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SETA×佐橋佳幸 インタビュー

SETA×佐橋佳幸 インタビュー

 2016年2月14日に「しぶレコ」から1stCDをリリースしたSETA。全て異なるジャケット写真で作られたCDや、360度カメラとCGを駆使して制作されたVRミュージックビデオなど、実験的なものづくりによって独自の世界観を表現している。そんな彼女のレーベルプロデュサーは、ギタリストであり音楽プロデューサーとしても活躍する佐橋佳幸だ。2人に音楽の聴き方や、音楽を通して伝えたい事について話を聞いた。

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SETA: YouTube 佐橋:各地の中古レコード屋

−−お二人は日頃、どのように音楽を聴いていますか?

佐橋佳幸:僕は、車で移動中にラジオで聞くことが多いですね。あとは、アナログレコードかな。日本各地をツアーで回ることが多いのですが、各地の中古レコード屋によく足を運んでいます。ツアーが終わって家に帰って、戦利品を聴くのが楽しみで。たまに買いすぎて持ちきれなくて、楽器や衣装と一緒にトラックで運んでもらうこともあります。

−−新しい音楽は、どうやって知ることが多いのでしょうか?

佐橋:こういう仕事をしていると、基本的な情報は自然と仕事を通じて入ってきます。あとは、やっぱりレコード屋さんやCDショップなど、店に行って知ることが多いですね。

SETA:佐橋さんとは真逆のデジタル世代で、私はほとんどCDを買いません。初めてCDを買ったのも、握手券が欲しかったから買ったんじゃなかったかな…。

−−SETAさんは、日頃どのように音楽を聴いてらっしゃいますか?

SETA: YouTubeで聴くことが多いですね。日本語の歌詞が付いている曲だと、言葉に気を取られすぎてしまうので、主に洋楽やクラブミュージックを聴いています。(アメリカの)BillboardがYouTubeにアップしているHOT100のプレイリストも、よくチェックしています。

−−最近では、どんな曲を聴いていますか?

SETA:自分が作る音楽とは真逆のリアーナ、DNCE、シーア、ジャスティン・ビーバー、AOAとかを散歩中や通学中に聴いています。

佐橋:家にいる時に、スピーカーで聴くことはないの?

SETA:家では聴かないです。無音です。

佐橋:そうなんだ! 僕も無音の時間は大好きだよ!でもSETAくらいの年齢の子たちは、そういう聴き方が主流なんでしょうね。

SETA:まわりの友達で、CDで聴いている人は少ないですね。

−−ライブには行きますか?

SETA:私は外出するのが苦手(笑)なので行きませんが、同じ学校の友達は、フェスに行っている子が多いですね。

−−私達は、セールス、ダウンロード、ストリーミング、ラジオ、ルックアップ、Twitter、YouTube、Gyao!の8つのデータを使って、「Billboard JAPAN HOT 100」という複合チャートを作っています。今、お二人にお伺いしただけでも、聴き方が全然違うことが分かりましたが、音楽の聴き方が多岐にわたる今、ヒットとは何を示すのかというのは、私達にとって常に課題です。SETAさんは、どういう時に「これ、ヒットしているな」って感じますか?

SETA:ファッションでも音楽でもサービスでも、私がヒットしているなと感じる瞬間は2つあります。1つは、同じ年代の子達のTwitterやInstagramや会話を通じて。もう1つは、すごく叩かれている人やサービスを見ると、「流行っているんだな」って感じます。

佐橋:僕も、仕事仲間を通じて知ることがほとんどですね。

−−佐橋さんは、このような音楽の聴き方の変化について、どう思われますか?抵抗はありますか?

