけではないけれど、僕ら兄弟はほとんど喧嘩をしたことがない。両親は二人とも心が優しくて、本当に支えになってくれた。20歳ぐらいの頃に世界中をツアーしている時、とにかく家族が恋しくて家に帰りたかったことを思い出す。当時、このまま一人暮らしを始めたら、人生で家族と過ごす99%ぐらいの時間が、そこで終わってしまうと感じていた。その後30年間、もちろん何度かは会うだろうけれど、一生に家族と過ごす時間を計算したら、そのほとんどが終わってしまったことになる。そう考えると、とても深い悲しみに襲われた。家族のことを心から愛していたから、その時間が終わるのがすごく怖かった。でも皮肉なことに、両親の家を出ることを決断したこと、自分は大丈夫だし、物事もうまくいくと気づいたこと、幼少期の思い出を手放すという悲しみを乗り越えて前進したことは、僕のクリエイティブ面においてとても重要だった。

 僕の母は素晴らしい人物で、優しくて、僕の音楽を愛してくれている。実はまだこの曲は聞かせていないんだ。なんだか恥ずかしくて。自分が音楽を作る上で、メランコリーでやや悲しいフィーリングをよく目指すことがある。自分自身、泣ける曲が好きだしね。この曲はなんとなく楽しげな感じだけれど、詞を通じて、成長する上での苦悩や年を重ねていくことで子供の頃の繋がりを失うことを掘り下げている。<and I've known / the feeling you’ve had when you’re held / the comfort of being unwell / so something can cradle you(そして僕は知ってしまった / あの包まれた感覚 / 落ち込んだ時の心地よさ / きっと何かにあやしてもらえる)>という詞があるけれど、僕は嘘がつけない。自分が病気になったり、熱が出たりした時は、他の人に面倒を見てもらいたいと思うたちで、誰かに世話をされている時のフィーリングが大好きなんだ(笑)。これは共感できる人とできない人がいるかもしれないけど。この曲は、成長する上での苦悩と少年時代を失うことの悲しみ、そして他の人にずっと頼っていた人物が自分の責任を持つ人物へとなることについてなんだ。

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涙をこらえるのが本当に大変だった
自分のヒーローが、大好きな曲を
自分のために弾いてくれたのだから

――これまでも日本の音楽や文化への愛を自身の音楽に注入してきましたが、収録曲「ウィンド・テンポ」では高木正勝、日本版のボーナス・トラックの「フルムーン・ララバイ」では水曜日のカンパネラとコラボしています。

ポーター:「ウィンド・テンポ」は高木正勝さんとの一種のコラボであるとともに、そうではないんだ……彼は本当に寛大で親切にしてくれた。まず言いたいのは、僕にとって音楽界におけるヒーローであるということ。初めて彼のことを知ったのは、彼が手掛けた『おおかみこどもの雨と雪』のサウンドトラックだった。初めて聴いた時から、自分が『ナーチャー』で目指したかった方向性に大きく影響を与えた。とても美しい音楽なんだけれど、間近でインティメイトに感じられる美しさなんだ。夢のようで遠くにあるのではなく、自分の側にある感覚で。それを自分の音楽に取り入れたかったんだと思う。

 2015年ぐらいに遡るけれど、これが『ナーチャー』の最初のインスピレーションで、こういった音楽がものすごく作りたいと思った。そこで僕はガールフレンドのリカと日本に2か月間滞在することにした。確か2018年だったと思うけれど、その時に高木さんに東京のスタジオで一緒にセッションをしてもらえないかと考えたんだ。内心難しいだろうなと思っていたけれど、直前に彼から連絡があって、僕たちを自宅に招待してくれた。家にピアノもたくさんあるからって。すぐさま電車を乗り継いで、1日かけて彼が暮らす小さな村へ向かった。本当に頭が下がる思いだった。ピアノの巨匠であるとともに、音楽全般の哲学やアプローチにおいても尊敬していたから、なかなか恐れ多かった。一緒に仕事をするというより、会話をしていたという感じだね。彼は大学の時に英文科に所属していたようで英語が堪能なんだ。

