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<コラム>ゆこぴ「強風オールバック」が初の年間首位――年間Billboard JAPAN“ニコニコ VOCALOID SONGS TOP20”から振り返る、2023年のボカロシーン



コラム

Text:ヒガキユウカ

 12月8日、2023年の年間Billboard JAPAN“ニコニコ VOCALOID SONGS TOP20”が発表された。ニコニコ動画におけるVOCALOID曲の人気を測る本チャートは2022年12月7日にスタートしたもので、年間の集計結果が発表されるのは今回が初めて。記念すべき初の年間首位に輝いたのは、ゆこぴの「強風オールバック」だった。

 本チャートは、オリジナル動画や二次創作動画などの動画再生数や動画総数、コメント数、いいね数などのデータにBillboard JAPANが独自開発した係数に乗じて上位20位までのランキングを生成したもの。20位までの楽曲を見ると、2018年のかいりきベア「ベノム」や2023年8月の原口沙輔「人マニア」といった、幅広いリリース時期の楽曲を含んでいる。さらにwowakaの「アンノウン・マザーグース」(2017年)や「ローリンガール」(2010年)もチャートインし、最新トレンドというよりはボカロカルチャーを広く象徴するようなラインナップとなった。ボカロPで見ても、2020年にデビューし、2作目「KING」のスマッシュヒットで一気にトップボカロPの座に登り詰めた若手の雄=Kanariaから、2009年のデビュー以来ボカロ界に君臨し続け、本チャートでも3曲(うち1曲は共作)をランクインさせたヒットメイカーのピノキオピーまで、世代を超えた顔ぶれとなっていることも興味深い。

 今回は本チャートの結果をヒントに、ボカロカルチャーが持つ独自の文脈やヒットのポイントを紐解いていきたい。

ボカロと二次創作

 ボカロカルチャーは、ニコニコ動画上で二次創作とともに発展してきたと言っても過言ではない。『歌ってみた』や『踊ってみた』といったユーザー生成コンテンツ(UGC)の勢いが世の中的にも盛り上がってくると、その影響はYouTubeやTikTokなどさまざまなプラットフォームに広がった。本チャートで見ると、TikTokで フィンガーダンスが大流行した「グッバイ宣言」を筆頭に、『歌ってみた』が盛んに投稿された「フォニイ」「酔いどれ知らず」「マーシャル・マキシマイザー」などは、オリジナル曲のポイントに加え二次創作関連のポイントも大きく伸ばしている。また本チャート20曲のうち9曲が、YouTubeで公開されているユーザー生成コンテンツ(UGC)のみを集計したチャート“Top User Generated Songs”の2023年年間チャートにもランクインした。

 総合首位となった、ゆこぴの 「強風オールバック」も同様の傾向で、オリジナル曲のポイントが2位、二次創作関連が1位だった。この曲は今年3月15日に公開され、YouTubeでは2週間足らずで100万再生を突破するなど異例のスピード感で大ヒット。 日常のクスッと笑えるワンシーンを切り取った歌詞、一度聞いたら忘れられないキャッチーな音構成、脱力感のあるかわいいアニメMVなどが、ボカロファンに限らず広く支持される要因となった。4月5日公開のウィークリーチャートで初登場2位を記録した後、翌週以降8週にわたって連続首位を記録。この圧倒的ヒットは、次項で触れる「ボカロ×大型コラボレーション」の動きにもつながっていく。


強風オールバック feat.歌愛ユキ / ゆこぴ


ボカロ×大型コラボレーション

 初音ミク発売から16年。いつしかボカロ曲はマイノリティな存在ではなくなり、音楽におけるメインジャンルのひとつとなっていった。これは単にボカロが市民権を得ただけでなく、インターネットやSNSの普及により、若い世代が手軽に、そしてジャンルレスに音楽に触れるようになったというライフスタイルの変化も後押ししているだろう。

 ネットカルチャーやサブカルチャーだけで内包しきれなくなったボカロの影響力は、私たちが日常的に目にする商品やタイトルにも及び始めている。前項で触れたゆこぴの「強風オールバック」は、替え歌という形で7月に日清食品のカップヌードルのCM『夏は食っとけシーフード 篇』に起用された。原曲のヒットからコラボまでのスピード感もそうだが、「1曲のボカロ曲がここまで大きくなれる」ことによる衝撃は大きかった。ボカロキャラクターとしてはややニッチな歌愛ユキが、原曲MVに続いて日清のCMに登場したことも、ファンを喜ばせた。


