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<インタビュー>阿部真央 “自己改革”を経て歌うのは、ありのままで大丈夫と思える出会いの歌――「Ding-dong」&「Buddy」

インタビューバナー

Text & Interview: 永堀アツオ
Photo:fukumaru


 阿部真央から2026年第一弾のリリースとして、「Ding-dong」「Buddy」の2曲が届けられた。TVアニメ『透明男と人間女~そのうち夫婦になるふたり~』のオープニング主題歌となる「Ding-dong」、そしてNHK『みんなのうた』へ書き下ろされた「Buddy」にはどんな想いが込められているのだろうか。2025年10月から12月にかけては2本のツアーをまわった彼女だが、ツアーを終えた今、確かな手応えも感じているようだ。ツアーを終えた現在の心境、そして2曲の制作エピソードについてじっくり話を聞いた。

“自分のまま”でいてOKなんだ、
正解なんだって思える日々だった

――2025年10月から12月にかけて行われた2つのライブツアーから振り返っていただけますか? バンド編成の全国ホールツアーが「On My Way Home」、アコースティックツアーが「On Your Way Home」と、ともに新曲「Ding-dong」のフレーズを引用したタイトルになってました。

阿部:昨年はライブが多くて充実していたのですが、内面的にもすごくいい年でした。ここ数年、自分の中でやっていた“自己改革”の集大成のようなものが年末にあったんです。それを年末の2本のツアーで、すごく感じたんですよね。あ、やっと自分の心の形を取り戻してライブができたんだなっていうことを思ったんです。


――少し踏み込んだことをお伺いしますが、逆にいうと、その「自分の心の形」をなくしてしまったのはいつだったんですか?

阿部:明確に思ったのは小学校3年生くらいですね。


――そんなに前なんですね!?

阿部:そう、9歳の時に『人に馴染まなきゃ』って思った最初の体験があったんですよ。よくある無視とか、ちょっとしたいじめの標的にされたことがきっかけだったと思うんですけど。多少小さい時から割と自分の世界観があって、周りの子と少し違うところがあったのかもしれない。周囲を不快にさせていたつもりはないんだけど、知らずに浮いちゃったり、異物として判断されることが多かったので、狭いコミュニティで普通にしてると、なぜかハブられちゃったりするという経験があって。それをすごく身に染みて感じたのが、私が9歳の時だったんです。


――幼いながらに、もうみんなに馴染まないといけないんだって感じたんですね。

阿部:自分の個性みたいなものをもっと消して、みんなが不快じゃないように馴染まないといじめられちゃうと思いました。それが、最初に自分の心の形を変え出した現体験ですね。でも、そんなにすぐに自分を消したりできないから、そういうタームが度々訪れていて。9歳以降、中学以外の小学校時代、高校時代はそう感じることが多かったです。どんなに頑張っても人に嫌われちゃうなって感じて、人との距離感もどんどん遠くなっていって。それでもなんとか馴染もうとして過ごしてたんですけど、そんな私にも個性は普通にあるわけで。その行き場が作詞作曲だったんです。高校時代に表現する方法を見つけて曲を書き始めて、上京してデビューした。ちょっと話が長くなっちゃったんですけど、そういうベースでデビューしたもんですから……


――シンガーソングライターの阿部真央という個性が表に出る職業ですが、その個性自体、「個性を消さないと嫌われちゃうから消してる上での個性」だったわけですよね。

阿部:うん。だから、ずーっと矛盾した状態でステージに立ち続けていたんです。でも、これだと限界だと思ったのが、2019年のデビュー10周年の時。そこからコロナ禍に突入して、「自分ともっと向き合わないといけない」って思った時に出てきたのが、最初に言った“自己改革”という言葉で。その“自己改革”がやっと実になって、実感できたのが昨年末のツアーだったんです。それは、自己改革の結果、収穫でもあり、イコール9歳から背負っていたいろんなものの清算でもありました。だから、深く嬉しかったですね。


――9歳の頃に蓋をした自分らしさっていうのを取り戻して、どんな変化がありましたか?

阿部:楽になった。楽だし、自分でいる時間に安心する。だから、今までは安心してる時間が少なかったんだって思います。いつも張りつめてる感じだったんですよ。ずっと緊張してたし、警戒していたんだなって、最近気付きました。今は自分も楽だし、おそらく自分と相対する人も昔より楽なんじゃないかなという感覚がする。それはお客さんにも言えることで。楽に自分がステージに立つと、お客さんも好きに楽しめるんだろうなっていうのも年末の2本のツアーで実感しました。


――2つのツアーは“自己改革”を進めるあたってどんな影響を与えてくれたんですか?

