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台湾インディーミュージックの祭典【第十回金音創作獎 -Golden Indie Music Award-】イベントレポート



2019年11月16日、台湾インディー・ミュージックの祭典【金音創作獎Golden Indie Music Awards】の授賞式が、台北・国立国父紀念館にて開催された。今回、Billboard JAPANはアワード前々日より現地入り。授賞式の模様はもちろん、アワードの開催に併せて行われた音楽イベント【Asia Rolling Music Festival】の模様も一緒にレポートする。
台湾独自の音楽シーンを支えてきたGIMA

 台湾には文化部(日本で言う文部科学省)が主催する音楽賞が二つある。一つは台湾のグラミー賞と呼ばれる【金曲獎Golden Melody Awards】、もう一つがこの【金音創作獎Golden Indie Music Awards】(以下GIMA)だ。GIMAはアーティストの創造性にスポットを当てたアワードで、ジャンルや売上は選考に関係しない。2010年の設立以来、その独自の視点から多くのクリエイターをフックアップし続け、台湾の多様性に富んだ音楽シーンを支えてきた。


▲昨年度(第9回)の様子。YouTubeのGIMA公式チャンネルでは、第5回以降の授賞式及び【Asia Rolling Music Festival】の模様がほぼ全編アップされており、アーカイブの役割を担っている。

台日キーマンが語る国を超えた音楽交流の可能性

 2018年からはアワードの開催に併せ、アジアの音楽交流を促すイベント【Asia Rolling Music Festival】が開催されている。今年度は11月11日~17日の6日間に渡り、台湾を中心としたアジアのアーティスト34組が出演するサーキット式のライブイベントや、国内外の音楽市場について有識者が語り合うフォーラムが行われた。

 Billboard JAPAN編集部は、15日に行われたフォーラム&ライブに参加。フォーラムの第一部では、【SUMMER SONIC】や【SXSW】にも出演経験のある台湾のマスロック・バンド=Elephant Gymの3人と、台北・東京の2都市でライブハウスを運営する台日インディーシーンのキーマン=寺尾ブッタ氏が登壇。インディーズ・バンドの国外での活動についてディスカッションが繰り広げられた。


▲海外ツアーの体験談を語るElephant Gym。左から張凱翔(Gt./Pf./Syn.)、張凱婷(Ba.)、涂嘉欽(Dr./Perc.)

 アメリカやヨーロッパでのツアーを成功させたElephant Gymは、どのような方法でツアーを回ったのか。バンドのスケジュールを管理している張凱婷曰く、現地にマネージャーがいる国ではチケットの売買などすべて任せているが、それ以外の国では自分たちでスケジュールを組んでいるという。またスケジュールを組む際は、自分たちと似たスタイルの日本のバンド(toe、tricotなど)のツアーを参考にしており、「自分たちを好きになってくれそうなファンが多そうなエリアを研究することが大事」と下調べの重要さを力説した。

 寺尾ブッタ氏は、「Elephant Gymみたいに現地のマネージャーが見つけられたらいいけど、なかなか簡単にはいかない。(海外公演をしたいのであれば)まずは連絡を取るのがいい。調べれば現地で活躍している人や招聘している人は見つけられます」と、自らコンタクトを取ることの大切さを語った。さらに張凱翔も「僕らも日本の人にアピールしたいと考えた時は、まずtoeのギタリストにメールしました。日本のアーティストに連絡する時は、日本語で連絡すると返事が来ますが、英語だとあんまり来ません。だから、相手の言語に合わせることは大切だと思います」と、MCもできるだけその国の言葉を使うよう努力していると打ち明けた。

 第三部では、Sony Music Taiwan、Yahoo TVなどのデジタルマーケティングを担当してきたZoe Peng氏と、デジタル音楽ジャーナリストのジェイ・コウガミ氏が登壇。各国の音楽市場の現状を踏まえつつ、SNSを活用したプロモーション展開について意見交換がなされた。近年の台湾の音楽プロモーションについてZoe Peng氏は、MVを複数バージョン作る、ライブ後にプレイリストを公開するなど、様々なプラットフォームを駆使したプロモーションが増えてきていると説明。それらを踏まえ、これからはITのトレンドがわかる人が重宝されるようになると推測した。さらに「アーティスト自身が自分でリリースできるようになるということは、アーティスト自身がいろんなエージェントと協力できるということ。アーティストの意見が中心の業界になると思う」と、アーティストとエージェントそれぞれの可能性が広がってきていることを示唆した。

