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<インタビュー>一緒に手に汗握ってる感情を観客と、リスナーと OSHIKIKEIGOのロジカルな曲作りを変えた“寄り添うことの意味”

インタビューバナー

Text & Interview: 本間夕子
Photos: 久保寺美羽

 とにかく話がまるで尽きない。会話を重ねれば重ねるほど、その口調には熱が帯び、話題は果てしなく展開し続ける。言葉の端々に滲む音楽への愛情、そのまっすぐな意志にぐいぐいと引き込まれ、こちらも時を忘れてしまうほど。クールでスタイリッシュなサウンドやアーティスト写真などでの佇まいからはちょっと想像しがたいかもしれないが、対峙した彼は実に溢れんばかりの情熱の持ち主だ。

 セカンドクォーターに突入した21世紀の音楽シーンに先陣を切るがごとく2025年、突如として現れたスーパーノヴァ、OSHIKIKEIGO。デビュー曲「モナリザ」で早耳なリスナーの評判をかっさらうや、新曲をリリースするごとに注目度を高め、1stミニアルバム『BOARDING PASS』の抜きん出た作品性が各方面に旋風を巻き起こしたことも記憶に新しい。そんな彼が2026年の第一弾としてデジタルシングル「インスタントナイト」をリリースした。刹那的で曖昧模糊とした関係性をインスタントな夜になぞらえ、恋情と焦燥の狭間に揺れる主人公の心の機微を描いた今作。これまでにも増して赤裸々に聴き手の胸に迫っては鮮やかな感触を残す、エモーショナルなこの新曲は、シーンにとっても、OSHIKIKEIGOというアーティストにとっても会心の一撃となるに違いない。

──振り返って2025年はどんな年でしたか? メジャーデビューからあっという間に駆け抜けた感覚でいらっしゃると思いますが、例えば「思っていたのと勝手が違ったな」とか、率直なところをお聞きしたいです。

OSHIKIKEIGO:もともと“勝手”がない状態でしたからね(笑)。そもそも何をメジャーと呼ぶのかすらわかってなかったですし、それこそ高校生のときなんてまず“レーベル”っていう単語自体を知らなかったですから。メジャーデビューって何を指すのか調べても、ちんぷんかんぷんな答えが出てきたりするじゃないですか。

──ちんぷんかんぷん?

OSHIKIKEIGO:「音楽でご飯を食べていければメジャーデビューです」とか案外、基準が曖昧で(笑)。もちろんユニバーサルミュージックは前から知っていましたし、大好きな藤井 風さんが在籍されていたり、音楽を始めるきっかけとなった米津玄師さんも、以前在籍されていて、そうした方々の足跡を追うように同じレーベルでデビューできたのはすごく光栄で嬉しいことでした。ただ、僕はそこまで自分をデカく見ていないんですよ。

──ちょっと興味深いですね、それは。

OSHIKIKEIGO:僕の地元は新潟のめちゃめちゃ田舎にあるんですけど、実家の裏山とかで山菜を採ったり鶏小屋を作ったりして生きていくのもきっと楽しいだろうなと思うんですよ。結果的に僕は音楽を目指しましたけど、最初はもう、とにかく音楽というものに携われればそれでよくて。音楽関係の会社が入っているビルで働くとか、それだけでも十分幸せだと思えるくらい、あまり大きな夢を持たずに生きていたんです。だから運よく、大好きな方々や素晴らしい方々のいる場所に入ることができて、大勢のプロの方々の知識をお借りできる環境に身を置けるのは幸せの一言に尽きます。

──目をキラキラさせているOSHIKIさんが容易に想像できます(笑)。

OSHIKIKEIGO:自分から聞きまくってますもん。レコーディングのときなんかもう、めちゃめちゃしゃべり尽くしてます。ミックスエンジニアになりたかった時期があって、エンジニアの小森雅仁さんがすごく好きなので、小森さんに僕の曲のミックスをやっていただけることになったのは本当に感激で。ミックスチェックの立ち会いには基本4〜5時間くらいもらえるんですけど、僕の場合、チェック自体は5〜10分で終えて、残りの3時間50分は全部、小森さんに質問する時間になってます(笑)。

──めちゃくちゃ贅沢! 素晴らしい時間の使い方をされてますね。しっかり付き合ってくださる小森さんも素敵です。

OSHIKIKEIGO:そんなのありかよっていうぐらい贅沢な時間で(笑)。小森さんは本当に最高で、エンジニア兼僕の先生みたい。

──2025年といえば11月には大阪と東京で初ワンマンライブも開催されました。これが人生初のステージだったわけですよね。

OSHIKIKEIGO:そうです。専門学校時代にライブをしたことはあったんですけど、本当に練習だったので、お客さんがいませんでした。それに僕はサウンドクリエイターコースに在籍していて、曲を作ることを専門に学んでいたので、表に立つことは想定していなかったんです。なので、初ワンマンはちょっと怖かったです。もちろん楽しみな気持ちもありましたけど、どうなるかは本当に未知だし、僕はめちゃくちゃ緊張するタイプなんですよ。表舞台に立ちたくないと思う理由の大半はそれかもしれないっていうぐらい(笑)。

──そんなに“緊張しい”なんですか?