阿部:直接影響があったというよりは、ステージに立ち続ける中で、「自分の形を取り戻すことができたんだ」っていう確認ができた感じでした。ホールツアー初日、二日目、三日目と進む中で、「あ、すごく楽になってる」っていう実感が強くなっていって。「大丈夫なんだな、大丈夫なんだな」って1日1日が終わっていくと、「あ、私って私のままで大丈夫なんだな」になるんですよね。1つのステージが終わって、私のままでいたからより良かったって感じる。今日はもっと良かったが積み重なると、じゃあ本当に“自分のまま”でいてOKなんだ、正解なんだって思える日々でした。


――そのツアーに「On My Way Hone」「On Your Way Home」というタイトルをつけたことにも自己改革の中での何か意味づけのようなものはあったんですか?

阿部:いや、全然ない。あはははは(笑)。


――(笑)。でも、ここまでのお話を聞くと、まるで現在の阿部真央と9歳の阿部真央が「おかえり」「ただいま」と言い合ってるようじゃないですか。

阿部:確かに。結果的にはそうだけど、そもそも曲が先にあったから。


――そうなんですね。じゃあ、楽曲について聞かせてください。まず、TVアニメ『透明男と人間女』のオープニング主題歌に起用されたことに関してはどう感じてますか?

阿部:何かの作品に書き下ろす時は、その作品の原作者様をはじめとする、原作ファンの方やアニメ制作チームの方など、その作品に携っている方たちと同じぐらいの情熱で向き合いたいと思っています。1曲は長くて4〜5分。オープニングなどのタイアップで流れるのは89秒ほどしかありません。その中で、いかに自分なりにその作品に寄り添えるかというのが目標ではあって。そういった意味でいうとかなり満足度が高い。歌詞が少なくても、曲が派手じゃなくても、作品に合っていることを私はいつも目指してるから。だから、アニメタイアップが嬉しいですとか、光栄ですより先に、この『透明男と人間女』という作品に私なりにかなりマッチした曲を書けたことが嬉しいです。


――原作は読んでどう感じました?

阿部:かわいい話ですね。そして、原作者の岩飛猫先生が描く物語の本質が好きでした。


――透明人間の男の人と盲目の人間の女性の恋ですよね。

阿部:まず、発想がすごいですよね。作品の中では、主人公である透明人間の男性の「人の目に映らない」故のトラウマが描かれているんですよ。さっきの9歳の私じゃないけど、彼の方は自分の個性が故に周りから認識されない経験があるんだけど、目で見ていない彼女にとってはあんまり関係がなくて。彼の音や香りで、彼がそこにいることが分かる。そんな奇跡みたいなマッチングってなかなかないですよね。その題材がすごく素敵だし、本質として、自分の個性を——またさっきの話と繋がりますけど、誰かとの出会いによって、自分のままでいても大丈夫だと思える場所が生まれた時、それはすごく幸せなことだなって。たとえどんな関係であっても、そんな二人が出会えて絆を深められる。そういう幸せを書きたいっていうのはありました。


――まさに、自分のありのままで生きていいと思える相手と出会えた幸せや喜びに溢れた、優しくて穏やかなカントリーになってます。

阿部:2024年に書いた曲なんですよ。その時期、カントリーをたくさん聴いて音楽のインプットをしてて。その影響もあったのかもしれないですけど、ピッタリだなって思いました。原作コミックスの絵がすごく綺麗なんですけど、特に表紙の絵の色づかいに刺激されて。この作風だったら、似合う曲調はいわゆるロックではないし、J-POPですらちょっと違うかもって思って、もうちょっとアンティークっぽくしたい、古き良きの方に寄りたいなと思った時に、イメージとしてカントリーが繋がりやすかったんです。


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「自分の心の形のまま」で、より積極的に、能動的に

――タイトルにもつながるんですけど、鐘の音はどんなところから?

阿部:よく『運命の人と出会うと鐘が鳴る』っていうじゃないですか。順番としては、最初にメロディが出てきて、そこにデタラメ英語をはめたあとに、鳴っててほしい音に合わせて歌詞を考えていきました。<On My Way Home><On Your Way Home>ってことは、あなたの帰り道で、私の帰り道でってことかな? みたいな。さらにそこから派生して考えたこともありました。作中の二人は、仕事終わりによくデートに行くんです。仕事終わりってことは夕方で、夕方ってチャイム鳴るじゃん、みたいな。だから、私にとっては17時の鐘の音という意味でもあります。鐘の音が鳴ってる時に帰ろうと思う場所の先にあなたがいるというイメージと、この人だって思う人に会った時に頭の中で鐘が鳴るって表現をかけています。


――帰り道は作品からのインスパイアですよね。そのフレーズをツアーのタイトルにしたのはどうしてだったんですか?

