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<インタビュー>がらり 光と影に人間の矛盾を重ねた2ndアルバム『コントラスト』――「答えがないことが答えになっている」

Text & Interview: 横堀つばさ
Photos: 興梠真穂
2022年に活動を開始したシンガーソングライター・がらりが、2ndアルバム『コントラスト』をリリースした。日本テレビ系ドラマ『AKIBA LOST』のコンセプトソングに抜擢された「正体不明のLADY」や主題歌「Answer Me」を筆頭に、5つのタイアップ曲を含む全14曲を収録した今作は、そのタイトルが端的に指し示す通り、陰と陽が点滅し、ポジティブとネガティブの波が交互に訪れるような1枚に仕上がっている。
簡単に白黒つけられない人生のややこしさや、すぐには答えの出ない問いを抱えながら生きる人々に、そっと寄り添おうとする彼の姿勢が感じられる本作について、話を聞いた。
──がらりさんは、椎名林檎やYUI、ジョージ・ガーシュウィンをはじめとするアーティストからの影響を公言されていて、作品にもそうした多彩なバックグラウンドが投影されています。現行のポップミュージックではなかなか見られないようなメロディーやリズムを散りばめながら、日々にフィットする親しみやすさも備えた音楽を作られていると感じています。ご自身では、がらりの音楽をどのように捉えていらっしゃいますか?
がらり:がらりというアーティスト名は「がらりと変わる」という言葉に由来していて、その名の通り、1曲1曲の根本にテーマを持って、それらを表現するために言葉やメロディー、アレンジを練り上げてきたと思っています。J-POPのど真ん中ではないアプローチもあるんですが、ポップスのシーンに反抗しているわけでも、寄り添おうともしているわけでもなくて。ただ自分の中に蓄積されている要素が、偶然珍しい手法になっていった感覚です。
──各楽曲の根っこに据えたテーマを表現した結果、ワンアンドオンリーな楽曲になっていったと。
がらり:アーティストが物を作る理由は、言葉だけでは表しきれない何かを別の方法で表現したいからだと思っていて。ピアノや軽音楽部でギターをやっていたこともあって、僕の場合、それが音楽だった。言葉やメロディー、歌い方といったそれぞれの要素を通して、言いたいことの輪郭を描いているというか、選んだ和音や歌詞が伝えたい概念そのものになる作品を生み出せたらと思っています。

──届けたいテーマに適したアプローチを考える際には、どのような視点や思考を重視されているのでしょうか?
がらり:それがお客さんにどう受け止められるかですね。例えば「Question」という曲は、すれ違う人間関係に嘆く女性の心を描いているんですけど、こうしたテーマって決して目新しいものではないじゃないですか。僕の感覚だと、曖昧な人間関係を歌った楽曲は過剰にドラマチックになりがちというか。繊細な話題だからこそ上品なアプローチにしたかったし、聴いてくれる人に深く寄り添いたかったんです。「こういうトピックはこういうトーンであるべき」っていう自分の哲学のもと、こういう言い方を選択しました。
──そうした客観的な視点を大切にしているのはなぜなんでしょうか?
がらり:もちろん初期衝動をぶつける生々しさや荒々しさも大切にしているんですけれど、社会人を経験していることもあって、熱をぶつけるだけじゃ伝わらないと知っているからです。意図をきちんと伝えるには、そのプレゼンにふさわしい話し方をする必要があるし、マナーを守って適切に話題を振らなくてはならない。それは表現の場でも同じだと思います。
──心から思いを伝達するためには、相手を思ったラッピングが必要というか。
がらり:そうですね。あと、音楽が持つ商品価値にも意識を置いています。CMソングならそのCMがターゲットにしている層を意識するべきだと考えているんです。多くの人に届けることが前提なのであれば、適切な届け方を模索するのは間違いなく必要なことなので、作品それぞれがどういう層に届くのかを気にして作っています。

──『コントラスト』は前作以上に表現の幅を広げながらも、〈ガラスの靴投げ捨てたら 踊るのよ 一人で〉と歌う「ガラスの靴」と〈ぼろぼろの靴脱ぎ捨ててもまだ歩き続ける〉と綴られた「透きとおる夏」が“靴”で結ばれているように、それぞれの楽曲が各所で連動するコンセプチュアルな要素を備えた1枚だと感じました。がらりさんは、どのようなアルバムになったと考えていますか?
がらり:矛盾を抱えながらも生きていく、人間の生き様を1つにまとめたような作品になったと思っています。というのも、このアルバムは1曲ごとにネガティブとポジティブを激しく行き来する流れになっていて。明滅するようなその構成は、相反する思想や矛盾を内に秘め、苦しみながらも生きていく人間の営みと重なるんじゃないかなと。
──迷いながら歩んでいく人生を表すものとして、コントラストというワードが浮かんできた経緯を教えてください。
がらり:前作がグラデーションのように絶望から希望へと繋がっていく作品だったので、ストライプ模様というか、白黒ハッキリと分かれるようなアルバムにしたいという思いが制作当初からありました。そんな中、暗い心から自分を解き放っていく「ガラスの靴」ができたことで、この曲をアルバムの真ん中に置けば、作品全体の明暗が分かりやすくなるんじゃないかと考えたんですよ。そこで、透明をモチーフにした「ガラスの靴」と「透きとおる夏」を中心に、高低差を味わえるようにしていった。その結果、人生譚みたいな作品になっていきましたね。
──『手のひら望遠鏡』でも小さな世界を言い表す手のひらと広大な宇宙を示唆する望遠鏡を対比されていて、もしかして対比しながら物事を考えることが多いのでしょうか?
がらり:対照性にこだわっているわけではないんですが、理屈っぽい性格で、感覚的なものを因数分解していくのが好きなんですよね。綺麗やかわいい、格好良いの理由を細分化して考えたい。細分化すると、いろんな要素が見えてきて、当然のことながらそういう要素は相反することもあるんです。その矛盾におもしろさを感じているからこそ、コントラストというコンセプトも生まれたのかもしれません。
自信満々に見える人が実は繊細だったり、不遜な態度を取る人が思いがけず謙遜していたり、人間ってパッと見ただけではわからない摩擦を抱えていると思うんですよ。そういう不器用さが人間らしさに繋がっていると思いますし、そこに魅力を感じています。

