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<インタビュー>岩田剛典、3rdアルバム『SPACE COWBOY』で見せた“原点=ダンス”への確信

Text & Interview: Mariko Ikitake
Photos: Yuma Totsuka
俳優、ダンサー、三代目 J SOUL BROTHERS。岩田剛典は立つ場所によって姿を変えてきた。新たに踏み出した“シンガー”という異例の挑戦は、彼にひとつの問いを突きつけた――自分が誰よりも誇れるものはなにか。模索の果てに浮かび上がった答えは、やはりダンスだった。
ソロシンガーとして発表する3枚目のアルバム『SPACE COWBOY』には、彼がたどり着いたその答えが、サウンドにも歌詞にもパフォーマンスにも濃密に息づいている。その境地に至るまでの苦闘から、開催中のツアー【Takanori Iwata ASIA TOUR 2025-2026 “SPACE COWBOY”】の手応え、これからの“岩田剛典”まで、じっくりと話を聞いた。
──幼い頃から宇宙がお好きだったんですね。
岩田剛典:好きでしたね。『バック・トゥ・ザ・フューチャー』とか『E.T.』、『スター・ウォーズ』シリーズとか映画も好きでよく観ていました。キャラクターっぽいというか、アニメチックなコンセプトで描かれることが多いじゃないですか。神秘的で遠い存在でありながら、地球もある意味、宇宙の一部だったりして、そういう非現実的なところに興味がありました。

──人間の限界を超えるもの、人間が知らない世界がそこにあるというのが目に見えますよね。
岩田:その可能性みたいなものが今回のアルバムのダブルミーニングで、タイトルも『SPACE COWBOY』にしました。海を越えて、いろんなところに挑戦していくという思いを“SPACE”(宇宙)に例えてます。時空も大気圏も越えて、さらなる自分の飛躍を誓っています。
──となると、日本以外にも広めることを多少意識されたのでしょうか?
岩田:意識したところはありましたけど、全然そんなことはないです。ベースは日本だし、これから先もそうだし。どちらかというと2度目のアリーナツアーにリンクさせています。1人でアリーナの空間を埋めるのってなかなか難しくて、しかも約2時間のショーを僕一人で退屈させずに集中させることを考えたときに、今までのシティポップでチルな、部屋でゆったり聞くような音楽だけだと、スパイスが足りないライブになりかねないって思ったんです。前回のツアーでそれを感じたのもあって、今回はダンスナンバーを増やしました。もしまたアルバムを出すことになったら、だいぶ引き算した作品になると思います。今回は前作から足し算したので、次は引き算。
──1stアルバムは暖かい部屋でゆったりと聴く印象を受けたので、見せることがキーになったわけですね。
岩田:ちょうど先週、愛知公演が終わりまして、初日っていうこともあってすごく盛り上がりました。改善するべきところがいろいろ見つかったんですけど、漠然と抱えていた不安が解き放たれた感じもします。演出だったり、ポイントとなるところのリアクションをつかめたので、この先の公演で最大限に見せる方法がわかって、すごくいいスタートでした。

