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データで読み解く【MUSIC AWARDS JAPAN】最優秀ボーカロイドカルチャー楽曲賞――国内外で異なるトレンド

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 「世界とつながり、音楽の未来を灯す。」をコンセプトとした国際音楽賞【MUSIC AWARDS JAPAN(ミュージックアワーズジャパン)】が、2025年5月に初開催される。本アワードは、音楽業界の主要5団体が共同で設立した一般社団法⼈カルチャーアンドエンタテインメント産業振興会(CEIPA)が主催する新しい音楽賞だ。

 今年の【MUSIC AWARDS JAPAN】では、2024年2月5日から2025年1月26日までに話題となった作品およびアーティストを対象に、<最優秀楽曲賞>や<最優秀アーティスト賞>などの主要6部門をはじめとする60以上の部門を表彰する。3月13日に各部門のエントリー楽曲が発表され、4月17日にエントリー楽曲から選出されたノミネート作品が発表された。

 第4回は、音楽的に創造性、芸術性が優れているボーカロイド楽曲を讃える<最優秀ボーカロイドカルチャー楽曲賞>にフォーカス。独自の発展を遂げてきたボーカロイドが、いま世界でどのように聴かれているのか、エントリー楽曲のデータから探っていく。なお本稿では、CeVIOやSynthesizer Vなどヤマハ製以外の歌声合成ソフトもまとめて「ボーカロイド(ボカロ)」として扱う。

<最優秀ボーカロイドカルチャー楽曲賞>エントリー楽曲一覧はこちら

≪MUSIC AWARDS JAPAN 連載≫
① データで読み解く【MAJ】最優秀楽曲賞――JAPAN Hot 100と比較
https://www.billboard-japan.com/special/detail/4772

② データで読み解く【MAJ】Top Global Hits from Japan――海外で注目を集める日本楽曲の特徴
https://www.billboard-japan.com/special/detail/4782

③データで読み解く【MAJ】最優秀クロスボーダー・コラボレーション楽曲賞――日本×海外コラボの現在地
https://www.billboard-japan.com/special/detail/4796

国内外で異なるトレンド

 まず、<最優秀ボーカロイドカルチャー楽曲賞>にエントリーされた楽曲のボーカロイド別シェアを、日本を除くグローバルのストリーミング数で割り出した。グラフを見ると、海外で聴かれているボーカロイド楽曲の半分以上に初音ミクが参加していることがわかる。日本国内の初音ミク楽曲のストリーミング・シェアは34%で、海外はより初音ミクの人気が高いことがわかる。

 実際に、集計期間中に日本以外の国/地域で最も聴かれたボーカロイド楽曲トップ3はすべて初音ミクが参加する楽曲だった。さらにトップ10のうち6曲に、初音ミクが参加している。一方、日本のトップ10で初音ミクが参加した楽曲は3曲のみで、重音テトの5曲を下回った。

 上図は、エントリー楽曲の使用ボーカロイドを楽曲数で割り出したものだ(※デュエットなど複数の場合はすべてカウント)。最も使用されたボーカロイドは初音ミクで、エントリー楽曲の37%を占めた。また重音テトは、2023年4月の『Synthesizer V AI重音テト』リリース以降、楽曲数が増加し、初音ミクに次ぐシェアとなった。トップ5以下は、鏡音レン、巡音ルカ、IA、歌愛ユキ、可不が同率6位、ずんだもん、足立レイが同率11位だった。

世界で聴かれるボーカロイド

 <最優秀ボーカロイドカルチャー楽曲賞>にエントリーされた楽曲のストリーミング・シェアのうち、59%は海外からの再生だった。優れた国内楽曲を讃える<最優秀楽曲賞(SOTY)>のエントリー楽曲の海外ストリーミング率が25%であったことを考えると、ボーカロイドは日本楽曲のなかでも、特に海外人気の高いジャンルであることがわかる。

 上図は、集計期間中のエントリー全楽曲のストリーミング数を合算した、日本を除く国/地域ごとのシェアを示したグラフである。アメリカ、韓国、インドネシア、台湾のトップ4は、世界でヒットした国内楽曲を讃える賞<Top Global Hits from Japan>のエントリー楽曲シェア上位と同じ並びで、同賞と比べると、東南アジアの比率がやや低く、南米諸国の比率がやや高い。また<Top Global Hits from Japan>の11位以降のシェアは32%だったところ、<最優秀ボーカロイドカルチャー楽曲賞>は42%で、一般的な海外で聴かれている日本楽曲よりも、多くの国/地域でボーカロイド楽曲が聴かれていることが推測できる。

南米がミク人気を牽引/多様性に富んだ東アジア

 ここからは、国/地域ごとの傾向を探っていく。上図は、全エントリー楽曲を合算した国別ストリーミング数のボーカロイド別シェアだ。多くの国/地域でDECO*27「ラビットホール」(初音ミク)と、サツキ「メズマライザー」(初音ミク/重音テト)がトップ2を独占した影響もあるのか、ほとんどの国/地域で初音ミクが過半数を占めている。なかでもメキシコ、チリ、ブラジルなどの南米諸国は、ミク率が60%を超えている。これらの国では、MARETU「ビノミ」(初音ミク)や、ぬぬぬぬぬぬぬぬぬぬぬぬぬぬぬぬぬぬぬぬぬぬぬぬぬぬぬぬぬぬぬぬぬぬぬぬぬぬぬぬぬぬぬぬぬぬぬぬぬぬぬぬぬぬぬぬぬぬぬぬぬぬぬぬぬぬぬぬぬぬ「み む かゥ わ ナ イ ス ト ラ イ」(初音ミク)など、リズムや語感重視の楽曲が支持を集めやすいようだ。

 一方で、韓国、台湾、インドネシアといったアジア諸国は、比較的ミク率が低い。これは、Kanaria「KING」(GUMI)、原口沙輔「人マニア」(重音テト)、いよわ「きゅうくらりん」(可不)など、初音ミク以外のボーカロイドを使用した楽曲が人気を集めていることが影響している。特に韓国は、ミク・GUMI・テト以外のボーカロイドの楽曲が20%を超えている。東アジアは日本との文化的距離が近く、ボーカロイドのマーケットも比較的成熟しているため、使用されるボーカロイドの多様化が他の地域よりも早く進んだ可能性がある。

 とはいえ、北米や南米がアジアのボーカロイド・シーンを後追いしているというわけではない。むしろ、初音ミクのキャラクター人気の高さや、「メロディ志向」「リズム志向」といった国民性の違いが、ボーカロイド楽曲の受け取られ方に違いを生んでいると考えられる。

 国や言語を超えて、確実に広がりを見せているボーカロイド。特定の音楽性に縛られないフィールドだからこそ、<最優秀ボーカロイドカルチャー楽曲賞>がひとつの指標として機能する意義は大きい。同賞には、原口沙輔「イガク」、吉田夜世「オーバーライド」、黒うさP「千本桜」、柊マグネタイト「テトリス」、サツキ「メズマライザー」がノミネート。最優秀楽曲が発表される5月の授賞式、そして次年度以降の展開にも引き続き注目したい。

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