──「Answer Me」から「Question」へと繋がる流れをはじめ、〈今すぐ正解を選んで〉(「正体不明のLADY」)や〈答え合わせは今じゃなくて未来の自分に任せればいい〉(「遠い空には」)など、正解や選択といったワードが、その矛盾や人間の不器用さと裏表の関係に属しているのではないかと思いました。
がらり:実を言うと、そこまで意図していたわけではなくて。「Answer Me」と「正体不明のLADY」は『AKIBA LOST』のテーマが選択だったことが影響していると思います。ただ、言ってもらった2つのワードは、僕が常に探しているものでもあるんです。この2単語に集約されるわけではないけれど、「いろんな正解があるかもしれないし、実は正解なんてないのかもしれない」と迷う姿こそ、表現する上で欠かせない概念だと思っています。
──バウンシーなピアノと晴れやかなクラップに乗せて〈揺れながら進む回り道も いつかそれが正解になるはずさ〉〈答えはきっと一つじゃない 歩む道が正解になるはずさ〉と歌い上げる「ステラ」(OSTechグループ Web CM「さあ、今日から新社会人!」テーマソング)は、何にでも正解になり得るという強い肯定が込められていますよね。
がらり:この楽曲は「ずっと傍にいてあげる」みたいな、本当に普遍的なメッセージを扱っていますし、恥ずかしいくらいに“ど真ん中”で。「社会人の方への応援ソングを作ってほしい」と依頼だったからこそ生まれた1曲だと感じています。
──その“恥ずかしい”という感情はどこから来たものだったんでしょうか?
がらり:自分がどう捉えられているかをすごく気にするタイプなので、「僕がこんなどストレートなことを歌っても響かないんじゃないか」と心配だったんです。それでも、直球勝負で向き合わなければならないとも自覚していたので、新社会人の方たちが一番勇気づけられる言葉を、自分自身の経験も踏まえながら、褌を締めて作っていきました。
──先ほど「ステラ」はタイアップゆえにできた楽曲だとおっしゃっていましたが、『コントラスト』の中には様々なキーワードが結ばれますよね。「ZEROの時間旅行」で出てくる0は、「ステラ」の〈消えていくいつかこの身体も 終わりがくるそしてゼロになる〉と重なるように思ったのですが、こうした各曲の絡み合いは、どのように生まれたのでしょうか?
がらり:自分でもびっくりするんですが、適切な場所に曲を配置していくと自然と言葉が繋がっていくんですよ。視点を何度も切り替えながら1つの哲学を書いていくと、後から単語が勝手についてくる。もちろん狙った部分もあるんですけれど、偶然生まれたものも多いかなと。
──では、その狙った部分とは?
がらり:コード感や音程のようなサウンド面ですね。「うつろ」の最後は少し放り出すように終わるんですが、「逃避行」の頭にはそれをキャッチするための音を配置していて。「Question」の終わりを飾るメロディーも「退屈な夜に」の歌い出しと重なるようにしているんです。

──なるほど。過去のインタビューでは「がらりというコンテンツを広げていきたい」と話されていましたが、『コントラスト』を機に、ここからどのように音楽を届けていきたいですか?
がらり:がらりを広げるという観点で言うと、このアルバムは『手のひら望遠鏡』よりも広く深くなった1枚だと感じています。「届けばいいな」より、「聴いてくれた人はきっとわかってくれるはず」っていう感覚が強くなったんですよね。というのも、『コントラスト』は人生において立ち止まったり、疎外感を感じたり、戸惑いを覚えた瞬間に寄り添える作品だと思うから。答えがないことが答えになっているというか、考え方のバリエーションを提示することで、多くの人に精神的な安らぎを届けられるんじゃないかなと。そうやって聴いてくれた人の力になることがアーティストの価値でもあると思うので、今後もそこに挑戦していきたいですね。
リリース情報

『コントラスト』
2026/1/16 DIGITAL RELEASE
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