阿部:なんとなくですね。バンドと弾き語り、2つの形態でやるってことは、ツアーの副題も対がいいなと思って。ちょうど歌詞が違うし、アコースティックの方は地元の大分も行くし、あなたのお家に会いに行くみたいな感じでいいんじゃない?って決めた気がします。


――最初に「年末に自己改革が起こった」と言ってましたが、12月には地元の大分で2公演のライブを行ってますよね。

阿部:大分公演がすごく良かったんです。大分空港に降り立った時に、今までは地元に帰るたびにすごく緊張してたことにはたと気づいたんですよ。なぜそれに気づけたかというと、昨年の12月3日に訪れた大分は全く緊張しなかったからなんです。どうしてかな? と、ライブハウスに向かう車の中で考えました。


――何を考えたんですか?

阿部:9歳の自分が、ありのままの自分を押し込めなきゃって思ったのは、そういえば全部大分でだったなって。大分は“私のまま”で生まれた場所でもあるんですけど、自分で自分を一番変えようとした場所でもある。自分の心の四肢を絶ってまで馴染もうとした場所だったんです。


――前回のインタビューでは俯瞰の位置にもう一人の自分がいるというお話をされてました。内側にいる本当の自分を外側に切り離してるという認識だったんですけど、本来は身動きが取れないくらい縛って閉じ込めていたんですね。

阿部:そうですね。私の中では、自分の心の手足を切ってっていう表現が一番合ってますね。だから、大分に帰るのは嬉しいんだけど苦手でもあって。家族や親族以外の人とは会わないし、そんな大分でのライブなんて、もう緊張でしかなかったんです。私に言ってないだけで、私の学生時代を知ってる方もライブに来ていたりする。もちろん、意地悪な気持ちで来てる人なんてほとんどいないと思うんですけど、誰がどこでどう見てるかわからないから、ものすごく手に汗握る場所でした。だから、実は一番気を張らないといけない場所だったんですけど、アコースティックツアーの終盤に降り立った時に、『ああ、こんなに楽に大分に降り立つことができたんだな』って思って。それで、大丈夫って思ったんです。大分でこんなに楽なんだったら、もう大丈夫でしょと思って。それは決定打でしたね。そういった意味では、いろんな経緯があってつけた副題ですけど、個人的には丸くおさまってよかったです。


――阿部真央さん自身が「そのままで生きていいと思える」ようになったってことですよね。MVもスキップしたりして楽しそうですし。

阿部:あははは(笑)。あれは監督の演出だよ! 演技指導受けたらスキップもするよ。


――(笑)。素敵な映像でした。いろんな衣装を着た阿部真央さんも可愛かったですし。

阿部:11月中旬の函館で2日間かけて撮ったんですけど、朝三時半起きで、とにかく寒かったですね。監督と曲の思いを共有しながら「真央さんがいろんなお洋服を着て、恋人に会いに行くデートへの行き道と帰り道を撮って、それをつなげたい」っていうお話をしていただいて。アニメの世界観としても、もしも人が出るんだったらそれぐらいの映像が合う気がしたんですよ。歌ってる顔のアップっていうのはあんまりイメージがなかったから。賛成して、空が抜けてたり湖があったり、自然があるところがいいよねっていうので場所を探してもらって。思った以上に素敵だなと思ったし、それぐらいみんなで頑張った甲斐がありました。



Ding-dong [Official Music Video] (TVアニメ『透明男と人間女~そのうち夫婦になるふたり~』オープニング主題歌


――実際にアニメの絵に合わせられたものは見ましたか?

