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阿部芙蓉美 『HOW TO LIVE』インタビュー

阿部芙蓉美 『HOW TO LIVE』 インタビュー

「まずはルールをぶち壊せ」

 阿部芙蓉美、革命前夜。ルールもカテゴリーも要らない、これが音楽じゃないと言われるならそれでも構わない、そんなフラットな境地から生まれた新作『HOW TO LIVE』について。音楽や音楽シーンの既成概念に捕われない、目が覚める話をたくさんしてくれた。全音楽関係者、必見です。

みんな結構自分のことが好きですよね。見てて疲れる。

--2008201020112012年と、これまでのインタビュー読み返したんですけど、阿部芙蓉美って特異なタイプですよね。誰も言わないことばかり言ってる。

A ZIG/ZAG SHOW vol.2 - Permanents with 阿部芙蓉美
▲A ZIG/ZAG SHOW vol.2 - Permanents with 阿部芙蓉美

阿部芙蓉美:そうですか。

--新作『HOW TO LIVE』の紹介資料に「孤高のシンガー」って書いてあったけど、そりゃ孤高になるよなって(笑)。自分では阿部芙蓉美ってどんな人だなと感じているんですか?

阿部芙蓉美:阿部芙蓉美っていうのは、表に出てる阿部芙蓉美なのか、表に出ずに普通の暮らしをしている阿部芙蓉美なのか。そこは明確に分かれているので、どっちの話をしたらいいですか?

--どっちも聞きたいですね。

阿部芙蓉美:表に出てない阿部芙蓉美が表に出る阿部芙蓉美をコントロールしている。行け、やれって。で、それを言う為には支えなきゃいけないし、守らなきゃいけないし、厳しくしなきゃいけないし、甘やかしたりもしたいし、そういう関係性。阿部芙蓉美をどうやって活かすか。どういう風にすると面白いことになるかな?っていうのはすごく考える。

--裏の阿部芙蓉美が表の阿部芙蓉美をプロデュースしていると。

阿部芙蓉美:裏も表も曖昧って言えば曖昧なんですけどね。そんなにオン/オフがあるかって言うと、オン/オフっていう変え方もちょっと違う気もする。そんなにエンタテイナー的なものでもないというか。素材を使ってどう料理するか、みたいな感じに近い。そんなに光を浴びるタイプではないというか、本当に素朴な扱い方というか。芋を似るか焼くか、みたいな。

--いつからその感覚で音楽活動をするように?

阿部芙蓉美:元々あったとは思うんですよね。ただ、その手法って自分個人の感覚だから、メジャーレーベルから出てきたときは、周りに居た人たちとの関係性とか、ヴィジョンとかあったので、それにそぐわないこともあったのかなって。自分の個人的なバランスよりも周りの力が大きかった時期もあったから、そこから離れた今は一番自然というか、フリーというか、フラットな感じですね。

--その今の阿部芙蓉美に対して“孤高”や“特異”という感覚は、自らも持っていたりします?

阿部芙蓉美:私が思う“孤高”っていうのは、周りに圧倒的な数の人とか何かがある中じゃないと得られないもの。ただ独りポツンといるとか、一匹狼みたいなものを私は孤高じゃないと思う。本当に数多くの中で役割が明確だったりとか、そういうものが孤高なんじゃないのかなって思うんですね。それが自分と結び付くかというのは、あんまり感心はない。そうやって映るとしても、孤高のイメージなんて人それぞれだから、正解もないし……。私、どう見られてるのかな?

--なんて言われたりします?

阿部芙蓉美:……ユーモアとかって言われるけど、歌詞だったりとか。でもユーモアっていう言葉もなんか……ユーモアって何なんですかね?

--今回も始まりましたね、禅問答(笑)。ユーモアも抽象的な言葉ではありますよね。面白いという意味と……

阿部芙蓉美:あと、ちょっと癖があるとか、ちょっと取っつきにくいとか。だから「ユーモアがありますね」とか言われると、考えるんです。ただ、そういう風に周りから発せられる言葉がピッタリ来ちゃったら、それはそれでもう別に音楽をやる意味もないのかなって。しっくり来ないからまた「何なのかな?」って自分で考えて、また物作りするのかなと思うし。

--リスナーが「ユーモア」とか「孤高だ」って言うこと自体にも抵抗はある?

