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2019/12/21

2010年代の終わりに【世界音楽放浪記vol.78】

まもなく、2010年代が幕を閉じる。皆さんにとって、どんな10年間だっただろうか?私は公私共々いろいろなことがあったが、世界中で日本音楽の世界伝播の現場を取材し、アーティストらと力を合わせて日本音楽の可能性を模索したのが、最大の足跡だ。また、2016年より大学の先生になり、2018年からは、ラジオという新しい媒体で仕事をすることになったことも、ターニングポイントだった。

私が学生時代を過ごしたのは、1980年代後半から90年代前半にかけてだ。その頃、世界は激変の時を迎えていた。ベルリンの壁の崩壊、ソ連の終焉、湾岸戦争…。日本では昭和から平成へと遷り、バブル経済が終わった。その頃を参照しながら、教え子に、「君たちが過ごしている『いま』こそが、世界の分岐点かもしれない」と伝えることがある。それほど、2010年代は激変の10年だった。一例を挙げれば、かつて戦争とは「国対国」の武力行使だった。しかし、ちょうど私の大学在学時に東西対立という構造が壊されて以来、テロリズムという概念を遥かに超えた「疑似国家」ともいえる組織との戦いが、頻発するようになった。その一因は、インターネットの普及により「X軸=横」へのベクトルが国境を越え、同質の人々を繋ぐようになったことだ。

音楽の話に戻ろう。ヒットの概念も、インターネットが変えた。「オーバーグラウンド」の状況は、チャートをデータドリブンすれば見えてくる。だが、「アンダーグラウンド」で共感を膨らませた曲やアーティストは、何らかの導火線により、あたかも石垣山一夜城の如く発現し、ロングテールの愛聴曲が生まれ続けている。2010年代後半の日本の音楽シーンを彩った、米津玄師、あいみょん、Official髭男dism、King Gnuらに共通する現象だ。ただ その誰も、まだ音楽シーンのcore(核)である全米チャートなどを賑わしてはいない。日本の音楽シーンが世界のヒットシーンと密接な関係を持つことも、2010年代には叶わなかった。もちろん、別に海外で売れようが売れまいが、日本独自の流行歌があって然るべきだ。またBABYMETALやピコ太郎が全米総合チャートにランクインしたことや、数々のアーティストやバンドが海外でライブを成功させるなど、少しずつだが橋頭保を築いていることも確かだ。しかし海外発の音楽記事は、まだまだパブリシティの域を越えていないものが多い。もっとファクトを伝える必要性を声高にしなければならないと、私は強く考えている。

ここで1世紀前、20世紀の10年代を振り返ってみよう。世界的に最大の事象は、主に欧州を舞台にした人類史上初の近代戦である「第一次世界大戦」だ。この最中にロシア革命が発生しソ連が成立する。終戦後、中東欧の「力の空白地帯」には、ポーランドやチェコスロバキアなどが独立した。戦地にならなかった日本では、大正デモクラシーが起こり、国際連盟の常任理事国となり列強の仲間入りも果たした。凄惨な人類共通体験を経て、1920年代は希望の時代になるはずだった。だが世界大恐慌を契機にして、やがて第二次世界大戦の号砲が鳴り響くこととなる。

英国人の翻訳者に「戦後」という言葉の意味を聞かれたことがある。「どの戦争の後ですか?」と。「WW2」で勝者となった連合国は戦い続け、敗者となった枢軸国には戦後が訪れた。2020年代が地球上の全ての人々の「戦後」になり、音楽を楽しめる時代になってほしいと、心から願う。過去は変えられないが、未来は創ることが出来る。

皆様、素晴らしい20年代をお迎えください。これからも、何卒、よろしくお願いいたします。Text:原田悦志

原田悦志:NHK放送総局ラジオセンター チーフ・ディレクター、明治大学講師、慶大アートセンター訪問研究員。2018年5月まで日本の音楽を世界に伝える『J-MELO』(NHKワールドJAPAN)のプロデューサーを務めるなど、多数の音楽番組の制作に携わるかたわら、国内外で行われているイベントやフェスを通じ、多種多様な音楽に触れる機会多数。

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