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「俺たちはザ・ヘヴィーで、それ以外の言葉では表せない」― ザ・ヘヴィー 初来日インタビュー

ザ・ヘヴィー 来日インタビュー

 桃太郎を実写化した「ペプシネックス ゼロ」CMソングに起用された「Same Ol’」が、ここ日本で大ヒット中のUKロック・バンド、ザ・ヘヴィー。ヴォーカリストのケルヴィン・スワビーとギタリストのダニエル・テイラーを中心に結成され、現在はベースにスペンサー・ペイジ、そしてドラムにクリス・エリュールを迎えた4人組として活動。2008年に『Great Vengeance and Furious Fire』でデビュー。カーティス・メイフィールドを彷彿とさせるケルヴィンの渋くソウルフルな歌声にのせて、60~70年代のロックを基調としたグルーヴ感溢れるファンキーなギター&ベースラインがうねるレトロかつモダンなサウンドで話題を浴びる。翌年リリースされた『The House That Dirt Built』収録の「How You Like Me Now?」は、米スーパーボウルにて放映されたCMをはじめ、様々な映画、TV番組、CM等に起用され、アメリカでもブレイクを果たす。デイヴィッド・レターマンが司会を務める人気番組『レイト・ショー・ウィズ・デイヴィッド・レターマン』出演時には、レターマンが前代未聞のアンコールを求めるなど、そのパワフルなライブ・パフォーマンスにも定評がある彼らが、【FUJI ROCK FESTIVAL】に出演する為に初来日。彼らの結成秘話やメディアとインターネットの関係性などについて話を訊いた。

自分たちのやりたいことを貫き通すということが一番大切

??まずは、4人の音楽との出会いについて訊きたいのですが、幼い頃の思い出で記憶に残っていることは?

クリス・エリュール:父親が運転する車の中で、エヴァリー・ブラザーズを聴いたことだね。4~5歳の頃だと思うけど、幼いながら女の子や失恋についての曲が心に響いたんだ。まだ完全に理解できてはいなかったけれど、曲が醸し出す悲しさだったり…すっと入ってきて、とても不思議な気分になったことを憶えているよ。

ケルヴィン・スワビー:俺は、ザ・コースターズの「Yakety Yak」に合わせて踊っていたことだね。何故かわからないが、あの曲に合わせダンスするのがすごく好きだった。

ダニエル・テイラー:僕は王道だけど、マイケル・ジャクソン。3歳か4歳ぐらいの時だね。「スリラー」のミュージック・ビデオがとてつもなく怖かったのを憶えてる。

一同:大笑。

ダン:その上、才能とカリスマ性に溢れているから、とにかく夢中になったね。

スペンサー・ペイジ:僕も車の中で色々な曲を聴きながら踊っていたね。ビートルズや…特に記憶に残っているのは、ブロンディの「The Tide Is High」かな。姉たちもみんな音楽が好きだったから、彼女がハマっていたものもよく聴いていたんだ。

?-ケルヴィンは、昔からシンガー志望だったのですか?

ケルヴィン:いや、そういうわけじゃないんだ。メロディなんかを思いついて、それを鼻歌みたいな感じで歌ってはいたけれど、シンガーにはなりたくなかった。でも成り行き、というかダンに言いくるめられて、歌うハメになった(笑)。

??それは、意外ですね!

クリス:僕なんて肉屋で働いてたところをダンに見初められたんだ(笑)。

一同:大笑。

スペンサー:あいつはリズム感がいいな、ドラマーにどうだろうって感じで。

ダン:リブ肉の切り方がイケてる、と思って(笑)。

クリス:(笑)。そう5/4拍子で肉を切ってるって!

??そしてケルヴィンとダンは、GAPで働いていた時に出会ったそうですが…。

ダン:本当だよ(笑)。

ケルヴィン:それまで2人とも音楽を作っていて、ある日のその話が話題に上がって意気投合し、一緒に音楽を作ることになった。そこから音楽がワインのように熟成させていき、サウンドを確立したものの、それに合うベーシストやドラマーがまったくいなくてね。だから当時は、ダンがベースも兼任していた。俺たちが住んでいた小さな街でバンド・メンバーを探すのは不可能に近かったから、2人でやるしかなかったんだ。

??当時UKで、ザ・ヘヴィーのようなヴァラエティ豊かなサウンドを鳴らしてるバンドはいましたか?

