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デ・ラ・ソウル 新作リリース&来日直前インタビュー

 80年代後半からヒップホップ・シーンで活動を開始しているポス、トゥルーゴイ、メイスの3人からなる2MC/1DJのユニット“デ・ラ・ソウル”。ジャングル・ブラザーズやア・トライブ・コールド・クエストらとネイティブ・タン一派を構成し、1989年に独自のユーモアとセンス、緻密なサウンドで作り上げられた大傑作『スリー・フィート・ハイ・アンド・ライジング』で華々しくデビューを飾ると、「マジック・ナンバー」、「ミー・マイセルフ・アンド・アイ」などの未だに語り継がれるヒット・シングルを多数残し、『デ・ラ・ソウル・イズ・デッド』、『ステークス・イズ・ハイ』など数々の名盤でヒップホップ・シーンに変革を巻き起こしてきた。2016年、12年ぶりとなるスタジオ・アルバム『アンド・ザ・アノニマス・ノーバディ』を発表し話題となっている彼らの来日公演を前に、メンバーのメイスがインタビューに答えてくれた。

デ・ラ・ソウルの誕生

――メンバーとの出会いを教えてください。

メイス:俺たち、1985年に高校のサマースクールの英語のクラスで出会ったんだ。それに俺たちにはチャーリー・ロックっていう共通の友達がいて、みんな同じクラスを取っていたんだ。俺はブルックリンから引っ越して来たばかりだったからロングアイランドではまだ新入りで、チャーリーを通してポスとデイヴと知り合った。

 お互いの様子を見ているうちに、何だこいつ絵描けるじゃねぇか、こいつラップできるじゃねぇか、リリック書けるんだ、DJできるんだ、バスケできるんだ、ってことに気付いてさ。俺はインナーシティ出身だから、いつだってバスケとDJをやっていた。いろんなボロウ(NY市の5つの行政区)に住んでいると、社交的な人間になるんだよ。遊び場でいろんなキッズたちと友達になったし、そこで会ったチャーリー・ロックと特に仲良くなった。チャーリーとデイヴが同じ学年でね、ふたりは何年も同じ学校に通って仲良くなっていたんだ。


▲De La Soul 「Me, Myself And I 」

――ラップ、楽曲制作を始めたのはいつ頃ですか?

メイス:高校時代にチャーリーの家に遊びに行くと、彼とデイヴが何か音楽を作っていて、そこで俺がターンテーブルでスクラッチし始めて、そこにいたポスとデイヴが曲を作りだして。そこでグループ名を考えたり、特にレコーディングするでもなく、共通の関心を持つキッズたちがアイディアをこねくり回してたのさ。

 ふざけながら音楽を作れば作るほど、興奮できる瞬間が生まれるようになって、そうこうしているうちに、何か俺たちヤバくねぇか?ってことに気付いたんだ。当時誰もがヒップホップをやっててさ、レコードを作ろうなんて誰も思いもつかなくて……いや、実は正直言うと、ブルックリンに住んでいた12才の頃、俺は他のグループのメンバーでさ、もう11才の頃からスタジオに行ってた。ボロウ(NY市の5つの行政区)で過ごした子供時代、マジでラップが熱くてなってきてて。結果的に最初に目指していたことより、大分遠くまで到達することになった。ロングアイランドに引っ越したばかりの頃は、音楽ビジネスで何か成し遂げるなんて思いもしなかったよ。ロングアイランドへはDJとしてターンテーブルを持って行ったんだ。俺は7、8才の頃からターンテーブルを持っていたからね。俺の情熱はいつだって、バスケとDJだったのさ。

 その地域に馴染んでいくと、段々いろんなパーティに招かれて、DJするチャンスも巡って来るようになって、気付けば俺はDJとして頼れるヤツ、ってことになっていた。当時イカしたサウンドシステムとレコードをたくさん持ってるヤツと仲良くてさ。パーティに行けば俺と同じレコードをいつも耳にするようになった。当時のロングアイランドは、シティ(マンハッタンやブルックリン)で起こっていた事にまだ疎くてさ。まだテクノロジーの時代が到来する前の話しだ。だからロングアイランドは(ヒップホップにおいて)まだ流行遅れなところがあって、日本が昔そうだったみたいにね。だからロングアイランドに引っ越してから1年くらいは、前住んでいた地区に戻っては友達とつるんだり、レコード・ショッピングに出掛けていたよ。