 一方ジェイ・コウガミ氏は、日本のトレンドとして、LINE LIVEやインスタライブを用い、リリースのタイミングなどでファンと交流し、アーティスト自らUGCを高めていくプロモーションが増えていると指摘する。また「日本でアーティストを売り出すためには何をすればいい?」という質問には、「個人でも良いので、日本のマーケットを知っているエージェントを見つける。TwitterかInstagramで探して、メールもしくはDMする。直のコミュニケーションでパートナーを見つけることが確実だと思います」とアドバイス。加えて、「以前より日本のマーケットやアーティストと同時にキャンペーンをやることがやりやすくなったと思います。今後、日本と台湾が何か一緒にできるチャンスが広がっていくと信じてます」と展望を語った。

台湾インディーズ・シーンの今

 フォーラム終了後、同じビルの地下のイベントスペースで、台湾・アジアのインディーズバンドによるライブイベントがスタートした。この日は、今年度のGIMAで<最優秀ライブ賞>を受賞した落差草原WWWW、同じく<最優秀ロックソング賞>を受賞した美秀集團のほか、The Roadside Inn、雞蛋蒸肉餅(GDJYB)の4組が出演。ジャンルの垣根を超えたブッキングには、台湾インディーシーンの懐の深さが感じられた。


▲落差草原WWWW(Photo by 金音創作獎)


▲理容店のサインポールを改造した自作シンセサイザーを担ぐ美秀集團の狗柏(Vo.)(Photo by 金音創作獎)


▲The Roadside Innの演奏に盛り上がるオーディエンス(Photo by 金音創作獎)


▲雞蛋蒸肉餅(GDJYB)(Photo by 金音創作獎)

 この日のトリを飾った中国・香港のポストロック・バンド=雞蛋蒸肉餅(GDJYB)は、黒いマスクで口を覆いながら、香港デモの映像をバックに「The Loveing Mothers」を披露。「台湾が第二の香港にならないように、次の選挙には必ず行ってほしい」とオーディエンスに訴えかけ演奏された「WHY DON'T YOU KILL US ALL」は、今年度のGIMAのテーマ『#自由就是』(自由とは)の意味を考えさせられる一幕だった。

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活気に満ちた授賞式

 11月16日、授賞式当日。会場の国立国父記念館・大ホールには、100人近くのノミネートアーティスト&関係者と、2,000人以上のオーディエンスが集まった。


▲式典が行われた国立国父記念館(Photo by 金音創作獎)

 授賞式では賞の授与に加え、今年度のGIMAのテーマ『#自由就是』を主題とした7つのライブパフォーマンスが披露された。オープニングを飾るのは、メタルバンド=血肉果汁機と、寺院カルチャーをルーツに持つエレクトリック・ユニット=三牲獻藝のコラボレーション『Free Your Belief』。サイケデリック且つ豪快なパフォーマンスに、会場は式典と思えぬ大歓声に包まれた。

 ライブプログラムのみならず、会場の雰囲気は終始活気に満ち溢れていた。受賞したアーティストは思い切り喜びながらスピーチで将来の展望を語ったり、それを見守る他のアーティストも晴れやかな表情で拍手を送ったり、受賞者と肩を組んで抱き合ったり、歓声を送ったりと、そこにいる誰もがアワードを楽しんでいる様子だった。なかでも一際歓声が大きかったのが、<最優秀新人賞>と<最優秀ロックアルバム賞>をW受賞した百合花。嬉しさのあまりメンバー全員で歌い始める姿はなんとも和やかだった。

 2020年3月に来日公演を控える新星ラッパー=ØZIは、<最優秀R&Bアルバム賞>を受賞。スピーチでは、「韓国語の音楽が世界中で聴かれている今、中国語の音楽も世界中で聴かれる可能性があると思います。一緒に世界で活躍しましょう!」と客席のアーティストたちを鼓舞した。

 また授賞式には、日本のアーティストも登場した。翌17日の【Asia Rolling Music Festival】にも出演したYogee New Wavesは、<最優秀海外アルバム賞>のプレゼンターとして登壇し、「台湾はこれまで何回も来たことがありますが、毎回エキサイティングです。僕たちもいつか賞を獲れるように頑張ります」と、台湾のオーディエンスに向けて意気込みを語った。

 『Free Your Heart』と題したプログラムでは、僧侶ボーカルプロジェクト=薬師寺寛邦 キッサコが登場し、エレクトロポップ調にアレンジされた「般若心經」を披露した。さらに『Free Your Soul』では、Suchmosが洗練されたライブステージでオーディエンスを魅了。今回が台湾初ライブとなるSuchmosだが、客席にはSuchmosのロゴが入ったタオルを掲げるオーディエンスも散見されるなど、台湾での注目度の高さも窺えた。