阿部芙蓉美:それはないです。「私はそれじゃない!」とか言うようなことでもないので。ユーモアとか孤高とか言う人もいれば、それは違うと言う人もいた方が面白いから、そこはもっといろいろバリエーションが出てきたら、それはそれで楽しいと思うし。ただ、いわゆる“女性シンガーソングライター”ってわりと「こういうものである」っていうイメージがあるじゃないですか。ちょっと暗いとか寂しそうとか。そう決めつけられてしまうのは、あんまり面白くないなと思うけど。もっともっといろんなタイプの、いろんな味のある人がいるのかもしれないし、みんな幅広く扱ったらいいのになって。

--“女性シンガーソングライター”って一緒くたにされがちですからね。

阿部芙蓉美:それはあんまり好きじゃない。“女性シンガーソングライター”という言葉に対して、リスナーの想いとかが濃いじゃないですか。そういう聴き方はあんまりよくないんじゃないかなって思う。

--そのイメージを壊す必要はありますよね。ちなみに阿部さんって「誰のようにもなりたくない」という感覚は持っていたりするんですか?

阿部芙蓉美:誰もが親しみやすいものに対してアプローチするよりも、みんなが避けて通るものとかを書きたいっていうか。その中から使えるものを探す。なんだろう? 性格悪いのかな。

--別に性格は悪くないですよ(笑)。視点の違いですから。

阿部芙蓉美:もちろん、みんなが「良いね」「素敵だね」っていうものに対しても興味はあるんだけど、そこの役割をちゃんと果たせる人は、私以外に適役の人が遥かにたくさんいる……っていうのはなんとなく分かるので。私は私みたいな人間がわざわざそこらへんにあるものをチョイスして、「こんなのもあったよ」っていう役割の方がまだ向いているのかなっていう感覚はある。

--なるほど。

阿部芙蓉美:あと、ルールがありすぎて。音楽をやるということにまつわるすべての部分で。音楽を作るときはスタジオに入って、ミュージシャンを呼んで……そういうルールみたいなものが、もう意味を果たしていると思えなくて。音楽って人が何人か集まってコントロールしようと思って扱えるものでは、そもそもないはずだなって今すごく思う。全然コントロールなんてできない、巨大なもの。圧倒的なものであってほしいというか。スタジオに人が集まって「はい、音楽でした」っていうことじゃなくて、もっと得体が知れなくて、もっとワクワクゾクゾクするような。で、全然しょうもなくてもいいし……っいう想いが、今強い。

--「音楽ってそもそもこうでしょ?」っていうことを当たり前のようにやりたがってますよね。阿部さんって、きっと。

阿部芙蓉美:そう。……まぁ私の基準だと、気持ち良いか、気持ち良くないか。理解するとか、みんなで共有/認識してみたいなものでは全然なくて。「これ、いいじゃん」って体がノってきたりとか、また聴きたくなるとか、その判断しかない。気になるか、気にならないか、とか。無理して「これ、流行ってるから聴く」みたいな人も結構いるじゃないですか。そういうことじゃなくて、気に入るか気に入らないかだけで、どんどん切り捨てていっていい。私の作るものもそうであっていいし。

--少し話を変えます。阿部さんに初めてインタビューしたとき、非凡と平凡の話になりまして。で、非凡ぶってる平凡な人に「うわっ」って思ったとか、自分は平凡だとか、そんな話をしていたんですが、今の自分も平凡だなと思います?

阿部芙蓉美:何の設定もない。今、自分の中のブームとして“フラット”っていうのがすっごくあって。元々持っていたものだとも思うんですけど、基準をフラットに合わせたいから、自分もやっぱりフラットに届く立ち位置にいなきゃいけないっていう。だから平凡も非凡も今は興味ない。あと、これは平凡、非凡に通ずるかは分からないんですけど、みんな結構自分のことが好きですよね。

--多いかもしれませんね。

阿部芙蓉美:見てて疲れる。自分の基準とか「自分はこうだ!」っていうところで立ち回ってる人が多くて、それを見てるとすごく窮屈そうだなって思う。よくわかんないなーって。

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多数の人が共通認識している音楽みたいなものを壊してみたら

--ツイッターやFacebookを見てると顕著ですよね。主張が多い。それに対し、阿部芙蓉美のツイートは、「仕事する」とか「あーなんかすっきりした」とか「お といえば おうどん」とか、本当にただのつぶやき。今最もツイッターを正しく使っている稀有なアーティストですよ。

阿部芙蓉美:(笑)