▲De La Soul 「Pain ft. Snoop Dogg」

 それからマンハッタンのロック&ソウルっていうレコードストアに出掛けてたね。ロック&ソウルって知ってる?今でも存在するんだぜ。37thストリートだよ。13才の頃から行ってたんだ。14の時にロングアイランドに引っ越したんだけど、家族や友達に会いに、ロングアイランド鉄道で前住んでいた地元に通ってたのさ。ロングアイランドにはまだ友達がいなかったし、新しい人たちに出会い始めてた時で。だからレコードストアに行っては、古いのや新しいのを見つけたり、友達がラジオで録音した曲とかを探してた。

 それにロングアイランドに引っ越した当時は、FMブースターを手に入れない限りKISSやWBLS(NYの人気アーバン系FMラジオ局)の電波が入らなくて聴けなかったんだぜ?とにかく、俺は(ロングアイランドの)DJが知らないような音楽を持っていて、知ってるDJもレコードストアに入荷されるのを待っていた状態だったから、聴衆を盛り上げるために、パーティではよく他のDJに俺のレコードをかけさせてやってた。そうやって俺はそいつらとの関係を築き始めたんだ。ターンテーブルでプレイするチャンスを得るためにね。


NY音楽シーンからの影響

――影響を受けたアーティストを教えてください。

メイス:最初に音楽の影響を受けたのは、俺のお袋からだね。彼女がいつも家でかけていた音楽を聴いて育ったんだ。週末でも、家の掃除をしながらでも、いつだって何かレコードをかけてた。カリプソやレゲエをよくかけてたよ。パット・ケリー、バイロン・リー&ザ・ドラゴネアーズ、マイティ・スパロウとかね。彼女はカリビアン音楽を心から愛していてね。それから叔父がよくパーラメント、ファンカデリックをかけていたんだ。そんな音楽が家から受けた最大の影響だね。

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▲De La Soul 「TrainWreck」

 大人になってからは、地元のDJがかけていた音楽が最大の影響だ。MFSBの「Love Is The Message」、Chicの「Good Times」、Freedomの「Get Up And Dance」、Warの「Galaxy」、アーティスト名忘れちゃったけど、「Frisco Disco」(Eastside Connection)みたいなレコードさ。「Frisco Disco」はなんていうか、すごくこう、ゲイ・レコードだったよね(笑)。でもこのレコードの中にブレイクがあってさ、今聴いても盛り上がっちゃうんだけど、ゲイのコミュニティでヒットしたレコードだったんだ。オリジナルは45回転でかける12インチで、一面虹色のレコードなんだよ。「Frisco Disco」っていうのは、「サンフランシスコ・ディスコ」っていう意味。今でもドープなレコードさ。Vaughan Mason & Crewの「Bounce, Rock, Skate, Roll」、Taana Gardnerの「Heartbeat」はデ・ラの「Buddy Remix」のサンプルにもなったしね。

 ラリー・レヴァン(DJ)は伝統的な存在だったし、ステファニー・ミルズもタンテーブルでよくかかった。彼女はブルックリン出身、ホームガールだし、多くのヒット・レコードを出してきた。俺はブルックリンのベッドフォード=スタイベサント(ベッドスタイ)出身なのさ。ブルックリンのあらゆる所に住んできたけど、いつだってベッドスタイが俺のバックグラウンドだと思っている。俺ん家はいつだって経済難だった。ハンコック・ストリートとマーシー・アヴェニューの所に住んでたのさ。

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待望のスタジオ・アルバム
『アンド・ザ・アノニマス・ノーバディ』


――近年、ネット上のリリースでは活発でしたが、今回遂にスタジオアルバムの制作に踏み切った経緯を教えてください。

メイス:グループの全員が同じ考え、方向性で音楽を作りたいということになったんだ。グループとして音楽的に何をやっていきたいか、という点でね。最終的に同じ考えに至った。いつも言ってるんだけど、グループの一員でいるってことは、究極のギフトと呪いがひとつになったものなんだ。みんなが同じ考えの時は、魔法のような瞬間がたくさん起こるからね。みんなの考えが異なる時、ひとりでも意見が違えば、すべてが止まってしまう。それが人間としての普通の反応ってもんなんだ。集団でも、個人でもね。家に帰ればそれぞれの人生があるし、キャリアもあれば家族もいる3人の男だ。だからいつだって天の力に任せるしかない。もしも神やスピリチュアルなもの、高次元の存在を信じていれば、そうするしかないんだよ。俺たちがまた行動を起こす時が来たのさ。


▲De La Soul 「Royalty Capes」


――今作を作る上で意識した点はありますでしょうか?