ケルヴィン:いや、いなかったね。というか、他のバンドとはまったく違うサウンドを鳴らすことを意識していたから。

??そんな中、リスナーに自分たちの音楽をリーチさせるのも大きな課題だったと思います。

ダン:その通り。とにかく時間がかかったね。何十年も…。今では、成功を収めているじゃないか、と言われるけれど、何十年もの下積みがあったからこそ、現在この場にいることが可能なんだ。自分たちの音楽につぎ込んだ月日と労力は、計り知れない。みんなにクレイジーだと言われるような、とてつもない量だよ。でもそんなことは問題じゃないんだ。自分たちのやりたいことを貫き通すということが一番大切だから。

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何の形にもはめ込むことが出来ない―
俺たちはザ・ヘヴィーで、それ以外の言葉では表せない

「How You Like Me Now?」
▲ 「How You Like Me Now?」 MV

??そんな長い下積み期間を経て、2ndアルバム『The House That Dirt Built』収録の「How You Like Me Now?」でアメリカでブレイクし、自分たちの音楽がやっと受け入れられたと感じた時は、嬉しかったのでは?

ダン:正直な話、こんなに長くかかるとは思わなかったね。僕自身、それまで何故受け入れられなかったのか不思議でしょうがない。でも今までの苦労や頑張りが報われ、正当化された感じはもちろんしたね。

ケルヴィン:ひとつのジャンルに特化した音楽を作っていないというのも要因の一つだったとは思う。何の形にもはめ込むことが出来ない― 俺たちはザ・ヘヴィーで、それ以外の言葉では表せないんだ。

??特にアメリカでは数々のCM、TV番組、映画などに楽曲が起用されてきましたが、そういったメディア露出の利点は何だと思いますか?

クリス:僕らのようなインディー・レーベルに所属しているバンドにとって、自分たちの音楽をマーケティングやプロモーションする資金というのは限られているんだ。だからCMや映画に曲が使われることが、その役目を果たしてくれる。何百万人もの人々の家へ自分たちの曲が自動的にビームされている感覚。現代の音楽カルチャーにおいてラジオのような役目を果たしてくれていると思ってるね。「Same Ol’」が収録されている『ザ・グローリアス・デッド』をリリースしてから2年も経っているけれど、まさか今になって日本のCMに起用され、日本に来ることができるなんて思ってもいなかった。

「ペプシネックス ゼロ『桃太郎「Episode.ZERO」』篇」
▲ ペプシネックス ゼロ『桃太郎「Episode. ZERO」』篇

??「Same Ol’」を日本のペプシのCMに使いたいと打診された時は、どのような気持ちでしたか?

ケルヴィン:グレイトな気分だった。

ダン:でも、その時点では、そこから何かが生まれるなんて思ってなかった。

クリス:そう、これまでもこういうことはあったけれど、バンド自体に興味を持ってもらえるまでに、かなり時間がかかった。曲はすごく気に入ったけれど、その曲を演奏しているバンドまで辿り着かないというか…。でも日本では、その点と点がすぐに結びついたようだね。

ダン:CMで曲を聴いて気に入ったら、即アルバムを買って、そこからバンドの音楽を掘り下げていった。

スペンサー:それにすぐに来日し、【FUJI ROCK FESTIVAL】にも出演できることになった。

ダン:これまで長らくツアーをしてきたけれど、日本へ来るというオプションは今になるまでなかったからね。

クリス:自分の音楽をそういったものに提供すると、「セルアウトだ」とか「魂を売った」とよく言われるけれど、同意できないね。より多くの人に自分の曲を聴いてもらえるチャンスがあるのに、それで何もしないのも別にいいとは思うけど。

??これまでにオファーを断ったものはありますか?一線を画するという部分で。

クリス:タバコとか…。

ケルヴィン:政治的なものだったり。

??確か、ニュート・ギングリッチの政治キャンペーンですよね?