佐橋:今のように、簡単に新しい音楽をいつでもどこでも探せるというのは夢のような時代になったなと思います。だって、電話から音楽が流れるんですよ?すごいことですよね。だから、テクノロジーが進歩したおかげで音楽との距離が縮まったことは、全然悪いとは思わない。もちろん素晴らしいことだと思います。ただ作る側については、どうなんだろうと疑問に思うことはあります。一時期、バブルのようにパッケージが売れていましたが、そうではなくなった結果、時間をかけて作りこまれた作品が減ってしまった。だからといって、いかにコストを下げるのかや、簡単に早く配信することに集中しすぎないようにしないといけないんじゃないかなと思いますね。

−−そうですね。

佐橋:コンピューターで音楽を作れるようになって、それに対して異議を唱える人が現れた時に、最初に矢面に立たされたのはヒップホップの人達でした。コンピューターに打ち込んで言葉を乗せるだけだと思われていたから。でもヒップホップにはきちんと歴史があって、切磋琢磨しながら生まれたジャンルです。平成以降に生まれたブームで、一時的ではなくジャンルとして確立したのってヒップホップだけなんじゃないでしょうか?その理由は、ヒップホップには力があるからです。何かが盛り上がると、反対側にもエネルギーが生まれる。そうやって世の中にはモードというものができると思います。僕は、SETAを初めて見た時に、今 僕が一緒に仕事をしている人と全然違うものを持っているなと感じました。「え?なんなの、この人?新しいジャンルだ!」って。

−−違うというのは、具体的にどういうことですか?

佐橋:今まで僕は数多くのアーティストの方と一緒に演奏したり、プロデュースさせていただいたりしてきました。でもSETAは、その人達と発しているものが全然違うと思いました。言葉の選び方も転調のタイミングもテンポの変化も・・・音楽というか、存在も含めてSETAがやっていること全てが、練り上げられて作られたものとは違う、原始的というかプリミティブで直感的な魅力を感じました。だからとても素直にSETAが作るものを手伝いたいし、他の人達にも聴いてほしいと思いました。

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−−SETAさんが、人前で歌を歌おうと思ったのは、いつですか?

SETA:曲を書いたのは14歳からで、人前で歌い出したのは17歳からです。

−−14歳から17歳までの3年間は作るだけで歌わなかったんですね。

佐橋:美術科だし、そもそも物を作ることが好きだったんだよね。

SETA:私の家は少し変わっていて、誕生日もクリスマスもお祝いしないし、テレビも見ない、音楽も聴かない家庭だったんです。唯一、聴く音楽は母親が好きな小田和正さんと、父親が好きなクラシックだけ。ゲームも買ってもらったことがないので、今だにスマートフォンでゲームをしたことがありません。子供の頃に両親から渡されたのは、段ボールとガムテープとカッターナイフだけでした。

佐橋:なんか、物騒な組み合わせだね(笑)。

SETA:段ボールで家を作ったりしていたんです(笑)。だから、LEGOにハマっている人を見て「できあがっているものを組み立てるだけで、何が楽しいんだろう」って思う子に育ってしまって。だから毎日ヒマなので曲を書いていました。そして高校1年生の時に大恋愛をしたんです。それからは、もう ひたすらその人のためだけにラブレターみたいに、ずっと曲を書いていました。ちなみに、今回1stCDに入っている「First Boy」も、彼のために書いた曲です。そうやって、ずっと彼の為だけに書いていたんですが、別れることになってしまって。彼に「もう歌うのも曲を書くもの、やめる」って言ったら、彼が泣きながら「歌を歌うのだけは、やめないでくれ」って。じゃあ彼の為に歌い続けなきゃって思って、音楽を仕事にするためにレコード会社の育成コースに応募したのが、音楽業界に入ったきっかけです。

佐橋:そうだったんだ。

SETA:実は、その時の資料に嘘を書いちゃって(笑)。

−−え?