──お客さんを退屈にさせないようにするという視点は、グループとソロの大きな違いですよね。
岩田:はい。だから、今回は本当にテンポよく作ることを心がけたんですけど、かといってテンポがよすぎると人間味が感じられなくなる。初めて僕のライブに来る方は気にならないかもしれないけど、ずっと応援してくださっているファンの方々は、むしろそっちを欲しがってることは、この15年の活動を通して学んできたことでもあるので、自分が見せたい部分とそういう人情味、温かい部分のバランスを意識してます。
──ライブのリード曲でもある「ZERO GRAVITY」がアルバムのスタートを飾ります。やはりこの1曲に今の岩田さんのモードが詰め込まれていますか?
岩田:曲が完成する前から、タイトルを「ZERO GRAVITY」に決めていて、かなり前から作っていたので、だいぶこのツアーに寄せたものに仕上がっています。ダブステップというか、機械っぽい音を入れてスペーシーなサウンドになりました。結構なキラーソングだと思ってて、ツアーが終わったら、そのツアーのテーマ曲ってやらなくなることが多いんですけど、この曲はずっとやっていきたいと思っています。パフォーマンスもすごくカッコいいんですけど、コンセプチュアルな映像とレーザー、衣装でお見せするショーになったので、平場のパフォーマンスをわりと割愛することになってしまって。いつかどこかで見せたいと思ってます。ツアーの中でも大満足な1曲目になりました。
──いい曲に出会いましたね。
岩田:僕はもともとシンガーじゃなくて、ダンサーじゃないですか。ダンサーとしての出力クオリティーを楽しんでいただけるパフォーマンスが今回たくさんできるので、それが自分の強みになったと思ってます。
──やはりダンスが肝で、そこは切り離せないポイントなんだと今回のアルバムから感じました。
岩田:ありがとうございます。いろいろ考えて、結局そこに立ち返りました。LDHの中でもソロデビューって異例中の異例のことだって、今でも思うんです。アーバンなシティポップは実際、僕がよく聞いている音楽だし、グループでも(LDHの)先輩や後輩グループでも見せてこなかったジャンルだったのでやったんですけど、やればやるほど、その道のプロの方々がたくさんいる中で、自分のポテンシャル、人より対抗できるものってなんだろうって考えちゃって。どう考えたって圧倒的にダンスなんですよね。だから、僕がソロをやる上で歌って踊るアーティスト像は絶対外せないです。自分のルーツにないものを頑張ったとしても、ばれちゃうというか。そういう思いが今回は一番強くて、ステージングをイメージしながら作った曲が多いです。
「ZERO GRAVITY」には、コンセプトからワードまで僕の言葉を使ってもらっているんですよ。当時のことをすごく覚えています。去年の2月ぐらいに、京都でNHKの作品(『シミュレーション~昭和16年夏の敗戦~』)の軍人役の撮影に入っているときに「ZERO GRAVITY」の歌詞のやりとりをしていました。ダブステップっぽい音源が送られてきたので、アジアツアーへの意気込みやあれこれといったアイデアをたくさん送って、エディットしてもらいました。〈この指止まれ〉は(岡嶋)かな多さんのアイデアだと思うんですけど、僕の気持ちを汲んでくださって、まさに僕の歌詞になってると思います。自分がここから挑戦していく思いや自分自身のことを曲を通して伝えることで、聴いてくださる方々の挑戦する心も燃え上がるものにしました。
──音楽で人の心を揺さぶることは決して簡単なことではないですが、うそのない、本当の自分を出さないとスタートラインにも立てないというか。
岩田:そうです、本当に。誰かの言葉だと(本心じゃないことが)ばれちゃうっていうことを考える1年でした。歌って踊るアーティストなんてごまんといるけど、僕の言葉は僕にしか紡げないものがあると思うので、そこを大切にしたアルバムでもあります。ただ、そういう曲ばかり増えていくと“我”の塊みたいになっちゃうので、それもまた難しいところなんですよね。
──言葉に向き合う時間が多かったと思います。まさに自分に対して投げかける言葉が入っているのでは?
岩田:そうですね。強めの言葉が多いんですけど、自己暗示というか、自分にも言ってる言葉が多いです。だから、共感を得られるかどうかは正直わからないっす(笑)。わからないけど、今の2025年の僕の思いはかなり詰まってますね。
──たとえば、「Get Down」と「MVP」がまさに自己暗示ソングでしょうか?
岩田:そうですね。この2曲を作ったときは怒りに溢れていました。今も怒っているかもしれないんだけど、やっぱりおもしろいですね。作品で発散することで、だんだんと感情も伝え方も変わってくることを、この1~2年で感じています。昔の自分だったら、過去が8、現在が2ぐらいの割合で物事を考えていたけど、今は2:8ぐらいに逆転してます。
──過去にとらわれるタイプだったんですね。
岩田:はい。だから、過去のコンプレックスとかフラストレーションを詞にして、「もっと上に行ってやる」っていう挑戦する自分のマインドを描くことが多くて、他人の人生までは想像できてない歌詞だったと思うんですよ。あくまで僕の人生の詞。でも最近は聴き手、リスナーの気持ちと自分の人生をリンクさせながら書くことを意識するようになりました。
踊りがない自分なんて、いいところを消してるだけに思えちゃう
──お話を聞いていると、岩田さんのターニングポイントとなるアルバムになったようですね。
岩田:ソロを始めて4年経って、ようやく自分の名刺みたいなものが何曲かできて、それを“はじめまして”の方々の前でパフォーマンスすることで、国内外問わず、僕という人間、アーティストを伝えることが、ようやくできたんです。自信もついたし、目指すべきアーティスト像の輪郭もはっきりしてきた気がします。やっぱり、どこまで行っても俺は歌って踊る人だなって。踊りがない自分なんて、いいところを消してるだけに思えちゃう。自分の魅力、フィールドを広い意味で考えるようになって、アーティスト活動の意味も深く追及しました。
でも、ファンの中でもいろんなお声があって、昔のチルなシティポップ路線が好きな方も結構いらっしゃるんですよ。ファンの皆さんに喜んでもらうのも僕の大事な要素でもあるから、挑戦していく部分と、保守的って言ったらあれですけど、皆さんが求める姿の両面を音楽で見せていかないと、とも思っています。攻めの歌詞ばっかりだと疲れちゃうし、聴き手の気持ちに寄り添う曲も必要かなって。「Only One For Me」っていう曲は、ソロ活動を通してだいぶ育ってきた楽曲で、皆さん一緒に歌ってくれるんですけど、今回はああいうタイプの曲がないので、癒やし系の音楽もたまにはやんないとですよね(笑)。

