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<コラム>秋山黄色が鬱屈した現代に放つロック・サウンド、時代を照らす2ndアルバム『FIZZY POP SYNDROME』



コラム

 秋山黄色が3月3日に2ndアルバム『FIZZY POP SYNDROME』をリリースした。2020年3月に放たれた前作『From DROPOUT』から1年ぶりとなる本作は、秋山本人が「一筋縄ではいかないこのご時世に、自分が音楽から引き出せる力ってなんだろう? その答えを詰め込みました」と語る1枚。そんな現在地に至るまでのキャリアを振り返りながら、やがて彼が辿り着いた一つの境地について、音楽コンシェルジュのふくりゅうがアルバムの内容を紐解きながら解説する。

秋山黄色のルーツと、その先を描いた1stアルバム『From DROPOUT』

 秋山黄色は、これまでフルアルバムを2枚リリースしている。アマチュア時代、ライブ活動でとりわけ人気だったわけでもなく、オーディションやコンテストでチャンスを得たわけでもなく、YouTubeで再生回数が多かったわけでもない。なんとなくバイトに明け暮れ、うまくいかないことばかりの日々……。マイナスからのスタートだったかもしれない。しかし、そのクリエイティブな楽曲力の高さが噂に噂を呼び、口コミで広がりストリーミング時代に大躍進した、いまをときめく表現者だ。抱え込んだコンプレックスを跳ね除ける初期衝動から生まれた、純度高いロック・サウンドが解き放つ魅力。2019年1月19日にリリースしたミニアルバム『Hello my shoes』のレコーディング制作よって、秋山黄色の才能は開花した。より楽曲の方向性の幅、伝えたいメッセージが広がっていったのだ。

 続く、2020年2月24日にリリースした1stアルバム『From DROPOUT』では、2018年6月20日にリリースし、Spotify「日本 バイラルトップ 50」で2位(7月2日付)にランクインした「やさぐれカイドー」を収録。ライブでもおなじみ、本人いわく“大事な曲”の「猿上がりシティーポップ」を収録。2017年12月にライブ活動を開始した、第1期秋山黄色の集大成となったアルバム作品だ。

 そもそも「やさぐれカイドー」は、アマチュア時代、目標なきままに友人とスタジオに入り、セッションしたことで生まれたナンバーであり、当時はスタジオの模様をビデオ・カメラで撮影し、帰宅後にチェックしながらフレーズを探し当て、高揚感ある楽曲をDAWでエディットしながら構築していったという。いわば、実験的な楽曲の作り方だ。しかし、こうした独自のスタイルの積み重ねによって、秋山黄色は自分らしさを見つけていった。



秋山黄色『やさぐれカイドー』


 その後、ドラマ主題歌へと抜擢された「モノローグ」ではさらなる技術的な成長を見せ、せつなポップに胸を打つ「クラッカー・シャドー」、沈む心の葛藤をポップ・ソングに昇華する「夕暮れに映して」などの名曲を形にしていく。



秋山黄色『クラッカー・シャドー』


 アルバム『From DROPOUT』ラストに収録したエモーショナルな「エニーワン・ノスタルジー」では「大人と子供の間にいるからだ/ダサい大人になりたくない」とシャウトしていたが、1stアルバム『From DROPOUT』とは、秋山黄色がどんなルーツから登場したかを描き、受け入れ、そして卒業していくための作品だったように思える。


鬱屈した2021年に輝く、ロック・スターとしての開花

 そして、2021年3月3日にリリースされた2ndアルバム『FIZZY POP SYNDROME』だ。ロックなき時代に、過剰な音圧でギター・サウンドを響かせるロック宣言となる金字塔作品だ。

 明らかにサウンドの輝きが1stアルバムとは異なる。活き活きとしたポジティブな音のパワー。そんなエネルギーを信じる秋山黄色の成長が見えた1枚だ。先行シングル「サーチライト」で感じたのだが、かつての自分と重ね合わせ、コロナ禍でうまくいかないティーンに向けた想いがトリガーとなったのかもしれない。



秋山黄色 『サーチライト』 PLAY MOVIE (Guitar)


 覚醒した秋山黄色のポップ・センスは、90年代ロックを彷彿とさせる1曲目「LIE on」から突き抜ける。これが、まさに2021年の鬱屈した時代に欠けたラスト・ピースに折り重なった。ロックとは、痛快さ。学校でも勉強でも会社でも仕事でもない、誰かに教わるものでなく、支配されるものでもなく、自ら掴み取っていくもの。自由という名の希望、そんな光を提示してくれたアルバム。それが『FIZZY POP SYNDROME』なのだ。まごうことなき2021年を代表する大傑作アルバムの誕生だと言い切りたい。

 と言いながらも、初期を彷彿とさせる「月と太陽だけ」でのせつなポップなめくるめく展開もよかった。さらに、ビートが弾ける「宮の橋アンダーグラウンド」は「とうこうのはて」「クソフラペチーノ」「ガッデム」からの系譜を感じるパンキッシュなナンバーであり、ヒリヒリとした初期衝動感がたまらない。

 相反するかのように4曲目「アイデンティティ」では、TVアニメ『約束のネバーランド』オープニング・テーマに起用された、グルーヴィーなリズム、流れるように注ぎ込まれるシンセ・フレーズが印象的なナンバーの完成度の高さも素晴らしい。



秋山黄色『アイデンティティ』


 90's洋楽センスのベース・フレーズを確信犯的に取り入れた「Bottoms call」など、世代を超えてフックとなるメロディーを差し込んでいるのも、継承されていくロックの楽しさだ。幅広い世代へ届くキーとなるかもしれない。

 そして、注目すべきはラスト・チューン10曲目「PAINKILLER」で辿り着いた痛みと歪みの境地だ。オルタナティヴ・ロックな匂いをまといながらも、ラップ的に心情を吐露するフレーズ。過去の自分と向き合うかのように心の病気を歌ったナンバー。すべてをさらけ出し、すべてを受け入れる覚悟を感じたロック・スター、秋山黄色。全10曲のアルバム『FIZZY POP SYNDROME』、「LIE on」から「PAINKILLER」へと一気に駆け抜けていくことで、秋山黄色の優しさ、そして時代を見つめるポップ・センスの審美眼に気づく。ギター・ロック不毛と呼ばれる時代に、ロック・サウンドをこれでもかと鳴らす、2021年に希望の火を灯す1枚となるだろう。

Text by ふくりゅう(音楽コンシェルジュ)

秋山黄色「FIZZY POP SYNDROME」

FIZZY POP SYNDROME

2021/03/03 RELEASE
ESCL-5498 ¥ 3,300(税込)

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Disc01
  1. 01.LIE on
  2. 02.サーチライト
  3. 03.月と太陽だけ
  4. 04.アイデンティティ
  5. 05.Bottoms call
  6. 06.夢の礫
  7. 07.宮の橋アンダーセッション
  8. 08.ゴミステーションブルース
  9. 09.ホットバニラ・ホットケーキ
  10. 10.PAINKILLER

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