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<インタビュー>アジア各国からアーティストが集結【BiKN shibuya 2023】、主催者ふたりが語るアジア音楽シーンの“今”

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Interview & Text: 黒田隆憲 / Photo: 筒浦奨太

 アジアで注目を集めるアーティストが一堂に会するサーキットイベント【BiKN shibuya 2023】が11月3日、Spotify O-EASTやSpotify O-WEST、clubasiaなど東京・渋谷にある複数のライブハウスにて開催される。本イベントには、今年の【コーチェラ】や【SUMMER SONIC】で抜群の存在感を発揮した台湾出身のギターバンドSunset Rollercoaster(落日飛車)や、マレーシア出身のbabychair、韓国出身のSilica Gelらが参加。日本からは、ヒグチアイやDYGL、She Her Her Hers、The fin.など、すでに海外で高い評価を得ているアーティストの参加が決まっている。そこで今回Billboard JAPANでは、本イベントの主催を務める森田大介(電通ミュージック・アンド・エンタテインメント)と、藤澤慎介(THISTIME RECORDS)の対談を実施。イベント開催の経緯や見どころ、アジア音楽シーンの“今”についてじっくりと語ってもらった。

――まずは、サーキットイベント【BiKN】を開催するに至った経緯をお聞かせください。

森田大介:ここ数年、コロナ禍になる少し前くらいからアジアのアーティストの盛り上がりを強く感じるようになったんです。それで、昔からよく知っていたTHISTIME RECORDSの主宰者、藤澤さんに「何か面白いイベントを僕らで企画できないだろうか」と相談したのがそもそものきっかけでした。

 もともと僕は、ライブハウスのブッキング担当として音楽業界に入ったんです。その経験を活かし、自分でもライブハウスを経営したのち、タワーレコードのイベント事業部で国内の音楽フェスに関わるようになって。現在は電通ミュージック・アンド・エンタテインメントで野外イベントやコンサートなどの企画立案をしています。

藤澤慎介:森田さんとは、THISTIMEとタワーレコード、他数社とで共同開催した【Shimokitazawa SOUND CRUISING】で知り合い意気投合しました。下北沢にタワレコをオープンさせるなど、面白い施策をいろいろと実現させましたね。実は、その頃からアジアのアーティスト……例えば韓国出身のSE SO NEONやADOY、タイ出身のStampらを呼んでいたんですよ。逆に、うちのレーベルに所属しているアーティストを向こうのフェスに呼んでもらうことも多くて。そんななかで、アジアと日本それぞれの現場の違いを肌で感じるようになっていました。特に今のアジアは、行けば面白いアーティストにどんどん出会えるというか。日本とはまた違うベクトルで、加速的にアーティストが増えているのもあり、すごい熱気を感じていたんです。それを森田さんと話していくうちに、どんどん盛り上がって今回の【BiKN】のコンセプトに繋がっていきました。

森田:実際にこの目で現場を見るのが一番いいとは思いつつ、折からのコロナ禍で海外に行くのもなかなか難しくなって。「こんなことやったら面白いよね」みたいな話をする、いわゆる熟成期間が1年くらいあったのかな。で、ようやくコロナが落ち着いてきた時期を見計らい、まずは韓国・ソウルで開催されているショーケース・フェスティバル【Zandari Festa】に行きました。僕は、韓国のフェスにそのとき初めて行ったのですが、日本の音楽フェスと規模もクオリティもほとんど変わらないし、そこに出演していた韓国のアーティストをそのまま日本に呼んでも、きっと好きになってくれるお客さんはたくさんいると確信したんです。



――ラインナップを見ると、現在活躍している様々なジャンルのアーティストが並んでいます。ブッキングは、どのようなテーマでおこなっていたのでしょうか。

森田:僕自身、今回のイベントを手探りで進めながら思ったのが、意外と早くからアジアに注目している日本人アーティストやプロモーターは多いのだなということでした。まずはその人たちに関わってもらった方がいいだろうという話を藤澤さんともしていて。今回は、藤澤さんが懇意にしているアーティストやプロモーターにたくさんご協力いただいています。僕が付け焼き刃の知識で考えたラインナップよりも、きっとその方が説得力のあるものになるだろうと。僕たちがライブを見たことがあることは前提ではあるものの、先駆者たちの目利きを信じてブッキングをしている側面もありますね。

藤澤:本国内では割と小さなライブハウスを回っているのに、海外では桁違いの規模でライブをしているアーティストが、実は結構いるんですよ。例えばShe Her Her Hersは中国ツアーで、数千人のキャパの会場をどこも即完させているんです。また、The fin.は中国だけでなくヨーロッパでものすごく人気がありますし、ヒグチアイは【サウジアニメエキスポ 2022】に出演し熱狂的な歓迎を受けました。一方、ミツメはSunset RollercoasterやSilica Gelと対バンしたりもしている。要するに、彼らは海外で「見つかっている」どころか新たな段階にシフトしているんです。



