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ジャクソン・ブラウン 来日直前インタビュー



インタビュー

1972年のデビュー以来、素朴な歌声とナチュラルな旋律、誠実で詩情溢れる内性的な歌詞で70年代ウエストコースト・サウンドの旗手として一世を 風靡(ふうび)し、現在に至るまでアメリカを代表する偉大なシンガー・ソングライターとして尊敬を集め続けるジャクソン・ブラウン。デビュー45周年を迎え、ジャクソン本人が "ドリーム・バンド" と称するメンバーでの行う待望のジャパン・ツアーを前に、音楽評論家の天辰保文がインタビューを敢行した。

「音楽は、ぼくらがより良い世界を想像する上で助けになるものの一つだと思う。」

CD
▲『ザ・ロード・イースト』

 この人の歌声には、耳をかたむけずにはいられない、心をあずけずにはいられない。可能であれば、メロディーと、そこに寄り添いながら流れてくる言葉たちを、一瞬たりとも、一語たりとも、聴き逃すようなことはしたくない。ジャクソン・ブラウンは、そう思わせてくれる数少ないシンガー・ソングライターだ。1970年代から活動し続けながらも、いまなお、みずみずしい歌声は変わらず、歌とも、そして時代とも、これほど真摯に向き合い続けている人も珍しい。その彼の来日公演が間近になったが、それを祝うかのように、ライヴ・アルバム『ザ・ロード・イースト』が発売された。

 「ライヴ・アルバムというのは、実際のところ、内容はグレイテスト・ヒッツというのがお決まりだった。その意味では、1977年の『孤独のランナー』は、実にユニークなライヴ・アルバムだったと思う。全て新曲で、ツアーをすること自体を歌った内容だったからね。その後、普通のライヴ・アルバムを作ろうかと思った時期もあったけど、面白くなくて作らずに来た」。
アルバムを聴きながら、目を閉じる。すると、歓声に迎えられながら、彼が登場する姿が浮かんでくる。そして、「こんばんは」という彼の日本語で始まる。というのも、これは、副題に『ライヴ・イン・ジャパン』とあるように、2015年の来日公演で構成され、日本限定という形で発売されているからだ。

 「日本でのライヴは、本当に楽しく、バンドも最高の状態だったからね。これを、レコード化して残すべきだと思えたんだ。いま、バンドがとても素晴らしい状態にあることを祝うようなアルバムを、1枚作りたかった。二人のギタリスト、ヴァル・マッカラムとグレッグ・リースが、これ以上はないという組み合わせで、二人が常にお互いに向きあい、刺激しあっている。実際は、日本の後もツアーは続き、バンドはさらに成長し続けた。だけど、その始まりは、日本でのライヴにあった。日本がスタートだったということを忘れないためにも残したかったんだ」。

 幕開けは、全ての公演でオープニング・ナンバーとなった「バリケーズ・オブ・ヘヴン」だ。「アイ・アム・ア・ペイトリオット」で幕を閉じるまで合計10曲が選ばれた。途中、「コール・イット・ア・ローン」をやってよ、というリクエストの声が客席から上がる。ギターを持ち替え、彼は、それに応える。こうやって、観客とのやり取りを交わしながら進行していく。彼のコンサートでは、お馴染みの光景だ。そう言えば、1977年、初めて彼が来日したとき、アメリカ人の観客が騒ぎ、ステージから彼がその客をいさめるという、ちょっとした事件があった。

 「覚えているよ。彼らは、若くてまだ子供みたいな軍人だった。酔っぱらっていたし、ホームシックだったんだ。別のときだったけど、余りにもうるさいアメリカ人がいてね、マネージャーにつまみ出してくれと頼んだこともある。アメリカ人は、音楽を聴くとき、周りの人間のことを気遣ったりしない。自分がそうしたければ、立ち上がって大きな声で歌う。コンサートの間、ずっと隣の客が大声で歌っていて、ぼくの声が聞こえなかったと、よく言われるよ」。

 親し気に聴き手に語り掛け、穏やかだが、時代に深く、激しく問いかける歌の数々が続く。初期の代表作として知られる「青春の日々」のように、彼がレコーディングする以前のニコやジェニファー・ウォーンズらが取り上げていたヴァージョンで歌われていたり、「ライヴズ・イン・ザ・バランス」のように、反戦を訴える思いがいちだんと強められるような手が加わっていたりと、歌たちが、レコードやCDの中で畏まったままの状態ではなく、ちゃんと生きていることを実感させる。

