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<インタビュー>出版業界の課題解決&コンテンツの海外展開に向けて政府が進める取組とは?――経済産業省 早坂悟【WITH BOOKS】

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 ビルボードジャパンが、2025年11月6日に総合書籍チャート“Billboard JAPAN Book Charts”をローンチした。本チャートは紙の書籍(書店/EC)と電子書籍、サブスクリプション、図書館での貸し出しなどを合算した総合ブックチャート。今回は、経済産業省 文化創造産業課の早坂悟氏に、日本のコンテンツの海外展開に対する政府の取組やブックチャートが与える影響について、話を聞いた。(Interview: 熊谷咲花 l Photo: 堀内彩香)

――文化創造産業課ではどのような業務を担当していますか。

早坂:文化創造産業の産業振興を行う課に所属しています。私は主に、出版産業の振興と、コンテンツの海外展開の促進及び海賊版対策を担当しています。


――出版業界の市場はここ数年減少傾向が続いていますが、どういった課題が考えられますか。

早坂:経産省では2024年3月に書店振興プロジェクトチームを立ち上げており、2025年1月には、「関係者から指摘された書店活性化のための課題」を公表しています。 その中でも市場が低迷している原因や課題については、いくつか記載をしていますが、まず問題点の一つとして挙げているのは、委託制度(※1)など様々な要因による返品の多さです。現在は需要に合わせた適正配本(※2)の推進や、流通に関する課題の最適化などに向き合っていかないといけないと思っています。

※1 定められた期間内であれば、売れ残った本を書店が出版社に返品できる制度。これにより、書店が積極的に書籍を仕入れることができるため、読者の多様なニーズに応えることができる。一方で在庫の滞留や返本率の上昇につながり、出版業界全体の非効率性を招くなどのデメリットも懸念されている。

※2 取次が、書店の規模・立地・客層などを参考に需要に合わせた部数を選定し納品する仕組みを指す。過不足のない配本により、返品ロスを抑え、流通全体の効率化につながる。一方で話題性や地域特性への柔軟な対応も重要となり、データと現場感覚の両立が求められる。



――輸送コストの削減も大きな課題ですが、委託制度の見直しを進めることで、新しい作家のチャンスが失われることにも繋がるのではないでしょうか。

早坂:そういった可能性も考慮しながら進めています。現在は返品削減研究会を立ち上げ、流通の課題の深掘りや今後の取組について議論しています。どのくらいの返品率が良いのかというのは一概には言えないのですが、少なくとも現在の平均40%というのは多いと感じています。本のジャンルや出版年数による返品率の目安について、業界の皆さま方の意見も聞きながら、できる限り適正な数値を目指して努力をしていくべきだと思っております。


――他には、どのような課題が挙げられますか。

早坂:ゲームや動画メディアなど娯楽がすごく多様化してきた現代において、読書に対するタイムシェアが低下していること、物価高の影響で本にかけられる金額が減少しているという点も課題ではないかと捉えています。さらに市場が硬直し、業界全体への新規参入が減ってきているので、結果的に伸び悩んでいる状況にもあると思います。


――出版市場の減少の大きな理由は、紙書籍の売上減少であり、ここ最近は、書店のない市町村も増えてきています。それによる影響については、どのようなことが考えられますか。

早坂:子供たちへの影響を、第一に懸念しています。子供のころに本屋さんに行った経験がないと、自分で気になる本を探す方法が身に付きません。本との新しい出会い方を知らないと、学びの機会を失いますし、本がきっかけで人生が豊かになったり、考え方を変えるという、いま我々が当たり前にやっていることについても、機会が失われるのではないでしょうか。ですので、長い目で見ると様々な影響が考えられて非常に心配しています。


―― 一方、電子コミックなどデジタルの需要は高まっています。電子書籍の可能性については、どういったことが挙げられますか。

早坂:主に、海外の読者に向けてコンテンツを届けるという点で期待しています。電子書籍と紙書籍は対立するのではなく、両立する存在になって欲しいですし、海外向けに配信することで、様々な国で読者が広がり、色々な形でコンテンツを楽しんでもらえるようにしていきたいですね。



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チャートは出版業界各社やIPマーケティングにとって
重要な指標になるのでは


――海外に作品を届けるためのプラットフォームに対する支援についてはいかがでしょうか。現在、世界共通で使えるプラットフォームは日本以外の企業によるものが主流です。ですが、プラットフォーム自体も日本発のものができると、より届けやすくなるのではないでしょうか。