--あくまで今のはひとつの例ですけど、そうした相対的な見方をすると、阿部芙蓉美は非凡サイドの人間になりますよね。フラットで平凡だから非凡。

阿部芙蓉美:あー、なるほど。

--それって阿部芙蓉美の音楽にも言えることだなと。

阿部芙蓉美:最初にも言った通り、外に出ていく阿部芙蓉美を上手くアシストしたいから、その為に出来ることを普段からしていて。だから「自分がこうだ!」って主張するような、なんかよく分かんないエネルギーを使うよりは、ちょっとでも栄養になるものを揃えてあげたいというか。だからなるべく静かにしているんです、普段は。刺激を避けている訳ではないし、ディスカッションとかで意見をハッキリ言うことはすごく大事なことだと思うけど、必要以上に自分のルールを押しつけたり、自分だけのルールなのにそれが世の中とすごく通じてるみたいな主張って、見ているだけで「うっ!」ってなるから。だからそういう流れからは遠ざけているというか。

--その遠ざける作業、大変ですよね。乱暴に言えば、ルールの押しつけ合戦だらけじゃないですか。SNSに限らず、今の社会って。

阿部芙蓉美:疲れないのかな? もっと自分の範疇じゃないことに興味を持つ人が増えたら、面白いことが起きているはずなんですよ。テレビとかも狭い、自分たちだけのルールみたいなもので盛り上がってるし、一部だけで楽しんでる。だから「つまんない」って言う人が増えてるんだろうし。もっともっと外側のものに感心があって、交流したいとか、面白いものを作りたいとか、そういう人がもっといたら、もっと何かワクワクするものっていうのはあるはずなのになって。

--でもその狭いテレビで得られる音楽がすべて。という状況の人は圧倒的多数いて。そこでCMなども含む主張をたくさんしてきた方々がヒットチャートの上位を占めていく。そこで主張していない音楽は気付かれない、というのがこれまでの現実だった訳ですよね?

阿部芙蓉美:分かりやすくて、社会的影響力もある。認知のされ方とか、圧倒的多数を占める。そういう人たちにもやっぱりルールがあって。制作に関わる人たちの中でもルールがあるだろうし、それを周りで応援している人たちにもルールがあるだろうし……

--それがつまらないと。

阿部芙蓉美:それはそれで成り立っているんだったら、どうぞ。でもそうした大きいところを目指して、これからデビューをします。作品をつくります。っていう人たちって今すごく大変だろうなって。そこまで大き過ぎる規模を目指さないにしても、これから何かをやりたいっていう人に対して私が思うのは、まずはルールをぶち壊せ。それはまだまだ難しいことだとは思うんですけどね。

--挑戦している人はいますけどね。

阿部芙蓉美:やろうとしている人はいるかもしれないけど、やっぱりルールって根深くて。まだ今は昔からの業界の流れ……、まぁ私はもう数年前に死……これ、言っていいのかわかんないけど。

--「死」まで言っちゃいましたけどね(笑)。

阿部芙蓉美:もう死に絶えているものっていう認識がすごくある。業界の末期を経験した者としては、皆さん、いろいろ試した方がいいんじゃないのかなって。私も試そうと思ってます。

--その話とリンクするかもしれないですけど、今年2月に恵比寿LIQUIDROOMでワンマンライブを開催。客席のど真ん中にステージを組んで、そこでバンド(gomes(key,cho)、薫國(b,cho)、千住宗臣(dr)、永野亮(g,cho))といつもに増して熱量の高い音楽を届け、衝撃を与えました。

阿部芙蓉美 Fuyumi Abe - poets / 8月 (Live at LIQUIDROOM 2013/2/9)
▲阿部芙蓉美 Fuyumi Abe - poets / 8月 (Live at LIQUIDROOM 2013/2/9)

阿部芙蓉美:女性シンガーソングライターっていう在り方。阿部芙蓉美でやってるから女性シンガーソングライターに属するじゃないですか。で、応援してくれている人、CDとか聴いてくれる人にはいろんな見方があると思うんですけど、その中で、私が前で、後ろにバンド……それでは全然説明は出来ていないというか。女性シンガーソングライターがどうしたこうしたっていうのは置いておいて、音楽をやりたい。って思ったら、一緒に音を出す人たちの気配を感じたいなって。で、曲をただ演奏して聴いてもらうというよりは、音楽をやることによって空間を創る。それがライブだなと思うし、ステージの周りに人がいる形になると、その人たちも音楽の一部になるんですよ。空間の一部になるから。それは絶対面白いんじゃないなと思って、挑戦した。元々やりたいと思っていたことで。

--実際にやってみて、自分の中ではどんな印象や感想を?