SETA:絶対に受からないと思っていたので、一度もライブをしたことがないのに、ものすごくライブをしているかのような嘘のスケジュールをいっぱい書いて送ったんです。そしたらレコード会社の方から、「今度、ライブを見に行きます」って連絡があって。

−−やばいですね。

SETA:そうなんですよ。それで慌てて、デモ音源をレコーディングさせていただいたライブハウスに連絡して、無理矢理出演させてもらったのが、人生初めてのライブでした。

−−すごい初ライブですね。

SETA:その時は、聴きにきてくださった方も1人だけだったし、私と年齢も近そうだったので、そこまで緊張はしなかったんですが、その後また連絡があって、東京で新人だけを集めたプレゼン用のライブがあるから来てくださいって。人生2回目のライブが、いきなり渋谷ですよ。その時は、大人の人達がずらっと並んでいて、ものすごく緊張しました。

佐橋:やばいって思った時こそ、火事場の馬鹿力のように本当の実力が出たりするよね。

SETA:そうでもなくて…。その時の映像を母親が撮ってくれているんですが、今 見直すと蚊の鳴くような、すっごく小さい声で(笑)。

佐橋:たしかに家で、一人で歌っている時の感じと、ステージで音響機器を通して聴こえてくる音って、全然違うからびっくりするよね。僕も、はじめは楽器をどれくらいの音量で弾けば良いのか分からなかったから。

SETA:本当に右も左も分からないまま飛び込んだ感じでした。ただただ、その時は歌を歌えば彼とヨリを戻せるんじゃないかってことしか考えていませんでした(笑)。

−−今回、SETAさんは「しぶレコ」というレーベルからリリースされていますが、どうしてわざわざレーベルを立ち上げられたのでしょうか?

佐橋:「しぶレコ」を一緒に立ち上げた代表の庄司さんも、僕も長年音楽業界で働いていますから、どこかレコード会社に相談して、そこからリリースすることもできたと思います。でもこんな個性的なアーティストの音楽をサポートするなら仕組みから作っちゃおうということになったんです。

SETA:ご一緒することになって、まず驚いたのは、私のいくつかのデモテープのうち、他の方に褒めてもらった曲と、庄司さんと佐橋さんが「良いじゃん」っておっしゃる曲が全然違うことです。どれも同じ力量と同じ感覚で書いているので、どの曲を褒めてもらっても、もちろん嬉しいんですが、あまりに今まで言われてきたことと違っていて。キャッチーな曲を書かなきゃとか、こういう歌詞を使わなきゃって意識したものではない作品ばかりを、お二人が選ばれるので驚きました。

佐橋:相性もあると思うけどね。僕は、サポートメンバーとの活動以外に、ソロアーティストとしてのCDも出しているので分かりますが、レコード会社の人には様々なデータや流行などに基づいた彼らなりの選球眼がある。でも僕は、個人的にSETAが好きだと思って、一緒にやりたいなと思っただけだから。ただ今まで様々なヒット曲に携わることができた結果、思うことは「自分が良いと思った曲を、1万人の人が良いと思ったら1万枚CDが売れる」ということ。ヒットって、たったそれだけのことだと思うんです。

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−−佐橋さんは、SETAさんをプロデュースする際にヒットさせることを意識してらっしゃいますか?

佐橋:もちろん、僕と同じようにあと1万人や100万人の人が良いって思ってくれたらなって思います。でも、慌てなくても良いと思います。いずれ、良いと思う人は増えてくれると思うから。彼女の音楽って、食べものに例えると“パクチー”みたいなんです。「これ、絶対無理なんだよ」って言う人もいるかもしれないし、でも思わず追加で欲しくなる人もいるかもしれない。

SETA:パクチーか(笑)!実は私には、自分の曲はこういう風に聴いて欲しいっていう信念というかイメージが全然ないんです。昨日はタクアンを食べたけど、今日はキムチを食べてみたいなっていうくらいの気軽な気持ちで私の曲を聴いてもらえれば、それで良いし、自分が書いた曲がどうなろうと構わない。音色のこだわりすらない。例えば、佐橋さんが「ここで、めっちゃ叫ぶぞ」って言っても、特に抵抗もしない。でも、今まで周りの人から「君は何をしたいの? どんなアーティストになりたいの?」って常に聞かれてきたので、とりあえず「こう聞かれたら、こう答えよう」っていうそこそこの答えだけ考えておくようにしていました。でも佐橋さんと庄司さんとチームを組ませていただくことになったら、真っ裸の状態の曲を渡しても「これ、めっちゃ良い曲だね」って言ってもらえ気持ちも安定しホンネが言えるようになりました。こんな経験初めてで、今とても幸せです。