 一方、日本はこれだけたくさんの音楽ジャンルがあり、たくさんのアーティストがいるにも関わらず、国内だけで評価が決まっている状況なんですよ。しかもこれって、日本だけの現象なんですよね。僕らはそこに閉塞感のようなものを感じていました。今回【BiKN】をやるにあたり、今言ったような“次の段階”に入っている日本人アーティストをたくさん招聘することで、日本のオーディエンスが見ている景色をガラッと変えるのが楽しみなんですよね。【BiKN】開催をきっかけにアーティスト同士のつながりができたり、あるいはリスナーの中から日本以外のシーンを目指す次世代のアーティストが生まれたりしたら最高だなと。

森田:イベントタイトルである【BiKN(ビーコン)】には、原形となるBEACONの通り「灯台」や「かがり火」「発信機」といった意味があります。僕たちがこのイベントを開催することで、僕らの周りにいる日本やアジアのアーティストたちが新たな地平へシフトできるような、そんなイメージでつけた名前です。今回は【BiKN shibuya】と銘打っているのですが、今後は【BiKN Taipei】や【BiKN Kuala Lumpur】といった具合に、世界各地で開催したいと思っています。【BiKN】というプロジェクトの一環として、【BiKN shibuya】が開催されるイメージですね。


――今回、海外勢で特に注目すべきアーティストは?

森田:今回のイベントで、最も名が知られている海外勢はやはり台湾のSunset Rollercoaster。今年は【コーチェラ】への出演も果たし、世界的にも注目を集めているバンドです。今回はショーケース・ライブなので、全てのアーティストに注目してほしいのは当然ですが、個人的には先ほども話に出たSilica Gelがイチ推しですね。彼らのライブを初めて観たのは【Zandari Festa】の前夜祭でした。夜中の2時くらいだったかな、お客さんも関係者以外ほとんどいないなか、Tシャツに短パン姿でふらりと現れ演奏していた彼らが、そこからたった1年で【仁川ペンタポート・ロック・フェスティバル】のメインステージに出演し、2万人のオーディエンスを盛り上げていました。この加速度は凄まじく、将来どんなアーティストに成長するのだろうと、久しぶりに興奮しましたね。



藤澤:今回はインディーロックっぽいアーティストをたくさん呼んでいるのですが、例えば【ペンタポート】や台湾の【浮現祭】、マレーシアの【グッド・ヴァイブス・フェスティバル】のような、【フジロック】〜【サマソニ】級の大型フェスでメインを張っているアクトが多い。個人的にインディーロックは大好きなので、そういう状況がすごく嬉しいんですよね。なので、今回もそういった、海外で活躍しているインディーロック系のアーティストを軸にラインナップを作っています。

 Sunset Rollercoasterは、例えば下北沢の小さなライブハウスに出ていてもおかしくないようなサウンドを鳴らす、日本のシティポップにも大きな影響を受けたギターバンドです。彼らのような存在が、今や「アジア最高峰のバンド」として【コーチェラ】に出られるなんて、めちゃくちゃ夢があると思うんですよね。「僕らにも出来るんじゃないか?」と思う、日本の若いバンドマンがいたらすごく嬉しい。僕らは裏方なので、ついそういう視点で見ちゃうんです(笑)。

森田:実はSunset Rollercoasterは、日本で何度もライブをおこなっています。でも広く告知される前に、在日外国人たちのネットワーク内だけでチケットが売り切れてしまい、日本人が気づくことができない状況が続いていたんです(笑)。そういうアジアのバンドが結構いるのですが、今回のイベントによって、彼らの存在がもっと多くの人に知られることを願っていますね。

藤澤:とはいえ、こればっかりは蓋を開けてみないと全く分からない。これまでやったことのない組み合わせのラインナップですから、どんなお客さんが集まるのか想像がつかないんですよ。在日外国人と日本人の割合はどのくらいなのか……ひょっとしたら日本人のお客さんは全然いないかもしれないなと(笑)。

森田:海外のアーティストたちが、せっかく覚えた日本語でMCをしても、聴いているお客さんは外国人ばかり……みたいな光景もあるかもね(笑)。


藤澤:実際、そういう現象が起きているんですよ。さっき話したSunset Rollercoasterのライブとかもそう。他にも、中国では結構有名なインディーロック・バンドの来日公演が、かなり大きな会場にもかかわらず即完しているんです。日本のバンド、日本人のオーディエンスではありえないような盛り上がりになっていて、それはそれでめちゃくちゃ面白い光景なんですけどね。今はコロナも落ち着きインバウンドも戻ってきて、各地のライブハウスにも外国人が結構混じっている。それが【BiKN shibuya】ではどんなことになっているのか。様々なカルチャーが混じり合ったフロアに期待しかないです。

森田:さっきも話に出ましたが、【BiKN shibuya】に出演してくれたアーティスト同士が、例えば今後、国境を越えてのコラボレーションをするとか、そういう“ハプニング”がどんどん起きることを僕は期待しています。それでようやく、「このサーキットイベントを苦労してやり遂げてよかった」としみじみ感じられると思うので(笑)。

 本当はコラボステージとかも用意できたらよかったのですが、何せバタバタでそれどころじゃなかった(笑)。今後はそういった試みにもチャレンジしていきたいですね。そしてお客さんも、ここで見つけたマレーシアのバンドに夢中になって、「来年はマレーシアのフェスに行ってみようかな」なんて思ってもらえたら嬉しいです。




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