 授賞式もいよいよクライマックスを迎え、ついに主要二部門が発表。<最優秀バンド賞>は、2018年に『水底 Underwater』をリリースしたElephant Gymが受賞。そして、栄えある<最優秀アルバム賞>は、ニューヨークを拠点に活動するビブラフォン奏者=蘇郁涵(Yuhan Su)『城市型動物City Animals』が受賞した。


▲スピーチをするElephant Gym。張凱婷(Ba.、中央)が審査員の亀田誠治に「亀田さんありがとう!あなたのベース大好き!」と突如日本語で告白するシーンも。

 蘇郁涵は、国外にいる本人に代わり、彼女のお母さんが代理でトロフィーを受け取った。スピーチでは「娘を誇りに思います」と、ここまでサポートしてくれた周囲の人々に感謝の言葉を述べた。また、式典に訪れていた大臣に対し、「国は若者にもっと多くの助成金を出してください! そして、両親の負担をもっと軽減してください!」とサポートの充実を求めると、客席からは拍手が巻き起こった。

 最後に、審査員を代表してコメントを任された馬世芳氏は、今年度から導入した国外の審査員について言及した。「台湾の音楽は非常に多様で活力があります。今回、国外の評論家との話し合いを通し、自国のことを再確認することができました。この賞がクリエイターの未来に役立つことを願っています。」

 知名度や売上に関係なく、素晴らしい音楽を讃え合える場所があることは、アーティストやその周りの人々にとってとても重要なこと。GIMAと台湾のインディー・シーンが体現してきた音楽の『自由』は、今後ますます注目されていくだろう。

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受賞作品一覧

最佳專輯獎(最優秀アルバム賞)
蘇郁涵 Yuhan Su『城市型動物City Animals』

最佳樂團獎(最優秀バンド賞)
大象體操 Elephant Gym『水底 Underwater』

最佳創作歌手獎(最優秀シンガーソングライター賞)
廖士賢『西部』

最佳新人(團)獎(最優秀新人賞)
百合花『燒金蕉』

最佳樂手獎(最優秀プレイヤー賞)
謝明諺(テナー&ソプラノサックス/ディジュリドゥ/ペニーホイッスル/プラスチックパイプ)『上善若水 As Good As Water』

葉賀璞(ギター)『響味|味響 Sounds|Savors』

張仲麟(ギター)『春拾』

最佳現場演出獎(最優秀ライブ賞)
落差草原WWWW

海外創作音樂獎(最優秀海外アルバム賞)
Serrini『邪童謠』

最佳搖滾專輯獎(最優秀ロックアルバム賞)
百合花『燒金蕉』

最佳搖滾單曲獎(最優秀ロックソング賞)
美秀集團「電火王」

最佳民謠專輯獎(最優秀フォークアルバム賞)
王榆鈞與時間樂隊『原始的嚮往』

最佳民謠單曲獎(最優秀フォークソング賞)
知更「風箏/白雲 Kites / Clouds」

最佳嘻哈專輯獎(最優秀ヒップホップアルバム賞)
熊仔 & BOWZ 豹子膽『夢想成真』

最佳嘻哈單曲獎(最優秀ヒップホップソング賞)
國蛋「嘻哈囝」

最佳電音專輯獎(最優秀エレクトリックアルバム賞)
FunkyMo『Alb_2』

最佳電音單曲獎(最優秀エレクトリックソング賞)
Waves of Doppler「One of Us」

最佳爵士專輯獎(最優秀ジャズアルバム賞)
葉賀璞『響味|味響 Sounds|Savors』

最佳爵士單曲獎(最優秀ジャズソング賞)
蘇郁涵「腳步之舞」

最佳跨界或世界音樂專輯獎(最優秀ワールドミュージックアルバム賞)
查勞・巴西瓦里『SALAMA』

最佳跨界或世界音樂單曲獎(最優秀ワールドミュージックソング賞)
春麵樂隊「我在你的眼睛我看到了你」

最佳節奏藍調專輯獎(最優秀R&Bアルバム賞)
ØZI『ØZI The Album』

最佳節奏藍調單曲獎(最優秀R&Bソング賞)
Karencici「長期有效」

最佳另類流行專輯獎(最優秀オルタナティブアルバム賞)
HUSH『換句話說』

最佳另類流行單曲獎(最優秀オルタナティブソング賞)
鄭宜農 Enno Cheng「玉仔的心 Jade」

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