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ペンタトニックス『ペンタトニックス・クリスマス ジャパン・デラックス・エディション』発売記念特集

Pentatonix

 “声”だけで人々を魅了し続ける人気グループ、ペンタトニックスが2016年に2作連続で全米1位に輝いた『ペンタトニックス・クリスマス』に新録5曲追加した豪華盤『ペンタトニックス・クリスマス ジャパン・デラックス・エディション』の国内盤を2017年11月22日にリリースした。本作は、ベース担当のアヴィ脱退後、4人体制となったペンタトニックスにとっての1枚目となる作品だ。本作のリリースを記念し、世界を魅了し続けるアカペラ・グループの今までとこれからについて改めてここでおさらいしてみたい。

アカペラ・グループ史上初の全米アルバムチャート1位獲得

 2011年、アメリカの人気アカペラ・オーディション番組『The Sing-Off』のシーズン3で優勝し、ケヴィン、アヴィ、スコット、ミッチ、そして紅一点のカースティンの5人で結成されたアカペラ・グループ、ペンタトニックス。それぞれがリードを取れる文句ナシの実力と、溌剌としたグルーヴを生み出すヴォーカル・ワークの素晴らしさで、世界中のリスナーを魅了し続けている。

 結成翌年の2012年6月にリリースした初のEP盤『PTX Vol.1』は、全米ビルボード・アルバム・チャートで最高14位をマーク。本作には、Fun.の「ウィー・アー・ヤング」やゴティエの「サムバディ・ザット・アイ・ユースト・トゥ・ノウ」など、当時の大ヒット曲をカバーした全7曲が収録された。中でも、アカペラにラップを絡めた「スターシップス」(ニッキー・ミナージュのカバー)は入魂の一品。デビュー作がロングヒットを記録する中、同年11月には2作目のEP盤『PTXmas』を続けてリリース。全米デジタル・アルバム・チャートで1位を獲得し、総合(Billboard200)でも7位をマーク。2作目にして初のTOP10入りという快挙を成し遂げ、前作の2倍以上となる累計50万枚を売り上げた。デビューしたばかりの新人、しかもアカペラ・グループとしては、異例のセールスだ。

 2013年11月にリリースした3作目のEP盤『PTX, Vol. II』からは、「ワン・モア・タイム」や「ゲット・ラッキー」など、エレクトロ・デュオ=ダフト・パンクのヒット・ナンバーをアカペラでカバーした「ダフト・パンク・メドレー」が大ヒット。彼らの楽曲をイメージした近未来的なミュージック・ビデオは、現在までに公式YouTubeで2.6億回再生を記録している。「ダフト・パンク・メドレー」は、2015年2月に開催された【第57回グラミー賞】で最優秀インストゥルメンタル/アカペラ・アレンジメント部門を受賞。同曲のヒットを受け、本作『PTX, Vol. II』も全米アルバム・チャートで10位に初登場し、2作連続のTOP10入りを果たした。本作は、「ナチュラル・ディザスター」や「ラヴ・アゲイン」など、メンバーが手掛けたオリジナル曲も充実している。


▲[Official Video] Daft Punk - Pentatonix


CD
▲『PTX Vols. 1&2』

 2014年7月には、前述のEP盤2枚に収録された楽曲と、デジタル・リリースのみのシングル曲を収録した日本独自企画盤アルバム『PTX Vols. 1&2』が発売され、ビルボード・ジャパン・チャートでは最高6位を記録した。翌8月には【サマーソニック2014】で初来日を果たし、日本での人気が一気に高まる。9月にリリースした4作目のEP盤『PTX, Vol. III』は、全米5位のスマッシュヒットを記録。本作に収録されたクリーン・バンディットのカバー「ラザー・ビー」のミュージック・ビデオが、日本で撮影されたことも話題になった。そして10月、オリジナルとしては初のクリスマス・アルバム『ザッツ・クリスマス・トゥ・ミー』を発表。本作は、全米ビルボード・アルバム・チャートで2位まで上昇し、2015年、2016年のホリデー・シーズンでも上位に再浮上。3年連続でTOP10入りし、累計枚数は200万枚を突破した。トリー・ケリーをゲストに招いた「ドント・ウォーリー・ビー・ハッピー」や、同年最大のヒット映画『アナと雪の女王』の劇中歌「レット・イット・ゴー」など、選曲のセンスもさることながら、彼らのアカペラ・アレンジも高い評価を受けている。12月には、本作のアルバム・プロモーションで再来日を果たした。