──みなさんの声はちゃんと届いているから、もう少し待っててねということですね。「CROWN」もダンスという部分では外せない曲ですよね。
岩田:「CROWN」こそ間違いなく僕の名刺になりましたね。安定のヒップホップで、ストリート上がりのダンサーとしては、やっぱり聴いてて気分が上がる曲でパフォーマンスするほうがめっちゃ伸びるというか、いわゆるJ-POPで踊るよりもずっと聴いてきた音楽で踊ったほうがよく見える。この曲ももろ僕の思いが詰まった詞です。昔、バスケ部に入っていたので、中学校の頃からずっとセブンティシクサーズの(アレン・)アイバーソンに憧れていました(※NBAのスター選手。183cmながら小柄な体格なため、小さな巨人の愛称で知られる)。日本人に近い体型で、大男の中で得点王になって……そんなスーパースターに対する矜持みたいなものを書いていて、たとえば〈履き潰すKicks〉は自分も散々踊ってきたから今このステージに立っているんだっていう意味だったりもします。自分のことを歌ってる曲だからこそ気持ちも乗るし、和風テイストというかオリエンタルなサウンドがずっと流れてる裏でヒップホップのビートが流れていて、すごく気持ちがいいサウンドだから、予定はなかったんですけど、ビデオを撮ることが決まったんです。仕事で一緒になる機会が多いRIEHATAに振付をお願いしたら、快く受けてくれて。僕も彼女も昔、渋谷のクラブとかでいっぱいショーをやってきて、彼女とはビジョンから何までいろいろ共有してきた戦友です。ワールドワイドに活躍していながら、僕個人の夢や思い、目標みたいなものをずっと応援してくれていて、すぐに理解もしてくれました。今回はお仕事という形ですが、いい化学反応が起きて、やりたい音楽とやりたい詞とやりたい振付、そこに自分が表現したい映像や方向性が組み合わさったので自信あります、これは。
──ダンスに対してプライドがあるからこそ、絶対にカッコよく見せたいじゃないですか。若いダンサーがどんどん出てくるなかで、一緒に踊るダンサーたちに負けたくないという気持ちにもなりますよね。
岩田:本当にそうですね。ああいうダンスビートは実力が見えるからこそ、めっちゃ練習しました。なめられたくないし。俳優業を長くやってきて、僕のパブリックイメージが良くも悪くも出来上がって、「え、こんな人だったんだ」みたいな、元の僕が知られていないところにまで来ちゃって。顔を売るのがなんぼの世界で、帽子かぶってサングラスしてビデオを撮るなんて、ありえないですよね。ありえないけど、ソロだからこそ、それだけ振り切れたし、ダンサーだから何がカッコいいかも追求できて、よかったっす。
──ここまでダンサー一人一人にフォーカスされる時代じゃなかったので、明るい未来が待っている半面、より狭き門になっていきそうですよね。
岩田:今の子たちはSNSがあって本当にラッキーだし、もっとラッキーになっていくと思います。マジで評価されるんで。今回、ビデオ撮影前のリハーサルは普段の倍の回数やったし、細かい部分もだいぶ詰めたし、ダンサーの選定にも意見を出させてもらいましたけど、そういうのをすっかり忘れてました。スケジュールや予算の関係上、効率を第一に考えがちですけど、根本の部分にフォーカスしたからいいものができた自負があります。「やっぱりそこだよな」みたいな。
昔、三代目のドームツアーで世界中の著名なダンサー、それこそクリス・ブラウンのバックダンサーとかを集めたことがあって。今ではちょっと考えられないぐらいすごいツアーだったんですけど、あれこそダンスたるものの真髄ですよね。(「CROWN」の)パフォーマンス動画を出したら、そのダンサーから何年ぶりかに炎の絵文字が届いて、「こういうことだよな」って実感しました。いいものはSNSで海を越えますし、本場のダンサーから評価を得られるのはやっぱうれしいです。
──ダンスこそプロのダンサーから評価されないと厳しい世界でしょうから、本気で行かないとっていうことですよね。
岩田:そう! だから俺、三代目もそうあるべきだって思ったんですよ。来年に向けて、もうマジでやんなきゃって。みんな自信もキャリアもあるけど、練習量も含めて本気で取り組まないとだめです。がっつりやって、ぶちかまして、「やってみろ、おまえら」って下の世代に見せていくくらいの覚悟がないと、プロに伝わっちゃうんですよね。他の仕事もスキルアップしていかなきゃいけない中で地道なダンスのスキルアップもやっていくことは簡単ではないんですけど、やり方次第で目に見えた形で返ってくることを学んだし、年次が長くなれば長くなるほど、そういう根本の部分をおざなりにしがちというか、手っ取り早いものに手を伸ばしがちになるんですけど、実はその部分が一番大事だってことを今回思えたかな。本当に、初心に戻る曲になりました。自分のモチベーションアップにもつながったし、「自分はこれだ」というものも再確認できた本当にいい機会になりました。

