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EXIT NORTH 世界初ライブ直前特集 ~スティーヴ・ジャンセン擁する新ユニットを解説 & 高橋幸宏/徳澤青弦/菱川勢一/ジャンセン本人のコメントも公開!

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 元・Japanのドラマーであるスティーヴ・ジャンセン、トーマス・フェイナー、ウルフ・ヤンソン、チャールス・ストームによる新ユニット「EXIT NORTH」の世界初ライブが、いよいよ来月9月にここ日本で開催される。公演は9月25日にビルボードライブ大阪、27日にビルボードライブ東京にて開催。そのステージにはメンバーの他にベーシストのスヴェン・リンドヴァル、徳澤青弦カルテットが出演。さらに映像作家の菱川勢一が演出を手掛ける。2018年10月にはアルバム『Book of Romance and Dust』を発表し、その深遠な音像を世界中のリスナーに届けた彼ら。そのワールド・プレミアム・ライブを前に、その結成の経緯とサウンドの魅力を美馬亜貴子氏に解説してもらった。

 また、ライブを前に今回の出演者、そしてゆかりの深いアーティストたちに「私とスティーヴ・ジャンセン」というテーマでコメントを寄稿してもらった。参加してくれたのは、徳澤青弦、菱川勢一、そしてさらにスティーブ・ジャンセン本人(!)。さらに、EXIT NORTHの公演には出演しないが、ジャンセンと親交が深く、自身も11月11日にビルボードライブ東京に出演(【Curly Giraffe×堀江博久】)する高橋幸宏が特別寄稿。アーティスト同士のつながりを感じるコメントの数々を、ぜひご一読頂きたい。

EXIT NORTH 世界初ライブ直前特集(TEXT/美馬亜貴子)

●きっかけはスティーヴのソロ作

 70年代末から80年代初頭にかけて絶大な人気を博したロック・バンド、ジャパンのドラマー、スティーヴ・ジャンセン。バンド解散以降は盟友リチャード・バルビエリとのプロジェクト「ジャンセン/バルビエリ」や、高橋幸宏、竹村延和など日本のアーティストとのコラボレーション、あるいは実兄、デヴィッド・シルヴィアンとのユニット「ナイン・ホーセズ」などで活動し、2007年以降はソロ・アーティストとしても独自の歩みを続けて来た。そんな彼が、新ユニットを結成したと聞き、心がはやった。それはEXIT NORTH(エグジット・ノース)と名づけられたカルテット。スティーヴとともに音を紡ぐメンバーは、トーマス・フェイナー、ウルフ・ヤンソン、チャールズ・ストームという3人のスウェーデン出身のアーティストだ。


▲Full trailer - Exit North: Book of Romance and Dust

 元々はスティーヴのソロ第一作『Slope』(2007年)にトーマスが参加したことから交流が始まったそうで、その後、2016年の『Tender Extinction』で再び共演した際、お互いの創作的アイディアを交換するようになり、そこから自然にコラボレーションに至ったという。ほどなくしてトーマスが旧知のウルフとチャールズを引き入れたことでピースが揃いEXIT NORTH が完成、2018年10月にはデビュー・アルバムとなる『Book Of Romance And Dust』をリリースした。

●サウンドスケープの中の詫び寂び

 このような成り立ちのユニットの場合、どうしても「スティーヴ・ジャンセンの新境地」と言いたくなるものだが、音を聴くと、新しさよりもむしろ、これまで彼が培ってきたものが、さらに深化し、濃密になったという印象を受ける。スティーヴによると、EXIT NORTHは彼がリーダーというわけではなく「4人が対等な立場で協働するユニット」とのことだが、アルバムを聴くと、まさに音楽を通して対話し、目指すヴィジョンを共有できている同士だからこそなし得た、有機的なコラボレーションの形をうかがうことができる。


▲Exit North Session 2018

 エレクトロニックを基調としたサウンドスケープの中に、極上の詫び寂びあり。

 そして、ほんのりと哀感をまとって響くトーマス・フェイナーの滋味に溢れた声――ただひたすらに美しいそれは、我々日本人がDNAレベルで知覚している「もののあはれ」にも通じて、聴く者の心に染み入る。