メイス:一番意識したのは、創造プロセスとサンプリングの損害費用だろうね。サンプルはいつだってデ・ラ・ソウルの作品の大前提だった。あいにく、俺たちのやることはビジネスだからな。創造性と衝突するんだ。レコーディングを補うために第3者の作曲を使ったり操作したりするからね。時に俺たちが見込んでいた以上に代償が大きくなるから、サンプルを使うか、使わないか、っていう決断が必要になる。それか曲を最初から全部自分たちで作れば、サンプルをクリアする必要もないよね。

デ・ラ・ソウルの音楽

――あなたにとって理想の音楽とは?

メイス:音楽は人を躍らせることができる。いい気分になって踊れるものであるべきだ。リリックなしの音楽はね。リリックはまた聴き手を別世界に誘える原動力になる。音楽はどんな主題でも好きだし、感情を虜にするような音楽が好きだ。

 パーティ音楽なら、いつだってバスタのアプローチが好きだ。政治的なことを考えさせる音楽となれば、チャック・Dのアプローチが好きだ。音楽が何を引き出すかってこと。アーティストの実際のスタイルを求めているんじゃなくてさ。「Put Your Hands Where My Eyes Could See」と「Pass The Courvoisier」は、俺にとって素晴らしいクラブ・パーティ・レコードだ。

 バスタも社会意識の高い曲を作ってるんだけど、思い出せない。パブリック・エナミーの「Fight The Power」は思考の糧を与えるコンシャスな曲だ。パブリック・エナミーだって自惚れの強い曲があるんだけど、「Fight The Power」以外に思い出せない。これは俺の好みに過ぎないけど、90%の聴き手はバスタのパーティ音楽に引き付けられるだろうし、90%の聴き手はパブリック・エナミーの政治的意識の高い曲に引き付けられるだろう。そしてその3曲はどれも頭を縦に振りたくなる曲だし、ダンスしたくなる。「Fight The Power」は「Pass The Courvoisier」と同じ位、ダンス音楽なんだ。


▲De La Soul 「Ring Ring Ring (Ha Ha Hey)」

――バスタやパブリック・エナミーの音楽に比べて、デ・ラ・ソウルの音楽をどう表現しますか?

メイス:へへへ。おお、メ〜ン!オーケイ。謙虚に言わせてもらうけど……なんか俺ジョギングしてる気分だな(笑)。「デ・ラ」とだけ言っとく(爆笑)。まさに「デ・ラ」だよ!はははははははは!

 それに多くの人たちがデ・ラ・ソウルの音楽で重要な役割を果たしてくれた。そのひとりが(プロデューサーの)スーパー・デイヴ・ウェストであり、もうひとりがジェイ・ディラだ。このふたりが重大なのは、彼らは他の誰にも提供したことのないものを俺たちに与えてくれたからだ。新作ではスーパー・デイヴ・ウェストと、『3 Feet High and Rising』の25周年記念でも演奏してくれたミュージシャン、リズム・ルーツ・オールスターズが参加してくれている。それに今までの年月の間に対話を引き起こしてくれた人たち、音楽ビジネスの賛否両論について、一般的に音楽の創造的な面についてね。

 レコード(『アンド・ザ・アノニマス・ノーバディ』)をここまでダイナミックに作ろうとすると、いろんな不平も呼び起こす。俺たちはそういう音楽のファンと関わってきた。ヒップホップだけじゃなく、一般的にポップ・カルチャーのね。だってすべては相互担保差入なんだから。ひとつの曲に、ヒップホップ、ポップ、ロックがすべて同じ周波数で入っていたりする。多くは巧妙に派生的に作られているし、多くの曲は繰り返しが多い。最悪なのがこの「繰り返し」。お互いにコピーし合ってる。そしてそれがマジでOKになっている。創造的になる代わりにね。誰もが金を稼ぐためにやらなきゃならないことをやっているのさ。

今後の活動について

――最近のお気に入りのアーティストまたは曲を教えてください。

メイス:ケンドリック・ラマー、ザ・ゲーム、J・コール、チャンス・ザ・ラッパー、メイノーとかが好きだ。トロイ・アーヴもいいね、50セントにちょっと似ている。あとビル・レイというアーティストと一緒に活動しているんだ。それからウエストコーストのアフロ(A-F-R-O)に、それから……たくさんのアーティストを気に入っているよ。ビッグ・ショーン、50セントも好きだ。G・ユニットが今でも好きだね。今や彼らもオールドスクールなんだよな。それからファショーンもすごく好きだよ。ぜひ一緒に演ってみたいね。

――今後一緒に曲を作ってみたいアーティストはいますか?

