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マセーゴ 来日記念特集~“トラップ・ハウス・ジャズ”を標榜する若き新星を渡辺志保が解説

Masego

 ジャズ/ヒップホップ/R&B/トラップ/ハウスといった様々な音楽を昇華した“トラップ・ハウス・ジャズ”という新たなシーンを創り出し、今注目を集めるシンガー・ソングライター、マセーゴが11月にビルボードライブ初登場を果たす。ラッパー/歌手/プロデューサー/ジャズ・サックス奏者という多彩な顔を持ち、若干24歳という年齢ながらも、官能的なサウンドで早耳リスナーを魅了する若き新星、マセーゴとはいったい何者なのか? 音楽ライターの渡辺志保氏に解説してもらった。

唯一無二の“ワンマン・バンド型”アーティスト

 サウンドクラウドやSpotifyなどで日々、熱心にアップカミングなアーティストをチェックしているリスナーであればすでにお馴染みの存在かもしれない、新鋭ミュージシャンのマセーゴ。流麗なサックスの音色とレイドバックした雰囲気にジャマイカ訛りのヴォーカルとビートが合わさる彼のサウンドは、ノスタルジックでもありながら、最先端のダンス・ミュージックとしても機能する。マセーゴは、ヴォーカルとサックスをメインに、ピアノやドラム、チェロやギターも操る“ワンマン・バンド型”アーティストだ。


 1993年にジャマイカに生まれ、幼い時に両親とともに渡米し、ヴァージニア州へと引っ越した。マセーゴの父親は牧師であり、家で聴くことが許されていたのはゴスペル・ミュージックのみだったと言う。8歳の頃にはドラムや鍵盤に触れるようになったとか。彼のシグニチャー・サウンドであるサックスは中学生の頃に「女の子の気を惹きたくて」始めたということで、女性への飽くなき欲求はどこか官能的なマセーゴ・サウンドを形成する上で重要なエッセンスの一つとも言えるかもしれない。


  音楽ファンの間でマセーゴの名前が囁かれ始めるようになったのは、ダラス出身のプロデューサー、メダシーンとともに発表したEP『The Pink Polo』(2015)からだろう。「Girls That Dance」のMVも各所で話題になると同時に、マセーゴが提唱するユニークで新しいサウンドは高評価を得た。2016年6月、自身の23回目のバースデーとなる日にはソロ・プロジェクト『LOOSE THOUGHTS』を発表し、アーティストとしてさらなるポテンシャルを提示して見せた。



 ちなみに、マセーゴの拠点とも言えるアメリカのヴァージニア州は、かねてからディンバランドやミッシー・エリオット、ファレル・ウィリアムズといったヒップホップのスター・プロデューサーたちを輩出してきた土地。さらに、隣接するワシントンDCとメリーランドの3拠点と合わせて<DMV>とも呼ばれるこのエリアは、ラッパーのワーレイのブレイク以降、ロジックやD.R.A.Mなど、次々と新たなスター・ラッパーたちを送り出して来たことでも知られる。その中でも、ひときわ光る才能で知られるラッパーが、マセーゴと同い年のゴールドリンクだろう。“Future Bounce”と定義したタフでフューチャリスティックなサウンドは幅広いリスナーの間で話題になった。そのゴールドリンクが2015年に発表したアルバム『And After That, We Didn't Talk』に、アンダーソン・パークとともに参加したのが、このマセーゴでもある。今年初旬に渋谷のクラブ、SOUND MUSEUM VISIONで行われたゴールドリンクの初来日公演にも急遽マセーゴが駆けつけ、予告ナシの豪華なステージが実現したというエピソードも二人の絆の強さを表すエピソードの一つだろう。


 ゴールドリンクの他にも、素晴らしいコラボレーション楽曲の数々で知られるマセーゴ。日本を代表するダンス・ミュージック・クリエイターであり、今年のグラミー賞において<最優秀リミックス・レコーディング部門>にもノミネートされたstarRoのアルバム『Monday』内の「YAMS」にも参加しているほか、ケンドリック・ラマーらを擁する米西海岸の名門レーベル、TDEに所属するシンガーソングライター/プロデューサーであるサー(SiR)の最新EP『HER TOO』にも「Ooh Nah Nah」でその歌声を披露している。そして、同じく西海岸はサンディエゴのオルタナティヴ・ジャズ&プログレ・ロック・バンドのチョン(CHON)の最新作『Homey』にも参加し、マセーゴならではのヴォーカル・スキルでアルバムに華を添えている。また、マセーゴと抜群の相性を見せるアーティストがもう一人。フランスを拠点に活動するFKJだ。FKJもまた、マセーゴと同じく複数の楽器を操りながらパフォーマンスと作曲を行うワンマン・バンド式のアーティスト。先日、両名義のシングルとして発表された「Tadow」は、二人のサックスがセンシュアルに響く佳曲である。



 自身の音楽を“トラップ・ハウス・ジャズ”と形容するマセーゴ。自由な感性で、ダーティーで危険な香りが漂うトラップのエッセンスと、エレガントなジャズのエッセンスを混ぜ合わせたのが、唯一無二のマセーゴ・サウンドだ。最新楽曲「Navajo」ではヴォーカリストとしても更なるスキルと表現力を見せつけている。まだまだキャリアをスタートさせたばかりのマセーゴが、初となる単独来日で客席をどんなヴァイブスに包むのか、期待は膨らむばかりである。


Text:渡辺志保


“トラップ・ハウス・ジャズ”のサウンドに影響を与えた楽曲

 初の単独来日公演が迫るマセーゴにインタビューし、彼の提唱する“トラップ・ハウス・ジャズ”のサウンドに影響を与えた楽曲のプレイリストが完成。「このプレイリストに入っている全ての曲は、俺がこれまでに出会ってきた女性と関係している。なぜなら彼女たちは音楽に対して最高なセンスを持っているからね。」とマセーゴはコメント。彼の作る音楽への最も重要なインスピレーションは“女性”のようだ。新たなシーンを創り出すシンガー・ソングライターの来日公演前にぜひチェックしてほしい。

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