 とても印象に残っているのは、食卓に座っていた時のこと。彼の家には、いたるところにピアノがあるんだけど、食卓の隣にもあるんだ。『おおかみこどもの雨と雪』のサウンドトラックのある部分について、ゆりかごを揺らす動きのようなフィーリングにしたかったと説明してくれていた時、おもむろに隣にあったピアノを使って、サントラに収録されている「めぐり」の僕のお気に入りのシークエンスから、一番大好きなメロディを目の前で弾いてくれたんだ。説明したかったことを伝え終わると、彼は僕の方へ振り返ったんだけど、涙をこらえるのが本当に大変だった。自分のヒーローが、大好きな曲を自分のために弾いてくれたのだから。



 高木さんと一緒に多くの音楽を作ることはなかったけれど、2人でピアノを少しだけ演奏したのをレコーディングした。その時、僕はピアノを弾き、高木さんはおもちゃのピアノを演奏していた。クラシック・ピアノの教育は受けていないから、もちろん彼の前でピアノを弾くのは気が引けた。この経験でもう一つ重要だったのは、僕が帰る直前に高木さんが渡してくれたフラッシュ・ドライブ。中には、2000年代初期の日本のアンビエント・ミュージックが入っていた。彼に聞いてもらったいくつかの曲について、2000年代初期に流れていた音楽を思い出すと話していたから。家に帰ってからずっとフラッシュ・ドライブの音楽を熱心に聞いていた。「ウィンド・テンポ」は、その1年後ぐらいにできた曲で、99.99%は僕が自宅でピアノを弾いたのをレコーディングしたもの。かろうじて聞こえるぐらいなんだけど、高木さんがおもちゃのピアノを弾いている0.5秒ぐらいのサンプルが入っている。その後、高木さんに使ってもいいか尋ねたら快諾してくれたんだ。

 いつかは、高木さんと本当の意味でコラボレーションができることを願っている。今回は彼から学んだという感じで、その時にレコーディングした短いサンプルを使うことができただけだから。対等にコラボする準備ができていなかったように思うし、彼の生徒として学んだという感覚だね。彼と彼の奥さんは、僕とリカに最高レベルのホスピタリティ、優しさ、寛大さを示してくれた。一生忘れない人生体験になったから、彼には単純に心から感謝している。ものすごく長い回答になっちゃってゴメンね。

――いえいえ、大丈夫です。最後に、今作を通じて伝えたかったメッセージを教えてください。

ポーター:もし何か一つメッセージがあるとしたら、希望はとても価値のあるもので、ナイーブな感情ではないということ。世の中の状況がどんどん悪くなって、それを解決する術がないから、多くの人々は絶望して、諦めて、世界が滅びるのを静観しようと考えているけれど、それには賛成できない。いかなる状況でも意味のある行動を起こす時には希望が不可欠だ。

 もし自分が得ているニュースや情報が悪いものばかりで、絶望する理由を与えるものだとしたら、自分が行動を起こすことで手助けできる、物事を良くすることができるという信念は徐々に失われてしまう。暗い時代の中で、いいことが起きるかもしれないと思わせてくれるのは希望しかないし、希望はより良い場所へ辿り着くためのちょっとした燃料にもなってくれる。

 自分の場合、もう音楽を一生作れないと確信したことが何度もあった。自分に唯一才能があったものがもうできないと感じたことで、大げさかもしれないけれど人生が終わったと本当に思っていた。そう感じたことで、自分なりに頑張って、作りあげた音楽が希望に満ちたものになったんだと思う。ほとんどの歌詞は悲しげで、いくつか絶望的なものもあるけれど、とにかくサウンド、インストゥルメンタルの部分には希望を持たせようと試みた。それが自分自身を突き動かしてくれたから。だから究極のメッセージは、君の行動には意味があって、変化を生むことができるということ、そして希望は不可欠だということだね。


――今日はありがとうございました。来年以降になってしまいそうですが、今作を引っさげて来日してくれるのを楽しみにしています。

ポーター:自分が作る音楽はあらゆる面で日本の音楽や文化に影響を受けているから、日本の皆さんが気に入ってくれることを心から願っている。今のところ、自分のYouTubeやApple Musicの国別アナリティクスを見ると日本が上位にいるから、「あぁ、良かった。僕がやったことは正解だったのかも」って少し自信をもらえている。ものすごく日本の音楽とカルチャーに影響を受けているから、日本の人達がどう反応してくれるかは自分にとって本当に重要なことなんだ。だから、また日本に戻ってプレイするのをとても楽しみにしているよ。

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