▲[Official Video] Rather Be - Pentatonix (Clean Bandit Cover)


 日本でも大ブレイクした翌2015年6月には、東京・名古屋・大阪・福岡の4大都市を回る初の単独ジャパンツアーが行われ、大盛況で幕を閉じる。同年10月には、オリジナル曲をメインに構成されたファースト・フル・アルバム『ペンタトニックス』を発表し、ペンタトニックス、そしてアカペラ・グループとして初の全米ビルボード・アルバム・チャート初登場1位を記録した。これまでの作品はカヴァー曲がメインだったが、本作はオリジナル曲が中心の意欲作で、リアーナやマライア・キャリーなど、トップ・アーティストを手掛けるクック・ハレルなど、売れっ子プロデューサーを起用したことも、ヒットした要因といえるだろう。翌11月には、前年の大ヒット作『ザッツ・クリスマス・トゥ・ミー』のジャパン・デラックス・エディションがリリースされ、プロモーションで5ヶ月振りに来日し、No.1獲得の喜びと見事なハーモニーを聴かせてくれた。国内盤のみ収録の「クリスマス・イブ」(山下達郎のカバー)で、親日っぷりもアプローチしている。

 グループ初の全米首位獲得に続き、2016年2月に開催された【第58回グラミー賞】では、「くるみ割り人形」が再び最優秀インストゥルメンタル/アカペラ・アレンジメント部門を受賞、2年連続の快挙を達成した。海外のみならず、日本での躍進も止まらない。4月に【POPSPRING 2016】に出演し、7月にはアルバム『ペンタトニックス』最強盤を日本企画でリリース。本作に収録された「Perfumeメドレー」は、とてもアカペラとは思えない完成度の高さで、翌8月に出演した【サマーソニック2016】でこのメドレーを披露したことがSNSなどで大反響を呼んだ。同曲のミュージック・ビデオも、現在までに2000万回以上の再生回数を記録している。


▲[Official Video] Perfume Medley - Pentatonix


CD
▲『ペンタトニックス・クリスマス』

 そして同年10月21日に発売されたのが、クリスマス・アルバム第二弾『ペンタトニックス・クリスマス』。全米アルバム・チャートでの初登場は3位だったが、クリスマスが近付くにつれ売上を伸ばし、登場9週目で首位に輝いた。本作が1位に到達した週には、前作『ザッツ・クリスマス・トゥ・ミー』も5位に再びランクインし、TOP5に2作を送り込む快挙を成し遂げてた。毎年秋になると、人気アーティストによる過去のクリスマス・アルバムがチャートに登場はじめるが、今年(2017年)10月の全米アルバム・チャートでは、マライア・キャリーの『メリー・クリスマス』やマイケル・ブーブレの『クリスマス』よりも早く、本作『ペンタトニックス・クリスマス』がリエントリーし、ペンタトニックスの人気の高さが明らかになった。

 本作『ペンタトニックス・クリスマス』から先行シングルとしてリリ-スされた「ハレルヤ」は、2016年11月7日に死去した、カナダのシンガー・ソングライター=レナード・コーエンの代表曲。5人が祈るように歌う切なくも美しいハーモニーと、セピア色のミュージックビデオが、まるでコーエンを追悼しているかのようだった。メンバーのカースティンも、「とても美しい曲に仕上がったから、私達にとって大切な曲になったわ。全員が大好きで、情熱を感じている曲よ」と、インタビューに答えている。同曲は、全米ビルボード・ソング・チャートで23位まで上昇し、シングル曲としては、2013年にリリースした「リトル・ドラマー・ボーイ」(最高13位)以来のゴールド・ディスクに認定された。


▲Hallelujah – Pentatonix (From A Pentatonix Christmas Special)