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▲De La Soul 「Drawn ft. Little Dragon」

メイス:何人かいるよ。でも俺たちは、最初の作品から一緒に演って来た人たち、彼らみんなのファンなんだ。この新作で共演している人たちもみんな、俺たちの好きな人たちばかりだ。これは本当に言えることなんだけど、このビジネスに入った時から、俺のキャリアでずっと大きくて重要なことが、ツアーに基づいている。俺は本当によくツアーをやるんだよ。

 いろんな世界の街を経験するとさ、たくさんの素晴らしい日々を過ごし、素晴らしい音楽を聴き、素晴らしい人たちに出会い、本当にいろんなことを体験する。俺たちはいつだって学びたがってる生徒みたいなもんなんだ。それって最高な環境だと思うよ。オープンマインドであり続け、新しいことを学びたい。だって結局のところ、音楽が大好きだからね。俺個人より、グループとしての方が細かいこだわりがあると思うし、それぞれ個人的な好みがあるんだけど。

 それに俺は70年代に育ったDJだ。ヒップホップが生まれるずっと前から音楽を聴いてきたんだ。ヒップホップは実にたくさんのジャンルから分裂してできあがった。俺は単なるDJというよりは、ミュージシャン、音楽学者に成長したんだと思う。


▲De La Soul 「Greyhounds ft. Usher 」

――今後の活動について予定している活動やリリースがあれば教えてください。

メイス:新作『and the Anonymous Nobody』が(USでは)8月26日にドロップされる。その後、できれば来年の今頃に、トリロジー『AOI』の3作目を出したいと願っているよ。これはサンプルがヘヴィーなアルバムだ。まさに俺はこのレコードでサンプルを使う予定でいるからね。ちゃんとクリアランスできるように十分なカタログを作ろうと思っている。
 それとビル・レイというアーティストと非常に熱心に仕事していて、凄くクールな作品を作っているのさ。彼には非常に強いNYのサポートがあるし、昔みたいなNYヒップホップを取り戻そうとしているんだ。最近じゃNYラッパーかどんなものか知らないヤツらがいる。だけどグローバルな視点から見ても、いかしたNYヒップホップを取り戻そうとしている。革新者たちの独自性をね。だってヒップホップがNYから来た事実はみんな認めているんだから。ビルはメイノーやパップースらに並ぶその候補者だと思う。

デ・ラ・ソウル「アンド・ジ・アノニマス・ノーバディ」

アンド・ジ・アノニマス・ノーバディ

2016/10/05 RELEASE
SICX-61 ¥ 2,420(税込)

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Disc01
  1. 01.ジェネシス feat.ジル・スコット
  2. 02.ロイヤリティー・ケープス
  3. 03.ペイン feat.スヌープ・ドッグ
  4. 04.プロパティー・オブ・スピットキッカー.コム feat.ロック・マルシアーノ
  5. 05.メモリー・オブ... (US) feat.エステル & ピート・ロック
  6. 06.CBGB’S
  7. 07.ロード・インテンディッド feat.ジャスティン・ホーキンス
  8. 08.スヌーピーズ feat.デヴィッド・バーン
  9. 09.グレーハウンズ feat.アッシャー
  10. 10.セクシー・ビッチ
  11. 11.トレインレック
  12. 12.ドローン feat.リトル・ドラゴン
  13. 13.フーディーニ feat.トゥー・チェインズ
  14. 14.ノーズド・アップ
  15. 15.ユー・ゴー・デイヴ (ア・ゴールドブラット・プレゼンテーション) feat.デヴィッド・ゴールドブラット
  16. 16.ヒア・イン・アフター feat.デーモン・アルバーン
  17. 17.エクソダス
  18. 18.ヒア・イン・アフター feat.デーモン・アルバーン (Instrumental) (日本盤ボーナス・トラック)
  19. 19.エクソダス (Instrumental) (日本盤ボーナス・トラック)

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