阿部:見ました! アニメで流れたのは2話からだったのですが、オープニングの映像もすごく可愛くて感動しました。冒頭でもう鳥肌が立っちゃって。すごく時間をかけて作られたのがわかるし、アニメのオープニングの画としてすごく好き。あと、たまたまなんですけど、私のMVと少しリンクするところもあって。アニメのオープニングでは主人公の2人が歩く背景がコロコロと変わっていく演出があるんですけど、実は「Ding-dong」のMVでも1サビで似たようなシーンがちょっとだけあるんです。それは偶然だったので嬉しかったですね。


――海外のアニメファンにも届くといいなと思ってます。

阿部:そうですね。以前、TVアニメ『望まぬ不死の冒険者』のエンディング・テーマ「Keep Your Fire Burning」を書いた時に、海外の方から「日本のカントリーソングを初めて聞いた」みたいなコメントをいただいたんですよ。「Ding-dong」は曲調的にも歌いやすいし、「日本でカントリーをやってる歌手がいるらしいよ」って思ってもらえても嬉しいですね。


――そして、2月18日はNHK『みんなのうた』2〜3月で放送される「Buddy」がリリースされます。タイトルにもなってるBUDDY(相棒)というのは、真央さんにとってはどんな存在ですか?

阿部:これが難しいんですよね。私にとってはいないんですよ、BUDDYが。


――探してはいます?

阿部:探してもいない。この曲の主人公は、小学校高学年くらいの少年のイメージなんです。それまでは特に何も考えずに、よく遊ぶ子に対して「俺ら友達だよな」って思ってきたけど、『あれ? 俺からは友達だって思ってるけど、あいつにとっては俺はどれぐらい友達なんだろう?』って思う時が来るんじゃないかっていう仮説を立てて。その仮説の中の少年が、『あいつも俺たちは友達だよな』って思ってくれていたらいいなと願う歌なんですよね。自転車を携えた男の子が空を見上げて、そうだといいなあ、でも、とりあえずあいつと明日また遊びたいな~ぐらいに思ってる感じなんです。


――切なさはそこまでない?

阿部:彼の中にはまだ感知されてないですね。でも、観客としては、切なさをすごく感じるっていう。さっき自分にはBUDDYはいないし欲しいと思わないと言ったんですけど、その理由の一つとして、主人公をあえて小学校5〜6年生に設定してるところにあると思ってて。その年齢はもうとうに過ぎてるし、私は少年でもないし。全てとは言いませんが、ほとんどの女の子の社会って戦争に近いと思ってるんですよね、人付き合いが。


――でも、みんな「ずっ友〜!」とか、「ニコイチ!」とか言い合ってるじゃないですか。

阿部:本当は戦争なの(笑)。それをあえて口にするという戦略ですよ。でもこの曲の男の子たちは、言葉にしなくていいぐらい強い結びつきがある。だからこそ、証拠はない。その方が私はいいと思ってるけど、証拠がないからこそ、これって? と思う瞬間が幼い心にはあるんじゃないかっていう。そんな私の空想を書きたかったんです。


――「ぼく」の淡い願いは書いてあるけど、「きみ」が本当にどう思ってるかは書いてないですね。

阿部:そうそう。こっちからの要求と意思表示はあるんですけど、「お前も友達だって思ってくれよ」っていう押し付けもなくて。どこか慎ましいというか。怖がりながら、でもすごく大事に思ってるよっていうのをただ言うだけの曲なんですよね。書き始めた時から控えめな主人公だなって思ってて、そこがすごく気に入ってます。


――そうですね。<ふたりいれば 笑えるから>だけでいいんですもんね。

阿部:そういった意味では、大人が書く歌詞ではあると思うけど、小さな子供からお年寄りの方まで、いろんな世代の方が聴いてくださる番組にふさわしい歌になったなと思います。子供たちが聴いてくれることがすごい大きくて。私がこういう風に人を思えてたら嬉しいと思いつつ、こういう風に人を思うことは美しいことだと私は思うんだよって、子供たちにも感じてほしかったんですよね。ただ笑えるだけでいいし、自分はこうだよって示すことがまず扉を開けることになるから。私の美学だけど、それも感じてもらえたらいいなと思いますね。


――2026年はアニメ主題歌「Ding-dong」、『みんなのうた』に初登場となる「Buddy」で幕を開けましたが、これからはどう考えてますか?

阿部:俯瞰の私からやっと体に戻ってこれて、それに安心しているので、その楽な状態でいっぱい曲を書いてみたいですね。そしてそれらを含めたこれまでの曲を今の自分で演奏すればよくわかんないけどいいねっていうライブになるんじゃないかと思ってるんですよ。自分に戻る時間、自分に安心する時間が長いというのは、地に足がついてる状態だから、その状態で曲を書いたり、ステージに立つとどんなことを感じるのか。それをもっともっと試したいっていう気持ちが強いので、ようやく取り戻した「自分の心の形のまま」で、より積極的に、能動的にやっていくのが目標ですね。


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