クリス:そうそう、バンドの活動にポジティブに貢献しない場合だね。何もかもにOKって言ってるわけではないけれど、音楽活動を続けていくには現実的にならないとね。

ケルヴィン:もし、もっと有名なバンドで、強力なバックアップがあったとしたら、選り好みするとは思うけれど、今の俺たちが音楽を作り続けていく為には、そんな贅沢は言ってられないんだ。

??増え続けるメディア露出によって、ライブを観に来るファン層に変化はありましたか?

ダン:う~ん、どうかな。僕らのファンは、元々年齢層が幅広いからね。

ケルヴィン:15歳から70歳まで。日本の観客はどんな感じなのかが気になるね。どう思う?

??同じく幅広いとは思いますが、CMからバンドをのことを知ったファンだったら、比較的20代~30代が多いのかなと思いますよ。

ケルヴィン:なるほどね。今の時点では、まだ日本の観客の前できちんと演奏していなから、どんな感じになるのか見当もつかなくて。

「What Makes A Good Man?」
▲ 「What Makes A Good Man?」 (Late Show with David Letterman)

??前作でブレイクしたこともあり、「How You Like Me Now?」を越す曲を作らなければならないなど、3rdアルバム『ザ・グローリアス・デッド』を制作する上で、プレッシャーはありましたか?

クリス:多少あったかもね。

ケルヴィン:『ザ・グローリアス・デッド』でやりたかったことは、すべて達成できたと思ってる。「How You Like Me Now?」はいい曲だとは思うけど、アルバムとしては『ザ・グローリアス・デッド』の方が優れていると思ってる。

スペンサー:うん、両方ともいいアルバムだと思うけど、『ザ・グローリアス・デッド』は誇れるアルバムだね。

ダン:いつだってプレッシャーは、少なからずあると思う。このまま音楽を作り続けたいし、9時から17時まで働かなければならない仕事に戻るのは嫌だ。それに健康的であるとも思うんだ。リラックスしすぎたり、自己満足的になってしまうといい作品は生まれないから。

クリス:最悪なアルバムを作ることには興味がないから。1曲さえいい曲があれば、それで満足するようなバンドもいるけれど、僕らはそうじゃない。そうなるんだったら、普通に嫌な仕事をした方がマシだから。

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「Curse Me Good」
▲ 「Curse Me Good」 MV

??そして『ザ・グローリアス・デッド』のリリースから2年ほど経ちますが、次回作の構想は始まっているのですか?

ケルヴィン:この2年間はほぼツアーに費やしてきたけれど、数週間前に作業を始めて、既に曲はたくさん出来上がってるよ。

クリス:僕らが住んでる近所に作業する為にピッタリなプライベート・スタジオも見つけたから、ここ1か月ぐらいそこで作業してるんだ。

??では、ザ・ヘヴィーのソングライティング・プロセスについて教えてください。

ダン:今はまだアイディアをまとめている段階だけど、既にクリスとスペンサーとスタジオで何曲かリハをして、演奏している曲もある。そこにケルヴィンが加わり、詞、ヴォーカルやメロディのアイディアを膨らましていく感じだね。後は、半分ぐらいできているものを演奏しながら完成させていったり。

ケルヴィン:このアルバムでは曲作りのプロセスに重点を置きたいと思っているんだ。そうすることによって、どの曲を選んでもソリッドでいいアルバムなるから。

クリス:これまでは、ダンとケルヴィンがデモを作って、そこに肉付けしていく感じだったけれど、今回はより自由が利く環境で、メンバー全員で演奏しながら、曲が形になっていっている。真っ新な状態から曲を作り上げるか、それが上手くいかなければデモを元にして作るか、よりいい方法をじっくり話し合いながら進めていくプロセスを探求していきたいんだ。

「Can't Play Dead」
▲ 「Can't Play Dead」 MV

??『ザ・グローリアス・デッド』は、ニューオリンズの音楽やヴドゥーなどにインスパイアされていましたが、今作にはサウンド面において具体的なテーマがあるのですか?