OSHIKIKEIGO:小学校低学年の頃にピアノを習っていて、毎年ピアノの発表会があるので、みんなは発表会のために努力するんですけど、僕だけ「出たくない」って言っていて。1年間レッスンは頑張るのに発表会には出ない、みたいな(笑)。まさかこんな人生が待っているとは思わなかったです。

──実際、お客さんを前にしてみていかがでしたか?

OSHIKIKEIGO:思った以上にみなさんの顔が見えて「こんなに見えるんだ!」って驚いたけど、目と目が合うほうが案外、緊張しない気がしました。だからこの先、もっと大きな会場でライブができることになったときには、みなさんに“見てるよアピール”してほしいですね(笑)。もしかすると、そっちのほうが緊張しちゃうかもしれないけど。

──アピールしてもらったほうがいいですよ、絶対。

OSHIKIKEIGO:単なる鑑賞物として見られるほうが緊張するだろうな。鑑賞物になった瞬間に階層が変わっちゃう気がするんですよ。漫画の世界の登場人物には「見られている」っていう感覚はないけど、音楽でもミュージカルでも演劇でも、舞台に立っている方たちって常に視線を知覚できてしまうじゃないですか。なので鑑賞物としてではなく、同じ階層にいて一緒に手に汗握ってる感情をお客さんが見せてくださるとすごく安心するんですよ。鑑賞物にならないような曲を作れるように努力をすることが大事なんですけど。


──ともあれ初ライブではかなりいい手応えを得られた、と。

OSHIKIKEIGO:そうですね。自分で作った曲を直接、お客さんに聴いてもらえる機会なんて今までなかったわけですし。これまではずっと音源に向き合ってきたので、音源自体への思い入れがすごく強かったんですよ。完璧に作り込んで一生残るものしたい気持ちが強いというか、もはや家を作っているような感覚にも近くて。

──そういう意味ではライブはまったく逆の行為ですね。

OSHIKIKEIGO:だからこそ、その楽しさに触れられた気がしました。音源では絶対にこのニュアンスじゃなきゃ許せないと思っていた部分も、ライブになるとすごく許容範囲が広くなるというか、「これはこれで面白いな」と思えたし、音源とはまた別の爽快感も感じられました。初めて音源を作ったときも、音楽知識なんてまったくないなりにひたすら楽しめていたんですよ。そのときの楽しさをライブで再確認できた感覚はありました。純粋に楽しむことの新鮮さ、フレッシュな感じを今一度、思い返すことができたなって。

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──そんな2025年を経て、今年の第一弾となる楽曲「インスタントナイト」がリリースとなります。この曲はどういった経緯で生まれたんですか?

OSHIKIKEIGO:去年リリースしたミニアルバム『BOARDING PASS』の曲と比較しても結構古めの曲なんですよ。僕が自分のために作った最初の曲が「オッドアイ」なんですけど、その少しあとぐらいに作ったんです。音楽を志すうえで、あまりアイデンティティが確立されていない時期にできた曲で。僕の曲作りの中心にはピアノがあって、ピアノでコードを決めたりメロディを作ったりするんですけど、この曲はアコースティック・ギターで作ったんですよね。それが今聴くとすごくよかったというか。

──具体的にはどんなところが?

OSHIKIKEIGO:ちょっと話は逸れるんですけど……ポップスを作るうえで僕はある種の先進性とテーマ性をいかに含んでいるかが大事だと思っているんですよ。でも、先進性もテーマ性も突き詰めれば突き詰めるほど、逆にコアなものになってしまう可能性を含んでいるじゃないですか。なので、その塩梅を50:50にできたらと考えているんです。いろんな方に聴いてもらえて、なおかつ先進性やテーマ性を感じ取ってもらえるような曲を作りたいって。

──なるほど。もう少し詳しく聞かせていただけますか?

OSHIKIKEIGO:僕は編曲が大好きで、音作りやミックスが大好きなんです。だから、編曲の部分は特にいい感じにまとめ上げられていると思うんですけど、メロディや歌詞っていう、ある種、楽曲の根源的な要素に関して、もっともっと気を遣っていきたいと思っています。

なので、次は「初心忘るべからず」じゃないですけど、楽曲の根源をより見つめ直そうと、メロディにしても歌詞にしてもポップスたる部分を意識したいと思っています。要は音楽理論や知識を使うことだけに幸福を感じるんじゃなく、曲として聴いたときの幸福感を追求する行為こそが、ポップスの総量を増やす方法だと感じたので、今はそこを突き詰めようと思っています。


──つまり、もっと聴き手サイドにも意識を割いてみようということですよね。ちなみに2026年最初のこのタイミングで「インスタントナイト」をリリースすることにされたのは、それこそ初心に返るという意図があったりもされますか?