 そんな彼らが実演を行なうのは、なんとこの来日公演が初めて。世界に先駆けて行なわれるワールド・プレミア・ライヴには、チェリストの徳澤青弦率いるカルテットが出演しエレガントな音世界にさらなる色を添えるほか、映像演出にはNHK大河ドラマのアート・ディレクションなどでも活躍する菱川勢一が参加。まさに日本ならではのスペシャルな催事となるのだ。

 スティーヴをはじめとするメンバーの美意識があまねく行き渡った秋の夜の宴は、果たしてどのようなものになるのだろうか。一つ、はっきりしていることは、今回、彼らのライブを体験する者は「真の洗練」とは何かを知る、ということだ。


▲Exit North - Bested Bones

Text:美馬亜貴子

「私とスティーヴ・ジャンセン」
出演者を含むアーティストたちのコメントを紹介

徳澤青弦
十年前、当時彼を乗せて都内をドライブした記憶が残っています。音楽家として、人間として大先輩であるはずなのに、それから今に至るまで彼は僕と対等の立場を望み、ジェントルに接してくれます。おそらく誰に対してもそのスタイルは変わらないのだと思う。お茶目な部分も含めて。 Exit Northはきっとそんな彼が気を許せる仲間たちなのでしょう。同じ方向を向いている人たちなのだと察します。「映像的な音楽」これは憧れる文句の一つです。彼の音楽からは、いつもなにか煙のように情景が脳裡に浮かぶ。

菱川勢一(映像作家 / 写真家 / 演出家)
EXIT NORTHの中心人物であるスティーブ・ジャンセンはミュージシャンであるのと同時にヴィジュアル・クリエイターでもある。これまで写真作品などを発表し、表現することにおいて1つのカテゴリーに留まらない。今回そのスティーブからヴィジュアルクリエイションを一任されている。これがどういう意味があるのかを気付かされたのが新しく届けられたEXIT NORTHの音を聞いた時だ。Quiet(静寂)というキーワードの中に漂うエネルギー、時間、風景etc。およそ1時間強のステージの中でどのような表現の融合が体験できるのか。私自身楽しみである。

スティーブ・ジャンセン(EXIT NORTH)
EXIT NORTHのデビューアルバムでは、音楽家・作曲家として、また互いのアイデアやコンセプトに耳を傾け尊重し合う個人が集うグループとして、自分たちが達成できるベストを常に追求しました。アルバムは長い時間をかけて作られたものですが、今回初めてライブで演奏することに挑みます。音楽の大部分はその本質にいたるまで解体されミニマルな状態で、残っている要素はどれも重要なため、ライブで再現することは容易ではありません。私たちが常に大切にしているのは、音と静寂の微妙なバランスです。観客の皆さんがクラシック音楽やアンビエント音楽を聴くように私たちの音楽を体験すると同時に、繊細な親密さと生の感情で表現される楽曲たちを楽しんでもらえたらと思っています。
The Exit North debut album was a constant pursuit for the best we can achieve as musicians and writers and as a group of individuals listening and respecting one another’s ideas and concepts. The album was made over a long period and now we have the challenge to perform it live for the first time. It’s not easy as much of the music was deconstructed to its essence and so the elements that remain are important in their minimalist state. The delicate balance between sound and silence is always a big part of what we do. We hope that the audience can experience our music in a way that they might listen to classical or ambient music, but also enjoy the representation of songs with their delicate intimacy and raw emotion.

[特別寄稿] 高橋幸宏
スティーヴと初めて会ったのは記憶の中では1980年のロンドン、「ハマースミス・オディオン」のバックステージ。その時の会話の記憶はないので、おそらく挨拶程度の出会いだったと思う。その後、僕がロンドンに長期滞在していた81年には少し話すようになり、2人の距離がいっきに縮まったのは82年の僕自身のソロ・ライブツアーに彼がサポート・メンバーとして参加してくれた時だった。
以後、ミュ−ジシャン同士という関係を超えて、特別な存在(多分お互いに)になって現在に至る。
勿論、音楽を通しても、コラボの12インチシングルをつくり、2人のユニット「PULSE」としての活動、そして僕のアルバムでの共同作業は続いている。詳しく書くにはスペースが足りないので、ここではざっくりとしたものになってしまうけど、彼との関係はとても特別、親友とも言えると思う。
随分会っていなくて久しぶりに会っても、つい先日まで一緒にいたような不思議な感覚になる友人である。一方的な思い込みではありますが…(笑)

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