 9月にはポケモンとクリプトン・フューチャー・メディアのコラボプロジェクト『ポケモン feat. 初音ミク Project VOLTAGE 18 Types/Songs』が発表された。ポケモンのタイプ数と同じ、18人のボカロPによる楽曲&MVの公開が予告されており、現在も順次公開中だ。12月1日には、既発表曲がニコニコ動画に一斉投稿されたことを受け、直後の12月6日に発表されたウィークリーチャートでは、2~5位および7位が関連楽曲に塗り替わった。


イベントによる盛り上がり

 他方、ニコニコ動画上で開催される【The VOCALOID Collection】(通称:ボカコレ)や【無色透名祭】といったイベントによって、リスナーの裾野もしっかりと広がっている。2020年12月にスタートしたボカコレは、ドワンゴがニコニコ動画上で毎年2回開催しており、楽曲投稿を主としたボーカロイドのイベントとしては最大級のものだ。2023年は3月に【ボカコレ2023春】、8月に【ボカコレ2023夏】が開催され、目玉企画である「TOP100ランキング」や若手の登竜門的存在「ルーキーランキング」、さらにボカコレ夏から新たに加わった「ネタ曲投稿祭」などの参加楽曲が、“ニコニコ VOCALOID SONGS TOP20”でも続々とチャートインした。


 一方の【無色透名祭】は、順位や数字ばかりに重きが置かれがちな【ボカコレ】へのアンチテーゼとして、ユーザー発案でスタートした匿名投稿企画だ。今年は11月に第2回が開催され、直後のウィークリーチャートはほぼ“【無色透名祭】一色”と称してよい結果となった。


 こうしたイベントがあることで「ボカロ曲が注目されやすい日」が生まれ、各曲がSNSで話題になったり、視聴のハードルが下がったりする効果に繋がっている。今回「マーシャル・マキシマイザー」が年間9位に入った柊マグネタイトは、第1回【ボカコレ】のルーキーランキングで首位を獲得して脚光を浴びた存在。「きゅうくらりん」で3位に輝いたいよわは、【ボカコレ2022秋】で自身の悲願であったTOP100ランキング1位を達成した。ボカコレ2023春のTOP100ランキングでは、まらしぃ、じん、堀江晶太(kemu)という、界隈を牽引してきた面々がコラボして新曲「新人類」を発表し、年間チャート7位に食い込んでいる。

過去曲の再フォーカスと新人の発掘を担う『プロセカ』

 近年のボカロカルチャーを整理する上で、スマホゲーム『プロジェクトセカイ カラフルステージ! feat. 初音ミク』(通称:プロセカ)の存在も忘れてはならない。ボカロ楽曲を題材とした音楽ゲームで、APAC地域における優れたモバイルアプリ/ゲームを表彰するアワード【Sensor Tower APAC Awards 2022】では「2022年に日本で最もダウンロードされたモバイルゲーム」として発表された。ユーザーは10~20代の男女が多く (※)、ボカロ曲が若年層へリーチすることに、非常に大きな役割を担っている。

 既発表曲の『プロセカ』収録が決まるとその都度話題となり、曲名がX(旧Twitter)のトレンドに入ることも珍しくない。本チャートも、20曲中13曲はすでに『プロセカ』に収録されており、このうち、ぬゆり「ロウワー」は書き下ろしとして制作されたものだ。また『プロセカ』は既存曲の収録や人気ボカロPによる書き下ろしだけでなく、収録楽曲を募集するコンテスト【プロセカNEXT】を通して、新たなクリエイターの発掘も行っている。


 ボカロ曲の持つ大きな特徴は、曲の旬が一度で終わらないことだ。いわゆる懐メロ的な曲はあれど、そうした曲も二次創作のヒットや楽曲が持つ文脈によっては再度注目され、瑞々しい輝きを放つ。11月にはニコニコ動画公式によって【既存楽曲復活祭】が開催されるなど、新曲誕生の後押しと並行して、過去曲の再発掘もプラットフォーム主導で積極的に行われている状況だ。

 黎明期から活躍するベテランボカロPたちも現役であるし、過去の人気曲だってライバルになり得る。そんなカオスな勢力図が広がり続けるこの界隈で今回チャートインした楽曲たちに、心からの祝意を贈りたい。



(注1)Sensor Tower発表の記事より
(注2)ゲームエイジ総研発表のデータより

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