 その他にも、讃美歌の「神の御子は今宵しも」や「ほしかげさやけき」、ビング・クロスビーの大ヒット曲「クリスマスを我が家で」など、日本でも馴染み深いホリデー・ソングから、アカペラ・グループの大先輩であるマンハッタン・トランスファーとのコラボ曲「ホワイト・クリスマス」、カースティンの提案で収録された、カニエ・ウェストのカバー「コールデスト・ウィンター」、ケヴィンが一番のお気に入りだという、イン・シンクの「メリー・クリスマス、ハッピー・ホリデイ」など、バラエティ豊かな選曲で構成されている。そのケヴィンが手掛けたオリジナル・ソング「クリスマス・シング・アロング」は、ファンキー且つメロディックなポップ・チューンで、「キャッチーな曲を得意とするケヴィンらしい、皆が一緒に歌える最高の曲」と、カースティンも絶賛している。




 そのカースティンも、スコットと共作した「グッド・トゥ・ビー・バッド」で、ソングライターとしての才能を開花させた。「サンタ・ベイビーのようなキュートで楽しいクリスマス・ソングを作りたかった」と話しているように、オリジナル曲とは思えない、世代を超えて楽しめるオールディーズ調のスタンダード・ソングに仕上がった。カースティンは、7月にEP盤『LOVE』でソロ・デビューを果たし、トロピカル・ハウス調の「ブレイク・ア・リトル」やミステリアスな雰囲気のトラップ・ソング「サムシング・リアル」など、流行の音を取り入れたペンタトニックスとは全く違うタイプの楽曲に挑戦している。今年は、カースティンの他にもケヴィンはソロで、スコットとミッチはスーパーフルーツというデュオで、それぞれグループ以外の活動をスタートさせた。

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メンバー脱退の葛藤が生んだ新生ペンタトニックスの絆

 それぞれの個性を活かしてメンバーがソロ活動を進める中、9月にアヴィが惜しまれながらグループを脱退し、ペンタトニックスは4人編成となった。脱退については、5月の時点でアヴィがメッセージ動画を公式Facebookに投稿し、その理由を「家族や友人との時間が取れないほど多忙な活動のペースがずっと個人的な問題で、活動のバランスを保つことが困難になっていた」と話している。これについてスコットは、「アヴィがグループから抜けて、僕達は過渡期に入った。その間に、以前からやりたいと思っていたそれぞれのプロジェクトに取りかかったことで、メンバー全員にとって報われる体験になった。ペンタトニックスから外に出て、違うタイプの作品を創作するのは、とてもいいことだったよ。そのおかげで僕達はリフレッシュして、ペンタトニックスとしてもっとやる気になれた。違う音楽をやったことによって、ペンタトニックスが新鮮になった気がするんだよ。」と、インタビューに答えた。また、アヴィが脱退したことについては「ものすごく悲しかった」とした上で、その葛藤のおかげでメンバーの絆がより強くなり、キャリアの変化を乗り越えられたことが本当に嬉しいと話している。つまり、脱退はネガティブな理由ではなく、アヴィにとっても4人のメンバーにとっても、お互いが成長する上で必要だったということ。

 そのアヴィにとって最後のアルバムとなった『ペンタトニックス・クリスマス(ジャパン・デラックス・エディション)』が、11月22日にリリースされた。本作には、オリジナル盤に収録された11曲に加え、新たに録音された新曲5曲が追加されている。その中の1曲、大ヒットシングルの「ハレルヤ」に、ザ・ストリング・モブの演奏をフィーチャーしたニュー・バージョンが、アヴィが参加したペンタトニックスとしての最後の作品ということになる。それが彼らの最も売れたシングルで、「これまでにアレンジした中で一番好きな曲」とメンバーが話している思い入れの強い曲というのもの、何か運命的なものを感じる。




 その他の新録4曲は、ベース担当のアヴィが抜けた穴をメンバーやゲスト・アーティストが補っている。まず、讃美歌として歌い継がれている「ひいらぎかざろう」には、マット・セイリーというシンガーが参加。マットは、この冬のクリスマス・ツアーにも参加するそうで、新たなメンバーとして一時的に迎え入れる予定だともスコットは話している。既に、クリスマスらしい雰囲気に包まれた、クラシカルなミュージック・ビデオが撮影されていて、マットも出演している。「オーディエンスに一緒に歌ってもらえるようにアレンジした」という戦略通り、何度も繰り返される「ファララララ~」というパートを思わず口ずさんでしまう、ライブ受けしそうなポップな仕上がりになっている。続くゴスペル・ソング「輝く日を仰ぐとき」には、アメリカン・アイドル出身で、映画『ドリーム・ガールズ』で大ブレイクしたR&Bシンガー、ジェニファー・ハドソンがフューチャリング・ゲストとして参加。深みとハネを多面的に表現する彼女のボーカルを引き立てるように、4人がバックで美しいハーモニーを繰り広げる。両者ともお互いのファンだと公言しているだけあり、相性も抜群。