阿部芙蓉美:センターステージを組むのは初めてだったんですけど、元々、お店に機材を持っていって、その場でミニライブとか、「こんなところで?」みたいなシチュエーションでライブをするのが好きだったので。普通にちゃんとしたライブハウスとかでやると、その中の音としてまとまるんですけど、イレギュラーな場所とかでやると何が起こるか分かんないんです。リハーサルで準備したものを出し切るとかじゃなく、空間がどういう風に変化していくのかを感じて、それをお客さんと共有して上手くいったら、特別な時間になる。

--それもフラットにするっていうことですよね?

阿部芙蓉美:そうでしょうね。こっちの設定がフラットだったら、みんながそこに乗っかれるでしょ。自由に感じられる。それってすごく楽しいんじゃないかな。だから私はフラットになれる場所、みんなが入り込みやすい世界を提供できる人というか、そういう役割を担いたい。それで初めてLIQUIDROOMの真ん中で歌ったんですけど、面白かったっていう声は聞こえてきたので、関わってくれた人たちは本当に大変だったと思うんですけど、よかったなって。またああいう形態でライブができたらいいなって思いますね。

--衝撃を与えようとしてやった訳じゃなく、単純に音楽をフラットな形態で届けてみたら「こんなことやっちゃうんだ!?」になる。「新鮮でよかった」「阿部さんの背中しか見えなかった」と賛否両論も起きてましたけど、それってひとつのセンセーションじゃないですか。

阿部芙蓉美:物事が蠢きましたよね。みんなそれぞれの意見が出てくる。それも大事なんだろうなって。ただ「ライブやります」って言って、「どうも」ってステージに立って、「あーよかった」で終わってしまう感じだと、面白みには欠けるんだろうし。

--その面白みを音楽へのフラットな姿勢から生めているから、可能性を感じます。センセーションは狙ったんじゃなく、あくまで結果論っていう。本来、そうであるべきなんでしょうけど。

阿部芙蓉美:やっぱり自分を主張するのって物凄くエネルギーを使うし、私はそれに多分耐えられないんですよ。だったら、周りの力を借りたい。例えばライブだったら、空間の力ってすごく巨大だから、空間に頭を下げる。「お願いします!」みたいな感じで参加させてもらう。自分を押し出すっていう感じは、本当に私には向いてないし、あんまりやりたいとも思わないから。「阿部芙蓉美だぞ!」じゃなくて、周りのあらゆるものに協力してもらいたい。その空間に鳴る音とコミュニケーションが取りたい……って言ったらちょっと不気味かもしれないけど。

--でもそういうことですよね。

阿部芙蓉美:うん。自分の外側のことってすごく面白いんですよね。自分の中に何があるかとかは、どうでもいい。外側にあることが面白すぎるから、そこに投げ掛けていきたいというか。これも私の中の感覚的な話だから、ちょっと分かりにくいかもしれないけど。

--いや、それで生まれてくる音楽やライブもちゃんと面白いから、合点がいきます。あと、あの日のライブでは、MCで「もっと刺激的なことを」していきたいとも仰っていましたが。

阿部芙蓉美:あれは、今日お話しさせて頂いたことですね。暗黙の了解でみんなが捉えているものとか、ルール。それを壊したいっていう意味ですね。作品づくりにせよ、ライブにせよ。みんなが認識しているものだけが音楽かっていうと、そうじゃないと思うから。多数の人が共通認識している音楽みたいなものを一回壊してみたらどうですか?っていう。

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--問い掛け?

阿部芙蓉美:というか、私はそれをやろうかなって。元々そういう気質はあったんですよね。「こうじゃなきゃいけない」ってルールがあると、すごく窮屈に感じていた。でも「やりたいことだけをやりたいのか?」って言われる機会があったんですけど、好きなようにやれていればそれでいいっていう話とは全く違う。ただ音楽に触れたい、出逢いたい。それと今あるルールってすごく距離が遠くて。なんでそうなっちゃうのか分からなくて、悩んでいたというか。でも今回のアルバム『HOW TO LIVE』は、そのルールからはだいぶ離れることができた。ルールも何も設けずにざくざく作っていったから。まぁそういうようなことをこれから……

