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2019/04/19

『コズ・アイ・ラヴ・ユー』Lizzo(Album Review)

 女性ラッパーは“話題性”が命。古くはフォクシー・ブラウンとリル・キムが(いろんな意味で)世間を賑わせ、今でいうとニッキー・ミナージュとカーディ・Bのバトルがゴシップ各誌で取り上げられている。そのカーディの登場により、フィーメール・ラッパーたちが元気を取り戻している昨今。その中でも、Lizzo(リゾ)はひと際“個性”を活かしたビジュアル、パフォーマンスでリスナーを惹き寄せた。特に、ボリューミーな身体に纏ったセーラームーンのコスプレは、一度目にしたら脳裏に焼き付くほどのインパクトだった……。

 1988年生まれ、米テキサス州ヒューストン出身。 間もなく31歳のバースデーを迎えるリゾは、いろんな意味で注目されている。ラップのみならず、ボーカリスト、フルート奏者としての実力も折り紙付きで、本作の発売直前に『Elvis Duran Live』で披露したアリアナ・グランデのカバー「7 rings」も、ラップ・パートとボーカル・パートを見事使い分け、アリアナ本人にも絶賛されたほどすばらしかった。

 10代の頃は、地元ヒューストンのトップスター=ビヨンセ率いるデスティニーズ・チャイルドのような、女性だけで結成したトリオ・グループで活動し、そこそこ名を轟かせる。地元のインディー・レーベルから2013年にアルバム『Lizzobangers』でソロ・デビューし、アーティストとして本格始動。本作はヒットこそしなかったが、音楽誌などからは高く評価された。このアルバムが注目されたことで、クリーン・バンディットの「 ニュー・アイズ」(2014年)や、故プリンスの「プレクトラムエレクトラム」(2014年)など、トップアーティストの楽曲にゲスト出演し、知名度をさらに上げる。

 2016年には、メジャー・レーベルのアトランティック・レコードから、EP盤『ココナッツ・オイル』を発表。米ビルボードR&B/ヒップホップ・チャートでは44位まで上昇し、自身初のランクインを果たした。 『ココナッツ・オイル』のヒットを得て、メジャー・レーベルから初のリリースとなるフル・アルバムが、本作『コズ・アイ・ラヴ・ユー』だ。コンプレックスを歌にする姿勢が、多くの女性ファンに支持されているシザだが、本作のカバー・アートでは、その“ありのまま”の姿をさらけ出し、裸体でしゃがみ込む写真を起用している。

 アルバムからは、1月にリリースした先行シングル「ジュース」が、米R&Bチャート23位、UKチャート38位のスマッシュ・ヒットを記録。自身の作品としては、いずれも自己最高位を更新している。この曲は、ジェイソン・デルーロの「トーク・ダーティ」(2013年)や、トゥエンティ・ワン・パイロッツの「ライド」(2015年)などのTOP10ヒットを手掛けた、リッキー・リードとの共作曲で、デジタル音をベースとしたディスコ・ファンク、カーリーヘアのカバー・アート、オリビア・ニュートン=ジョンを彷彿させる、ピンクのレオタード姿で登場したミュージック・ビデオと、すべてが80年代風。話題性含め、現時点で最大のヒット曲になったのも納得の出来栄えだ。

 リッキー・リードは、ソウルとロックンロールのブラック・ミュージック的エッセンスを呑み込んだ「クライ・ベイビー」と、都会的というよりは野性的なネオソウル「ランジェリー」の2曲も手掛けている。

 その「クライ・ベイビー」のように、彼女の音楽はR&Bやヒップホップに留まらない。オープニングのタイトル曲は、ロックバンドのX・アンバサダーズをプロデューサーに迎えた、ロックとブルースが融合したような力作で、終始エモーショナルに熱唱するリゾのボーカルには、ただ圧倒させられるしかない。故アレサ~チャカ・カーン・フォロワーも真っ青か(?)。X・アンバサダーズは、6/8拍子のレトロでブルージーなメロウ・チューン「ジェローム」と、高速ラップを披露する「ヘヴン・ヘルプ・ミー」の計3曲を担当した。

 そのパワー漲るボーカルと、巧みなラップを見事に使い分けた「ライク・ア・ガール」は、プロダクションチーム=ポップ&オークのウォーレン“オーク”フェルダーによるプロデュース曲。オークは、2000年代以降クリス・ブラウンやニッキー・ミナージュ、ミゲル、リアーナ等トップ・アーティストのタイトルを数多く手がけてきたヒットメイカーで、本作には、ラップ・パートをメインとしたトラップ・ポップ「ソウルメイト」、「ベター・イン・カラー」、2000年代初期のファレル・ウィリアムスを彷彿させる、ミッシー・エリオットとのコラボ曲「テンポ」をプロデュースした。

 フィーチャリング・ゲストとして参加したのは、ミッシーとグッチ・メインの2人。グッチ・メインとコラボした「イクザクリー・ハウ・アイ・フィール」は、90年代初期のゴールデンエイジ・ヒップホップが蘇るようなナンバーで、両者の掛け合いも相性抜群。アラフォー以降には、ハマり過ぎるくらいハマるのでは?

 本作の魅力は、レトロな音と最新のトラックを掛け合わせたサウンド・プロダクションもさることながら、9割近くはリゾのボーカル・ワークにある、といっていい。「パンチのある歌を聴かせて!」という方には、間違いない逸品だと太鼓判を押す。彼女が未だ「誰もが知る」ようなアーティストとしてフィーチャーされていないのが不思議なくらいだが、本作のリリースを機に、メジャー・アーティストの1人として全世界に知れ渡ることを、期待しよう。


Text:本家一成

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