▲[OFFICIAL VIDEO] Deck The Halls - Pentatonix


 アヴィ抜きで初めてレコーディングしたという「飼い葉の桶で」では、メンバーのケヴィンがベースを担当。アヴィが抜けたことについて、「ベース抜きで曲を作ることは不可能だったから、どうやって活動を前に進めたらいいかを僕達は考えていた」と話していたスコットだが、手拍子やフィンガースナップでリズムをアレンジしたり、既存のメンバーがベース・パートを担当したりと、4人体制になってもバランスを崩さず、新生ペンタトニックスのハーモニーは健在だということを、この曲で証明した。ラストの「レット・イット・スノー! レット・イット・スノー! レット・イット・スノー!」では、リノ・セルマーというシンガーがベースを担当。この曲は、彼らが子供の頃から大好きなクリスマス・ソングの一つだそうで、本来のペンタトニックスらしさが出た、リラックスした雰囲気のアップ・チューンに仕上がっている。やはりペンタトニックスと過ごすクリスマスは、こういうハッピーな曲が一番いい。


▲[OFFICIAL VIDEO] Away in a Manger – Pentatonix


 ペンタトニックスの今年(2017年)の活躍を振り返ると、2月開催の【第59回グラミー賞】で、カントリーの女王=ドリー・パートンとコラボレーションした「ジョリーン」が、最優秀カントリー・デュオ/グループ・パフォーマンス部門を受賞し、3年連続のグラミーを受賞。4月にリリースしたEP盤『PTX Vols.4 クラシック』は、3作連続の首位獲得とはならなかったものの、全米では4位に初登場し、オリジナル・アルバム、EP盤全てを含めると、7作連続のTOP10入りという、コーラス・グループとしては異例の偉業を達成した。翌5月には単独ジャパンツアーが行われ、7回目の来日を果たす。キャラクター・グッズを見て回ったり、日本食を堪能したりと、最高の時間を過ごせたとメンバーも話している。

 7月4日の独立記念日には、彼らの目標であり夢だった、ハリウッド・ボウルでのショーをオーケストラと行い、「キャリアの、そして人生のハイライトになった。一番素晴らしい体験の一つだったよ」と、スコットはインタビューで振り返った。そして9月に前述のアヴィがグループを脱退し、現在は4人体制で活動を続けているという状況だ。『ペンタトニックス・クリスマス(ジャパン・デラックス・エディション)』をリリースした後、今年は初のクリスマス・ツアーが行われ、年末までは大忙しになりそうなペンタトニックス。ただ、グループのルールとしてクリスマスは家族と一緒に過ごすと決めているそうで、来年も活動は少し抑え、一人の時間をもっと持つようにしたいとスコットは話している。来日公演や新作のリリースも期待したいところだが、一度リセットしてもらうためにも、彼らには少し休養が必要なのかもしれない。


▲Pentatonix - Live - Concert - Hollywood Bowl - 7/2 /17


 2000年代に入ってからは、ゴスペラーズやラグフェア、最近ではリトル・グリー・モンスターなど、日本のアカペラ・グループは隆盛したが、海外のボーカル・グループの活躍は、ボーイズⅡメンやテイク6などのボーカル・グループがヒットを飛ばした90年代と比較すると、盛り上がっているとは言い難い。その中でも、EDMブームの真っただ中に“アカペラ”で勝負し、7作連続の全米TOP10入りや、ライブチケットの完売など、大成功を収めたペンタトニックスの活躍は、ファンでなくとも認めざるを得ない。今後は、それぞれの個性を活かしたソロ活動とはまた違う、アカペラにも拘らない作品やライブにも期待したい。なお、メンバーのスコットとミッチは、2人によるプロジェクト<スーパーフルーツ>として、2018年3月に来日し、【POPSPRING 2018】に出演することが決定している。

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