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2020/01/25

「ガラパゴス」から「イリオモテ」へ 【世界音楽放浪記vol.81】

先日、「ミュージック・バズ」(NHKラジオ第一・毎週土曜 午後15分~)に音楽ジャーナリストの柴那典さんが出演した際に、2019年の日・米・英のビルボード年間チャートを解析して頂いた。とても興味深いデータなので、紹介したい。そのデータとは、それぞれの国の年間トップ100を、カテゴリー別に分類したものだ(カテゴリーが重複するものもあり)。

アメリカで、最も多数を占めたのが「シンガー及びシンガーソングライター」で、66(人・組、以下省略)を占めた。以下、2位「ラッパー」(59)、3位「バンド」(8)と続く。イギリスでも同じような傾向で、1位「シンガー及びシンガーソングライター」(70)、2位「ラッパー」(49)、3位「DJ&プロデューサー」(15)、4位「バンド」(11)という並びだ。特徴的なのは、1位の「歌手」と、2位の「ラッパー」が圧倒的に大多数で、3位以下を大きく引き離しているという点だ。

この2国に対し、日本では、1位は「グループ」(36)、2位は「シンガー及びシンガーソングライター」(34)、3位は「バンド」(33)となり、ラッパーは、DAOKO1人だけだ。「グループ」といえば、坂道シリーズやジャニーズなど、「グループアイドル」を想起する方も多いだろう。それは21世紀の東アジアのアイドル文化の象徴ともいえるもので、Kポップにも通じるところがある。また、特筆すべきところは、ラッパーのあまりの少なさだ。英米ではヒップホップカルチャーが他の音楽にも強く影響を及ぼし、音楽でもメインストリームになっているに対し、日本ではまだ「アイドル」や「ロック」などが主流なことが分かる。

グローバル・スタンダードを踏襲することが、必ずしも良いこととは思わない。日本には、日本の音楽文化があって然るべきだ。ポップミュージックのコア(中心)である英米と、ペリフェリー(周縁)である日本の音楽の生態系が大きく異なることは、一目瞭然だ。両者の違いについて、薄々とは感じ取っていたが、こうして数値化されると、課題と可能性が明確に見えてくる。

2010年代、私は、日本の音楽の世界伝播に、心を砕いていた。当時、世界への正面からの突破口となるのではと考えていたのは、「ポスト・アニソン」だ。00年代に、新たな日本音楽ファンを獲得する原動力となったアニソンは、世界中に一定の熱い支持者がいることは事実だ。しかし、世界中で人気を博すアニメフェスも、例えて言えば、東京の代々木公園で開催される「タイフェス」「ベトナムフェス」のようなものだ。また、アニソンが注目されたのは、他に日本のポップスと接触する方法がなかったからで、決してポジティブな理由に起因するものではない。パブリシティとファクトは、きちんと分けて考える必要がある。一歩会場の外に出れば、日本の存在感は、年々、小さくなっているというのが現実だった。

この時期に世界で評価されたアーティストは、男女で見事に特徴が分かれた。女性アーティストは「アイドル的要素」「ノンビブラートの中高域の声」。Perfume、きゃりーぱみゅぱみゅ、初音ミク、SCANDALらが該当する。男性は「ロックバンド」「英語(もしくは、英語を多分に交えた)歌詞」。ONE OK ROCKCrossfaithVAMPSthe GazettEらだ。この両者を掛け合わせるとBABYMETALとなる。

20年代に世界への橋頭堡を築くであろうアーティストは、この次の世代となる。日本は「ガラパゴス」と形容されることが多いが、私は「イリオモテ」だと思っている。誰もが世界へとダイレクトに情報発信することが可能となり、日本の音楽への接触も容易となった「いま」、この国で独自に進化した「個」が世界と結びつき、新潮流を生み出すかもしれない。これからの10年に、ワクワクするばかりだ。Text:原田悦志

原田悦志:NHK放送総局ラジオセンター チーフ・ディレクター、明治大学講師、慶大アートセンター訪問研究員。2018年5月まで日本の音楽を世界に伝える『J-MELO』(NHKワールドJAPAN)のプロデューサーを務めるなど、多数の音楽番組の制作に携わるかたわら、国内外で行われているイベントやフェスを通じ、多種多様な音楽に触れる機会多数。現在は「イチ押し 歌のパラダイス」「ミュージック・バズ」「歌え!土曜日Love Hits」(NHKラジオ第一)などを担当。

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