CD
▲『ラヴ・イズ・ストレンジ』

 「ザ・クロウ・オン・ザ・クレイドル」もその一つだ。1979年、原子力発電所建設反対運動のコンサートで、グレアム・ナッシュと歌った曲だが、2015年の来日の際には、日程が重なったクロスビー・スティルス&ナッシュのステージにあがり、グレアムと二人で披露し、大歓迎されたのもまだ記憶に新しい。

 「昔から歌っていた曲だよ。最初に知ったのは、友人のスティーヴ・ヌーナンが歌っていたからでね。ぼくよりも2才年上で、姉の友だちだった。彼と、彼のソングライティングのパートナーだったグレッグ・コープランドの二人には、ぼくはいろんなことを教わった。ぼくが15か16才で、彼らが17か18才の頃だ。スティーヴは、ピート・シーガーが歌っていたのを、『シング・アウト』誌で覚えたんじゃないかな。もともとは、200年近くも前、アイルランドとイギリスの戦争のときの古い歌だったのを、シドニー・カーターが書き直したものだ。非常に力強い歌だよ。戦争の歌であることには変わらないが、いまはここに核戦争という意味合いが加わった。まさにいま、ミサイルがぼくらの頭上を飛ぶかもしれないんだからね」。

 客席からの「広島を忘れないでくれ」という声も、きちんと収録されている。
「ぼくは、もちろん、広島のことを忘れない。広島のことをどう考えるべきか、そのことをいつも深く考えるんだ。世界中で原爆による攻撃を受け、そこから生き残ったのは広島と長崎だけで、その原爆を他国に落とした唯一の国、それがぼくの国だ。本来、人類は核兵器を放棄すべきだ。広島の人たちも、きっとそういう思いだろう。国と国とが合意に達しない結果として核兵器が使われるなんてことはあってはならない。そこで奪われる罪のない人々の命、それによって影響が及ぶことになる世界中の罪のない人々の暮らしを考えればね。そういう思いもあって、「ザ・クロウ・オン・ザ・クレイドル」は、入れたいと思ったんだ。」

 「ファー・フロム・ザ・アームズ・オブ・ハンガー」のように、10年前の歌なのに、むしろ、いまでこそ大きな意味をもたらしそうな歌もある。彼の歌が、祈りにも似ていると評されるのがわかるような歌でもある。

CD
▲『時の征者』

 「歌詞をちゃんと読まないと、単に楽観的で理想を掲げた曲のように思われがちだけどね。確かに、世界はこの曲を書いたときとは比較できないくらいに、危険にさらされている。トランプ政権、エスカレートするいっぽうのテロリズム、ISIS、世界中に広まる制度化されたジャーナリズム、こんな世界、10年前には想像もできなかった。生活の安全は破綻状態だ。通りを歩いている人たちを見ながら、増えるいっぽうの脅威に、みんな、こんな世の中をどう生きているんだろう、状況にどう順応しているんだろう、と思わずにはいられない。アルバムを作るときは、いつも、曲を何処に置くかで、そのアルバムが向かう先を考えるんだ。『時の征者』のとき、「ファー・フロム・ザ・アームズ・オブ・ハンガー」を最後にしたのも、少なからずそういう思いがあったんだろうね。いずれにせよ、音楽は、ぼくらがより良い世界を想像する上で助けになるものの一つだと思う。そして、それを実現させたいと願わせてくれるものなんだ」。

 音楽への強い思いを噛みしめながら、彼は、日本で、唯一無二と呼ぶ最高の仲間たちとどんなステージを楽しませてくれるのだろうか。今年で、デビュー45周年だ。

 「初めて音楽でお金をもらったのは、17才のときだ。オレンジ・カウンティのパラドックスというクラブだった。たいしたお金じゃなかった。20ドルくらいだったと思う。当時は、歌わせてもらえるだけで嬉しかった。スティーヴ・ヌーナンがよく出演していたので、ぼくも見に行っていたんだけど、あるとき、『今週末、やってみるかい』と声をかけられたんだ。それがきっかけで、他のクラブでもギグの仕事が入るようになった。LAでの最初の大きなギグは、やはり、トルバドールに出れたことだろうね。若かった頃、グレン・フライとも、そこのバーにいることが多かった。ニューヨークから来たミュージシャンたちが、必ず立ち寄るクラブだったからね。注目している人の演奏が始まると、客はバーからフロアのほうに流れていく。ぼくも、その様子を見ながら、シーンを肌で感じていたんだ」。

Interview:天辰保文

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