──すごく気になるのは、ジャケット写真です。ダンスにフォーカスした作品ですが、お写真はすごく大人な雰囲気になってて……
岩田:めっちゃ悩んだんです。サングラスかけてフューチャリスティックなビジュアルにする案もあったんですけど、「いや、言うてもでしょ」みたいな(笑)。ビジュアルに関しては長年培ってきた“岩田剛典像”を壊さなかったです。付属の映像では、今回のアルバムに対する思いや自分が描く将来のアーティスト像だったり、夢や目標、過去など、いろんなことをかなりの長尺で語っています。
──10年若かったら、なんて考えますか?
岩田:まあね。年相応であるべきっていう考えが美学としてある国なのでしょうがないと思いますけど、活動を15年やって、こうやって原点みたいなところに帰ることができたし、今の俺だから出てきた言葉でもあると思います。ここから先どうなりたいかは本当に誰の意見でもなく自分にかかってる気がするので、コンテンツ一個一個どれも妥協せずにやっていきたい。とは言っても、こんな自信満々な人間でもないですけどね。結構ネガティブ思考だし、だいぶ盛ってます。葛藤しながら生きてます。
──でも、その葛藤を起点に自分の中で毎回答えを見つけるのは簡単なことではないと思います。
岩田:葛藤がなかったら、逆に飽きちゃいますね。やり切ったって思っちゃうタイプなんで。でも、やり切ったってまったく思えないんです。足りてないことばかりで自己嫌悪になることがいっぱいあります。でも、挑戦するのみって、今回のアルバムであらためて思いました。
リリース情報

『SPACE COWBOY』
2025/12/3 RELEASE
<初回限定TRAVEL盤>
TYCT-69365 5,500円(tax in.)
<初回限定MAKING盤>
TYCT-69366 4,730円(tax in.)
<初回限定PHOTO BOOK盤>
TYCT-69367 4,730円(tax in.)
<通常盤・初回プレス>
TYCT-69368 2,750円(tax in.)
ツアー情報

【Takanori Iwata ASIA TOUR 2025-2026 “SPACE COWBOY】
2025年11月18日(火)愛知・Aichi Sky Expo(愛知県国際展示場)
2025年12月20日(土)東京・有明アリーナ
2025年12月21日(日)東京・有明アリーナ
2026年1月24日(土)台湾・台北 Legacy TERA
2026年2月3日(火)大阪・大阪城ホール
2026年2月4日(水)大阪・大阪城ホール
2026年2月21日(土)三重・三重県営サンアリーナ
2026年2月22日(日)三重・三重県営サンアリーナ
2026年3月1日(日)タイ・バンコク KBank Siam Pic-Ganesha Theatre
公演詳細はこちら
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