OSHIKIKEIGO:はい。でもタイミングは奇遇って感じなんですけどね(笑)。初ライブの時点でこの曲をリリースすることは決まっていましたし、ミニアルバムを客観視したときに見えてきたやりたいことや取り戻したい初心に、たまたま「インスタントナイト」がすごく近い形でした。

──メーテルリンクの童話『青い鳥』みたいですね。探していたものは実はすぐそばにあった的な。

OSHIKIKEIGO:そんな感じです、本当に。ただ、今まで得たものをほっぽり出して初心に返ることが正解とも思っていないんですよ。そうではなく、今まで培ってきたものを持ったまま僕は初心を取り戻したい。それができたら、もっとたくさんの人に聴いていただけるアルバムができるんじゃないかなって思っているんです。『BOARDING PASS』も自分のアイデンティティであって同じくらい意味があって、愛してやまない曲たちなんですけど。

──わかっています。本当に素晴らしい作品ですから、『BOARDING PASS』は。たしかに「インスタントナイト」にはこれまでにない手触りを感じたんですよ。ギターの存在がとても印象的だし、エモーショナルさがかなり前面に押し出されているじゃないですか。それはやはり初期段階に作られたことが大きいのでしょうか?

OSHIKIKEIGO:アコギで作っていたので、編曲よりもボーカルやメロディ、歌詞に重きが置かれたんでしょうね。ただ、そう意識したというよりは、弾き語りで作っていたので編曲をあまり考えていなかったぶん、歌詞やメロディにポップスたる共感性が入ったんじゃないかと思うんです。

さっきもお話したように僕はかなりロジカルな作り方をするんですよ。ロジカルで、なおかつ曲にテーマ性を含めたい派なんです。この「インスタントナイト」はテーマ性も含んではいるけど、どちらかといえば感情を吐露するほうを優先しているんですよね。テーマがある曲って人の背中を押したり、引っ張ったりする力を持っていると思うんですけど、大きすぎるテーマは聴く人が距離を感じる気がしていて。僕は近い曲を作りたいんです。

──ロジカルにテーマ性を追求するのとはまた違うアプローチでも、作りたい曲ができるのではないか、と。

OSHIKIKEIGO:この歌詞なんて特にそうで、自分が何をしたいのか主人公自身が理路整然としていない。でも、欲望がわかりやすい曲って聴きやすいけど忘れやすいとも思うんです。人間って複雑じゃないですか。友達から「明日、バーベキュー行かない?」って誘われて「いいね、行きたい!」って答えたとしても、朝起きたら「今日は家にいたいな」とか「このまま寝てたほうが気持ちいいな」って思ったりもするわけで。どうしたいっていうものが確立している人間のほうが少ないとさえ思うので、同じ目線に立っているような……押すでもなければ引くでもない、ただ隣にいて、背中をそっと撫でてあげられるような曲に意味があり、そういうのが実は僕がやりたいことなんじゃないかって思えたんです。感情が強く出ている理由はきっとそこにある気がするんですよね。

──ところで「インスタントナイト」のトータル分数が3分きっかりなのは、タイトルの“インスタント”に掛けて、そう仕上げたからですか?

OSHIKIKEIGO:これがまた面白いんですけど、僕はまったく狙ってなかったんですよ。

──そうなんです!? さすがOSHIKIさんらしい遊び心だなと思ってました。

OSHIKIKEIGO:僕もビックリしましたから(笑)。もともとはアウトロを付ける予定じゃなかったんです。最近の曲にギターソロがないから入れたいなと思ってアウトロを付けたら、結果的に3分ちょうどになったっていう。だからデモは3分じゃないんです。

──うわ、ちょっと鳥肌が……。

OSHIKIKEIGO:もちろん他の部分で狙ってやってることはありますよ。「インスタントナイト」に限らず、すべての曲にチャレンジや僕の思想は入っていますし、遊び心も詰め込んでいます。だからインストバージョンも出しているんです。ただ、それをここで細かく解説すると、それこそ4〜5時間くらいかかっちゃう(笑)。

──あはははは! 理論と感情、両方を兼ね備えたOSHIKIさんはますます無敵になりそうです。

OSHIKIKEIGO:どうでしょうね。でも、「インスタントナイト」で思い出した初心を片方のポケットに入れて、もう片方のポケットには『BOARDING PASS』で得たものや、この1年で教わったもの、自分で調べて見つけたもの……そういうものを入れて、さらにいいなと感じられる曲を作っていきたいです。より変化のある自分自身でいたいですし。変化のないことが悪いとも思わないから難しいんですけど(笑)。

──そこが先ほどもおっしゃった人間の複雑さですよね。なかなか一筋縄ではいかない。2026年が始まったばかりですが、どんな年にしたいですか?

OSHIKIKEIGO:年が明けてまだ2〜3週間しか経ってないんだってびっくりするくらい、今のところ濃厚です。そもそも曲を作り始めて、厳密にはまだ7年ぐらいしか経ってないことを考えると、なかなか恐ろしいものですよ。僕が好きな宮崎駿さんは『君たちはどう生きるか』を10年近い時間をかけて作ったじゃないですか。僕が曲を作り始めてから、いろんな方にようやく聴いてもらえるようになってきたこの7年でいろいろあったのに、宮崎駿さんはそれ以上の年月を費やして一つの作品に向かっていたと思うと、そら恐ろしい気持ちになります。今のうちにどんどん色々なことを試していきたいと思います。

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