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コリー・ヘンリー来日記念特集 ~ジャズとファンクの現在進行形 (Text by 柳樂光隆)



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 ファンクとゴスペルをルーツに持ち、更新され続けるジャズ・シーンに登場したハモンド・オルガン奏者のコリー・ヘンリー。スナーキー・パピーの鍵盤奏者として注目され、現在はThe Funk Apostlesを率いて活躍中の32歳。まさに、2019年最注目アーティストであり、10月に[BBL]に初登場を果たす彼の魅力を最先端のジャズ・シーンを追い続ける柳樂光隆さんが解き明かします。

ゴスペルで育ち、ジャズを変革する。コリー・ヘンリーの強烈なグルーヴ感。

 スナーキー・パピー「Lingus(We Like It Here)」のPVでのコリー・ヘンリーによるキーボード・ソロを観れば、誰もが彼に魅了されるだろう。ドラマーに煽られ、徐々に手数を増やしながら、短い時間に2台のシンセサイザーを駆使し、自在にハーモニーを変えながら短い時間の中に多彩なスタイルを詰め込んだ演奏のあまりの凄さに、隣にいたショーン・マーティンが手で顔を覆い、観客は息を呑む。この映像が彼の評価を決定的なものにした。



▲Snarky Puppy - Lingus (We Like It Here)


 コリー・ヘンリーは今や、世界屈指の鍵盤奏者だが、その出自からして特殊な人だったりする。ブルックリン生まれで、幼いころから教会で演奏し、そのまま大きくなり、というよりも、6歳で既にアポロシアター のステージに立っていたという超天才少年だった彼は音楽専門の学校で音楽教育を受けてはいない。「僕が音楽を学んだのは教会のミュージシャン・コミュニティーだね。高校ではジャズのバンドで演奏してたけど」などと話すように生粋のたたき上げだ。そこからコンテンポラリー・ゴスペルのシーンをはじめ、ジャズ、R&B、ヒップホップなど、様々なジャンルに起用されてきた。その過程で、ロバート“スパット”シーライトに誘われて、スナーキー・パピーに加入し、一気に知名度を上げた。

 コリーは近年、衝撃的な作品をリリースしている。2016年の『The Revival』は、ほぼB3ハモンドオルガン・ソロだが、オルガン・ジャズのイメージをぶっ壊してくれる革命的なアルバムだ。彼の特徴でもある複雑なコードをつけてシンプルなメロディーは残しつつ、新鮮な響きを生み出すスタイルの究極形だ。例えば、ジョン・コルトレーンの名曲「Giant Steps」がオルガン一台で斬新な解釈を施した演奏を聴くだけで、度肝を抜かれること間違いなし。ジャズにおけるオルガンの、そして、ゴスペルにおけるオルガンの、それぞれの最高到達点を塗り替えた新たな名盤と言ってもいいだろう。



▲John Coltrane - Giant Steps


 そして、バンド形態なら2018年のコリー・ヘンリー & The Funk Apostles名義での『Art Of Love』。近年のコリーはシンガー・ソングライターとして、またヴォーカリストとしての側面も打ち出していて、サッ クス奏者のSly5thAveによるザップ&ロジャー/2パックの名曲カヴァー「California Love」ではヴォコーダーを使ってヴォーカリストとして参加している。そんなコリーが、ゴスペルやスムースジャズのシーンで活躍する新鋭ベーシストのシャレー・リードらと結成したバンドで、ビリー・プレストン、スティーヴィー・ワンダー、アンドレ・クラウチ、レイ・チャールズなどをリスペクトするコリーのゴスペルやソウル由来の歌ものの作曲家としての魅力が存分に出ている。そして、何と言っても強烈なグルーヴだ。「コリー・ヘンリーがファンクを全力でグルーヴしたら?」という問いに想像の何十倍の破壊力で答えてくれるのがこのバンドだ。




 コリーを中心にティファニー・スティーブソン、デニース・スタウダマイアーの2人のヴォーカリストを加えたパワフルなコーラスが生み出す祝祭感は、チャーチでの昂揚感を、そのままファンク・バンドのライブに持ち込んだようなすさまじいテンション。僕は前回の初来日を体験しているが、ここまでの、もはやばかばかしくなるほどの勢いとテンションとエモーションでグルーヴしまくるパーティー・バンドをほかに見たことがない。

 今、世界で最も盛り上がるジャズ・バンドという意味では、カマシ・ワシントンのバンドやスナーキー・パピーにも引けを取らないだろう。天才コリー・ヘンリーがステージを掌握するさまをぜひ体験してほしい。



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