早坂:まさに令和7年度の補正予算で、日本のプラットフォームに対する支援についても検討しています。日本発コンテンツの海外売上を拡大するため、政府予算を252 億円から 556.3億円まで倍増させることになりました。この中でも、海外への流通プラットフォームの支援を新設しました。ユーザーにとっては、便利で面白いコンテンツがたくさんあることが最も大事だと思いますので、例えばアニメと出版のプラットフォームが連携し、海外の消費者にコンテンツを楽しんでいただくような仕掛けを作るなど、流通の面でも後押ししたいと考えています。また、その中で日本の作家やクリエイターが成長し、世界展開していくことを目指しています。


――今年度(令和7年)の補正予算における、それ以外の支援予定されている支援についてもお伺いできますでしょうか。

早坂:エンタメ政策5原則を軸にしながら支援策を具体化しているところです。一例を挙げると世界的なヒットを狙える作品の支援を行う大規模作品制作支援やロケ誘致、流通プラットフォーム拡大支援などです。コンテンツを翻訳して供給したり、プロモーションやプラットフォーム間の相互送客をしたりといったように、コンテンツ単位ではなく事業単位での支援を計画しています。

▼コンテンツ産業成長投資支援事業の概要 令和7年度補正予算 ※2026年1月6日取材時点


――作る側も届ける側も、両方支援していくということですね。

早坂:はい、そうです。ほかにも就労環境整備など、バリューチェーンの始まりから終わりまでの支援をするつもりです。


――ビルボードジャパンでは2025年11月からブックチャートをスタートしました。出版業界に対して、どのような影響を期待されますか。

早坂:思わぬ旧作がチャートの上位に登場したりしていて、興味深いですね。このチャートを見た人が周囲の人に自分の好きな本をお薦めし、興味を持った人が紙や電子で買うという動きが起きてくると、新しい読者の開拓に繋がると思います。

意外な本が上位にチャートインしていたり、平成の小説が人気だったりするなど出版業界の方がご覧になると、もっと多くの気づきがあるでしょうね。そこから、業界の皆様が読者との接点の変化や傾向をとらえることによって、各社のビジネスの創意工夫に役立てることができるのではないでしょうか。そこがビルボードのチャートのすごく大きな可能性だと感じています。

コンテンツ産業の広い視点で見ると、音楽やアニメなど他のチャートも横断して見ていくことで、今どういうコンテンツがヒットしているのか、どういうふうにプロモーションを仕掛けていけばいいのかも見えてくると思います。IPを全体で考えてマーケティングしていく方にとっても、非常に重要なチャートになりそうですね。


――ジャンルごとなどに詳しく見ていくと、漫画は最新刊がヒットしていますが、小説などは平成に発売された作品が根強い人気を誇っています。読者のニーズと離れないようにするために先ほどの適正配本制度において、新刊に偏ることがないよう、業界の意識をチューニングしていく必要があると感じています。

早坂:書店で雑誌があまり売れなくなってきている中、売り上げの基盤になっているのはロングテール作品です。ですので、例えば注文に対して作って届けるという限りなく在庫レスに近いようなモデルでロングテール作品が流通していくと、もう少し利益構造も変わってくると思います。あとは、本屋さんに行くと作家さんの新刊に合わせてうまく工夫して本が並べられていますよね。そこをフックに既刊本が売れていくように、需要と供給を最適化できるケースもあるのではないかと思います。


――ビルボードでは、現在総合チャート以外に、ジャンル別や初版が発売された年号別など9種類を発表しています。他に、どのようなチャートがあれば良いと思われますか。

早坂:現状のブックチャートは日本で売れた本のランキングですが、海外でどれだけ日本の出版物が読まれているかということについても、可視化できると良いですよね。


――そうですね。音楽だけでなく、本のグローバルチャートも目指していきたいと思っています。最後に、海外展開に向けて日本のコンテンツの強みを教えていただけますでしょうか。

早坂:作品の多様性に尽きると思います。日本は他の国に比べてコンテンツを表現する上での自由度が高いので、そこが魅力なのではないでしょうか、あとはクオリティの高さも強みですよね。ゲームやアニメなど、日本は素晴らしい技術を持っていると思います。これまで培ってきた日本人の多様な価値観や、コンテンツに対する幅広い嗜好に応えてきた土壌が、まさに今後海外に出ていく時の大きな強みになるのではないでしょうか。


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