Billboard JAPAN


NEWS

2016/06/14

BJ・ザ・シカゴ・キッド、初来日公演をレポート!逞しい声と狂おしいほどの感情移入でステージを魅了

 新生モータウン期待のホープ=BJ・ザ・シカゴ・キッドが、遂に初来日。2016年6月13日、ビルボードライブ東京で日本公演デビューを行った。

 84年にイリノイ州シカゴで生まれた彼は、当たり前のようにヒップホップを聴いて育ち、ブラック・ミュージックがヒット・チャートを席巻していくのを目の当たりにしながら育ってきた。もちろん彼の身体にはヒップホップのファンキーな鼓動が脈打っている。それ故、カニエ・ウェストやケンドリック・ラマー、ドクター・ドレーなどとも共演を果たしてきた。

 しかし、そうでありながらも、両親が聖歌隊のディレクターを務めていたという家庭に育った彼は、10代のころからゴスペルを歌い、そこから70年代のソウル・ミュージックを継承した、ある意味で“王道”のヴォーカルを聴かせるようになっていった。グルーヴ感やリズム感には現代的な感覚が滲んでいるが、それでもエモーショナルでディープな歌い方は、確実に20世紀のソウル・ミュージックと繋がっている。

 ときにはナイーヴ過ぎるほど、デリケートに言葉を綴っていく彼の歌い方は、きっと同世代にも、そしてオールド・ジェネレーションにも受け入れられる間口の広さがあるのだろう。だからこそ、今年の2月にリリースされたセカンド・アルバム『イン・マイ・マインド』が好評を博し、そこからシングル・カットされた「チャーチ」や「ザ・ニュー・キューピッド」がスマッシュ・ヒットしたのだ。そして彼は「伝統と革新の融合を担うニュー・ヒーロー」などとコメントされている。

 満を持して実現した初来日公演。ギター、ベース、ドラムスの3ピースによるシンプルながらもラウドな演奏に吸い寄せられるかのように、小走りでステージに上がったBJは、足でリズムを取りながらスタンドマイクに噛り付くようにして歌い始める。それはCDで聴ける声の何百倍も逞しく、男らしくて毅然としている。リズムを強調したサウンドに負けない声は観客に強いオーラを放ち、正面から正々堂々と向き合うBJの歌は、オーセンティックなソウル・ミュージックの貫禄を宿している。「トウキョーのみんな、僕がここにいるのは夢ではないんだ!」と語りかけ、初来日にかける並々ならぬ意気込みを感じさせるBJ。一瞬たりとも弛緩するシーンはなく、1曲ごとに感情を込めてじっくり歌っていく。その声の密度、つまり質量の重さは、20世紀の偉大なソウル・シンガーたちを彷彿とさせる。何の演出もなく、ただただ誠実に歌と向き合い、観客と向き合う。彼の背中にはマーヴィン・ゲイやテディ・ペンダーグラス、ユージン・レコードといった先達の影が見えるのだ。

 中盤に差し掛かったとき、おもむろに「プリンスは逝ってしまったんだ…」と呟きながら歌った「ドゥ・ミー・ベイビー」のカヴァーは、まさに狂おしいほどの感情移入が会場を圧倒し、BJがプリンスを心からリスペクトしていることが痛々しいほど伝わってくる。そんなハイライト・シーンを挟んで、後半は少しずつヒップホップ指数の高い演奏に表情が変わっていく。ドラムスは拍子のお尻を切り詰めたように性急なリズムを刻み、BJの歌もオーソドックスなシンギング・スタイルからラップに変化していく。コード感覚の希薄な響きが会場を飲み込み、BJのリズミックなラップが観客をグイグイ引き込んでいく。ライブが進行していくにしたがい、ソウルからヒップホップに移っていくプロセスの臨場感は、観ていて鳥肌が立つほどの緊張感とエンタテイメント性が両立している。これが21世紀のリアルなソウル・ミュージック――。

 アンコールではテディの「ラヴ・TKO」の演奏をバックに饒舌なフロウを聴かせたBJ・ザ・シカゴ・キッド。ジェイムズ・ブラウンの「イッツ・マンズ・マンズ・マンズ・ワールド」を下敷きにし、リスペクトするように歌われる名曲「ウーマンズ・ワールド」の切なさは聴けなかったが、彼がオーディエンスと共有したいものが何なのかは、着実に伝わってきたと言っていいだろう。

 黒人音楽の伝統に対するリスペクトとオマージュ。それがBJのステージから溢れるように伝わってきた今回のライブ。鮮烈な印象を残してステージから立ち去っていった彼の歌が、耳にしっかり焼き付いた。すぐに戻ってきてくれることを期待せずにはいられない雨の夜だった。

Photo:Masanori Naruse

Text:安斎明定
東京生まれ、東京育ちの音楽フリーク。梅雨のジメジメした天気が続くこのごろ。こんなときこそ、気分がサッパリするようなワインをセレクトしたい。ここ2~3年、ヨーロッパで夏に親しまれているのが、イタリアのフィリツァンテを代表とする微発泡ワイン。シャンパーニュなどの通常の発泡ワインが5~6気圧あるのに対し、微発泡ワインは2~3気圧とやや弱め。それだけに清涼飲料水のような感覚で昼間から美味しく飲める。猛暑が予想されている今年の夏は、微発泡ワインで心地好く乗り切って。