--続けていくと。

阿部芙蓉美:って今はそういう風に思ってるけど、それだけが刺激では絶対ないから。この次は、そのときの形態や流れに左右されて全然変わっていくかもしれないし、しばらくこのモードでいけるのかもしれないし。それはそれのときに応じて自分で感じ取ってやればいい。だから基本はルールも何もない。ルールがあれば、そこに則って、いろんな人がやってきて、そつなくできる訳じゃないですか。そういう良さもあると思うけど、本当に何もない、全然カラッカラの真っ暗闇から何ができるのかなっていう。そこから私は始めたいなって強く思った。

--で、今の話があって、ニューアルバム『HOW TO LIVE』の1曲目が「革命前夜」ですよ。

阿部芙蓉美:(笑)

--どれだけ格好良いんだと思って、いざ聴いてみたら、革命起こす前夜にポテトチップス食べ過ぎて満たされちゃうっていう……なんでこうなっちゃったんでしょう(笑)?

阿部芙蓉美:これねー。私の場合、最初からメロディと内容がリンクして出てくるものもあれば、「このメロディに対して何を書こうかな?」って別々に出てくるものもあるんですけど、この曲は別々だったんですよ。で、「革命前夜」という言葉が良いなと、ある日ふと思って、最初は「人々はそれぞれが革命前夜である」的な厳ついイメージがあったんですよ。平賀さんは明日革命を起こすかもしれない。マネージャーは明後日革命を起こすかもしれない、みたいな。でもその感じだと全然しっくり来なくて、なんかもっと自然で、かつメロディが生きる言葉はないかなと思っていたら、急に「ポテトチップス」のことが思い浮かんで(笑)。やっぱり自分の思惑を取っ払ったところに閃きがあって、この曲であれば「ポテトチップスがあればそれでいいや」って完成していく。自分の書きたいことが曲に入ってこようとすると、やっぱりそれが台無しにするんですよ。だからルールを壊すっていうことが絶対的に必要。

--前作の「highway, highway」も同じ生まれ方でしたもんね。高速道路でドライブしている曲にしようと思ったら、違うと思って高速道路を下りて。で、見上げてみたら出来たっていう。

阿部芙蓉美:そうそう。やっぱり真っ当なルートを辿ろうとすると、窮屈なんですよね。規模が狭まっちゃうっていうか。メロディに言葉を乗せるという制約がある中で、如何に楽しめるかというか、みんなが面白がれるものがいいなと思って。それがユーモアに繋がっていくのかもしれないけど、“面白い”っていうのはフリーであるというか、可能性があるもの。曲だったり、音楽というものは、やっぱり絶対的に可能性があるものだと思っていて。そこに私個人の、書き手としての思惑みたいなものが入ってきちゃうのは、よくないなって。

--阿部芙蓉美にとっての“フラット”は“破壊”を必要とする。

阿部芙蓉美:そう。結局、自分自身がリスナーなんですよ。自分がどうこうというよりは、リスナーとしての捉え方。

--その感覚で「こっちの方が」をチョイスしていくっていう?

阿部芙蓉美:そう。そっちの方が長く聴ける曲になるんじゃないかなって。

--また、今作は、薫國(DadaD)さんとの共同プロデュース作品になっていますが、2人で作ろうと思ったのは?

阿部芙蓉美:これは全く予期せぬ出逢いで。私がライブでよく一緒に歌ってる永野亮(APOGEE)くんが薫國くんにすごく入れ込んでいたんですよ。で、去年夏に亮くんと2人でイベントに出たときに、何故か連れてきてくれたんです。その出逢いをきっかけにお互いのCDを交換したりして、それを聴いたら「亮くんが入れ込んでいたのは、こういうことか」「これは凄いわ」って分かって。こういう人はいるんだろうなと思っていたけど、私が出逢える類の人じゃないのかなって、ちょっと諦めてたんですよ。完璧な“音”の人なんですよね。で、薫國くんは、今までの私の作品を聴いて「全然もっと出来るよ」って言ってくれたんです。それですっごくスッキリして。「一緒にやりたい」って私からお願いしました。

--なるほど。

阿部芙蓉美:これまでも凄い方々とお仕事させてもらっていたんですけど、それって守られていたと思うんですよね。すごく貴重な経験だったし、そこで得たものもすごくたくさんあるから、感謝してるんです。でもそういうものと音楽というのは一緒くたにできない。したくなかった。薫國くんは音の人であって、自分は何者でもないっていうスタイル。私も同じだからすごく合致する訳ですよ。日々暮らしてる中で音楽があるとちょっといいよね。っていうところで、すごく話が合ったんです。それだけで素材は揃っていたというか。3枚目のフルアルバムを作るところで、そういう人と予期せぬ出逢いを果たしたってことは、もう手元にあるものを形にしなさいってことなんだろうなと思って。そこは迷わず。向こうも喜んで引き受けてくれて、それから4ヶ月足らずで完パケしました。

--過去の作品と今作を聴き比べたとき、何が一番違うと思いました?