ダン:今回は、そういった要素を一切排除したシンプルでミニマルな作品に仕上げたいと思っているんだ。もちろん、僕らだってわかるサウンドにはなるけれど。

ケルヴィン:そう、ダイナミックでザ・ヘヴィーらしいサウンド。

ダン:クリスも少し触れていたけれど、今回はメンバー全員が1つの部屋でレコーディングして際に生まれるエネルギーを捉えることに焦点を置きたい。トラディショナルなレコーディング法で、そのエネルギーの源に辿り着くまで前進し続ける。たとえ音が少し外れ、不安定で完璧じゃなくても構わない。そういう点では、少しパンクぽい精神でもあるよね。

??ザ・ヘヴィーは、新旧関わらず様々なジャンルを飲み込み、自分たちらしい音楽を構築していますが、ほぼすべてのジャンルの頭に“ポスト”とつく現状は、これから変わっていくと思いますか?

ダン:いやー、難しい質問だね。特にギター・ベースの音楽に関しては。

「The Big Bad Wolf 」
▲ 「The Big Bad Wolf」 (Live on Last Call with Carson Daly)

??トラディショナルなギター・バンドは、UKでも少なくなっていますしね。

ダン::確かに、僕自身あまり好みじゃないけど、アークティック・モンキーズぐらいから売れてるバンドはいないね。

スペンサー:10年周期ぐらいで、またブームが来るとは思うけどね。少しシーンから遠ざかった方が、人々がその良さを理解し、新た発見につながるとも思うし。

ダン:僕が一番問題視しているのは、キッズが音楽を作ったり、演奏したりする場所が激減していること。特にUKでは、小さなライブハウスやは軒並み閉鎖され…。

ケルヴィン:スタジオもそうだよね。

ダン:そう、僕らが活動を始めた当初に演奏していたような会場はもうないからね。子供たちが、どのようにクリエイティヴィティを培っていくのか…。今はパソコンに向かえば、即座に退屈を紛らわすことができるから、それがだんだん難しくなっている。僕が、14~15歳の頃にギターを始めたのは退屈だったからだ。練習して、ある程度弾けるようになると、それも退屈になったから、曲を書き始めた。でも今の時代、スマホやパソコンでGoogleにアクセスすることができれば退屈することなんてほぼ無い。僕の娘だって、気づくとiPadとにらめっこしているから、「外に行って遊んで来なさい。」とよく注意してる(笑)。「木々を見て、空想しなさい。」ってね。現在の文化は、空想する時間さえも奪っている。ギターを手に取ったり、絵を書く為にブラシを手にしたり、本を読んだりするきっかけになるような、ちょっとした時間もインターネットに費やすようになっている。もちろん素晴らしいツールでもあるけれど、使い方を間違えたり、自制できないと、破壊的なツールにもなりえる。

クリス:その通りだよ、現実の繋がりや人々の間のコミュニケーションを破壊する場合もあるし。そんな世の中でも、みんなで分かち合うことができ、人々を一つににするのが音楽なんだと思うね。

ザ・ヘヴィー「THE GLORIOUS DEAD.」

THE GLORIOUS DEAD.

2014/03/16 RELEASE
BRC-346X ¥ 1,650(税込)

詳細・購入はこちら

Disc01
  1. 01.CAN’T PLAY DEAD
  2. 02.CURSE ME GOOD
  3. 03.WHAT MAKES A GOOD MAN?
  4. 04.THE BIG BAD WOLF
  5. 05.BE MINE
  6. 06.SAME OL’
  7. 07.JUST MY LUCK
  8. 08.THE LONESOME ROAD
  9. 09.A LESSON LEARNED (BONUS TRACK FOR JAPAN)
  10. 10.DON’T SAY NOTHING
  11. 11.BLOOD DIRT LOVE STOP

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