佐橋:先日、一緒にライブをやったんですが、その時に改めて思ったのは、俺たちの役割は彼女が書いた絵をどう飾るかを決めること。そしてSETAは、自分で書いた絵がどう飾られるかについて特に頓着していない。ただ、それだけのことなのだと思います。でも一回だけ抵抗したことがあったよね?

SETA:今回、PVも作った「金魚鉢」で自分の声を多重録音することになったんですが、私 本当にハモるのが苦手で。今までも、ハモりを録音するのに、すごく時間がかかっちゃったのでコンプレックスがあって…。

佐橋:なので、ハモるのではなく新しい曲を歌うんだと思って歌ってくれってお願いして、録音しました。そうしたら、やっぱり彼女の声は倍音の出かたが人と全然違うんですよね。すごく良かった。1人コーラスはライブでは再現できませんが、これからレコーディングではもっと挑戦していきたいですね。

−−コーラス以外に、やっていきたいことや、夢はありますか?

SETA:こんなことを言うとゆとり世代だって言われるのかもしれないけど、夢を持っていても、持っていなくても、どっちにしても生きていかなきゃいけないよなって思っていて。だから、今は毎日ご飯が食べられることと、この楽しいことをずっと続けていければ良いなと思っています。あと、実は“SETA”ってアイヌ語で犬っていう意味なんです。昔、犬を飼っていたんですが、その犬にSETAっていう名前を付けていて、そこからもらいました。

佐橋:犬を犬って呼んでたの?

SETA:そうなんですよ(笑)。犬って、無条件に側にいてくれて信頼できて、飼い主の事を裏切らないじゃないですか。だから私の曲も聴いてくれる人のそばにいる犬みたいな存在になれば良いなって思っています。

−−音楽を通して伝えたいことは、なんですか?

SETA:私が、最近曲を書く時にテーマにしているのは「生きるのって辛いけど、死ぬために生きよう」ということ。私は昔から「何のために、生きているんだろう」っていうことばかり考えちゃうような根暗女子なんですが、毎日、忙しくてあっという間に1年たっちゃうし、皺も悩みも増えるけど、晴れやかに死ぬために頑張ろうって思っていて。「私は、とびきりハッピーに死んでやるぞ」って思っていたら、意外と毎日楽しいこともあるし、生きるのって楽しいなって思うようになりました。なので、それを伝えていければなと思います。

佐橋:そもそも、僕は何で今の仕事をやっているんだろうって振り返ってみたら、生活のためなんですよね。バンドでデビューした後、解散することになって。食っていくためにできることは何かを考えていたら、「お前、色々できるじゃん」って言ってくれた先輩がいて。運よく今まで食べ続けることができた。でも、30数年同じ業界で仕事をし続けてきて、いまだにこうやってSETAのように一緒にやりたいって思える人と出会えるというのは、とても幸せだなと思います。なので、音楽を続けていく理由は「自分が良いと思ったものを、他の人にも良いと思ってもらえたら嬉しいから」。その一言に尽きますね。仕事が終わる時間も遅いし、不安定な仕事だと思いますけどね(笑)。今、SETAの話を聞いて思い出したけど、昔、「さよならだけが人生だ」って言った人が、いましたよね。周りの人も、どんどん亡くなっていくし、結局「さよなら」だけが残っちゃうんだなって思う。そう思うと一生懸命生きようって思う。だから、僕もSETAと同じかな。これから、ライブも二人でやることが多いと思うので、話の続きはライブで(笑)。

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