阿部芙蓉美:何が違うと思いました?

--今まで以上に制約が無くなったと思いました。どんな音が入ってもいいし、どんなことを歌ってもいい。要するに今日話してくれた部分ですよね。何もないところから音楽を作ってる。

阿部芙蓉美:本当に圧倒的に何もない。でもそれをベーシックにしない人が多いのかな。だからルールを設ける。こういう考えって嫌がられるのかな?

--嫌がられるかどうかは分かりませんが、大概の人は決められた世界の中での極みを求めていきますからね。そういう人と感覚が違うのは確かだと思います。

阿部芙蓉美:言ってみれば、私と薫國くんの扱っているものが、音楽であるかどうかは別に関係ないですからね。音楽を作るという名目ではありますけど。

--「それ、音楽じゃない」と言われても、別に構わないってことですよね。

阿部芙蓉美:全然構わない。何でもないし、何者でもないから。たまたまちょっとアコギ弾いて、それを録る環境にあった。音を重ねる環境にあった。で、ちょっと触ってたら「こんな感じはどうかな?」って思った。たまたまそういう時間があって、そこで出来たものを「作品として世に出そう」って言ってくれたスタッフがいた。それは本当に凄いことなんだけど、作ることに関しては「ちょっと音楽っぽいよね」「音楽ってなんかいいよね」。それしかなかった。そういうところが全部詰まってるとは思う。

--それは「生き方」っていう曲に顕著ですよね。阿部芙蓉美がミニマルミュージック。ルール、度外視。

阿部芙蓉美:薫國くんはミニマルの鬼だから(笑)。そういう部分もあってか、私たちが一緒にやるってなって、周りはすごく首傾げたんですよ。私の周りは「いいじゃん、やってみな」って言ってくれたけど、薫國くんの周りの人たちは「阿部芙蓉美さん? 大丈夫?」って心配したらしく(笑)。結果、作品をつくって聴いてもらったら、すごく喜んでくれていたみたいで。それこそルールってないじゃないですか、っていうことを証明できたかなって。

--阿部芙蓉美の今後、かなり面白そうですね。今日話してくれた阿部芙蓉美の感覚、それによって生まれた今作『HOW TO LIVE』が発信されることで、薫國さんみたいなミュージシャンやリスナーが集まってくるかもしれないし。

阿部芙蓉美:そうですね。まぁずっと試されてる感はあったけど、これからさらに試されていくだろうし。試されることによって何か得たり、失ったりもするだろうけど、面白みというところにもっと向かっていく為のベースは出来たかなって思うので、奇を衒うとかそういうことじゃなくて、心が動くものって何かな? って考えながら、基本的には素朴に、無理なくやっていける。これでようやく辻褄が合った気もしていて。今までの流れは自分の範疇じゃない部分での動きもあったし、周りからの見られ方も“女性シンガーソングライター”という大枠の中に在ったと思うんですけど、ここからはそこに捕らわれない。「そうじゃなくてもやれることあるよ」って……いう風に言いたかった! それを『HOW TO LIVE』が出来たことによって提示できるなって。

--既成概念の破壊ですね。

阿部芙蓉美:まぁ人を傷付けない程度に(笑)。……人を傷付けない程度に乱暴でもいいのかなって。これも感覚の話ですけど、それを怖がったり、遠慮していたら文化って発展しないでしょ。こういう私の考えとかをまるっと面白がってくれる人が、世の中にはもうそろそろいると思う。

Music Video

阿部芙蓉美「HOW TO LIVE」

HOW TO LIVE

2013/04/03 RELEASE
JHCA-1014

詳細・購入はこちら

Disc01
  1. 01.革命前夜
  2. 02.poets
  3. 03.live in glory
  4. 04.アンアン
  5. 05.広い世界を見な、寝るのはまだ早い
  6. 06.8月
  7. 07.i love rock and roll
  8. 08.daddy
  9. 09.生き方

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